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4.お姉様と水の都セシル
91.お姉様と尾行
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ロレンツ海賊団の男達がこちらへ攻め込んでくる。
あちこちで巻き起こる怒声、罵声、剣のぶつかり合う戦闘音。
「ど、どうしよう!」
「と、とにかくモアはどこかに隠れて」
俺がモアを逃がそうとしたところへ、男海賊がナイフを振り上げる。
「きゃーーっ、お姉さまっ!」
「てめぇ、モアに何しやがる!」
思わず手が出る。俺の放ったストレートは真っ直ぐに相手の左頬にめり込む。
「……ガハッ!」
男が床に倒れる。息はあるようだが、鼻は曲がり鼻血は出ているわ、歯が欠けてコロコロと転がっているわ、散々な状態だ。
「うげっ、どーしよ」
俺が青くなっていると、女海賊たちの間で歓声が上がる。
「ナイスだ!」
「やるぅ!」
「その調子でぶちのめせーっ!」
……まぁいいや。今のはどう考えても正当防衛だし、こいつら海賊で悪い奴らなんだし、ぶちのめしても構わないだろう。俺は腹をくくった。
「くそっ、やりやがったな!」
別の海賊が襲い掛かってくるが、アッパー一撃で倒す。一応武器は使わないし、手加減はするが、それ以上は知るもんか。
「お姉さまーっ、頑張れーっ!」
歓声が上がる。
おーし、お姉様、頑張るからな!
手加減をしながらも、モアに応援され意気揚々と男海賊を倒していると、急に男海賊たちが蜘蛛の子を散らすように自分たちの船に逃げ始めた。
「……ありゃ?」
俺がキョトンとしていると、どこからがこんな声が聞こえてきた。
「海軍が来たぞーっ!」
目を凝らすと、セシルの海軍旗を付けた大きな船が猛スピードでこちらに迫ってくる。
「一旦引くぞ!」
「逃げろ逃げろ!」
「船を出せーーっ!!」
急旋回し、離れていく二つの船。
こうして二つの海賊船の戦闘は呆気なく終わりを迎えたのであった。
*
船は商船を襲うタイミングを逃し、そのまま次の港、アビ島の港へ向かうこととなった。
水の都セシルは、大陸の一部とセシル本島、それから100個以上ある群島からなる国だ。
中にはお金を落としてくれる海賊に協力的な島もあり、そのうちの一つがここアビ島だ。
「アビで食料を補給することになったんだが、そこにどうやらロレンツ海賊団もいるらしい。奴らにかち合わないように気をつけて」
メリッサが俺たちに告げる。
グレイスは不機嫌そうに黙ったままだ。
港に着いた俺たちは、自由時間を利用してとりあえずそのベルくんとやらに会って話を聞いてみることにした。
「アンの話はよく分からなかったしね」
「ああ。確かに、腑に落ちない点も多い」
俺とモアは、物陰からロレンツ海賊団の船の泊まっている辺りを覗く。
すると船からベルくんと背の高い黒髪の男が降りてきた。
今日は女装はせずに短い髪だが、長いまつげに大きな青い瞳、整った目鼻立ち。黒い半ズボンに黒いハイソックス。普通にしてても女の子に間違えられそうな容姿だ。
俺にはそんな趣味はないが、ショタコンが見たらたまらないんじゃないだろうか。
「いた。尾行しよう」
お洒落な街中を歩いていくベルたち。
その後を、気づかれないよう離れた位置から根気よく追っていく。
やがて黒髪の男とベルくんが別れた。
「今だ!」
一気に距離を縮める。
すると尾行に気づいたベルくんが真っ青になり、慌てて逃げ出す。が――逃がすもんか!
がっしりと腕を掴む。
「いたたっ、や、やめてよっ! 離して、離して!」
「大人しくしろっ! 大人しくしたら痛い目にはあわせねーから!」
うーん、これ、傍から見たら美少年誘拐事案発生だな。
俺がベルくんの腕を掴んで言い合いをしていると、モアが息を切らせて走ってくる。
「お姉様、足速ーい!」
「ああ、ごめんな」
ベルくんがモアに目を止め、キョトンとする。モアもベルくんをじっと見つめる。
二人とも、やっぱ互いに似てるなーと思ったのだろうか?
「で? あんたたちは何んだよっ!」
ベルくんが俺を睨む。虚勢を張ってはいるものの、やはり怖いのか、大きな瞳がうるうると潤んでいる。
「俺たちはとある事情でグレイス海賊団に潜入しているんだが、そこでアンと密会しているお前を見つけてな。話を聞きに来たんだ」
ベルくんの顔色が変わる。
「は、話すことなんかないよっ」
プイ、と横を向くベルくん。
「何だと? 痛い目にあいてーのか」
ポキポキと指を鳴らす俺にベルくんの顔は真っ青になる。
「まあまあ、お姉様」
モアが制止する。
「実はモアたち、アンから大体の話は聞いているの。でも、分からないことも多くて……それを教えて欲しいだけなの」
モアがそう言うと、ベルくんの表情が少し落ち着いたものとなる。
「で? 何が聞きたいの」
俺とモアは顔を見合わせた。
「ええと、じゃあ、ベルくんが探している物って何なの?」
モアがベルくんの機嫌を損ねないように優しく尋ねる。
「そ、それは教えられないよ。さる高貴な方の大事な品だとだけ。僕はこう見えても冒険者なんだ」
「なるほど、じゃあ、冒険者協会で依頼を受けてグレイス海賊団に潜入していたんだな?」
「そんな所かな。依頼主は明かせないんだ」
「それは貴金属か? 宝石? アクセサリー?」
「そんな感じかな」
ベルくんは曖昧に答える。
さる高貴な方。明かせない依頼主。大事な品。
「お姉様、もしかして」
モアが俺の目を見る。俺は頷いた。
もしかして、俺たちとベルくんは同じ依頼を受けている?
海賊船に潜入したはずのベルくんが中々戻ってこないから、それでセラスは俺たちに依頼してきたのだろうか。ありうる話だ。
「それで女装してグレイス海賊団に潜入したけど、アンに見つかったんだな?」
「うん。それで、見逃して貰う代わりに僕はロレンツ海賊団にスパイとして入り込むことになったんだ。グレイスが言うには、僕の探している物は船には無くて、もしかするとロレンツ海賊団に盗まれたかもしれないって」
「何っ?」
ロレンツ海賊団に盗まれた?
「もういいでしょ。女の人と話しているところを海賊船の人たちに見つかったら大変なことになっちゃうよ」
「あ、ああ。事情は大体分かった」
「じゃあ」
そう言って、ベルくんは去っていく。
どういうことだ?
セラスの探しているピンクサファイアのブローチは、グレイス海賊団には無いのか!?
あちこちで巻き起こる怒声、罵声、剣のぶつかり合う戦闘音。
「ど、どうしよう!」
「と、とにかくモアはどこかに隠れて」
俺がモアを逃がそうとしたところへ、男海賊がナイフを振り上げる。
「きゃーーっ、お姉さまっ!」
「てめぇ、モアに何しやがる!」
思わず手が出る。俺の放ったストレートは真っ直ぐに相手の左頬にめり込む。
「……ガハッ!」
男が床に倒れる。息はあるようだが、鼻は曲がり鼻血は出ているわ、歯が欠けてコロコロと転がっているわ、散々な状態だ。
「うげっ、どーしよ」
俺が青くなっていると、女海賊たちの間で歓声が上がる。
「ナイスだ!」
「やるぅ!」
「その調子でぶちのめせーっ!」
……まぁいいや。今のはどう考えても正当防衛だし、こいつら海賊で悪い奴らなんだし、ぶちのめしても構わないだろう。俺は腹をくくった。
「くそっ、やりやがったな!」
別の海賊が襲い掛かってくるが、アッパー一撃で倒す。一応武器は使わないし、手加減はするが、それ以上は知るもんか。
「お姉さまーっ、頑張れーっ!」
歓声が上がる。
おーし、お姉様、頑張るからな!
手加減をしながらも、モアに応援され意気揚々と男海賊を倒していると、急に男海賊たちが蜘蛛の子を散らすように自分たちの船に逃げ始めた。
「……ありゃ?」
俺がキョトンとしていると、どこからがこんな声が聞こえてきた。
「海軍が来たぞーっ!」
目を凝らすと、セシルの海軍旗を付けた大きな船が猛スピードでこちらに迫ってくる。
「一旦引くぞ!」
「逃げろ逃げろ!」
「船を出せーーっ!!」
急旋回し、離れていく二つの船。
こうして二つの海賊船の戦闘は呆気なく終わりを迎えたのであった。
*
船は商船を襲うタイミングを逃し、そのまま次の港、アビ島の港へ向かうこととなった。
水の都セシルは、大陸の一部とセシル本島、それから100個以上ある群島からなる国だ。
中にはお金を落としてくれる海賊に協力的な島もあり、そのうちの一つがここアビ島だ。
「アビで食料を補給することになったんだが、そこにどうやらロレンツ海賊団もいるらしい。奴らにかち合わないように気をつけて」
メリッサが俺たちに告げる。
グレイスは不機嫌そうに黙ったままだ。
港に着いた俺たちは、自由時間を利用してとりあえずそのベルくんとやらに会って話を聞いてみることにした。
「アンの話はよく分からなかったしね」
「ああ。確かに、腑に落ちない点も多い」
俺とモアは、物陰からロレンツ海賊団の船の泊まっている辺りを覗く。
すると船からベルくんと背の高い黒髪の男が降りてきた。
今日は女装はせずに短い髪だが、長いまつげに大きな青い瞳、整った目鼻立ち。黒い半ズボンに黒いハイソックス。普通にしてても女の子に間違えられそうな容姿だ。
俺にはそんな趣味はないが、ショタコンが見たらたまらないんじゃないだろうか。
「いた。尾行しよう」
お洒落な街中を歩いていくベルたち。
その後を、気づかれないよう離れた位置から根気よく追っていく。
やがて黒髪の男とベルくんが別れた。
「今だ!」
一気に距離を縮める。
すると尾行に気づいたベルくんが真っ青になり、慌てて逃げ出す。が――逃がすもんか!
がっしりと腕を掴む。
「いたたっ、や、やめてよっ! 離して、離して!」
「大人しくしろっ! 大人しくしたら痛い目にはあわせねーから!」
うーん、これ、傍から見たら美少年誘拐事案発生だな。
俺がベルくんの腕を掴んで言い合いをしていると、モアが息を切らせて走ってくる。
「お姉様、足速ーい!」
「ああ、ごめんな」
ベルくんがモアに目を止め、キョトンとする。モアもベルくんをじっと見つめる。
二人とも、やっぱ互いに似てるなーと思ったのだろうか?
「で? あんたたちは何んだよっ!」
ベルくんが俺を睨む。虚勢を張ってはいるものの、やはり怖いのか、大きな瞳がうるうると潤んでいる。
「俺たちはとある事情でグレイス海賊団に潜入しているんだが、そこでアンと密会しているお前を見つけてな。話を聞きに来たんだ」
ベルくんの顔色が変わる。
「は、話すことなんかないよっ」
プイ、と横を向くベルくん。
「何だと? 痛い目にあいてーのか」
ポキポキと指を鳴らす俺にベルくんの顔は真っ青になる。
「まあまあ、お姉様」
モアが制止する。
「実はモアたち、アンから大体の話は聞いているの。でも、分からないことも多くて……それを教えて欲しいだけなの」
モアがそう言うと、ベルくんの表情が少し落ち着いたものとなる。
「で? 何が聞きたいの」
俺とモアは顔を見合わせた。
「ええと、じゃあ、ベルくんが探している物って何なの?」
モアがベルくんの機嫌を損ねないように優しく尋ねる。
「そ、それは教えられないよ。さる高貴な方の大事な品だとだけ。僕はこう見えても冒険者なんだ」
「なるほど、じゃあ、冒険者協会で依頼を受けてグレイス海賊団に潜入していたんだな?」
「そんな所かな。依頼主は明かせないんだ」
「それは貴金属か? 宝石? アクセサリー?」
「そんな感じかな」
ベルくんは曖昧に答える。
さる高貴な方。明かせない依頼主。大事な品。
「お姉様、もしかして」
モアが俺の目を見る。俺は頷いた。
もしかして、俺たちとベルくんは同じ依頼を受けている?
海賊船に潜入したはずのベルくんが中々戻ってこないから、それでセラスは俺たちに依頼してきたのだろうか。ありうる話だ。
「それで女装してグレイス海賊団に潜入したけど、アンに見つかったんだな?」
「うん。それで、見逃して貰う代わりに僕はロレンツ海賊団にスパイとして入り込むことになったんだ。グレイスが言うには、僕の探している物は船には無くて、もしかするとロレンツ海賊団に盗まれたかもしれないって」
「何っ?」
ロレンツ海賊団に盗まれた?
「もういいでしょ。女の人と話しているところを海賊船の人たちに見つかったら大変なことになっちゃうよ」
「あ、ああ。事情は大体分かった」
「じゃあ」
そう言って、ベルくんは去っていく。
どういうことだ?
セラスの探しているピンクサファイアのブローチは、グレイス海賊団には無いのか!?
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