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第一章 五度目の人生
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梅梅の怪我を防げたのは、明琳の五度の人生の中で初めてだった。
この調子で処刑の運命も回避して、絶対に炎巫にならないと。
明琳がほっと胸を撫で下ろしていると、急に部屋の戸が開き、一人の少女が入ってきた。
「あなたたち、何をどたばたと騒いでいるの」
長い赤髪に色白の肌。切れ長の目には泣きぼくろ。
巫女たちの中でもひときわ背の高いこの少女の名前は緋静。
前回の生――いや、一度目から四度目の人生すべてで炎巫に選ばれている優秀な巫女だ。
明琳はごくりとつばを飲み込むと、笑顔を作った。
「ごめんなさい、地震で棚が倒れてきて」
明琳が答えると、静は小さく舌打ちをした。
「あのねえ、地震なんてこの辺じゃよくあることでしょ。それをそんなにどたばたと騒がないでよね」
「ご、ごめんなさい」
「ふん、これだから田舎者は。私たちは炎巫候補として選ばれし巫女、そこいらの凡人とは違うのよ。これしきで焦らないでちょうだい」
「ええ、これからは大人しくするわ」
明琳と梅梅が頭を下げると、静はふんと鼻を鳴らして部屋から去っていった。
「ま、せいぜい気をつけてよね」
部屋から去ろうとする静。
明琳は慌てて静を呼び寄せた。
「あ、待って!」
「何?」
眉間に皺を寄せて振り返る静。
明琳は口角を引き上げ、できる限り柔らかい口調で言った。
「私、紅明琳。あなた、緋静さんよね?」
「ええ、そうだけど」
素っ気なく返事をする静。
明琳は続けた。
「せっかく隣の部屋同士になったのだから、私たち仲良くしたほうがいいわ。どこ出身?」
明琳の言葉に、静はふんと鼻で笑った。
「私は仲良しごっこをするためにここに来ているわけではないわ。私には炎巫になるという使命があるの。それじゃ」
大きな音を立てて戸を閉める静。
明琳としては静と仲良くなることで前の生と違う展開に持っていこうとしたのだけれど、どうやら失敗したようだ。
静と親しくなれば、もう少し情報を集められると思っていたのに。
まあ、仕方ないか。次の手を探ろう。
明琳がぽりぽりと頭をかいていると、梅梅が頬を膨らませた。
「何あれ感じ悪いです」
「しょうがないわ。静の意見の方が正しいもの。私たちは炎巫の座を巡って争う者同士だもの」
明琳が平然とした顔で椅子に座ると、梅梅は下を向いた。
「明琳は大人ですね」
「そうかしら」
「私はもし自分が炎巫になれなかったら、静みたいな人よりも明琳に炎巫になってほしいです。気も合うし、初めてあった気がしないです!」
「ありがとう」
明琳は苦笑した。
――「初めて会った気がしない」か。
確かに二人が会うのは初めてではない。
明琳と梅梅は過去の人生でもう何回も出会っているのだから。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
明琳は梅梅にそう返事をすると、自分の机に戻った。
***
三月の後、中間考試の結果が張り出された。
廊下に貼られた順位を指さし、梅梅が目を丸くする。
「わあ、明琳、首席です! すごいです!」
考試の結果、明琳の成績は前回の人生に引続き首席だった。
さすがに人生五度目ともなると考試の内容も丸暗記してしまっているので当然と言えば当然だ。
今回は梅梅に勉強を教える余裕すらあったほどだ。
明琳は梅梅に微笑んだ。
「ありがとう。猛勉強したからね」
明琳は横目でそっと静を見た。
静は青い顔で唇を噛み締めずっと下を向いている。
「わっ、私の名前もありました。奇跡です!」
梅梅がおさげをぴょこぴょこさせながら飛び跳ねる。
それまでの人生では中間考試で脱落した梅梅も、今回は明琳が勉強を教える余裕があったおかげか九人の候補の中の一人に残っていた。
「また一緒に頑張りましょう」
「はい、頑張りましょう!」
明琳と梅梅は二人で抱き合い、笑みを交わした。
だけれど明琳の心には、言い知れぬ不安が纏わりついていた。
本当にこのままでよいのだろうか。
このまま巫女考試を受けていては、いつもと同じ人生になるのではないか?
明琳の脳裏に、前回のやり直しの際の記憶が蘇ってきた。
この調子で処刑の運命も回避して、絶対に炎巫にならないと。
明琳がほっと胸を撫で下ろしていると、急に部屋の戸が開き、一人の少女が入ってきた。
「あなたたち、何をどたばたと騒いでいるの」
長い赤髪に色白の肌。切れ長の目には泣きぼくろ。
巫女たちの中でもひときわ背の高いこの少女の名前は緋静。
前回の生――いや、一度目から四度目の人生すべてで炎巫に選ばれている優秀な巫女だ。
明琳はごくりとつばを飲み込むと、笑顔を作った。
「ごめんなさい、地震で棚が倒れてきて」
明琳が答えると、静は小さく舌打ちをした。
「あのねえ、地震なんてこの辺じゃよくあることでしょ。それをそんなにどたばたと騒がないでよね」
「ご、ごめんなさい」
「ふん、これだから田舎者は。私たちは炎巫候補として選ばれし巫女、そこいらの凡人とは違うのよ。これしきで焦らないでちょうだい」
「ええ、これからは大人しくするわ」
明琳と梅梅が頭を下げると、静はふんと鼻を鳴らして部屋から去っていった。
「ま、せいぜい気をつけてよね」
部屋から去ろうとする静。
明琳は慌てて静を呼び寄せた。
「あ、待って!」
「何?」
眉間に皺を寄せて振り返る静。
明琳は口角を引き上げ、できる限り柔らかい口調で言った。
「私、紅明琳。あなた、緋静さんよね?」
「ええ、そうだけど」
素っ気なく返事をする静。
明琳は続けた。
「せっかく隣の部屋同士になったのだから、私たち仲良くしたほうがいいわ。どこ出身?」
明琳の言葉に、静はふんと鼻で笑った。
「私は仲良しごっこをするためにここに来ているわけではないわ。私には炎巫になるという使命があるの。それじゃ」
大きな音を立てて戸を閉める静。
明琳としては静と仲良くなることで前の生と違う展開に持っていこうとしたのだけれど、どうやら失敗したようだ。
静と親しくなれば、もう少し情報を集められると思っていたのに。
まあ、仕方ないか。次の手を探ろう。
明琳がぽりぽりと頭をかいていると、梅梅が頬を膨らませた。
「何あれ感じ悪いです」
「しょうがないわ。静の意見の方が正しいもの。私たちは炎巫の座を巡って争う者同士だもの」
明琳が平然とした顔で椅子に座ると、梅梅は下を向いた。
「明琳は大人ですね」
「そうかしら」
「私はもし自分が炎巫になれなかったら、静みたいな人よりも明琳に炎巫になってほしいです。気も合うし、初めてあった気がしないです!」
「ありがとう」
明琳は苦笑した。
――「初めて会った気がしない」か。
確かに二人が会うのは初めてではない。
明琳と梅梅は過去の人生でもう何回も出会っているのだから。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
明琳は梅梅にそう返事をすると、自分の机に戻った。
***
三月の後、中間考試の結果が張り出された。
廊下に貼られた順位を指さし、梅梅が目を丸くする。
「わあ、明琳、首席です! すごいです!」
考試の結果、明琳の成績は前回の人生に引続き首席だった。
さすがに人生五度目ともなると考試の内容も丸暗記してしまっているので当然と言えば当然だ。
今回は梅梅に勉強を教える余裕すらあったほどだ。
明琳は梅梅に微笑んだ。
「ありがとう。猛勉強したからね」
明琳は横目でそっと静を見た。
静は青い顔で唇を噛み締めずっと下を向いている。
「わっ、私の名前もありました。奇跡です!」
梅梅がおさげをぴょこぴょこさせながら飛び跳ねる。
それまでの人生では中間考試で脱落した梅梅も、今回は明琳が勉強を教える余裕があったおかげか九人の候補の中の一人に残っていた。
「また一緒に頑張りましょう」
「はい、頑張りましょう!」
明琳と梅梅は二人で抱き合い、笑みを交わした。
だけれど明琳の心には、言い知れぬ不安が纏わりついていた。
本当にこのままでよいのだろうか。
このまま巫女考試を受けていては、いつもと同じ人生になるのではないか?
明琳の脳裏に、前回のやり直しの際の記憶が蘇ってきた。
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