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第2話 ◎
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「でも、婚前交渉しないっていうのはおかしな事なんでしょうか」
切実なルドヴィカの悩みに、アンナは首を振る。
「おかしくはないと思うけど、珍しいかな。あたしだったら欲求不満になりそう」
騎士団の治療を担当する医療隊員であるアンナは、とても性に奔放な性格だった。彼女の主観も入っているとは思うが、どうやらルドヴィカ達は珍しい部類に入るらしい。
「でも、愛されてるのは事実だからルドヴィカが良かったらそれで良いんじゃないの?」
「もちろん不満ではないんです……恋愛小説の読みすぎだとは思うのですが、団長を見てると……その、したいなって思ってしまうんです」
「ルドヴィカってば可愛過ぎる! こんな可愛い彼女に手を出さないって団長って凄くお堅いのね」
アンナは焼かれた肉にむしゃぶりつきながら言う。
「でも、好きな人に愛されたいって思うのは自然な事よ? 愛されてるって感じるものが人によって違うだけで、繋がる事で愛し合っているのを確認する人が多いってだけ」
だからルドヴィカが感じる事はおかしくないわ、とアンナは言ってくれた。
その後ルドヴィカは、午後の訓練を終え、城の入り口でジェイドが迎えに来てくれるのを待っていた。その時だった。
「あっ……んっ」
どこからか甘い声が聞こえてくる。声の方は茂みから聞こえてくるようだった。
見てはいけないと頭では分かっていたが、体が反応してしまう。足が声の方へと進んでいく。
「あぁっ……もっとぉ」
茂みに隠れるようにして男女が交わっていた。
(えっ、こんな場所で!?)
驚きながらも目が離せなかった。お互いを激しく求め合う2人の行為は、情熱的で羨ましく思える。
男のそそりたつものが女の秘壷に何度も打ち付ける。打ち付けられる度に女が嬌声をあげ、腰を反らす。水音がいやらしく響く。
「あぁっ、駄目ぇ」
「あっ、うっ……!」
男が激しく動いた後、女の方に倒れ込んだ。息をきらす2人はお互いの舌を絡ませる。
(小説に出てくるような場面だ)
覗き見するのは良くないと自分に言い聞かせ、ルドヴィカは足音を立てずにその場を去った。
(あれが……)
初めて見た男女の営み。恋愛小説だけでは感じられない、お互いを強く求める想いがそこにはあった。
ルドヴィカの下腹部が熱を帯びる。
(何だろう、この気持ち)
じわりと濡れる感覚。違和感を覚えていると、ジェイドがやって来た。
「遅くなってすまない」
「いえ、いつもありがとうございます」
行こうか、とジェイドはルドヴィカの手を握る。
大きな手の平に小さなルドヴィカの手は、すっぽりと包み込まれる。
あの光景を見てしまってから、ジェイドと繋がりたいと強く感じる自分がいた。
(今日、泊まっていきませんかって言おう)
いつもの帰り道をジェイドと2人で歩いていく。そう考えているうちに寮に辿り着いた。
「じゃあおやすみ、ルディ」
ジェイドは額に口づけを落とすと、ルドヴィカの頭を撫でた。
「あ、あの……」
泊まっていきませんか、と口に出そうとするが上手く出てこない。
「どうした?」
心配そうに覗き込む翡翠の瞳。
「いえ、おやすみなさい」
去っていくジェイドの背中をルドヴィカはずっと見つめていた。
*
今日はジェイドとデートする日だ。寮まで迎えに来てくれたジェイドに引かれ、街を歩く。
移動式のサーカスが滞在しているらしく、いつもより活気に溢れている。
「ルディ、ほら危ない」
人でごった返す中、ジェイドが手を繋いでくれる。ルドヴィカが握り返すと、彼も同じくらい握り返してくれた。
人を避けながら進んでいく。不意に肩がぶつかってしまう。謝ろうと相手の顔を見ると、見覚えがあった。
(あの時、茂みでしてた人だ)
激しく愛し合う2人の光景が思い浮かぶ。また下腹部が熱くなる。何故、ジェイドはルドヴィカを抱かないのか。勇気を出して隣に立つジェイドに聞いてみる。
「団長」
「2人の時は名前で呼ぶんだろ?」
悪戯っぽく笑うジェイドの名を呼ぶ。
「ジェイドはどうして私としないんですか?」
「しないって、何を?」
「夜の営みの事です」
「誰かがルディに吹き込んだのか?」
ルドヴィカは首を振る。恋愛小説や他人の話を聞いていて思ったんです、と答えるとジェイドは真面目な顔でルドヴィカを見つめた。
「俺が何でルディを抱かないのかは、君の事を大事にしたいからだ」
真っ直ぐルドヴィカを見る瞳には、嘘はない。だが、少し寂しい気持ちになる。
急に甲高い悲鳴が聞こえた。
「誰か! 強盗よ、捕まえて!」
人混みを掻き分けるようにして1人の男が走る。少し離れた所で女がその男を指差して訴えていた。
「ルディ、ここで待ってろ」
ジェイドはルドヴィカの手を離すと、強盗に向かって走っていく。全速力の彼は魔物にさえ追い付くほどだ。ましてや普通の人間が叶うはずもない。
あっさりと強盗は捕まり、ジェイドに押さえ込まれた。太い彼の腕にルドヴィカはどきりとする。
やって来た騎士団に男を引き渡すと、ジェイドはルドヴィカの元へ戻ってきた。
「1人にしてすまないな」
「いえ」
「顔が赤いが熱でもあるのか?」
慌てて頬に手を当てる。指先よりも温かくなっていた。
(はしたないことばかり考えてしまうわ)
あの腕で抱かれたいと思ってしまった事に恥ずかしさを感じたルドヴィカは、心配するジェイドに大丈夫と告げる。
「とてもかっこ良かったです。さあ、美味しい物を食べに行きましょう」
不思議そうに見るジェイドの手を引き、ルドヴィカは自分の欲望を掻き消すように明るく振る舞った。
*
「今日も悩んでるみたいね、ルドヴィカちゃん」
昼食をもそもそと食べていると、にこやかな笑みを浮かべたアンナがやって来た。
「何か悩み事かしら?」
「私、はしたない女です。破廉恥なんです。ど変態なんです……」
「いつになく荒れているわね」
アンナが隣に座る。どういうことか説明して頂戴、と言われたルドヴィカは今までの事を話す。
野外で交じり合う2人を見てしまってからというもの、ジェイドを見るたび抱かれたい思いが強くなっていくこと。大事にしたいからしないと言われたのに、それでも抱かれたいと思う自分がはしたなく感じてしまって嫌になること。
ルドヴィカの告白を黙って聞いていたアンナは、ワインでよく煮込まれた肉を頬張りながら言った。
「そう思うのは好きだからこそじゃない? 好きな相手だからこそ、本能で求めるのよ。本能だから、求めずにはいられない」
「でも、団長は私を大事にしたいから抱かないと言っていたのに、私が求めてしまうのは悪いことではないんですか?」
アンナは首を振る。長い亜麻色の髪が揺れた。
「自分を求められるって事は、必要としてくれているって事でしょ。求める事も愛情の1つなんだから団長も迷惑とは思わないんじゃないかしら」
そういうものなんですか、と聞くルドヴィカにアンナは頷いた。
「付き合ってるんだから団長の意志も、ルドヴィカの意志も尊重し合うのが一番良いの。愛情と性欲は必ずしも一緒じゃないけど、繋がっているものよ」
まあ、あたしは愛情がなくても夜を共に出来る人間だけど、とアンナは付け加える。
「でも、直接言いにくいんだったらさりげなくアピールしてみるのも方法かもね」
「さりげないアピール……」
切実なルドヴィカの悩みに、アンナは首を振る。
「おかしくはないと思うけど、珍しいかな。あたしだったら欲求不満になりそう」
騎士団の治療を担当する医療隊員であるアンナは、とても性に奔放な性格だった。彼女の主観も入っているとは思うが、どうやらルドヴィカ達は珍しい部類に入るらしい。
「でも、愛されてるのは事実だからルドヴィカが良かったらそれで良いんじゃないの?」
「もちろん不満ではないんです……恋愛小説の読みすぎだとは思うのですが、団長を見てると……その、したいなって思ってしまうんです」
「ルドヴィカってば可愛過ぎる! こんな可愛い彼女に手を出さないって団長って凄くお堅いのね」
アンナは焼かれた肉にむしゃぶりつきながら言う。
「でも、好きな人に愛されたいって思うのは自然な事よ? 愛されてるって感じるものが人によって違うだけで、繋がる事で愛し合っているのを確認する人が多いってだけ」
だからルドヴィカが感じる事はおかしくないわ、とアンナは言ってくれた。
その後ルドヴィカは、午後の訓練を終え、城の入り口でジェイドが迎えに来てくれるのを待っていた。その時だった。
「あっ……んっ」
どこからか甘い声が聞こえてくる。声の方は茂みから聞こえてくるようだった。
見てはいけないと頭では分かっていたが、体が反応してしまう。足が声の方へと進んでいく。
「あぁっ……もっとぉ」
茂みに隠れるようにして男女が交わっていた。
(えっ、こんな場所で!?)
驚きながらも目が離せなかった。お互いを激しく求め合う2人の行為は、情熱的で羨ましく思える。
男のそそりたつものが女の秘壷に何度も打ち付ける。打ち付けられる度に女が嬌声をあげ、腰を反らす。水音がいやらしく響く。
「あぁっ、駄目ぇ」
「あっ、うっ……!」
男が激しく動いた後、女の方に倒れ込んだ。息をきらす2人はお互いの舌を絡ませる。
(小説に出てくるような場面だ)
覗き見するのは良くないと自分に言い聞かせ、ルドヴィカは足音を立てずにその場を去った。
(あれが……)
初めて見た男女の営み。恋愛小説だけでは感じられない、お互いを強く求める想いがそこにはあった。
ルドヴィカの下腹部が熱を帯びる。
(何だろう、この気持ち)
じわりと濡れる感覚。違和感を覚えていると、ジェイドがやって来た。
「遅くなってすまない」
「いえ、いつもありがとうございます」
行こうか、とジェイドはルドヴィカの手を握る。
大きな手の平に小さなルドヴィカの手は、すっぽりと包み込まれる。
あの光景を見てしまってから、ジェイドと繋がりたいと強く感じる自分がいた。
(今日、泊まっていきませんかって言おう)
いつもの帰り道をジェイドと2人で歩いていく。そう考えているうちに寮に辿り着いた。
「じゃあおやすみ、ルディ」
ジェイドは額に口づけを落とすと、ルドヴィカの頭を撫でた。
「あ、あの……」
泊まっていきませんか、と口に出そうとするが上手く出てこない。
「どうした?」
心配そうに覗き込む翡翠の瞳。
「いえ、おやすみなさい」
去っていくジェイドの背中をルドヴィカはずっと見つめていた。
*
今日はジェイドとデートする日だ。寮まで迎えに来てくれたジェイドに引かれ、街を歩く。
移動式のサーカスが滞在しているらしく、いつもより活気に溢れている。
「ルディ、ほら危ない」
人でごった返す中、ジェイドが手を繋いでくれる。ルドヴィカが握り返すと、彼も同じくらい握り返してくれた。
人を避けながら進んでいく。不意に肩がぶつかってしまう。謝ろうと相手の顔を見ると、見覚えがあった。
(あの時、茂みでしてた人だ)
激しく愛し合う2人の光景が思い浮かぶ。また下腹部が熱くなる。何故、ジェイドはルドヴィカを抱かないのか。勇気を出して隣に立つジェイドに聞いてみる。
「団長」
「2人の時は名前で呼ぶんだろ?」
悪戯っぽく笑うジェイドの名を呼ぶ。
「ジェイドはどうして私としないんですか?」
「しないって、何を?」
「夜の営みの事です」
「誰かがルディに吹き込んだのか?」
ルドヴィカは首を振る。恋愛小説や他人の話を聞いていて思ったんです、と答えるとジェイドは真面目な顔でルドヴィカを見つめた。
「俺が何でルディを抱かないのかは、君の事を大事にしたいからだ」
真っ直ぐルドヴィカを見る瞳には、嘘はない。だが、少し寂しい気持ちになる。
急に甲高い悲鳴が聞こえた。
「誰か! 強盗よ、捕まえて!」
人混みを掻き分けるようにして1人の男が走る。少し離れた所で女がその男を指差して訴えていた。
「ルディ、ここで待ってろ」
ジェイドはルドヴィカの手を離すと、強盗に向かって走っていく。全速力の彼は魔物にさえ追い付くほどだ。ましてや普通の人間が叶うはずもない。
あっさりと強盗は捕まり、ジェイドに押さえ込まれた。太い彼の腕にルドヴィカはどきりとする。
やって来た騎士団に男を引き渡すと、ジェイドはルドヴィカの元へ戻ってきた。
「1人にしてすまないな」
「いえ」
「顔が赤いが熱でもあるのか?」
慌てて頬に手を当てる。指先よりも温かくなっていた。
(はしたないことばかり考えてしまうわ)
あの腕で抱かれたいと思ってしまった事に恥ずかしさを感じたルドヴィカは、心配するジェイドに大丈夫と告げる。
「とてもかっこ良かったです。さあ、美味しい物を食べに行きましょう」
不思議そうに見るジェイドの手を引き、ルドヴィカは自分の欲望を掻き消すように明るく振る舞った。
*
「今日も悩んでるみたいね、ルドヴィカちゃん」
昼食をもそもそと食べていると、にこやかな笑みを浮かべたアンナがやって来た。
「何か悩み事かしら?」
「私、はしたない女です。破廉恥なんです。ど変態なんです……」
「いつになく荒れているわね」
アンナが隣に座る。どういうことか説明して頂戴、と言われたルドヴィカは今までの事を話す。
野外で交じり合う2人を見てしまってからというもの、ジェイドを見るたび抱かれたい思いが強くなっていくこと。大事にしたいからしないと言われたのに、それでも抱かれたいと思う自分がはしたなく感じてしまって嫌になること。
ルドヴィカの告白を黙って聞いていたアンナは、ワインでよく煮込まれた肉を頬張りながら言った。
「そう思うのは好きだからこそじゃない? 好きな相手だからこそ、本能で求めるのよ。本能だから、求めずにはいられない」
「でも、団長は私を大事にしたいから抱かないと言っていたのに、私が求めてしまうのは悪いことではないんですか?」
アンナは首を振る。長い亜麻色の髪が揺れた。
「自分を求められるって事は、必要としてくれているって事でしょ。求める事も愛情の1つなんだから団長も迷惑とは思わないんじゃないかしら」
そういうものなんですか、と聞くルドヴィカにアンナは頷いた。
「付き合ってるんだから団長の意志も、ルドヴィカの意志も尊重し合うのが一番良いの。愛情と性欲は必ずしも一緒じゃないけど、繋がっているものよ」
まあ、あたしは愛情がなくても夜を共に出来る人間だけど、とアンナは付け加える。
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