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3.お姉様と木都フェリル

43.お姉様とドラゴン

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「……チッ、最後に強いボスモンスターが来るとは思っていたが、まさかドラゴンとはな」

 両手にペッと唾を吹き付けると、ひのきの棒を構える。

「立ち去れ……立ち去れ冒険者よ」

 真っ白な吐息とともに紡がれる重低音の声。その声を聞いた途端、背中にビリビリと電流が走ったかのような震えと寒気が襲う。

「う……」

 何てオーラだ。唾を飲み込む。足が動かない。手が震える。こんなの初めてだ。俺は緊張していた。怖気付いていたのだ、目の前のこの巨大なドラゴンに。

 灰色のゴツゴツした無骨な鱗。鋭い牙とガッシリとした顎。かすっただけで大ダメージを負いそうな長い爪と揺らせば地震の起きそうな長い尾。

 俺は汗まみれの拳を握ると、勇気を振り絞り、ドラゴンに向かって叫んだ。

「そ、そんなこと言っても、こっちは冒険者試験に受からなきゃいけないからここを通らなくちゃいけないんだぜっ!」

 ドラゴンは声を上げて笑い出した。

「ガッハッハッハ!!」

 ただ笑っただけなのに、凄まじい衝撃波が襲ってくる。俺はその圧を必死で踏ん張って耐えた。

「何がおかしい!」

「おかしいとも。冒険者試験なんぞここではやっておらん」

「え!?」

「そもそも、冒険者になるのに試験がいるなんてのも初耳だしな。そうか、人間どもも大変だな」

 クックック、と笑い続けるドラゴン。

「さては貴様、悪魔にでも化かされているな?」

 悪魔?

 ドキリと心臓が鳴った。

「じゃ、じゃあここはどこなんだよ!?」

「それは私にも分からん。私は今からはるか昔、オルドローザによってこの地に封印されたのだ」

「オルドローザに?」

 ってことは、このドラゴンは600年以上生きてるってことか。

 よく見ると、部屋の壁一面に魔法陣や魔法文字が記されている。なるほど、これでこの龍を閉じ込めているわけだ。

「さあ、分かったら戻れ。貴様が居るべき場所に」

 そう言って、ドラゴンは俺に向かって前足を掲げた。

「うわっ!」

 いきなり足元の地面が抜けたかのようながくり、という感覚とともに尻餅をつく。

 気がついたら、そこには何も無く、隠し部屋の入口があった元のダンジョンの狭く暗い道に戻っていた。

「あれ?」

 俺は隠し部屋のあった辺りの壁を押した。しかし何も起こらない。

「何だったんだ? 今のは」







 隠し部屋のあった場所から少し歩くと、外の光が見えてきた。暗がりに目が慣れているので、ひどくまぶしい。

 どうやらようやくダンジョンをクリアしたらしい。

「お姉さま~!」

 外に出るなり、モアが抱きついてくる。

「よしよし。大丈夫だったか?」

 モアの柔らかな銀髪を撫でてやる。
 俺の胸元に顔を擦り付けてくるモア。

「怖かったよー!」

「ふん! 俺には簡単すぎたぜ!」

 同じく外にいたゼットが胸をはり鼻を鳴らす。

「ところで、二人ともあのドラゴンには会ったのか?」

 俺が聞くと二人ともきょとんとした顔で顔を見合わせる。

「ドラゴン? お姉さま、ドラゴンに会ったの?」

 キョトンとするモア。どうやらモアはドラゴンには会わなかったらしい。

「寝ぼけてたんじゃねぇの?」

 ゼットも馬鹿にしたように笑う。二人ともドラゴンには会っていない? じゃああれは、一体何だったんだ?

 あのドラゴンの言葉が頭に蘇ってくる。

 “さては貴様、悪魔にでも化かされているな?“

 悪魔? どうして俺が......

「それにしても、ラスボスのゴーレムは手強かったね!」

「俺は閃光弾で視界を奪って倒したぜ」

「モアは水魔法で足を滑らせて動きを止めて出てきた!」

 ゴーレムの話に花を咲かせる二人。うーん、ゴーレム? いたかそんなの。正直どのモンスターもパンチと木の棒スイング一発で倒したのでほとんど記憶がない。

「お姉さまは?」

「いや、俺は殴って倒した、かな?」

 記憶が曖昧なので疑問形である。

「凄ーい! さすがお姉さま!」

 モアが目をキラキラとさせて抱きついてくる。

「なんなのお前、オーガかなんかなの?」

 ゼットが呆れ顔をする。うるさいやい!
 それにしても、不思議なダンジョンだったな。

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