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5.お姉さまと魔法学園

130.お姉さまと敵情視察

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「あれが黄百合寮の練習場か」

 サツキ様に教えられ、今度は黄百合寮にやってきた俺たち。

 練習場のある武道場の裏手につくと、いきなり大音量の歌声が聞こえてきた。

「な、何だ!?」

 見ると、きらびやかな衣装を着た生徒たちが踊り歌っている。

「ミュージカルなのかな?」

「そのようだな」

 が、その歌というのが、学生の文化祭のレベルを超えている。
 澄み渡る高温、キレのあるダンス、迫真の演技。

「まるでプロだな」

 男役も全員女子がこなしていることもあり、まるで昔テレビで見た宝塚歌劇団の演技を見ているようだ。

「スミレ様、すごーい」

「ああ」

 おそらく題目は『海賊と王女様』で、スミレ様の役は主人公の海賊だろう。

 模造刀を手に、まるで本当に海の上にいるかのように歌い踊る。スミレ様。
 いつもはセクシー系の美女なのに、役に入りきってるせいかイケメンでワイルドな海賊に見える。

 髪型が変わっていて分からなかったが、よく見ると、もう一人の主人公王女役はスミレ様の妹の三つ編みちゃんだ。

「良かった、二人、仲直りしたんだね!」

「そうみたいだな」

 そういえば、あの二人ってケンカしてたんだっけ。
 でも今は、スミレ様のあまりのイケメンぶりに、三つ編みちゃんは、ぽーっと頬を染めている。

「クソッ、うちの寮の題目も『海賊と王女様』が良かったなぁ。海賊役だったら自信あるのに」

「本当に海賊船に乗ったもんね」

 恐らくこの学校で海賊船に乗ったり本物の海賊と戦ったことがあるのは俺たちだけだろう。

「はい、今日の練習はここまで!」

 パンパンと手を叩くスミレ様。

「ありがとうございました!」
「お疲れ様でした!」

 去っていく女生徒たちの群れ越しに、スミレ様と目が合う。

「あら? あなたたちは」

「こんにちは」

 ペコリと頭を下げる。

「見学かしら? あなたたちの白百合寮は何をやるの?」

「『白百合姫と黒薔薇姫』です。ツバキ様が白百合姫で……」

「まぁ、そうなの。懐かしいわ。去年はツバキが黒薔薇姫だったのよ」

「そうだったんですか」

 もしかしてロッカの取り巻きが必死でロッカを黒薔薇姫に押してたのは、単に花形というだけではなく、去年のツバキ様を意識してのことなのかもしれない。

「ええ。本当はあの子、ワカメだかコンブだかの地味な役だったんだけど、黒薔薇姫役の子が急に体調を壊して急遽代役に決まったの。でも、その代役が見事で、あの子は百合の乙女に選ばれたのよ」

「それで先代の姉4に見初められたんですね」

「ええ。私たちも、それまではあんな子がいるなんて知らなかったわ」

「そうだったんですね」

 黄百合寮を出た俺たちは、今度は赤百合寮に向かった。

「せっかくだから全部の寮を見てまわろうぜ」

「うん!」

 赤百合寮の練習場は、黒百合寮のすぐ横だった。

 花の形をしたセットを組み立てる横で、真剣な表情で台本を読み込むカスミ様。

「赤百合寮は何の劇をやるんですか?」

「『妖精姫のぼうけん』だよー☆」

 胸を張るカスミ様。

「じゃあ、妖精姫役がカスミ様なんですね?」

「そうよ。めんどくさいけどっ」

「きっと可愛いと思いますよ」

「どんな衣装か楽しみだね、お姉様」

 俺とモアが盛り上がっていると、カスミ様はため息をついた。

「でも、きっと優勝は黄百合寮だわ。あんたたちも、こんな所より黄色百合寮を偵察に行くべきよ」

「あ、実はもう行ってきて、その帰りなんです」

「あら、そうなの」

 カスミ様は大きなため息をついた。

「で、どうだった? 黄百合寮は」

「なんか凄かったです」

「本物の劇団みたいでした!」

 俺たちが報告すると、カスミ様は真剣な顔をして遠くを見つめた。

「でしょうね。元々、黒百合寮には芸術的な才能を持った生徒が多く集まっていたのよ。それが寮を解体されて、その多くが黄百合寮に入ったから……」

「そうだったんですか?」

「ええ。去年の黒百合寮の『天女の舞姫』は凄かったわ。天女役のルルカも――」

 そこまで言ってカスミ様は口をつぐんだ。
 視線の先には、今は使われなくなった黒百合寮。空にはいつの間にか分厚い雲が浮かんでいた。

「雨になりそうね。練習はここまでよ」

 パンパン、と手を叩くカスミ様。

「あなた達も早く帰った方がいいわよ。雨に降られないうちにね」

「はい。ありがとうございます」

 俺たちは、今にも雨の降り出しそうな灰色の雲を見上げた。

「黒百合寮……」

 一体、去年そこで何があったって言うんだ?
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