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1章
3 旅立ち 5
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謎の強化を遂げ、圧倒勝利したガイ機。
しかしその異変を察し、魔王軍の残り三機も村の外に出て来た。
(今度は一対三か‥‥!)
ガイの額を嫌な汗が流れる。単品の性能で優ってはいるが、ガイ自身は専門の戦闘職では無い。軽戦士の技能をいくつか身に着けてはいるが、最大の戦闘用技能は珠紋石を使用して発動する呪文の増幅だ。だがそれはケイオス・ウォリアーに乗っての巨大兵器戦では活用できない。
しかし甘えは許されない。最大の個人技を封じた状態のガイに、敵機は容赦なく駆け寄って来ているのだ。
(ままよ!)
ガイは無理矢理己を奮い立たせると、敵へと自機を走らせた。
敵先頭は猛スピードで迫る犬頭機。軽装備の狼男みたいな外観のこの機体は、地上移動力に優れる量産機・Bダガーハウンド。
その爪と牙を剥き、ガイ機にいち早く跳びかかって来る!
だが肚をくくったガイは、真正面から大太刀を振るった。
職に求められる事もあり、ガイはかなり器用な方である。
短時間とはいえ振り回した事で、大太刀の使い勝手も掴みつつあった。
敵機自らが至近距離へ入って来た事、武器のリーチ差‥‥それらも味方し、太刀が先に相手を捉える。
両断!
装甲も薄めのハウンドは、たった一撃で先の味方機の後を追わされた。
一瞬遅れて爪を繰り出して来る、巨大なリザードマン型の機体。敏捷性と近接格闘を重視したBクローリザード。
あわやという所でガイは刀での防御に成功する。
鍔迫り合いのような体勢で押し合う二機。
しかしその決着もすぐについた。
ガイ機が完全に押しきり、敵機を後ろに弾いたのだ。
転倒すまいと踏ん張るリザードを太刀が追い、その体を袈裟斬りにした。
「あ、あと一機!」
必死にそう叫ぶガイ。
だが次の瞬間、機体表面で爆発が起こった!
倒された敵機の後方にいた最後の一機。
大砲を肩に搭載した、甲虫の頭を持つ重装甲砲撃機・Bカノンピルバグからの射撃だった。
立ち込める煙を睨みながら、照準をつけたまま様子を見るピルバグ。
煙が晴れると——そこには身構えたまま立つガイのパンドラアーミー!
ガイはモニターで確認していた。
自機がほとんどダメージを受けていない事を。
それがガイに僅かな余裕を与えた。
「こちらも‥‥射撃武器! 何か無いか?」
急いでモニターを操作し、確認する。
対するピルバグは急いで第二射を放とうとした。
しかしガイの見つけた武器が一瞬だけ早く撃たれる。パンドラアーミーの胸に刻まれた桜の花が輝き、一条の光線が放たれたのだ。
それは堅牢な筈の敵の装甲を撃ち抜いた!
煙を上げてピルバグが倒れ‥‥爆発。
――数時間後。消火作業も一段落した村――
「ありがとうございます! ありがとうございます! 流石です! 流石です!」
鼻水を垂らして泣きながら感謝してくれる村長。
それを前に、ガイは‥‥苦虫を噛み潰した顔を隠しもしなかった。
というのも、ガイのいた森へ一人で逃げて来た肥えた中年男。
それが村長だったからだ。
ガイの表情に気づきもせず、村長は感激したまま泣いて訴える。
「どうかこの村に留まって我らをお守りください! もはや頼れるのは貴方様だけ。魔王軍はこのケイト帝国全土に侵攻してきて、首都も既に陥落。皇帝も生死不明だそうですからな」
「な、なんだってー!?」
ガイは思わず驚愕の叫びをあげた。
ケイト帝国は多数の小国が皇帝の下に統治される大帝国である。この大陸全土でも三大国に数えられ、世界最大勢力の一つとなっている。
だが都が落とされ皇帝が行方知れずとなったなら、それは事実上の敗北。帝国がばらばらに瓦解するのは明らかだった。
ガイが新天地を求めて旅している僅かな間に、最大の帝国は滅んでいたのだ。
あまりの事に呆然とするガイ。
だが村長は遠慮なく質問を浴びせてきた。
「ところで冒険者様、貴方様はどこのどなたで何の目的でどこへ行かれるのです?」
答えようにも混乱は大きく、咄嗟に言葉が出ない。
するとガイの後ろからミオンが口を挟んだ。
「彼はガイ、私はミオンと申します。私達‥‥新婚の夫婦ですの」
「!?!?!?」
ガイは思わず驚愕の叫びを‥‥いや、驚き過ぎて何も言えなかった。
阿呆の子みたいに口をぱくぱくさせるガイの横に進み出て、ミオンは不安げな表情を作って俯く。
「二人一緒になりましたし、仕事の口を増やすために都会に出て働こうと思っていたんですけど‥‥その話では都市だと危ないかもしれませんね。困ったわ‥‥小さくてもいいから二人の家が欲しかったのに」
そんなミオンの肩に、イムがひょいと顔を出す。
「三人だよぉ」
「おお! おお! そんな事ですかそうですか。いや、確かに今の都市は危険です。こんな田舎村にもケイオス・ウォリアーが4機も派遣されるのですから。ぜひぜひ、夫婦とペット殿で空いている家にお住み下さい。家の一軒ぐらい差し上げます。村には作業用機の整備場もありますので、貴方達の機体も‥‥」
村長はここぞとばかりに訴える。
そんな村長とガイは、先ほどまで戦っていたガイ機――パンドラアーミーへと振り向いた。
機体は元通り、半壊したオンボロのBソードアーミーに戻っていた。
「‥‥機体も‥‥修理の必要があるようですし‥‥」
異変に度肝を抜かれながらも必死に話を続ける村長。
混乱の極みにあるガイは、とにかく反射的に頷く事しかできない。
そうしながら、ガイに一つ疑問が浮かんだ。
(全土が侵攻されてるって事は‥‥ハアマの町もか?)
数日前に旅立ち、後にした町。二年以上を過ごした町の事が、自然と思い浮かんだのだ。
――ハアマの町――
「うぎゃあぁぁ!」
かつてガイと同じパーティにいた戦士・タリンの悲鳴が火の粉とともに空へあがる。
町はきっちり燃えていた。
(ヒロイン・ミオン)
しかしその異変を察し、魔王軍の残り三機も村の外に出て来た。
(今度は一対三か‥‥!)
ガイの額を嫌な汗が流れる。単品の性能で優ってはいるが、ガイ自身は専門の戦闘職では無い。軽戦士の技能をいくつか身に着けてはいるが、最大の戦闘用技能は珠紋石を使用して発動する呪文の増幅だ。だがそれはケイオス・ウォリアーに乗っての巨大兵器戦では活用できない。
しかし甘えは許されない。最大の個人技を封じた状態のガイに、敵機は容赦なく駆け寄って来ているのだ。
(ままよ!)
ガイは無理矢理己を奮い立たせると、敵へと自機を走らせた。
敵先頭は猛スピードで迫る犬頭機。軽装備の狼男みたいな外観のこの機体は、地上移動力に優れる量産機・Bダガーハウンド。
その爪と牙を剥き、ガイ機にいち早く跳びかかって来る!
だが肚をくくったガイは、真正面から大太刀を振るった。
職に求められる事もあり、ガイはかなり器用な方である。
短時間とはいえ振り回した事で、大太刀の使い勝手も掴みつつあった。
敵機自らが至近距離へ入って来た事、武器のリーチ差‥‥それらも味方し、太刀が先に相手を捉える。
両断!
装甲も薄めのハウンドは、たった一撃で先の味方機の後を追わされた。
一瞬遅れて爪を繰り出して来る、巨大なリザードマン型の機体。敏捷性と近接格闘を重視したBクローリザード。
あわやという所でガイは刀での防御に成功する。
鍔迫り合いのような体勢で押し合う二機。
しかしその決着もすぐについた。
ガイ機が完全に押しきり、敵機を後ろに弾いたのだ。
転倒すまいと踏ん張るリザードを太刀が追い、その体を袈裟斬りにした。
「あ、あと一機!」
必死にそう叫ぶガイ。
だが次の瞬間、機体表面で爆発が起こった!
倒された敵機の後方にいた最後の一機。
大砲を肩に搭載した、甲虫の頭を持つ重装甲砲撃機・Bカノンピルバグからの射撃だった。
立ち込める煙を睨みながら、照準をつけたまま様子を見るピルバグ。
煙が晴れると——そこには身構えたまま立つガイのパンドラアーミー!
ガイはモニターで確認していた。
自機がほとんどダメージを受けていない事を。
それがガイに僅かな余裕を与えた。
「こちらも‥‥射撃武器! 何か無いか?」
急いでモニターを操作し、確認する。
対するピルバグは急いで第二射を放とうとした。
しかしガイの見つけた武器が一瞬だけ早く撃たれる。パンドラアーミーの胸に刻まれた桜の花が輝き、一条の光線が放たれたのだ。
それは堅牢な筈の敵の装甲を撃ち抜いた!
煙を上げてピルバグが倒れ‥‥爆発。
――数時間後。消火作業も一段落した村――
「ありがとうございます! ありがとうございます! 流石です! 流石です!」
鼻水を垂らして泣きながら感謝してくれる村長。
それを前に、ガイは‥‥苦虫を噛み潰した顔を隠しもしなかった。
というのも、ガイのいた森へ一人で逃げて来た肥えた中年男。
それが村長だったからだ。
ガイの表情に気づきもせず、村長は感激したまま泣いて訴える。
「どうかこの村に留まって我らをお守りください! もはや頼れるのは貴方様だけ。魔王軍はこのケイト帝国全土に侵攻してきて、首都も既に陥落。皇帝も生死不明だそうですからな」
「な、なんだってー!?」
ガイは思わず驚愕の叫びをあげた。
ケイト帝国は多数の小国が皇帝の下に統治される大帝国である。この大陸全土でも三大国に数えられ、世界最大勢力の一つとなっている。
だが都が落とされ皇帝が行方知れずとなったなら、それは事実上の敗北。帝国がばらばらに瓦解するのは明らかだった。
ガイが新天地を求めて旅している僅かな間に、最大の帝国は滅んでいたのだ。
あまりの事に呆然とするガイ。
だが村長は遠慮なく質問を浴びせてきた。
「ところで冒険者様、貴方様はどこのどなたで何の目的でどこへ行かれるのです?」
答えようにも混乱は大きく、咄嗟に言葉が出ない。
するとガイの後ろからミオンが口を挟んだ。
「彼はガイ、私はミオンと申します。私達‥‥新婚の夫婦ですの」
「!?!?!?」
ガイは思わず驚愕の叫びを‥‥いや、驚き過ぎて何も言えなかった。
阿呆の子みたいに口をぱくぱくさせるガイの横に進み出て、ミオンは不安げな表情を作って俯く。
「二人一緒になりましたし、仕事の口を増やすために都会に出て働こうと思っていたんですけど‥‥その話では都市だと危ないかもしれませんね。困ったわ‥‥小さくてもいいから二人の家が欲しかったのに」
そんなミオンの肩に、イムがひょいと顔を出す。
「三人だよぉ」
「おお! おお! そんな事ですかそうですか。いや、確かに今の都市は危険です。こんな田舎村にもケイオス・ウォリアーが4機も派遣されるのですから。ぜひぜひ、夫婦とペット殿で空いている家にお住み下さい。家の一軒ぐらい差し上げます。村には作業用機の整備場もありますので、貴方達の機体も‥‥」
村長はここぞとばかりに訴える。
そんな村長とガイは、先ほどまで戦っていたガイ機――パンドラアーミーへと振り向いた。
機体は元通り、半壊したオンボロのBソードアーミーに戻っていた。
「‥‥機体も‥‥修理の必要があるようですし‥‥」
異変に度肝を抜かれながらも必死に話を続ける村長。
混乱の極みにあるガイは、とにかく反射的に頷く事しかできない。
そうしながら、ガイに一つ疑問が浮かんだ。
(全土が侵攻されてるって事は‥‥ハアマの町もか?)
数日前に旅立ち、後にした町。二年以上を過ごした町の事が、自然と思い浮かんだのだ。
――ハアマの町――
「うぎゃあぁぁ!」
かつてガイと同じパーティにいた戦士・タリンの悲鳴が火の粉とともに空へあがる。
町はきっちり燃えていた。
(ヒロイン・ミオン)
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