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1章
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これは住人達がインタセクシルと呼ぶ、剣と魔法の世界の事。
ある日、最も大きな大陸の大国家・ケイト帝国の地方都市ハアマでの、カゲウス子爵邸で起こった話だ。
豪華な椅子に座った男が気障ったらしくメガネをくいくい弄る。薄手ながら金属の鎧は銀地に金の縁取りがされた華美な物だが、男の容姿は平凡そのもの、そこらにいくらでも居そうな特徴の無い物だった。
そんなアンバランスな男が、偉そうな態度で言い渡す。
「彼は要らない。切ってくれ」
「へい、合点でさ!」
応えたのは、メガネの男の前にいる五人組の、先頭に立つ男。
荒々しい好戦的な顔つき、背中の両手剣‥‥戦士である事が窺える。
その戦士は振り返り、五人の一人へつっけんどんに言う。
「おい聞いただろ、お前はクビだ。ガイ」
「俺が!?」
ガイと呼ばれた青年は目を丸くした。
歳は十七、八ぐらい。短い黒髪に赤みがかった瞳。革鎧の軽装で、腰には短剣と袋。背中の背負い袋にも何やら入っている様子。
彼にとっては意外な宣告だったようである。
「ああ。お前は工兵でケイオス・ウォリアーの整備ができるそうだが、軍には専門の整備士が沢山いるからな。戦闘力の低い職業は必要ない」
椅子にふんぞり返ったメガネ男はそう言い、窓の外へ目を向けた。
窓の向こう、庭に立つのは‥‥身の丈が人の十倍はある人造の巨人戦士だ。
この世界では金属と生体素材で造られた、魔法の動力を持つロボットが乗り物として使われていた。
住人達はそれを【ケイオス・ウォリアー】と呼んでいる。
両手剣の戦士が揉み手しながら媚びへつらった笑みを浮かべた。
「流石はシロウ様!」
「フッ‥‥それほどでも」
メガネ男――シロウが優越感たっぷりに微笑みながら、メガネをくいくい弄った。
両手剣の男はガイへ振り返り、えらそうに胸を張る。
「そういう事だ。俺らは聖勇士のシロウ様と上のステージに行くからよ」
聖勇士。それは他の世界からインタクセシルへ召喚された異界人。
召喚術の発達により、異界流と呼ばれる特別なパワーを大きく発揮できる者のみが召喚されるようになって久しい。
彼らはこの世界の住民の何倍もの能力を発揮し、高度なレベルやスキルを高速で身に着け、目覚ましい能力で活躍する。
召喚自体の難易度や労力は大きいが、重い事態の折には必ずと言っていいほど彼ら異界人が召喚されていた。
「俺を外してか‥‥」
ガイが呻くと、他の三人が彼を睨みつけた。
「出世のチャンスを捨ててあんたを選べって事?」
ローブを纏って杖を握る、女魔術師が冷たい目で問い詰める。
「お前は役に立たない。理解しろ」
苛ついたようなスキンヘッドの巨漢。ぶ厚い鎧から彼も戦士だとわかる。
「装備は置いていってね。パーティで稼いだお金で買ったんだから」
にこやかながらそう言うのは、神官服の少女だった。
「流石に装備は無いと困る」
抗議するガイ。
装備は、だ。パーティから出ていく事は、もう諦めて受け入れたらしい。
するとシロウが余裕たっぷりに、四人に向かって告げる。
「装備なら子爵からの支度金で新調するといい。中古品をわざわざ増やす事はないさ」
「流石はシロウ様!」
両手剣の男が揉み手で媚びると、シロウは嬉しそうにメガネを弄った。
「フッ‥‥それほどでも」
首を傾げるガイ。
「金出すのは子爵なんだから、そこは『流石は子爵様』じゃないのか?」
「えっ儂?」
今まで黙っていた、シロウの後ろで話を聞いていただけの痩せた中年男が驚く。
高価なマントを羽織った彼こそがカゲウス子爵。
彼はこの町でも腕の立つ数組の冒険者パーティを、自分の軍へ勧誘している。
その際の交渉は、総大将を任せた聖勇士のシロウに一任しているが。
子爵の反応は一顧だにせず、両手剣の男がガイへ怒鳴る。
「シロウ様に逆らうのか! 魔王軍相手に連戦連勝、国境超えて来たヘイゴー連合の部隊を滅多打ち、子爵のメイドの過半数をメロメロにしてアンアン言わせてる無敵のシロウ様によお!」
「えっメイド達に手を出してたの?」
初耳の話に驚愕するカゲウス子爵。
彼の反応は一顧だにせず、シロウは気障にメガネを弄る。
「そういきり立つな。俺と子爵の両方を讃えればいい事だ」
その助言にガイ以外の四人がいっせいに揉み手しながら媚びた笑みを浮かべた。
「流石はシロウ様!」
「流石はシロウ様!」
「流石はシロウ様!」
「流石はシロウ様!」
「フッ‥‥それほどでも」
シロウは実に嬉しそうにメガネを弄った。
「両方じゃないじゃん」
「両方じゃないのう」
ガイと子爵は納得していなかったが。
そんな反応は一顧だにせず、両手剣の男がガイを指さす。
「そんなわけでお前はもう要らないぜ。いや、前から要らなかった。ミッション中にすぐ姿を消すし、行き先にごちゃごちゃ口出しする。戦闘じゃ安い消耗品をチマチマ使うか、自分だけ安全な所に隠れるかだ。なんなんだお前は、工兵のくせに!」
「いや、工兵だからだよ」
説明しようとするガイ。
実は説明の必要がある事に内心驚いていた。なぜ年単位で一緒にいたパーティのリーダーが、ガイの職業特性を全く理解していないのか。
だが説明をシロウが遮る。
「長い話になるならやめてもらおう。軍に来る者達には今後の説明と契約があるからな。今肝心なのは何か、それを考えろ」
「流石はシロウ様!」
両手剣の男が揉み手で媚びると、シロウはとても嬉しそうにメガネを弄った。
「フッ‥‥それほどでも」
「じゃあね、バイバイ」
女魔術師が冷たく告げる。
ガイは大きな溜息をついた。
「はいはい、わかったわかった」
こうしてガイはソロ冒険者になった。
(主人公・ガイ)
(ガイを追放したパーティメンバー。左上・タリン、右上・ララ、左下・リリ、右下・ウスラ)
ある日、最も大きな大陸の大国家・ケイト帝国の地方都市ハアマでの、カゲウス子爵邸で起こった話だ。
豪華な椅子に座った男が気障ったらしくメガネをくいくい弄る。薄手ながら金属の鎧は銀地に金の縁取りがされた華美な物だが、男の容姿は平凡そのもの、そこらにいくらでも居そうな特徴の無い物だった。
そんなアンバランスな男が、偉そうな態度で言い渡す。
「彼は要らない。切ってくれ」
「へい、合点でさ!」
応えたのは、メガネの男の前にいる五人組の、先頭に立つ男。
荒々しい好戦的な顔つき、背中の両手剣‥‥戦士である事が窺える。
その戦士は振り返り、五人の一人へつっけんどんに言う。
「おい聞いただろ、お前はクビだ。ガイ」
「俺が!?」
ガイと呼ばれた青年は目を丸くした。
歳は十七、八ぐらい。短い黒髪に赤みがかった瞳。革鎧の軽装で、腰には短剣と袋。背中の背負い袋にも何やら入っている様子。
彼にとっては意外な宣告だったようである。
「ああ。お前は工兵でケイオス・ウォリアーの整備ができるそうだが、軍には専門の整備士が沢山いるからな。戦闘力の低い職業は必要ない」
椅子にふんぞり返ったメガネ男はそう言い、窓の外へ目を向けた。
窓の向こう、庭に立つのは‥‥身の丈が人の十倍はある人造の巨人戦士だ。
この世界では金属と生体素材で造られた、魔法の動力を持つロボットが乗り物として使われていた。
住人達はそれを【ケイオス・ウォリアー】と呼んでいる。
両手剣の戦士が揉み手しながら媚びへつらった笑みを浮かべた。
「流石はシロウ様!」
「フッ‥‥それほどでも」
メガネ男――シロウが優越感たっぷりに微笑みながら、メガネをくいくい弄った。
両手剣の男はガイへ振り返り、えらそうに胸を張る。
「そういう事だ。俺らは聖勇士のシロウ様と上のステージに行くからよ」
聖勇士。それは他の世界からインタクセシルへ召喚された異界人。
召喚術の発達により、異界流と呼ばれる特別なパワーを大きく発揮できる者のみが召喚されるようになって久しい。
彼らはこの世界の住民の何倍もの能力を発揮し、高度なレベルやスキルを高速で身に着け、目覚ましい能力で活躍する。
召喚自体の難易度や労力は大きいが、重い事態の折には必ずと言っていいほど彼ら異界人が召喚されていた。
「俺を外してか‥‥」
ガイが呻くと、他の三人が彼を睨みつけた。
「出世のチャンスを捨ててあんたを選べって事?」
ローブを纏って杖を握る、女魔術師が冷たい目で問い詰める。
「お前は役に立たない。理解しろ」
苛ついたようなスキンヘッドの巨漢。ぶ厚い鎧から彼も戦士だとわかる。
「装備は置いていってね。パーティで稼いだお金で買ったんだから」
にこやかながらそう言うのは、神官服の少女だった。
「流石に装備は無いと困る」
抗議するガイ。
装備は、だ。パーティから出ていく事は、もう諦めて受け入れたらしい。
するとシロウが余裕たっぷりに、四人に向かって告げる。
「装備なら子爵からの支度金で新調するといい。中古品をわざわざ増やす事はないさ」
「流石はシロウ様!」
両手剣の男が揉み手で媚びると、シロウは嬉しそうにメガネを弄った。
「フッ‥‥それほどでも」
首を傾げるガイ。
「金出すのは子爵なんだから、そこは『流石は子爵様』じゃないのか?」
「えっ儂?」
今まで黙っていた、シロウの後ろで話を聞いていただけの痩せた中年男が驚く。
高価なマントを羽織った彼こそがカゲウス子爵。
彼はこの町でも腕の立つ数組の冒険者パーティを、自分の軍へ勧誘している。
その際の交渉は、総大将を任せた聖勇士のシロウに一任しているが。
子爵の反応は一顧だにせず、両手剣の男がガイへ怒鳴る。
「シロウ様に逆らうのか! 魔王軍相手に連戦連勝、国境超えて来たヘイゴー連合の部隊を滅多打ち、子爵のメイドの過半数をメロメロにしてアンアン言わせてる無敵のシロウ様によお!」
「えっメイド達に手を出してたの?」
初耳の話に驚愕するカゲウス子爵。
彼の反応は一顧だにせず、シロウは気障にメガネを弄る。
「そういきり立つな。俺と子爵の両方を讃えればいい事だ」
その助言にガイ以外の四人がいっせいに揉み手しながら媚びた笑みを浮かべた。
「流石はシロウ様!」
「流石はシロウ様!」
「流石はシロウ様!」
「流石はシロウ様!」
「フッ‥‥それほどでも」
シロウは実に嬉しそうにメガネを弄った。
「両方じゃないじゃん」
「両方じゃないのう」
ガイと子爵は納得していなかったが。
そんな反応は一顧だにせず、両手剣の男がガイを指さす。
「そんなわけでお前はもう要らないぜ。いや、前から要らなかった。ミッション中にすぐ姿を消すし、行き先にごちゃごちゃ口出しする。戦闘じゃ安い消耗品をチマチマ使うか、自分だけ安全な所に隠れるかだ。なんなんだお前は、工兵のくせに!」
「いや、工兵だからだよ」
説明しようとするガイ。
実は説明の必要がある事に内心驚いていた。なぜ年単位で一緒にいたパーティのリーダーが、ガイの職業特性を全く理解していないのか。
だが説明をシロウが遮る。
「長い話になるならやめてもらおう。軍に来る者達には今後の説明と契約があるからな。今肝心なのは何か、それを考えろ」
「流石はシロウ様!」
両手剣の男が揉み手で媚びると、シロウはとても嬉しそうにメガネを弄った。
「フッ‥‥それほどでも」
「じゃあね、バイバイ」
女魔術師が冷たく告げる。
ガイは大きな溜息をついた。
「はいはい、わかったわかった」
こうしてガイはソロ冒険者になった。
(主人公・ガイ)
(ガイを追放したパーティメンバー。左上・タリン、右上・ララ、左下・リリ、右下・ウスラ)
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