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4.お姉様と水の都セシル

93.お姉様と入れ替わり

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 そうだ。思い出した。数ヶ月くらいしか城に居なかったから忘れてたけど、オディルは俺たちの剣の先生だ!

 頭を抱えるしかない。

「お姉様?」

「ほら、モア、覚えてないか? オディル先生だよ! レオ兄さんに剣術を教えに来てただろう?」

「そう言われれば」

 モアは今ひとつピンと来てない顔で空を見上げる。10年前と言ったらモアはまだ3歳だから仕方ないのか。

 オディルは目を見開いて俺を見た。

「レオ兄さん……ってことは、あんたはまさか妹の」

「ああ」

「モアちゃんか」

「違う。俺はミアだ」

 首を捻るオディル。

「ミア? ミアは確か男のはずじゃ」

 オディルが考え出す。
 ま、まずい。男から女に変わったことがバレるか?

 俺が息を飲んでオディルの顔を見つめていると、オディルは合点がいったように頷いた。

「ああ。悪い悪い、髪も短かったし、言葉遣いも乱暴だからてっきり男の子かと。ミアというのは、よく考えたら女の名前だし」

 モアの影がもぞりと動く。
 どうやら鏡の悪魔が魔法で上手く記憶を操作してくれたらしい。

「何? きっ、君たち、エリス王国の姫だったの??」

 ベルくんが大げさに驚く。

「ああ。他の奴らには内緒だぞ?」

「わ、分かったよ」

 急にしどろもどろになるベルくん。

 オディルは少し気を許したようで、硬かった表情を緩め質問してくる。

「久しぶりだなあ。レオ王子はどうしてる?」

「結婚して子供が出来ました」

「え?」

 固まるオディル。

「だから、子供が」

「えええええ!?」

 驚き飛び退くオディル。

「そっか……子供が……あんなに小さかったのに、もうそんな歳か……はは。月日の流れは早いな……」

 どうやらショックがでかいらしい。オディルの中では兄さんはまだ可愛らしい子どもの姿をしているから、そのギャップに戸惑うのだろう。

 実物見たらもっと驚くぞ、これ。

「それで、オディル……先生はどうしてここに?」

「オディルでいいよ。さっきも言ったけど、今は冒険者としてベルに協力してるんだ」

「なるほど。」

 ベルくんが俺たちの顔を交互に見上げる。

「まさか二人が姫でオディルと知り合いだったなんてびっくりだよ。それで? 僕に聞きたいことって?」

「えーと」

 あ、そっか。聞きたいことがあるって言って引き止めたんだっけ。何も考えてなかった。

「えっと、ロレンツ海賊団では捜し物は見つかったの?」

 モアが慌てて尋ねる。ナイスだ。モア。

「いや、まだだよ」

「そ、そうか」

 オディルはベルくんの袖をちょいちょいと引っ張る。

「そろそろ時間だ。船に戻らないと」

「だね。そろそろ行かないと。じゃあ、二人ともごめん、僕たちは忙しいからね」

「あ、いや、ちょっと待て!」

 俺は船に帰ろうとした二人を引き留めた。

「待ってくれ! 俺をロレンツ海賊船に乗せてくれ!」




「おお……おおー」

 俺はぺたぺたと割れた腹筋を触った。

「あんまり触るなよ……」

 目の前には困り顔をしたがモジモジしている。

「どうしたんだよ、そんなソワソワして」

「すまん、スカートが……どうも慣れなくて」

 恥ずかしそうに真っ赤になる

 ……いや、俺の姿に化けたオディルがキョロキョロと辺りを見回す。

 そう、俺たちは入れ替わっていた。

 オディルがベルくんが探し残した場所があるかもしれないから女海賊の船に潜入したいと言い出したので、俺はオディルに、オディルは俺に魔法で化けてお互いに入れ替わることにしたのだ。

「あんまりナヨナヨすんなよ? 魔法で化けてるってことがバレるから」

「うん、分かったよ」

 オディルはうなずく。
 だがどうにも違和感は拭えない。

 なんか弱々しいというか、頼りないというか……はっきり言って俺より可愛い。

「ねぇ、そろそろ時間だよ?」

 ベルくんが上目使いに俺の袖を引っ張る。
 くそッ、この萌えショタが!

「ああ。じゃあモア、少しの辛抱だけど、頑張れよ! オディルの面倒をちゃんと見てくれよな!」

「うん、寂しいけど……分かった! お姉様!」

 こうして、俺は男海賊の船に乗り込むことになった。

 
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