7 / 147
1章
3 旅立ち 1
しおりを挟む
――山間の街道――
ガイは肩越しに振り返り、ハアマの町を眺めた。
今朝早くに出た町を。
ガイは大切な物全てを背負い袋へ詰め、持ち出せない物は全て処分してきた。二年以上拠点にしてきた町へ、別れを告げて旅に出たのである。
過去の自分と決別し、面倒な連中と離れるために。
(心機一転、新天地でやり直す。新たな旅立ちだ)
同行者は妖精のイムのみ。彼女は決意漲るガイの肩に腰かけ、足をぶらぶらさせていた。
「いつか戻ってきて、イムの事も調べ直そうな」
ガイがそう言うと、イムは笑顔で大きく頷いた。
――街道沿いの山中――
怒りと落胆のあまり、魔王軍の雑兵どもから戦利品をかき集める事を忘れていたガイは、せっかく合成した珠紋石のほとんどを無駄に消費してしまった。
よって旅のペースを落とし、街道を外れては山に入って石の素材になる物を集める事にしたのだが――
「‥‥なんでこんな貴重な物がホイホイ見つかるんだ?」
愕然とするガイ。
イムはやはり積極的に手伝ってくれて、素材になる物を見つけては報せてくれた。
すると出るわ出るわ、各種の魔法属性を持つ鉱石、薬効の高い草花に果実、滅多に見ない小動物や昆虫。
イムを見つけた山には及ばないが、戦闘なしで集まる分としては考えられない貴重な素材の山が。
(なんか‥‥俺の知らない所で妙な事でも起こったのか?)
ちょっと不安になるガイだが――やはり背に腹は代えられない。貴重な品を背負い袋に詰めながら、イムを見上げて礼を言う。
「ありがとうな。イムは幸運を呼ぶマスコットだぜ」
褒められたイムは嬉しそうに宙で踊り出した。それを見ているとガイの胸にも暖かい物が湧いてくる。
(損得よりも有難いものがある、かな)
荷物は増えても足取りは軽くなった。
――翌日――
街道脇で野宿してから、昼前に最後の山を越える。
「イム、そろそろヤーヅの町が見えるぞ」
ガイは斜面の向こうを指さした。
イムを肩に乗せて町を見下ろすガイ。ヤーヅの町は――燃えていた。
身長18メートルに達する巨人が十機以上、入り乱れて戦っている。生体素材のボディに金属の鎧を身に纏う、人の乗る人造の巨人‥‥ケイオス・ウォリアーが。
剣と弩で武装した巨人型、牙を剥く狼男型、大砲を担いだ甲虫戦士型、爪で切り裂くトカゲ人型‥‥いずれも量産型の機体である。
その一派は魔王軍の旗の下、町を攻めている。
それを必死に迎え撃つのは町の防衛隊。
巨人の周囲では百人以上の歩兵達がぶつかり合っている。
町の壁は破壊され、外と中で火の手が上がっていた。
「戦だってぇ!?」
目を丸くするガイ。呆然と眺めていたが、やがて我を取り戻す。
(やべぇ! 巻き込まれるわけにはいかないぞ)
ガイとてケイオス・ウォリアーがあれば乗れるが、パーティ唯一の機体――中古の量産機は当然パーティの連中が持って行った。
仕方なくガイは街道を別方向に進む。次に近い町へと。
――翌日――
街道脇で野宿してから、昼前に最後の山を越える。
「イム、そろそろクヤチマの町が見えるぞ」
ガイは斜面の向こうを指さした。
イムを肩に乗せて町を見下ろすガイ。クヤチマの町は――燃えていた。
やっぱり魔王軍の旗の下、町を攻める量産型ケイオス・ウォリアーの部隊。
当然それを必死に迎え撃つ、町の防衛隊の量産型ケイオス・ウォリアー部隊。
当たり前だがそれらの周囲で戦う歩兵達。
ここでも町の壁は破壊され、外と中で火の手が上がっていた。
「あそこでも戦だってぇ!?」
目を丸くするガイ。呆然と眺めていたが、やがて我を取り戻す。
(まさか、俺が旅している間に魔王軍が総攻撃でもかけてきたってのか!?)
仕方なくガイは街道を別方向に進む。次に近い町へと。
――荒野の街道、川沿いの道――
大河に沿って荒野の向こうへ続く道をガイは行く。この川はケイト帝国を支える生命線の一つ。生活用水としてだけでなく、普段から様々な船が上下流へ行き来し、人と物を運んでいる。
なのに今日は船を見ない。
(やはり何かあったのか?)
ガイが考えていると、上流から何かが流れてくるのが見えた。
船か‥‥と思いきや、大きな残骸である。しかも一つや二つではない。それが何か、工兵の知識でガイにはわかった。
「これ、ケイオス・ウォリアーの部品!? なんでこんな物がここに?」
破壊された量産型機とその部品が、列をなすかのごとく流れてくる。この川沿いのどこかで規模の大きい戦闘があったのだ。
そしてガイはその残骸の中に、馬車ぐらいの大きさの甲虫を見つける。改造されたその甲虫の機能も、工兵の知識の中にあった。
(逃走用の小型機‥‥という事は、中に誰かいるのか?)
大きな残骸を足場に、甲虫へ跳び乗るガイ。
そのハッチは外からでも開いた。操縦席には誰もいないが、座席後部の奥には中で人が横たわれるほど大きい金属の箱がある。
(仮死状態にしての延命装置! こりゃあ普通じゃないぞ)
ガイは座席に座ると機体を操縦し、岸の上に上がらせた。
陸上に着いてから、ガイは箱を開けにかかる。蓋は閉じられていたものの、鍵はかかっていなかった。操縦者がいない事といい、脱出ポッドとして使われたのだろう。
蓋を開けると――
中には若い女性が眠っていた‥‥!
ガイは肩越しに振り返り、ハアマの町を眺めた。
今朝早くに出た町を。
ガイは大切な物全てを背負い袋へ詰め、持ち出せない物は全て処分してきた。二年以上拠点にしてきた町へ、別れを告げて旅に出たのである。
過去の自分と決別し、面倒な連中と離れるために。
(心機一転、新天地でやり直す。新たな旅立ちだ)
同行者は妖精のイムのみ。彼女は決意漲るガイの肩に腰かけ、足をぶらぶらさせていた。
「いつか戻ってきて、イムの事も調べ直そうな」
ガイがそう言うと、イムは笑顔で大きく頷いた。
――街道沿いの山中――
怒りと落胆のあまり、魔王軍の雑兵どもから戦利品をかき集める事を忘れていたガイは、せっかく合成した珠紋石のほとんどを無駄に消費してしまった。
よって旅のペースを落とし、街道を外れては山に入って石の素材になる物を集める事にしたのだが――
「‥‥なんでこんな貴重な物がホイホイ見つかるんだ?」
愕然とするガイ。
イムはやはり積極的に手伝ってくれて、素材になる物を見つけては報せてくれた。
すると出るわ出るわ、各種の魔法属性を持つ鉱石、薬効の高い草花に果実、滅多に見ない小動物や昆虫。
イムを見つけた山には及ばないが、戦闘なしで集まる分としては考えられない貴重な素材の山が。
(なんか‥‥俺の知らない所で妙な事でも起こったのか?)
ちょっと不安になるガイだが――やはり背に腹は代えられない。貴重な品を背負い袋に詰めながら、イムを見上げて礼を言う。
「ありがとうな。イムは幸運を呼ぶマスコットだぜ」
褒められたイムは嬉しそうに宙で踊り出した。それを見ているとガイの胸にも暖かい物が湧いてくる。
(損得よりも有難いものがある、かな)
荷物は増えても足取りは軽くなった。
――翌日――
街道脇で野宿してから、昼前に最後の山を越える。
「イム、そろそろヤーヅの町が見えるぞ」
ガイは斜面の向こうを指さした。
イムを肩に乗せて町を見下ろすガイ。ヤーヅの町は――燃えていた。
身長18メートルに達する巨人が十機以上、入り乱れて戦っている。生体素材のボディに金属の鎧を身に纏う、人の乗る人造の巨人‥‥ケイオス・ウォリアーが。
剣と弩で武装した巨人型、牙を剥く狼男型、大砲を担いだ甲虫戦士型、爪で切り裂くトカゲ人型‥‥いずれも量産型の機体である。
その一派は魔王軍の旗の下、町を攻めている。
それを必死に迎え撃つのは町の防衛隊。
巨人の周囲では百人以上の歩兵達がぶつかり合っている。
町の壁は破壊され、外と中で火の手が上がっていた。
「戦だってぇ!?」
目を丸くするガイ。呆然と眺めていたが、やがて我を取り戻す。
(やべぇ! 巻き込まれるわけにはいかないぞ)
ガイとてケイオス・ウォリアーがあれば乗れるが、パーティ唯一の機体――中古の量産機は当然パーティの連中が持って行った。
仕方なくガイは街道を別方向に進む。次に近い町へと。
――翌日――
街道脇で野宿してから、昼前に最後の山を越える。
「イム、そろそろクヤチマの町が見えるぞ」
ガイは斜面の向こうを指さした。
イムを肩に乗せて町を見下ろすガイ。クヤチマの町は――燃えていた。
やっぱり魔王軍の旗の下、町を攻める量産型ケイオス・ウォリアーの部隊。
当然それを必死に迎え撃つ、町の防衛隊の量産型ケイオス・ウォリアー部隊。
当たり前だがそれらの周囲で戦う歩兵達。
ここでも町の壁は破壊され、外と中で火の手が上がっていた。
「あそこでも戦だってぇ!?」
目を丸くするガイ。呆然と眺めていたが、やがて我を取り戻す。
(まさか、俺が旅している間に魔王軍が総攻撃でもかけてきたってのか!?)
仕方なくガイは街道を別方向に進む。次に近い町へと。
――荒野の街道、川沿いの道――
大河に沿って荒野の向こうへ続く道をガイは行く。この川はケイト帝国を支える生命線の一つ。生活用水としてだけでなく、普段から様々な船が上下流へ行き来し、人と物を運んでいる。
なのに今日は船を見ない。
(やはり何かあったのか?)
ガイが考えていると、上流から何かが流れてくるのが見えた。
船か‥‥と思いきや、大きな残骸である。しかも一つや二つではない。それが何か、工兵の知識でガイにはわかった。
「これ、ケイオス・ウォリアーの部品!? なんでこんな物がここに?」
破壊された量産型機とその部品が、列をなすかのごとく流れてくる。この川沿いのどこかで規模の大きい戦闘があったのだ。
そしてガイはその残骸の中に、馬車ぐらいの大きさの甲虫を見つける。改造されたその甲虫の機能も、工兵の知識の中にあった。
(逃走用の小型機‥‥という事は、中に誰かいるのか?)
大きな残骸を足場に、甲虫へ跳び乗るガイ。
そのハッチは外からでも開いた。操縦席には誰もいないが、座席後部の奥には中で人が横たわれるほど大きい金属の箱がある。
(仮死状態にしての延命装置! こりゃあ普通じゃないぞ)
ガイは座席に座ると機体を操縦し、岸の上に上がらせた。
陸上に着いてから、ガイは箱を開けにかかる。蓋は閉じられていたものの、鍵はかかっていなかった。操縦者がいない事といい、脱出ポッドとして使われたのだろう。
蓋を開けると――
中には若い女性が眠っていた‥‥!
12
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる