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柳と花
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「誰か認めて。」
私は昔からそうだった。
別に親が虐待とかしていた訳ではない。
ただ、うちの親は褒めるよりもより上をって感じで、作品で賞を取っても
「凄いけど、ここ、もうちょっとこうした方がいいんじゃない?」
って感じでより上に行くためのアドバイスをすることがほとんどだった。
だが、昔の私はそれが当たり前だと思っていたから素直に頷き、より上を目指した。
しかしながら残念なことに私は頭がよくなかった。
どれだけ勉強しても普通以上にはならなかった。
昔は賞を取っていた美術関係も今では
"作品が硬い"
と、思考がマンネリ化して取れなくなっていた。
「何でもそつなくこなすけど、秀でた物は持ってないよね」
いつだったか、友達に言われたら言葉が自分の心に刺さり抜けない。
そう、私はたぶん、最高のモブなのだろう。
周りに溶け込み私の代わりはいくらでもいる。
思ったら最後、自分の価値が下がった。
そんな時、弟が中学に上がった。
弟はとても人好きのする笑顔で誰とでも仲良くなれた。
勉強もすれば上を狙えるほど、効率の良い頭だった。
そんな弟を母は褒めた。
「なんで弟は褒めるの?」
素朴な疑問を軽く口に出してしまった。
「だって、弟は褒めた方が伸びるのよ。」
何とも言えない表現しがたい気持ちが心を覆った。
「誰が認めて。」
私が欲しかったのは
「頑張ったね」「えらいね」「大丈夫だよ」
私の存在を肯定するものだった。
高校三年生になり、自分の長所を書く授業があった。
私はいつまでもたっても書けずにいた。
「今日中に書いて提出してね」
担任は私にそう言い残し、職員室へ帰って行った。
いくら考えても出てこなかった。
自分の長所なんてないに等しかった。
虚しく時間だけが過ぎて行く。
教室には誰もいない。
いっそ泣いてしまえばどれだけ楽だろう。
ペンを置いたり持ったりしていた。
停止した思考を再び動かすのは難しかった。
「まだ、いんの?」
私以外の声が聞こえ、扉の方を見やる。
そこには同じクラスだが、話したことはほとんどない青柳くんがいた。
「うん、まだ書けてないの。青柳くんはどうしたの。」
青柳くんは部活終わりだろうか部活動着にエナメルバックを持っている。
「提出物忘れてんの思い出した。」
「そっか。」
青柳くんは自分の机をガサゴソ探ってお目当ての物を見つけたらしい。
「あったあったー。てか、書けてないって長所のやつ?」
「そう。」
「花村、長所ねーの?」
私は笑って誤魔化すことしかできなかった。
「あるよ。花村の長所。」
「え…?」
「花村は何事に対しても手を抜かない。それ、すげぇなって思ってる。あと、気遣いが出来る。友達とか困ってたらすぐ察知すんじゃん!それに、優しいよ。足の不自由な子とかに」
「ちょ、ちょっとまって!」
「なんだよ?」
「え、あ、わ、私、そんなにいい人じゃ…」
「それから努力家だ。誰よりも努力してる。」
「…っ!」
「頑張ってるよ。花村は。」
一番言われたい言葉を、こんなにも簡単に言われるなんて思っていなかった。
どれだけ頑張っても結果に出なくて、親も私の努力じゃなくて結果を見て、アドバイスしかくれなくて。
なのに、なのになんで…
涙が出そうになった。
必死に堪えた。
「花村の長所、いっぱいあるじゃん。」
白い歯をニカッと出して目を弧にして笑う青柳くんを私は眩しくも引かれるものがあった。
「青柳くんの長所もいっぱいあるね。」
久しぶりに気の抜けた笑顔で彼に伝えた。
「青柳くんは人を救う力があるよ。」
青柳くんの頬が赤くなったのは、多分気のせいだろうー。
私は昔からそうだった。
別に親が虐待とかしていた訳ではない。
ただ、うちの親は褒めるよりもより上をって感じで、作品で賞を取っても
「凄いけど、ここ、もうちょっとこうした方がいいんじゃない?」
って感じでより上に行くためのアドバイスをすることがほとんどだった。
だが、昔の私はそれが当たり前だと思っていたから素直に頷き、より上を目指した。
しかしながら残念なことに私は頭がよくなかった。
どれだけ勉強しても普通以上にはならなかった。
昔は賞を取っていた美術関係も今では
"作品が硬い"
と、思考がマンネリ化して取れなくなっていた。
「何でもそつなくこなすけど、秀でた物は持ってないよね」
いつだったか、友達に言われたら言葉が自分の心に刺さり抜けない。
そう、私はたぶん、最高のモブなのだろう。
周りに溶け込み私の代わりはいくらでもいる。
思ったら最後、自分の価値が下がった。
そんな時、弟が中学に上がった。
弟はとても人好きのする笑顔で誰とでも仲良くなれた。
勉強もすれば上を狙えるほど、効率の良い頭だった。
そんな弟を母は褒めた。
「なんで弟は褒めるの?」
素朴な疑問を軽く口に出してしまった。
「だって、弟は褒めた方が伸びるのよ。」
何とも言えない表現しがたい気持ちが心を覆った。
「誰が認めて。」
私が欲しかったのは
「頑張ったね」「えらいね」「大丈夫だよ」
私の存在を肯定するものだった。
高校三年生になり、自分の長所を書く授業があった。
私はいつまでもたっても書けずにいた。
「今日中に書いて提出してね」
担任は私にそう言い残し、職員室へ帰って行った。
いくら考えても出てこなかった。
自分の長所なんてないに等しかった。
虚しく時間だけが過ぎて行く。
教室には誰もいない。
いっそ泣いてしまえばどれだけ楽だろう。
ペンを置いたり持ったりしていた。
停止した思考を再び動かすのは難しかった。
「まだ、いんの?」
私以外の声が聞こえ、扉の方を見やる。
そこには同じクラスだが、話したことはほとんどない青柳くんがいた。
「うん、まだ書けてないの。青柳くんはどうしたの。」
青柳くんは部活終わりだろうか部活動着にエナメルバックを持っている。
「提出物忘れてんの思い出した。」
「そっか。」
青柳くんは自分の机をガサゴソ探ってお目当ての物を見つけたらしい。
「あったあったー。てか、書けてないって長所のやつ?」
「そう。」
「花村、長所ねーの?」
私は笑って誤魔化すことしかできなかった。
「あるよ。花村の長所。」
「え…?」
「花村は何事に対しても手を抜かない。それ、すげぇなって思ってる。あと、気遣いが出来る。友達とか困ってたらすぐ察知すんじゃん!それに、優しいよ。足の不自由な子とかに」
「ちょ、ちょっとまって!」
「なんだよ?」
「え、あ、わ、私、そんなにいい人じゃ…」
「それから努力家だ。誰よりも努力してる。」
「…っ!」
「頑張ってるよ。花村は。」
一番言われたい言葉を、こんなにも簡単に言われるなんて思っていなかった。
どれだけ頑張っても結果に出なくて、親も私の努力じゃなくて結果を見て、アドバイスしかくれなくて。
なのに、なのになんで…
涙が出そうになった。
必死に堪えた。
「花村の長所、いっぱいあるじゃん。」
白い歯をニカッと出して目を弧にして笑う青柳くんを私は眩しくも引かれるものがあった。
「青柳くんの長所もいっぱいあるね。」
久しぶりに気の抜けた笑顔で彼に伝えた。
「青柳くんは人を救う力があるよ。」
青柳くんの頬が赤くなったのは、多分気のせいだろうー。
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