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ワイヤー使い
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それは、あまりにも異様な光景だった。
運転席に座る運転手の姿は、既に生きてる姿ではなかった。
首から上を切断され、フロントガラスや周辺は切断された首から溢れた鮮血で、真っ赤に染まっている。
「っ、朝っぱらからグロテスクなもの見せてくれるじゃないっ!! 逃げるわよっ!! 逢莉ちゃん!!」
このままではバスに轢かれてしまう。
逢莉の手を取り、その場から離れようとした瞬間、始発に乗ろうとやってきた人々がその場の異変に気付き騒然となる。
「うわあぁぁぁぁっ!! 逃げろーーっ!! バスがっ!!」
悲鳴を上げ逃げ出した乗客たちだったが、次の瞬間、先頭を走っていた数人の乗客が、一瞬にして細切れになった。
紅い鮮血が飛び散り、千切れた手足がその場に転がる。
「ひっ、きゃあああぁぁっ!!」
異様な光景に、後ろにいた女性客は悲鳴を上げ、意識を失い倒れてしまう。他の者たちも、怯え、身体が動かなくなってしまった。
「あれは!!」
逢莉が何もないハズの所に出来た、見えない壁に気づき、表情を強張らせる。昇り始めた太陽に照らされ、辺り一面に張り巡らされた銀色に光る細い糸が姿を現す。
それはまるで、逃げる者を阻む檻。
そして前方から迫りくるバス。
逢莉たちは完全に袋小路に閉じ込められてしまっていた。
「……いるわ。この近くに!!」
神経を集中させた逢莉が、自分たちの状況を高みの見物をしている存在の気配に気づき探し当てる。
――ソノママ ツブサレテシマエ――
「っ!!」
すぐ側から感じた凄まじい殺気に、逢莉が咄嗟に振り向く。由もその殺気に気づいたが、彼は今、下手に動けなかった。
迫りくるバスを睨み据えた彼が、不敵に口角を歪める。
「敵さんはそっちって訳ね。けど、そう簡単に殺られてやらないわよっ!!」
背中越しに由から冷気がほとばしるのを感じた逢莉が、彼へ視線をやる。
全身から冷気がほとばしり、足元が凍てつくようだ。
「もう駄目だっ!! 突っ込んで来るーーー!!」
乗客たちの悲痛な絶叫が辺りに木霊し、バスはもう目と鼻の先まで迫って来ていた。
だが、その瞬間、右手を地面につけた由が詠唱し、氷を出現させた。
「永久とわに眠れ、氷焉柩!!」
凄まじい冷気と氷がバスを包み、バスは一瞬で凍結し、正に巨大な凍りの柩となる。
「た、助かっ……た?」
乗客たちは安堵し、その場に次々とへたり込んだ。
そんな中、唯一佇む逢莉と由の視線は、バスプールの真向かいにある雑居ビルの屋上に向けられていた。
そして由は、厳しい口調で怒鳴る。
「そこにいるのは解ってんのよ! 良い加減出て来なさいっ!」
「どんなに隠れていても、気配はすぐに分かるわよ。……馬場 圭子さん」
逢莉がその名を口にした瞬間、その場の空気が一変する。
「あんた達、あの『朔夜』の人間だねっ!!」
敵意を剥き出しにした怒声と共に、ビルの屋上から一人の女性が飛び降りてくる。
赤茶色の髪を一つに結い上げた、気の強そうな彼女。
その瞳は銀色に輝いていたが、彼女は紛れもなく馬場 京一郎の娘・馬場 圭子。
「紅月の能力者のくせに、同胞を捕らえるふざけた集団が……!!」
知に降り立った圭子が、憎悪に満ちた瞳で彼女たちを睨み付けた。
そして逢莉へ標的を定めた圭子が、右手の指先を何か操るように動かした瞬間、由が叫ぶ。
「後ろよ、逢莉ちゃん!!」
振り向いた彼女の眼前に、銀色の糸が風を切り勢い良く迫って来ていた。
「ちっ!!」
舌打ちした逢莉が、炎を出現させ糸を燃やすが、火に弱いはずの糸は燃えることなく、反対に火と同化し、そのまま彼女に迫る。
「えっ!?」
「逢莉ちゃん、伏せろ!!」
咄嗟に由が、逢莉を庇う位置につき、迫りくる糸を凍らせた。
由の機転で難を逃れた逢莉だが、想定外の事態に、驚きを隠せない。
「なんでっ!? 糸なら火で燃やせるはず」
「あはははっ!! あんた炎使いなんだ、だったら、あたしには勝てないよ」
嘲笑う圭子に、逢莉と由は怪訝げに眉を寄せる。
「あんた勘違いしてるよ。あたしは鋼鉄のワイヤー使い。あんたの炎じゃ燃やせないんだよっ!! くくっ……あーははははっ!!」
「ワイヤー使い!?」
「ちっ!! 本部の奴らミスったわね!!」
驚く二人を見下すように、圭子は狂ったように笑いたてた。
笑い叫んだ圭子が愕然とする彼女たちを、嘲笑う。
「あのクソ親父と同じ『朔夜』の人間だから、どんだけ強いかと思えば、全然大したことないねぇ!? あははははっ!!」
そして圭子が両手を振り上げた瞬間、風を切る音と共に、逢莉と由の頭上の看板や、電信柱が、鋼鉄のワイヤーに切り刻まれ落ちてくる。
「きゃあああっ!!」
再び、乗客たちが悲鳴を上げるが、逃げたくても圭子の作り出したワイヤーの檻が行く手を阻む。
「さぁ、どうするよ!? 『朔夜』の偽善者さんよぉ!! 民間人がまた死んじゃうよぉ~? あはははははっ!!」
「……ふざけんじゃ、ないわよ……」
あまりに冷酷な圭子のやり口に、逢莉の中に激しい感情が生まれる。
緋色の髪、そして瞳が一層、朱みを増し彼女の右手に紅蓮の炎が出現した。
「激しく燃え、狂い咲け!! 剛炎蓮華!!」
右手を落ちてくる瓦礫の雨にかざした瞬間、爆音と共に、瓦礫は跡形もなく爆発していく。
その拍子に、張り巡らされたワイヤーがパラパラと力なく地面に落ちた。おそらく爆発の勢いで、ビルや柱に繋げたワイヤーが外れたのだろう。
その隙に乗客たちは逃げ出し、現場には彼女たち三人が残された。
「……は、ははっ、驚いた。まさか爆発まで起こせるなんてね」
さすがに表情を引き攣らせた圭子が、渇いた笑みを浮かべる。
「調子に乗るのもいい加減にしなさいよ」
低い声で圭子を睨み付けた逢莉の纏う雰囲気が一変し、圭子は思わず戸惑う。
「は……、た、たかが一回防いだからって、そっちこそいい気になるなぁぁっ!!」
だが、すぐに攻撃的になり大量のワイヤーを繰り出して来る。しかし逢莉は迫りくるワイヤーに怯む事なく、地を蹴り走り出す。
「逢莉ちゃん!!」
「由さんは手を出さないで!! ……唸れ、炎熱鞭!!」
由の制する声を振り切り、逢莉は詠唱すると同時に炎熱鞭をその手に掴む。
「切り刻まれちまいなぁぁ!!」
激しい音と共に、幾重にも繰り出されるワイヤーが地面に突き刺さり、地割れを起こして逢莉の行く手を邪魔する。しかし、高く跳躍した逢莉が次の瞬間、炎熱鞭をしならせて圭子を捕らえた。
運転席に座る運転手の姿は、既に生きてる姿ではなかった。
首から上を切断され、フロントガラスや周辺は切断された首から溢れた鮮血で、真っ赤に染まっている。
「っ、朝っぱらからグロテスクなもの見せてくれるじゃないっ!! 逃げるわよっ!! 逢莉ちゃん!!」
このままではバスに轢かれてしまう。
逢莉の手を取り、その場から離れようとした瞬間、始発に乗ろうとやってきた人々がその場の異変に気付き騒然となる。
「うわあぁぁぁぁっ!! 逃げろーーっ!! バスがっ!!」
悲鳴を上げ逃げ出した乗客たちだったが、次の瞬間、先頭を走っていた数人の乗客が、一瞬にして細切れになった。
紅い鮮血が飛び散り、千切れた手足がその場に転がる。
「ひっ、きゃあああぁぁっ!!」
異様な光景に、後ろにいた女性客は悲鳴を上げ、意識を失い倒れてしまう。他の者たちも、怯え、身体が動かなくなってしまった。
「あれは!!」
逢莉が何もないハズの所に出来た、見えない壁に気づき、表情を強張らせる。昇り始めた太陽に照らされ、辺り一面に張り巡らされた銀色に光る細い糸が姿を現す。
それはまるで、逃げる者を阻む檻。
そして前方から迫りくるバス。
逢莉たちは完全に袋小路に閉じ込められてしまっていた。
「……いるわ。この近くに!!」
神経を集中させた逢莉が、自分たちの状況を高みの見物をしている存在の気配に気づき探し当てる。
――ソノママ ツブサレテシマエ――
「っ!!」
すぐ側から感じた凄まじい殺気に、逢莉が咄嗟に振り向く。由もその殺気に気づいたが、彼は今、下手に動けなかった。
迫りくるバスを睨み据えた彼が、不敵に口角を歪める。
「敵さんはそっちって訳ね。けど、そう簡単に殺られてやらないわよっ!!」
背中越しに由から冷気がほとばしるのを感じた逢莉が、彼へ視線をやる。
全身から冷気がほとばしり、足元が凍てつくようだ。
「もう駄目だっ!! 突っ込んで来るーーー!!」
乗客たちの悲痛な絶叫が辺りに木霊し、バスはもう目と鼻の先まで迫って来ていた。
だが、その瞬間、右手を地面につけた由が詠唱し、氷を出現させた。
「永久とわに眠れ、氷焉柩!!」
凄まじい冷気と氷がバスを包み、バスは一瞬で凍結し、正に巨大な凍りの柩となる。
「た、助かっ……た?」
乗客たちは安堵し、その場に次々とへたり込んだ。
そんな中、唯一佇む逢莉と由の視線は、バスプールの真向かいにある雑居ビルの屋上に向けられていた。
そして由は、厳しい口調で怒鳴る。
「そこにいるのは解ってんのよ! 良い加減出て来なさいっ!」
「どんなに隠れていても、気配はすぐに分かるわよ。……馬場 圭子さん」
逢莉がその名を口にした瞬間、その場の空気が一変する。
「あんた達、あの『朔夜』の人間だねっ!!」
敵意を剥き出しにした怒声と共に、ビルの屋上から一人の女性が飛び降りてくる。
赤茶色の髪を一つに結い上げた、気の強そうな彼女。
その瞳は銀色に輝いていたが、彼女は紛れもなく馬場 京一郎の娘・馬場 圭子。
「紅月の能力者のくせに、同胞を捕らえるふざけた集団が……!!」
知に降り立った圭子が、憎悪に満ちた瞳で彼女たちを睨み付けた。
そして逢莉へ標的を定めた圭子が、右手の指先を何か操るように動かした瞬間、由が叫ぶ。
「後ろよ、逢莉ちゃん!!」
振り向いた彼女の眼前に、銀色の糸が風を切り勢い良く迫って来ていた。
「ちっ!!」
舌打ちした逢莉が、炎を出現させ糸を燃やすが、火に弱いはずの糸は燃えることなく、反対に火と同化し、そのまま彼女に迫る。
「えっ!?」
「逢莉ちゃん、伏せろ!!」
咄嗟に由が、逢莉を庇う位置につき、迫りくる糸を凍らせた。
由の機転で難を逃れた逢莉だが、想定外の事態に、驚きを隠せない。
「なんでっ!? 糸なら火で燃やせるはず」
「あはははっ!! あんた炎使いなんだ、だったら、あたしには勝てないよ」
嘲笑う圭子に、逢莉と由は怪訝げに眉を寄せる。
「あんた勘違いしてるよ。あたしは鋼鉄のワイヤー使い。あんたの炎じゃ燃やせないんだよっ!! くくっ……あーははははっ!!」
「ワイヤー使い!?」
「ちっ!! 本部の奴らミスったわね!!」
驚く二人を見下すように、圭子は狂ったように笑いたてた。
笑い叫んだ圭子が愕然とする彼女たちを、嘲笑う。
「あのクソ親父と同じ『朔夜』の人間だから、どんだけ強いかと思えば、全然大したことないねぇ!? あははははっ!!」
そして圭子が両手を振り上げた瞬間、風を切る音と共に、逢莉と由の頭上の看板や、電信柱が、鋼鉄のワイヤーに切り刻まれ落ちてくる。
「きゃあああっ!!」
再び、乗客たちが悲鳴を上げるが、逃げたくても圭子の作り出したワイヤーの檻が行く手を阻む。
「さぁ、どうするよ!? 『朔夜』の偽善者さんよぉ!! 民間人がまた死んじゃうよぉ~? あはははははっ!!」
「……ふざけんじゃ、ないわよ……」
あまりに冷酷な圭子のやり口に、逢莉の中に激しい感情が生まれる。
緋色の髪、そして瞳が一層、朱みを増し彼女の右手に紅蓮の炎が出現した。
「激しく燃え、狂い咲け!! 剛炎蓮華!!」
右手を落ちてくる瓦礫の雨にかざした瞬間、爆音と共に、瓦礫は跡形もなく爆発していく。
その拍子に、張り巡らされたワイヤーがパラパラと力なく地面に落ちた。おそらく爆発の勢いで、ビルや柱に繋げたワイヤーが外れたのだろう。
その隙に乗客たちは逃げ出し、現場には彼女たち三人が残された。
「……は、ははっ、驚いた。まさか爆発まで起こせるなんてね」
さすがに表情を引き攣らせた圭子が、渇いた笑みを浮かべる。
「調子に乗るのもいい加減にしなさいよ」
低い声で圭子を睨み付けた逢莉の纏う雰囲気が一変し、圭子は思わず戸惑う。
「は……、た、たかが一回防いだからって、そっちこそいい気になるなぁぁっ!!」
だが、すぐに攻撃的になり大量のワイヤーを繰り出して来る。しかし逢莉は迫りくるワイヤーに怯む事なく、地を蹴り走り出す。
「逢莉ちゃん!!」
「由さんは手を出さないで!! ……唸れ、炎熱鞭!!」
由の制する声を振り切り、逢莉は詠唱すると同時に炎熱鞭をその手に掴む。
「切り刻まれちまいなぁぁ!!」
激しい音と共に、幾重にも繰り出されるワイヤーが地面に突き刺さり、地割れを起こして逢莉の行く手を邪魔する。しかし、高く跳躍した逢莉が次の瞬間、炎熱鞭をしならせて圭子を捕らえた。
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