44 / 139
3.お姉様と木都フェリル
43.お姉様とドラゴン
しおりを挟む
「……チッ、最後に強いボスモンスターが来るとは思っていたが、まさかドラゴンとはな」
両手にペッと唾を吹き付けると、ひのきの棒を構える。
「立ち去れ……立ち去れ冒険者よ」
真っ白な吐息とともに紡がれる重低音の声。その声を聞いた途端、背中にビリビリと電流が走ったかのような震えと寒気が襲う。
「う……」
何てオーラだ。唾を飲み込む。足が動かない。手が震える。こんなの初めてだ。俺は緊張していた。怖気付いていたのだ、目の前のこの巨大なドラゴンに。
灰色のゴツゴツした無骨な鱗。鋭い牙とガッシリとした顎。かすっただけで大ダメージを負いそうな長い爪と揺らせば地震の起きそうな長い尾。
俺は汗まみれの拳を握ると、勇気を振り絞り、ドラゴンに向かって叫んだ。
「そ、そんなこと言っても、こっちは冒険者試験に受からなきゃいけないからここを通らなくちゃいけないんだぜっ!」
ドラゴンは声を上げて笑い出した。
「ガッハッハッハ!!」
ただ笑っただけなのに、凄まじい衝撃波が襲ってくる。俺はその圧を必死で踏ん張って耐えた。
「何がおかしい!」
「おかしいとも。冒険者試験なんぞここではやっておらん」
「え!?」
「そもそも、冒険者になるのに試験がいるなんてのも初耳だしな。そうか、人間どもも大変だな」
クックック、と笑い続けるドラゴン。
「さては貴様、悪魔にでも化かされているな?」
悪魔?
ドキリと心臓が鳴った。
「じゃ、じゃあここはどこなんだよ!?」
「それは私にも分からん。私は今からはるか昔、オルドローザによってこの地に封印されたのだ」
「オルドローザに?」
ってことは、このドラゴンは600年以上生きてるってことか。
よく見ると、部屋の壁一面に魔法陣や魔法文字が記されている。なるほど、これでこの龍を閉じ込めているわけだ。
「さあ、分かったら戻れ。貴様が居るべき場所に」
そう言って、ドラゴンは俺に向かって前足を掲げた。
「うわっ!」
いきなり足元の地面が抜けたかのようながくり、という感覚とともに尻餅をつく。
気がついたら、そこには何も無く、隠し部屋の入口があった元のダンジョンの狭く暗い道に戻っていた。
「あれ?」
俺は隠し部屋のあった辺りの壁を押した。しかし何も起こらない。
「何だったんだ? 今のは」
*
隠し部屋のあった場所から少し歩くと、外の光が見えてきた。暗がりに目が慣れているので、ひどくまぶしい。
どうやらようやくダンジョンをクリアしたらしい。
「お姉さま~!」
外に出るなり、モアが抱きついてくる。
「よしよし。大丈夫だったか?」
モアの柔らかな銀髪を撫でてやる。
俺の胸元に顔を擦り付けてくるモア。
「怖かったよー!」
「ふん! 俺には簡単すぎたぜ!」
同じく外にいたゼットが胸をはり鼻を鳴らす。
「ところで、二人ともあのドラゴンには会ったのか?」
俺が聞くと二人ともきょとんとした顔で顔を見合わせる。
「ドラゴン? お姉さま、ドラゴンに会ったの?」
キョトンとするモア。どうやらモアはドラゴンには会わなかったらしい。
「寝ぼけてたんじゃねぇの?」
ゼットも馬鹿にしたように笑う。二人ともドラゴンには会っていない? じゃああれは、一体何だったんだ?
あのドラゴンの言葉が頭に蘇ってくる。
“さては貴様、悪魔にでも化かされているな?“
悪魔? どうして俺が......
「それにしても、ラスボスのゴーレムは手強かったね!」
「俺は閃光弾で視界を奪って倒したぜ」
「モアは水魔法で足を滑らせて動きを止めて出てきた!」
ゴーレムの話に花を咲かせる二人。うーん、ゴーレム? いたかそんなの。正直どのモンスターもパンチと木の棒スイング一発で倒したのでほとんど記憶がない。
「お姉さまは?」
「いや、俺は殴って倒した、かな?」
記憶が曖昧なので疑問形である。
「凄ーい! さすがお姉さま!」
モアが目をキラキラとさせて抱きついてくる。
「なんなのお前、オーガかなんかなの?」
ゼットが呆れ顔をする。うるさいやい!
それにしても、不思議なダンジョンだったな。
両手にペッと唾を吹き付けると、ひのきの棒を構える。
「立ち去れ……立ち去れ冒険者よ」
真っ白な吐息とともに紡がれる重低音の声。その声を聞いた途端、背中にビリビリと電流が走ったかのような震えと寒気が襲う。
「う……」
何てオーラだ。唾を飲み込む。足が動かない。手が震える。こんなの初めてだ。俺は緊張していた。怖気付いていたのだ、目の前のこの巨大なドラゴンに。
灰色のゴツゴツした無骨な鱗。鋭い牙とガッシリとした顎。かすっただけで大ダメージを負いそうな長い爪と揺らせば地震の起きそうな長い尾。
俺は汗まみれの拳を握ると、勇気を振り絞り、ドラゴンに向かって叫んだ。
「そ、そんなこと言っても、こっちは冒険者試験に受からなきゃいけないからここを通らなくちゃいけないんだぜっ!」
ドラゴンは声を上げて笑い出した。
「ガッハッハッハ!!」
ただ笑っただけなのに、凄まじい衝撃波が襲ってくる。俺はその圧を必死で踏ん張って耐えた。
「何がおかしい!」
「おかしいとも。冒険者試験なんぞここではやっておらん」
「え!?」
「そもそも、冒険者になるのに試験がいるなんてのも初耳だしな。そうか、人間どもも大変だな」
クックック、と笑い続けるドラゴン。
「さては貴様、悪魔にでも化かされているな?」
悪魔?
ドキリと心臓が鳴った。
「じゃ、じゃあここはどこなんだよ!?」
「それは私にも分からん。私は今からはるか昔、オルドローザによってこの地に封印されたのだ」
「オルドローザに?」
ってことは、このドラゴンは600年以上生きてるってことか。
よく見ると、部屋の壁一面に魔法陣や魔法文字が記されている。なるほど、これでこの龍を閉じ込めているわけだ。
「さあ、分かったら戻れ。貴様が居るべき場所に」
そう言って、ドラゴンは俺に向かって前足を掲げた。
「うわっ!」
いきなり足元の地面が抜けたかのようながくり、という感覚とともに尻餅をつく。
気がついたら、そこには何も無く、隠し部屋の入口があった元のダンジョンの狭く暗い道に戻っていた。
「あれ?」
俺は隠し部屋のあった辺りの壁を押した。しかし何も起こらない。
「何だったんだ? 今のは」
*
隠し部屋のあった場所から少し歩くと、外の光が見えてきた。暗がりに目が慣れているので、ひどくまぶしい。
どうやらようやくダンジョンをクリアしたらしい。
「お姉さま~!」
外に出るなり、モアが抱きついてくる。
「よしよし。大丈夫だったか?」
モアの柔らかな銀髪を撫でてやる。
俺の胸元に顔を擦り付けてくるモア。
「怖かったよー!」
「ふん! 俺には簡単すぎたぜ!」
同じく外にいたゼットが胸をはり鼻を鳴らす。
「ところで、二人ともあのドラゴンには会ったのか?」
俺が聞くと二人ともきょとんとした顔で顔を見合わせる。
「ドラゴン? お姉さま、ドラゴンに会ったの?」
キョトンとするモア。どうやらモアはドラゴンには会わなかったらしい。
「寝ぼけてたんじゃねぇの?」
ゼットも馬鹿にしたように笑う。二人ともドラゴンには会っていない? じゃああれは、一体何だったんだ?
あのドラゴンの言葉が頭に蘇ってくる。
“さては貴様、悪魔にでも化かされているな?“
悪魔? どうして俺が......
「それにしても、ラスボスのゴーレムは手強かったね!」
「俺は閃光弾で視界を奪って倒したぜ」
「モアは水魔法で足を滑らせて動きを止めて出てきた!」
ゴーレムの話に花を咲かせる二人。うーん、ゴーレム? いたかそんなの。正直どのモンスターもパンチと木の棒スイング一発で倒したのでほとんど記憶がない。
「お姉さまは?」
「いや、俺は殴って倒した、かな?」
記憶が曖昧なので疑問形である。
「凄ーい! さすがお姉さま!」
モアが目をキラキラとさせて抱きついてくる。
「なんなのお前、オーガかなんかなの?」
ゼットが呆れ顔をする。うるさいやい!
それにしても、不思議なダンジョンだったな。
0
お気に入りに追加
379
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる
おさない
ファンタジー
「俺たちのパーティにお前のような結果にコミットしない無能は必要ないんだよ。ガキが……舐めてると潰すぞ」
冒険者として名を上げ<神童>と称されるほどになった天才魔術師のマルクは、十一歳の誕生日に<勇者>のエルネストから「将来性なし」と言われ、パーティを追放されてしまう。
行く当てもなく、途方に暮れるマルクの前に現れる、占い師で吸血鬼とサキュバスのハーフのカーミラと、旅の聖女でハイエルフのクラリス。
成り行きで行動を共にすることになるが、なにやら二人がマルクに対して向けている眼差しが危ない。
果たして、マルクは一体どうなってしまうのか?
一方、マルクの抜けた勇者パーティには新しい魔術師が加わるが、それによって、次第にパーティ内でマルクが担っていた重要な役割について気付いていく。
徐々に崩壊していくパーティ。交錯する思惑、飛び交う罵倒、Fワード……etc.
果たして、勇者パーティは一体どうなってしまうのか?
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる