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7 新生 3

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 勝利を収め、母艦に帰還したジン達。
 操縦席から出て格納庫の床に降り立つと、整備員達を掻き分けるようにしてゴブオが駆け寄ってきた。
「やったぜアニキ! 白銀級機シルバークラスをいっぺんに二機も倒した! さすアニ! さすアニ! アニキTUEEEEE!」

 それを見てナイナイが苦笑する。
 気のせいか……整備員達がこちらを見る目も、昨日までと少し違うようだ。称賛か、尊敬か――ジン達を認めている事は間違いない。
 嬉しくはあるが居心地は少し悪く感じ、ジンはわざとらしく首を鳴らしながら格納庫の出口へ向かった。
「褒めてくれるのは嬉しいが、流石に疲れた。ちょいと休憩したいからよ……」

 部屋に戻ったジン達は、各自の寝台へ上がって思い思いにくつろぐ。
 ジンは腕まくらをしながらごろりと寝転がった。
「こーら、じきに晩ご飯だぞ?」
 リリマナが頭の横に座ってツンツンつついてくる。どこか楽しそうだ。

 部屋の皆は浮かれているようだった。
 新調した機体、新型艦、新必殺技、それらによる今まで以上の大勝利。
 それらを踏まえれば当然であろう。


「アニキ達の新技、メチャ冴えたっス!」
 嬉しそうに持ち上げるゴブオ。
 しかしリリマナが興味深そうに訊いてくる。
「でも……トライシュートでも十分強いじゃン? 何かダメなの?」
「近距離まで近づく方が、当て易いし力も入るからな。ウチには遠距離からの精密射撃が得意な奴はいねぇし……」
 それがジンの答えだ。
 そして新コンビネーションを考案した理由でもある。

 ジンは砲撃戦機に乗っているし、ナイナイのMAP兵器も射撃武器だが、二人とも遠距離から敵の急所を狙いすまして撃つような戦い方では無い。
 ダインスケンに至っては言わずもがなだ。

 だが今まで以上の強敵に打ち勝つためには、自分達の全能力を出し切る必要がある。
 そしてジンの出した答えが、格闘攻撃の三連携だったのだ。

 渾身の攻撃を放つ一打。
 それが当たれば後に続き、避けられる・防がれるならその隙を狙って打ち込む二打。
 そして最後にして最強の一撃を打ち込む三打である。

(しかしまぁ、前と同じく練習してみたらあっさり完成しやがった。一体どうなってるんだ。どう考えてもおかしいが、いざ同時攻撃を始めてみたら、あいつらの動きがなんとなくわかっちまう……)
 ジンにとっては不可解だが、さりとてこの不思議な利点を利用しないわけにもいかないのである。
 

 そんなジン達の部屋がノックされた。
 扉が開くと、そこにいたのはヴァルキュリナだ。
「見事だ、ジン。このまま行けば、この艦が次の襲撃を受ける前にスイデンへ着くはず。国内に入ればいかな魔王軍とて容易くは艦へ攻撃できないはずだ。貴方達のおかげで任務達成の光明が見えた」
 彼女の表情も明るい。
 ジンはわざとらしく「はは」と笑い、壁の方へ体の向きを変えた。
「ヴァルキュリナの婚約者の機体を使わせてもらったおかげでもあるな。俺らはアイツを好かないが……お前さんにとっちゃ大事な人だったんだろう? アイツのおかげでもあると、お前さんは思っていいからよ」

 ジンがそんな事を言ったのは、婚約者を亡くしたうえに、その座を流れ者に差し出そうとしてまで、今の任務を遂行しようとしたヴァルキュリナへの気遣い……また慰めも多少は入っている。
 浮かれていたナイナイも、ハッと気付いたようだ。
「そっか。恋人だったもんね……」

「あ、ああ……」
 ヴァルキュリナの方はというと……妙に歯切れが悪い。
 それに気づかず、リリマナがニヤニヤしながら脳天気に声をかけた。
「ねぇねぇ、あいつもヴァルキュリナには優しかったの? 二人の時にラヴラヴしてたりしたの?」
 そう言うとヴァルキュリナは困った顔になる。
「あ……いや……そういう人では無かったから……」
 話しながら言葉を探しているような様子だ。
 リリマナは大きな目を丸くする。
「ないの? ウッソォ!」
「それはその、ベタベタするのが嫌いな人もいるしな……。そもそも家のための婚約で、二人だけで過ごした時間なんて全然……」
 ヴァルキュリナのその言い分は、終いの方はため息混じりになってさえいた。

「えー……じゃあヴァルキュリナは、ケイドの事をどう想ってたのォ?」
 納得できないとばかりにリリマナが訊く。
 別に彼女にとってはどうでもいい事の筈なのだが、期待したような答えが来ないのが不満なのだろう。
 言われたヴァルキュリナの方は、もじもじと恥ずかしそうに両手の人差し指を突き合わせた。
「どうって……評判に恥じない、技量もプライドも高い優秀な騎士だとは認めていたし……ただ、経緯はどうあれ私を娶る人にはもっと私自身を見て欲しいと……」

「そっか。ヴァルキュリナさんも、大切にしてもらえる幸せな恋愛がしたいよね」
 納得するナイナイ。
 寝台でうんうんと大きく頷く。
「い、今は任務中だ! これで失礼する!」
 真っ赤になってヴァルキュリナは出て行ってしまった。

「僕、賛成するつもりで言ったんだけど……」
 困惑しながらナイナイは言う。
「ケイドとは全然ラヴラヴじゃなかったんだなァ。ロイヤルでエリートなキラキラ美形カップルだと思ってたのに」
 リリマナは少しつまらなそうだった。
 だが急に目を輝かせ、ジンの顔を覗き込む。

「ねぇねぇ、ジンはヴァルキュリナの恋人にはならないの? 旦那様になってもらっていい、って言われてたじゃン? 聖勇士パラディンが救国の英雄になってお姫様と結ばれるって、この世界のおとぎ話じゃ定番なんだけど」
 妖精の少女は何やら期待感でいっぱいの様子。
(人様の恋愛話がそんなに楽しいかねぇ……)
 溜息をつくジン。
結婚を持ちかけられたわけじゃないからな。それにあの話は成功報酬だからよ。救国の英雄になれてから考えりゃいいんじゃねぇか。ま……その前にナイナイと恋人になったりするかもな」

 ベッドの上段から「えっ!?」と声があがった。
「え、ぼ、僕が? で、でも……体はこんなだけど、だからってそんな……」
 いつになく動揺して上ずった声である。

 ジンは少し呆れたような口調で言った。
「体なら片腕化け物の俺よりお前の方がよほどまともな見た目じゃねぇか。子爵家のご令嬢とくっつくなら、俺らの中でお前が一番つり合い取れるだろうよ。ダインスケンはモロに種族が違うし、まさかゴブオというわけにもいくめぇ」
 しかめ面で「うーん」と唸るゴブオ。
「人間やエルフの姫様・女騎士に欲望の限りを尽くすのは、この世界のゴブリンの願望としては定番なんスけどね」
 しかめ面になるジン。
「だろうが今は黙ってろ」
「もう! ロマンチックが足りないなァ! たーりーなーいー!」
 不満を叫んでジンの頭の横に座り込むリリマナ。ダインスケンが「ゲッゲー」と鳴いた。

 そんなバカなやり取りの外で、ナイナイは一人顔を紅くしていた。
「そ、そうだよね。ヴァルキュリナさんと、って話だよね。当たり前じゃないか、何考えてんの、僕は……」
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