無能な神の寵児

鈴丸ネコ助

文字の大きさ
上 下
24 / 88
異世界放浪篇

第19話 砕け散った夢

しおりを挟む
店主から錬金術師の居場所を聞いたシノアとフィリアはさっそく、錬金術師がやっているという薬屋にやってきていた。
 
「ここが錬金術師がいるという…」
「うーん、どっからどう見ても普通の薬屋さんだよね…」
 
期待に胸膨らませるシノアとは対照的にフィリアは冷めた様子だ。あのまま宿屋で昼を食べようと思っていたため、少しばかり不機嫌なのだ。
 
「し、失礼しまーす」
 
緊張した面持ちで扉を開けるシノア。“ギイィィ…”とホラー染みた音を出しながら開く。
 
「あ、あのーここに錬金術に精通した方がいると聞いてきたのですがー…」
 
少し薄暗い室内にシノアの声が響く。そこら中に薬草やキノコ、怪しげな薬品が置かれており常人なら足を踏み入れることを躊躇しそうだ。
だが、いたいけな少年に部屋の汚さなど関係ない。
 
「すみませーん」
 
再びシノアの声が響く。するとカウンターらしき場所から手が出てくる。
 
「ほいほーい、いつでもどこでもお薬お届け、ライデン・ゾーシモスはここですよー」
 
手と共になんとも腑抜けた声がシノアとフィリアの耳に届く。
 
「おおおお!!は、はじめましてライデンさん!シノアです!!」
 
カウンターから出ている手を握りしめ自己紹介をするシノア。フィリアも、しょうがないなぁ、といった様子でシノアの後を追う。
 
「おお?ずいぶん元気なお客さんっすねぇ…」
 
カウンターから姿を現したのは立派な猫耳を持った猫人族ケットシーだった。
 
「ね、ねこ…」
「ありゃ、猫人族を見るのは初めてっすか?語尾がニャンじゃなくてがっかりしたっすか?」
 
面食らったシノアに悪戯染みた笑みを浮かべるのはこの店の店主であり、錬金術師のライデン・ゾーシモスだ。薄茶色のふさふさした毛を生やした耳は時折、ぴこぴこと動き場を和ませる。
 
「は、はい、世間知らずなもので…」
「いやいや気にしないでいいっすよ。よくいらっしゃいますからねぇ~」
 
猫耳を手でぽりぽりとかきながら笑うライデン。そこでシノアが“ドンッ!”と効果音が聞こえてきそうなほど勢い立った様子でライデンに疑問をぶつける。
 
「あ、あの!ライデンさんは錬金術師さんなんですか?!」
「え?あ、そっすよ。ていうか知らないのになんでここに来たんすか?」
 
その返答に既にキラキラしている目をさらに輝かせるシノア。もうすぐ目がハートマークになりそうだ。
 
「おおお!そ、それじゃあ、実際に錬金術を使ってるところを見せてほしいんですが!」
「ほ、ほぉ、なんとも変な人っすね。ていうかよく見たらあんた男っすか…」
「え?はい、男です。別に隠してはいませんでしたが…」
「いやいや、その髪の長さにその顔は反則っすね。人生交換してほしいっす」
 
大きなため息をつきながらカウンターにもたれかかるライデン。そう、店主であるライデンは女性だ。顔立ちは若干幼いがそれは頭に生えた猫耳が原因でもある、のかもしれない。
 
「あはは…シノア、たしかに髪伸びちゃってるもんね」
「お、ずいぶんきれいな人っすね~こんなとこ女性なんて来ないんでうれしいっすよ。あと顔とその二つの山をよこしてほしいっす」
「…お、面白い人だねシノア…」
 
殺気すら感じさせる目でフィリアを見つめるライデン。その目が“巨乳…敵っすね!”と雄弁に語っていた。
 
余談だが、彼女は今年で29だ。見た目的には10代後半でも通りそうだが、亜人族は成長が遅いことが多く、彼女のように年齢と見た目が一致しないことも珍しくない。
 
さらに余談だが、彼女の胸のサイズは男の娘もびっくりのAA――
 
「ふんす!」
「あ、あのライデンさん、どうして誰もいないところに本を投げつけたりするんですか?」
「…いや、なんか不穏な気配を感じたっす。さてはライバル錬金術師どもの密偵っすね」
「そ、そんなのを差し向けてくる人がいるんですか…大変なんですね…」
 
…話を戻そう。
シノアがライデンの攻撃―ではなくて、奇行に驚いていると、ライデンがここに来た目的を尋ねる。
 
「ところで、こんなとこに何の御用っすか。見たところ薬が必要にもみえないし…まさか本当に錬金術を見たいっていうもの好きっすか?」
 
その言葉で我に帰ったシノアはここに来た目的を告げる。
 
「そのまさかです!僕…錬金術にすごくあこがれてて…一度目の前で見てみたいんです!」
「ま、まじっすか。変な人っすね。まぁ…減るもんじゃないですし、いいっすけど…じゃ、ちょっとお待ちくださいねーっと」
 
そういうと店の奥へ消えていった。するとフィリアが唐突に一人での行動を提案する。
 
「シノア、ここ一人でも大丈夫だよね?」
「え、はい、大丈夫ですけど…どうしてですか?」
「うん、おなかすいたからお昼食べれるとこ探してこようと思って。なにか希望ある?」
「いえ!とくにはないです!フィリアさんにおまかせします」
「了解。それじゃ、楽しんでね」
 
手を振りながら苦笑いをして店から出ていくフィリアを見届けたシノアは、初の錬金術をいまかいまかと待ち望んでいた。
 
しばらくするとライデンが薬研とこね鉢、そして素材を持って現れる。それらを床に置くと汗をぬぐう。
 
「よいしょっと。とりあえず、依頼が入ってた解熱剤を作ろうと思ってるんすけど、なにか希望あるっすか?」
「………」
「あの、大丈夫っすか?」
「え?あ、はい!すみません。お願いします」
「ほいほい、それじゃ始めるっすよ」
 
薬研に材料を入れ、両足で抑えるとごりごりと削り始める。30回ほど前後に動かし、削った材料をこね鉢に移す。今度はそれらを丁寧にさらに細かい粉状にする。
 
「よし、できたっす」
「え?終わりですか?」
「そうっすよ。あとはこれを包んで届けるだけっす」
「おう、のう…」
 
今まで自分が考えていた錬金術とあまりにもかけ離れていたため、絶望の表情となるシノア。
 
「あの、大丈夫っすか?人生オワタ、みたいな顔してるっすけど」
「い、いえ…思ってた錬金術と違ったので…」
「思ってた?」
「はい…こう、錬成陣を描いて手をのせて、そしたら錬成陣が光って、こうぴかーっと…」
 
シノアのぼんやりとした説明に納得するライデン。
 
「あーあれっすね。錬成士と錬金術師を間違えてるんすね」
「?なにか違うんですか?」
「違うっすよーむしろ違いしかないっすよ」
 
そういうとライデンはシノアに錬成士と錬金術師の違いを説き始めた。
 
「いいっすか?まず、私は錬金術師っす。これは別名薬屋っても呼ばれてて、まぁ薬草とかで病気に効く薬を作ったり、毒を作ったりする職業っす」
 
うんうん、とうなずくシノア。
 
「で、錬成士ってのは土属性に適性のある魔術師のことっす。土属性に適性がありながら攻撃に用いず、工事とか建設とかに役立てようっていう考え方してる人たちのことっすね」
 
そういうとライデンは懐から正方形の紙を取り出し、床に置いた。そのうえに本を何冊か置くと、目を閉じ集中し始める。よく見ると紙には錬成陣が描かれており、シノアの目がかすかに輝く。
 
「“物質創造、万物神授、創造を司る神よ、我に変換の力を、物質互換エクスチェンジ・オブジェクト
 
ライデンの詠唱に応えるように錬成陣が輝き出し、重ねておかれた本が分解される。
分解された本は螺旋を描きながら錬成陣の上を飛び回るとだんだんと失速し始め、元の場所に戻るころには木でできた彫像になっていた。
 
「おおおぉぉぉ!!すごい!これですこれ!錬金術!」
 
思わず、興奮の声をあげるシノア。対するライデンは冷静に間違えを指摘する。
 
「いや、だからこれは錬成だって…錬金術とは違うっすよ?」
 
その言葉に再びしょぼん、とするシノア。そんなシノアが哀れになったのかライデンは本棚から分厚い本を取り出すと―
 
「これ、錬金術の基本と始まり、それから錬成との違いが書かれてるっす。興味あるなら読むっすか?」
 
シノアに差し出した。その本は題名に堂々と“三日で覚える錬金術入門!これであなたもホーエンハイム!”と書かれており、少し…いやかなり怪しさ満載だった。
ちなみにホーエンハイムとは最初に錬金術を発見したとされる偉人だ。
 
「い、いいんですか?」
「正直、売れないしそのうち素材にしようと思ってたっすから」
「ありがとうございます!もっと勉強します…間違えてすみませんでした…」
「いやいや、気にすることないっすよ」
 
けらけらと笑うライデン。猫耳がぴこぴこと揺れ非常に愛くるしい。
そんなとき、“きゅるきゅるきゅる”という可愛げな音が響く。
 
「ん?なんすか?ネズミでもわいたっすかね」
 
あたりを見渡すライデンだったが辺りにネズミの気配はない。
するとシノアが少し頬を染めながらぼそぼそと告げる。
 
「す、すみません…その、僕のおなかの音です…お恥ずかしい…」
 
ライデンは戦慄した。目の前の男は見た目だけじゃなく身体の構造上も乙女なのか、と。
両膝を地面に付き、両手で頭を押さえると―
 
「ふ、ふびょうどうすぎる…なんて世の中っすか…自分の出生を恨むっす…」
 
彼女が現実に戻るまでしばらくの時間を要したことは言うまでもないだろう。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

Go to the Frontier(new)

鼓太朗
ファンタジー
「Go to the Frontier」改訂版 運命の渦に導かれて、さぁ行こう。 神秘の世界へ♪ 第一章~ アラベスク王国編 第三章~ ラプラドル島編

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...