喫茶・憩い場

深郷由希菜

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2杯目 1口目

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とある町の、とある道の奥まった場所に存在する1軒の喫茶店。

1杯目の街とは違うそこで、制服だろう赤と茶色のチェックのシャツの上に袖なしベスト、黒いズボンの1人の少し濃い顔の男が店の前で頭を掻いていた。

その人物の目の前にいるのは、うつぶせで倒れている少女。

「店の前で倒れられてっと、困るんだよな。営業妨害なんだよなー」

困ったのが表れた声にも反応はないし、反応があったらとっとと追い払いたいと思っているが、呟かずにはいられなかった。

そのまましばらくどうしようかと思っていると、肩より少し長い髪を持った、ワンピースのような白い衣服に身を包んだだけの生物はぴくり、と反応した。

「お。おい、起きたか行き倒れ。とっととこの場所から去ってもらおうか?」

面倒だと、渋い音に乗せて言えば、それに答えたのはお腹の音。

「お腹・・・・空いた」

そしてまたぱたりと倒れられてはさすがの彼も苛立ちつつもどうしようもないと思い、目の前の喫茶店へと戻るのだった。

もちろん、行には無かったお荷物付きで。








もぐもぐ、むしゃむしゃと食べ進める音が静かな店内を埋める。

決してお上品ではないそれを見る男性の表情は、呆れで彩られている。

一心不乱に食べ続ける姿は、およそどの女性もかけ離れたものではあるが、顔立ちとわずかな女体としてのふくらみが性別を表していた。

最低限、手づかみで食べるもの以外は箸やスプーンなども使っているのが救いだろうか。

「おい・・・食いすぎだろ」

目の前の酷い有様の人間がお金を持っているわけもなく、ただ食いされてしまっている事実をどこか遠いところで起こっているのだと錯覚したくなるほどには皿の数が増えていった。

それには表情も険しくなるのも当然だろう。

とはいえ、ここまでの量を律義に作れたのは、彼がただの従業員でマスコットだった、というわけではないことを表していると言えるだろう。

そろそろ食料が尽きそうだと思ったその時。

「ふぅ~、お腹いっぱい!ありがとう、お兄さん!」

にっこりと笑顔でお礼を言う姿は、本当に助かったという気持ちの表れだった。

「あ、でも私お金持ってないや。無銭飲食はもちろんだめだよね?何すればいいかな?」

一見すれば、きょとんとしているようにも見える表情だけれど、お店を出ることなく尋ねてくる様子にため息が漏れつつも料理人は答えた。
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