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1 召喚 2

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 機体に火が入った――キーやスイッチに触る事なく、ハッチが閉じてモニターと室内灯が点灯したのだ。
 だがじんを驚かせたのはそれではない。
 閉じたハッチがモニターとなり、何かが映った。
 だがじんを驚かせたのはそれでもない。

 じんには外の光景が見えたのだ。機体の正面が頭の中に映像として存在する。試しに右を見ると、機体の右側が頭の中に映った。それとともに機体の頭が右を向いたのが「感覚として」わかる。
 左を見ると機体の頭が左へ回り、脳裏の視界も左へ……。
 じんの首から上は機体と一体化し、それにより外を見るのだ!

 ではモニターは何を映しているのか? じんは「自分の目」でそれを見て、さらに驚く事になる。
「俺がずっとやってたゲームじゃねぇかよぉ!?」
 そう――彼が子供の頃から遊んでいたロボットアニメ大集合シミュレーションRPG……その戦闘マップだった。

 マスで区切られ、中央にある青く輝くロボットの顔アイコン。廃墟となった砦が描かれ、その中に配置されている。その砦の外には森や山が描かれ、赤く輝くアイコンが10個近く点在しているようだ。
 だがターン制だったゲームと違い、赤いアイコンはリアルタイムで動いている。

「それはね、戦闘MAPだよ。青が自軍の識別色で、赤が敵ね!」
 じんの脇腹の辺りから少女の声が聞こえた。慌てて見ると、小さな妖精の少女が元気な笑顔を向けている。女神官戦士と一緒にいた筈だが、じんと一緒に乗りこんでいたらしい。
 妖精はふわりと飛ぶと、ポニーテールの髪をなびかせてじんの肩に腰掛けた。

「私はリリマナ。お手伝いするよ、よろしくゥ!」
 言ってにっこり笑う妖精の少女。
(なんか80年代ぽいテンションだな……)
 じんは多少面食らいはしたものの、説明してくれる者がいるのはありがたかった。
「あ、ああ。俺はじん。よろしくだからよ。それで、どうやって動かせばいい?」
 そう訊ねるとリリマナは座席の左右を指さす。

「あの操縦桿を握るんだよ。ジンは聖勇士パラディンだからそれで操縦できるようになるって」
 操縦桿――確かに左右に棒が突き出ている。しかし稼働するような構造には見えない。レバーというより武器の柄に見える。
 とはいえそう言われたなら試すだけだ。じんは操縦桿を握った。

 途端、全身に「何か」が巡る感じがあった。体内を循環する、気流か水流のような物がある!
「わかるぞ……確かによ!」
 言いながら、じんを立ち上がらせた。

 機体が立ち上がる。その振動は操縦席にいてもわかった。機体は、自分の体を動かすのと同じ感覚で動いたのだ。自分の体がもう一つあり、それを意思で――そちらの体を動かすつもりで動かす。
 まさに「思い通りに動く」機体なのだ!

 じんが機体を起こす間にも、敵からの砲撃は断続的に続いていた。半壊していた砦が全壊になるのも時間の問題だろう。
「機体の状況とか武器とかは? どうすれば確認できるよ?」
 動きはするが、燃料の残りやどんな武器があるのかはわからない。この機体に大きな大砲がついているのは乗る前に見えたが、発射の仕方も知らない。

 するとリリマナは小さな手で前方を指さした。
「前のモニターに映るよ。カーソルっていうのがあるから、それを意識で操作して、自分の機体を詳しく映して」
 カーソル? 確かに自機のすぐ側に表示されている。意識で――試すと、じんの思った方向に動いた。自機に重ねると――いくつかの項目が側に出る。
(こ、こんな所もゲームそっくりかよ……)
 ミニウィンド内に出る「パイロット」「機体性能」「武器性能」の各項目。急ぎカーソルを機体性能に合わせて見れば――

 肩に大きな砲身を担いだ、特撮にダンゴムシ怪人の名で出そうな全身が表示された。その側には性能を数値化した物も。

Bカノンピルバグ
HP:5000/5000 EN:170/170 装甲:1400 運動:90 照準:145

「高いのか低いのか全くわからねぇ……」
 表示された数字を前に顔をしかめるじん
 リリマナが元気に言う。
「ぜんぜん普通だよ! 量産型の一つでどこの国にもいっぱいあるから。魔王軍も使ってるよ、見てみて!」
「え?」
 リリマナに促され、じんはカーソルを敵へ持って行く。敵は三種類ほどの機体を使っていたが、その中に自機と同じ形のアイコンがあった。試しにカーソルを合わせる。

Bカノンピルバグ

 全く同じ名前が表示された。
「こ、この展開でただの量産機スタートだと!? ワンオフカスタムの軍事機密機じゃねぇのか! スジが通らねぇ!」
 悲痛な叫び。
 だがそう喚いた直後、爆発がすぐ側の壁を吹き飛ばした。
「動いて! やられちゃうゥ!」
 リリマナが急かす。
「つっても武器の使い方!」
 それがわかっていないのだ。焦るじん
「機体の手で使うんだよ! 当然じゃん!」
 ぺしぺしとじんの頭を叩くリリマナ。

 そう言われ、機体の眼で見て、じんは理解した。
 担いだ砲身には引き金がある。それを機体の指で直に引くのだろう。
 腕部装甲には稼働する部分がある。それを半回転させると、拳を保護するナックルガードになるようだ。近接戦闘になったらこれで殴り合えという事か。

「ほ、他に武器は……」
 じんはカーソルを急いで自機の「武器性能」に合わせた。

格 アームドナックル 攻撃2500 射程P1―1
射 ロングキャノン  攻撃3000 射程2-6

「二つ!? マジ二つナンデ!?」
 目を丸くして叫んでも、辛い現実は変わらない。
 さらに辛い事に、爆発がじん機のすぐ側の壁を吹き飛ばした。もうここに隠れてもいられない。
(クソッ! いくらなんでもこんな展開でやられてたまるかよ!)
 じんは機体を走らせた。巨大な「己の体」がドスドスと走り、全壊に近い砦――モニターには「廃墟」と表示されている――へ駆け込んだ。

 敵にも同じシステムがあり、じんの居場所を把握しているのだろう。駆け込んだ廃墟に集中砲火が浴びせられる。
 無論、じんとてただ死を待つつもりは無い。恐怖と焦りで突き動かされながら大砲の引き金を機体の指で引く。引き金に指をかけると機体の視界には照準のポインターが出てくれるので、それを敵影に合わせて撃った。

 機能のアシストのおかげか、割と当たる。百発百中とはいかないが、思ったよりはずっと。

「なんだ、意外と当たるじゃねぇか。それともこれも何かのスキルが補正してくれてるのか……」
 そう呟いた途端、自機が被弾した! 激しい衝撃とともに、モニターに赤い数字が出る。そのぶんだけ隅に表示されている自機のHPが低下した。5000と示されていたのに、一撃で4000近くまで低下する。
「チイッ! ちょいとヤバくねぇか!? 俺、本当に強いんだろうな!?」
「確認しなよ! きっと高ステータスなはず!」
 リリマナに発破をかけられ、じんはかーソルを動かした。

 途中、周囲の地形をカーソルが横切る時、モニター隅に何か数字が出る。

<廃墟> 回避率:+20% 防御率:+20% HP回復:0 EN回復:0

(地形効果か! これのおかげで現状、助かっているのかもしれないな……)
じんは改めて敵の位置を確認した。廃墟を包囲するため、敵は森や山裾を出て平地にいる。あまり拓けた場所でもないので、数機ずつにバラけて接近してきている状態だ。
 廃墟の中で建物や壁を利用すれば、そうすぐには倒されないだろう。
 少し落ち着きを取り戻し、敵へ砲撃をお返ししながらも、カーソルを「パイロット」に合わせた。

ジン=ライガ
気力114
レベル2
格闘144 射撃139 技量172 防御123 回避83 命中88 SP64
特殊スキル
ケイオス2 底力7 援護攻撃1 援護防御1
スピリットコマンド【スカウト】
妖精

「な、何で名前がカタカナで姓名逆なんだよ?」
 たじろぐじん
「この世界でどう呼ばれるかだから仕方ないね!」
 リリマナが当然のように答える。
(他人の勝手な呼び名が採用されるのか? クソバカマヌケと呼ばれたらそう表示されるのかよ? 嫌がらせし放題じゃねぇか……)
 全く納得いかないが、ジンの目はその下段に吸い寄せられた。
 高いか低いかはわからないが、能力値が何を意味するのかは見当がつく。スキルの方も、不明な物が一つあるがまぁだいたいわかる。どれも昔遊んでいたゲームと似たような物だ。
 しかし『スピリットコマンド』とは?

「なぁリリマナ。スピリットコマンドって何だ?」
「精神の力で起こす、一種の魔法みたいなものかな。バフや回復の効果が多いよ。優秀なコマンドが使えるなら、能力値以上の強さが発揮されるんだから! でもSPを消耗するから気をつけてね」
 リリマナの忠告に「お、おう」とたじろぎながら答えるジン。
(どこかで聞いたような能力だな! まぁいい。それより俺の【スカウト】てのは……)
 シンはカーソルをコマンド名に合わせた。

【スカウト】まだ交戦していない敵のデータを参照できるようにする。

「それかよぉ! 攻撃力も防御力も上がってくれねぇ! HPの回復もできねぇ!」
 叫ぶジン。能力の有用性は認めるが、今欲しいのはそうではないのだ。
 だがリリマナがどんと自分の胸を叩く。
「安心して! 妖精には聖勇士パラディンをサポートできる能力を持つ者もいるんだ。何を隠そうこの私もね! ピクシーのリリマナが力を貸すよ。私のスピリットコマンドを使って!」

 言われてみれば、ステータス画面に『妖精』とある。そこにカーソルを合わせると……

リリマナ レベル1 SP41 スピリットコマンド【サーチ】【ガッツ】

「さ、【サーチ】って……」
「隠された物の位置がわかるんだよ。だから私が今回の調査に選ばれたんだ!」
 呻くように訊くジンへ、意気揚々と答えるリリマナ。
(納得はするが、今必要なのはこれじゃねぇからよ!)
 歯軋りするジン。
「じゃあ、【ガッツ】って……」
「機体のHPを最大値の30%回復するよ。世の中根性だ!」
 呻くように訊くジンへ、意気揚々と答えるリリマナ。
「おう、それなら助かる」
 やっとの事で安堵するジン。だが――

「SP消費は25だよ。気をつけてね」
「使えんの1回だけぇ!?」
 リリマナの忠告に目を剥くジン。世の中、上手い話は無かった。

 ジンが操縦席で嘆こうと、敵の砲撃は止まない。一応ジンも反撃は行っているが、まだ一機も倒せていなかった。
 なのにジンの機体がさらに被弾する! 敵機体は廃墟の目の前まで迫っていた。その数は三機――どれも古代ギリシャかローマの兵士のような、甲冑姿の巨人だ。顔は鉄の面頬に覆われ、右手には剣、左手には弩という武装。
「巨人!? これもロボットなのか?」
「中身は人工物だよ。巨人・猛獣・鳥空・魔竜・深海・不死・妖虫の七種類あるうちの巨人型。世界で一番普及してる一般的な機体なんだ」
 リリマナの説明を聞きつつ、ジンは焦りながらカーソルを敵に合わせる。

魔王軍兵 レベル1
Bソードアーミー
HP:2565/4500 EN:170/170 装甲:1300 運動:95 照準:145
射 ソード   攻撃2700 射程P1―1
格 ボウガン  攻撃2700 射程1-5

(おう、マジで魔王軍の兵士なのか。つーかこのツラ……)
 敵ステータスには操縦者の顔も表示されていた。兜を被った、牙の生えた鬼のような顔……ゴブリンとかオークとかいう魔物なのであろう。
 迎え撃とうとするジン。だが三方向を同時に撃つのは無理だ。万事休す――

 と、その時。
 一番近くの敵機が叩き斬られ、爆発した!
 続いて一番損傷していた敵機に光の輪が当たり、その機体も爆発する!

 ジンの機体のすぐ側に、新たな二機のケイオス・ウォリアーが現れた。モニタ上のアイコンは青色――友軍だ!

『ゲッゲー』
 リザードマンをそのまま巨大化させたような機体から鳴き声が届く。ジンはその機体にカーソルを合わせた。

ダインスケン レベル2
Bクローリザード
HP:4500/4500 EN:170/170 装甲:1300 運動:110 照準:145
射 スケイルシュリケン 攻撃2500 射程P1―3
格 ブレードクロー   攻撃3000 射程P1―1

 表示される操縦者は一緒に目覚めた複眼トカゲ男だ。おそらく外見で機体を選んだのだろう。
(あー……こいつ、ちゃんと名前あるのな)
 少し感心するジン。一方、もう片方の機体からも声が届く。

『おまたせ! 動かすのに手間取って……まだよくわからない事も多いけど、とにかく手伝うよ』
 細長い魚の頭部を持つ魚人兵士のような機体から少女(?)の声。今度はカーソルをそれに合わせると――

ナイナイ レベル2
Bバイブグンザリ
HP:4000/4000 EN:180/180 装甲:1200 運動:100 照準:145
修理装置
補給装置
格 アームドナックル 攻撃2500 射程P1―1
射 ソニックショット 攻撃2500 射程1-5
射 インパルスウェーブ(MAP) 攻撃3200 射程1-5

「ん……? 修理装置!? マップ兵器ぃ!?」
 目を丸くするジン。
「回復魔法とか復元魔法とかの応用で造った、全機種対応の修理装置があるんだ。強化パーツ【レスキューマシンナリー】っていってね、あの機体にはそれが装備してあったの」
 リリマナの説明を聞けば効果はわかった。もう一つ気になるのは――
「あの、MAPとか書いてある武器は?」
「正式には何て言ったかな……」
 首を傾げるリリマナにジンは言ってみる。
「大量広域先制攻撃兵器、か?」
「だったかな? モニターマップの広い範囲ドカンする武器、だったかも」
 物凄く適当な答えだが、それでジンには理解できた。
「そうか……大体わかった」
「わかるんだ!? 凄いねジン!」
 目を見張るリリマナを他所に、ジンは他の二人に伝える。

「二人とも廃墟から出ないでくれ。ダインスケン、前衛は任せる。ナイナイは弱った奴へのトドメを。ただしHPが半分以下になってる味方の修理を優先でな。味方を援護できるよう、できるだけ固まって戦ってくれ」
『え? うん? や、やってみるよ』
『ゲッゲー』
 方針が決まるや、三機は固まって廃墟の一画に走った。一機だけ残っていたBソードアーミーは、味方が合流する前に哀れ撃破されてしまう。
 それを見て、次の敵小隊が廃墟へ迫ってきた。

(ゲームなら……初出撃の一面なんぞ、主役機サマが敵を蹴散らす演出ステージなもんだが……地形効果で身を守っての泥臭い撃ち合いで、回復しながらの耐久合戦から始まるとはな! そういう時代も有りはしたがよ)
 心の中で愚痴りながら、ジンは味方とともに敵機と砲火を交える。
 ナイナイ機を狙った弾が飛んで来た。これは当たる! と直感し、ジンは防御態勢をとって自分の機体を割り込ませる。衝撃が走りモニターにダメージが表示されたが、ナイナイ機は無傷だ。
『あ、ありがと……』
「この機体は装甲厚めだからよ」
 お礼の言葉に軽口を返しつつ、ジンは敵へ砲撃を加える。それを食らってよろめく敵機へ、間髪いれずダインスケン機が跳びかかった。その爪が敵を切り裂きトドメを刺す。

 戦いながら、ジンは自分達の事を理解してきた。
(自分でも驚きだが、他人の攻撃に被せた追撃が、被弾に割り込んでのカバーリングが狙い通りにできる。このテクニックが援護攻撃とか援護防御とかのスキルってわけか。そして俺同様、この二人もそのスキルを持っているようだな)
 ジンが撃った敵にナイナイ機が追加で光輪を撃ち込み、撃墜する。各機がバラバラに攻めてくる敵機は、数で同じでもジン達に叶うわけもなかった。

 第二波が全て倒され、廃墟の側に残骸を晒す。
 だがその向こう――最後の、第三波が迫ってきた。

『修理装置は使ってるけど、やっぱりダメージは溜まっていくよお……』
 ナイナイが弱音を吐く。魔法仕込みの回復装置とはいえ、激戦の最中で複数機のダメージを帳消しにするのは難しかった。
「そうか。ちと聞きたいが、お前ら、スピリットコマンドは何もってる?」
『ゲッゲー』
 ジンが訊ねるとダインスケンが鳴いた。意味はよくわからない。一方、ナイナイは……
『僕は【フォーチュン】だって。敵からの資金が二倍になる、て……どういう事?』
 思わぬ報告に、顔の右半分で喜び左半分でがっかりするジン。ゲームでは非常に大事なコマンドだが、今は攻撃に使える技が欲しかった。
 ともかく彼は告げる。
「まぁ大体わかった。案があるから従ってくれ」

 そして第三波の敵三機が廃墟の側へ来た。
 その時、ジン達三機は横一列に並んで敵を迎え撃つ。守りの要の廃墟から飛び出して、だ!
『出てきタ?』
 魔王軍兵士は一瞬戸惑ったが、攻撃をやめるわけもない。三対三で正面からぶつかり合う! 互いに傷つくが、既に損傷しているジン達三機が明らかに不利だ。

 それでもこの戦い方を選んだのは――
「今だ! 頼む!」
『わ、わかった!』
 ジンの指示でナイナイは最強の武器を発射した。
 広範囲攻撃武器・インパルスウェーブ! 長い魚頭の左右に、三対の湾曲したアンテナが展開する。それが輝き、アンテナ間にエネルギーの膜を張った。力場の傘から噴射する魔力が、大地を、空気を、その範囲内にいる物を高周波振動で分解する!
 多少とはいえダメージを受けていた敵機はそれに耐える事ができなかった。魔力の輝きの中で崩れ、爆発を起こす。巨人兵士二機、ジン機と同型の幼虫型機一機はまとめて砕け散った。

 ジンがフォーメーションを変えるよう指示したのは、消耗戦を続ける余力が際どいとみて、残る敵を一掃できるよう、広範囲武器――MAP兵器の射界に誘導するためだったのだ。

「さて……残るは一機だが……」
 呟くジン。未だ離れた森の入り口でこちらを窺う、鳥の頭と翼を持つ機体がいるのだ。
(後方にいるという事は指揮官機か? 攻めてこないなら……先ずは……)
 ジンは精神を集中した。初めて試す、異界の力。
「スピリットコマンド……【スカウト】!」
 とりあえず言葉に出して言ってみた。ジンの精神力に呼応し、モニターに敵機のデータが映る。

マスターウインド レベル15
Sフェザーコカトリス
HP:15000/15000 EN:200/200 装甲:1700 運動:120 照準:155
格 ヘブンズソード    攻撃3200 射程P1―3
射 ブレイドフェザー   攻撃3700 射程2-7
射 ペトリフィケーション 攻撃4200 射程P1-6 機体能力全低下2

「いやフザケんなよ!? どこから突っ込めばいいんだ!?」
 叫ぶジン。抗議しなければ気が済まないぐらい自機と差がある。
「うわちゃー……マスターかァ。あれ、魔王軍幹部の直下、親衛隊だよ。地位で言うなら上から三番目というかさ……」
 リリマナが引きつった顔で説明する。
「機体の名前の記号、あれはケイオス・ウォリアーのランクなの。ジンが乗ってる『B』は青銅ブロンズ級、最低ランクを意味する量産型なのね。あいつの『S』はその上の白銀シルバー級、一機しかない専用機なんだ」
 それを聞いてげんなりするジン。
「なるほど。ランクBとランクSじゃ神とムシケラの差がありそうだな。それにしても全ステ完敗かよ……」
 そんな所まで昔から遊んでいたゲームそっくりである。
「スピリットコマンドの使用に制限をかける事で機体性能を上げる呪法があるから、それを使ってるんだと思う。代々、魔王軍はそれを好むの。普通だと絶対到達できないレベルの機体性能が実現できるから。多分……もとのHPはあれの半分以下だと思うよ」
 親切に教えてくれるリリマナ。別に現状が変わるわけではないが。
「どちらにしろ、こっち三機でも勝てる気がしねぇからよ……」
 正直、ジンにはどうしていいかわからなかった。逃げるしかないが、この世界で目覚めたばかり。どこへ行けば何があるのか、まるで知らないのだ。
(こんな酷い異世界転移をした奴がいるか? いや……主人公の引き立て役モブにならいるか。『元の世界でもどうでもいい存在だった男、異世界でもどうでもいいBランクなので死にます』てなタイトルで一発ネタの短編にしかならねぇ)
 頭の中でくだらない事を、完全に諦めて考えるジン。

 そして――敵機は翼を広げた。
 来るか!とジン達の三機が身構える。
 それを前に、敵機は大空へと飛び立った。その姿が瞬く間に雲の間へ消える。

「……あ……顔見世イベントか」
 空を見上げ、ジンは半ば呆けて呟いた。
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