夏の日陰ぐらし

幸先よし吉

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時間は早い、日曜日にe子からの連絡が来た

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よし~じゃあ会社やめようか!
と思って辞めてから早一年が経った。


自由の身にはなったものの
何をすればいいか分からず
わりとボーっと過ごしてる。


今は夏だから、仕方がないという側面がある。
いや正面から仕方ない!
夏だから!
暑いし、汗をかくし、虫も多いし、
日焼けもするし、嫌いだ。
一年中、秋ならいいのにと思う。


エアコンの効いた部屋の
ソファに腰掛け、窓の外を見る。
今日は曇りだけど、外はめちゃくちゃに
蒸し暑くて、過ごし辛いのは間違いない。
外出は出来るだけ控えよう。



部屋の片隅の、去年まではカレンダーを
掛けてあった場所に目をやる。


今日は、、日曜日だよね?
今の僕には曜日はあまり関係がない。
どんどん社会から遠ざかっているように思うけど
まぁそれも今だけ、今だけだから
今はこの休暇を楽しもうと思ってる。


もっと豊かになりたいし、幸せになりたいし
頑張りたい気持ちもあるけど
中々行動に移せない自分が恥ずかしい。
きっと会社で過ごした数年のうちに
心が疲れてしまったのだろう。


そんなことを考えながら
ぼやっとしていると
机に置いたスマートフォンが鳴りだし、
画面には「e子」と表示される。
通話ボタンを押した。



「はーい」
嬉しい気持ちを抑え、軽い感じで返事をする。

「おー久しぶり、イヌロボ元気?」

e子は僕のことをイヌロボと呼ぶ。
会社の事で悩みを相談していた時に
「じゃあ君は、会社の犬みたいで、ロボットみたいだね」と言われ、
「そうイヌロボとでも呼んでよ」
と答えてしまって以来ずっとそうなのだ。



「うん、まあそれなりに」


「イイネ、今度イヌロボの家の近くまで用事で行くから、ご飯でも一緒にどうかな?」


「いいよ、いつごろの話?」


「えーっと、来週の木曜日かな?まだ働いてないよね?平日でも大丈夫だよね?」


「もちろんながら働いてないよ、分かった、じゃあ木曜日!」


その後いくらかやり取りを重ね、予定を詰めた。
正直、とても楽しみだ。
お店のチョイスは僕に託された。


e子はとても気さくで、まさに「良い娘」という感じだと思う。
ショートカットのボブにした髪型がすごく似合っていて、クールさと可愛らしさのハイブリッドを感じさせるのだ。


いつもスニーカーを履いているのは、ヒールを履くと僕よりも身長が高くなってしまうから気を使っているのだと言っていた。


ああもっと身長があればな、というのは
昔はコンプレックスに感じていたけど
最近は対して気にならなくなった。
最近は色々なことが、どうでも良くなってしまったのかも知れない。



今度の木曜日は、僕がご飯をご馳走してあげなきゃ。
ソファに腰掛けなおして、スマートフォンに話しかける。


「スピカ、来週のラングド社の株価の予想は?」


スマートフォンが流暢に喋り出す。


「来週のラングド社の株価は、2万2,000円を目指して上昇するでしょう。

現在、2万1,600円前後に出来高が集まっています。
7月中旬からの上昇トレンドが継続する可能性が高でしょう。

可能性として、出来高の少ない2万1,450円程度まで下落する可能性があります。

・・・この予報は、あくまでこれ以前の傾向に基づく予想であり、結果を保証するものではありません。

取引はご自身の責任でお願い致します。
それではよいトレードライフを!」

「スピカ、ありがとう」

「どういたしまして」

音声が終了したのを確認して、
証券口座のアプリを起動し
ラングド社株の買い注文を入れた。


株価予想アプリのスピカは、
大学の友人である木目が開発した。

名前は「モクメ」と読み、それはもう、めちゃくちゃに優秀な人間だった。
今ではもう連絡も取り合っていないし、
風の噂では外資系のコンサル会社で働いているとか、ハッカーになったとか、ビットコイン投資で大当てして毎日がバカンスだとか聞いたことがある。
モクメならどれもあり得えそうだけど、彼はSNSをやらないらしく、あまり定かな動向は分からない。


なぜモクメが、僕にこのアプリをくれたかといえば、まぁ実験というか、気まぐれだったんだろう。
当時のモクメは色々なものを開発しては、
周りに配ったり、お金になりそうなものは
インターネットを介して販売したりしていたようだ。
スピカは完全な試作品で、AIスピーカーもどきだと言っていた。だから音声でしか使えない。
ラングド社の株価データだけを自動で取得して
傾向から今後の動きを予測するものらしい。


僕の大学生活といえば、大した野望も創造性も無く
ただただありきたりなものだったけど。


このアプリの存在はずっと忘れていたし
投資家として生きるだなんて全く考えも
していなかったけど、
会社を辞めてから、まあ、お小遣い稼ぎになるならと軽い気持ちでスピカに頼るようになったのだ。

今のところ、6割くらいの確率で当たっていて
生活費の足しにする事が出来ている。
結局ギャンブルの域を出ていないのだけど。


さて、これでスピカの予想通りになれば
購入株数から考えて4万円の利益かあ、
取らぬ狸の皮算用をして、スマートフォンを伏せた
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