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3.お姉様と木都フェリル

37.お姉様と初めてのクエスト

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「ふっふっふ、一週間の試験日が楽しみだな! その時には俺がお前に、立ち直れないほどの実力差を付けて合格してやるからな。ハーッハッハッハ!」

 勝手に俺をライバル扱いしたゼットは、高笑いをして去っていく。

「なんだか愉快な人だね」

「愉快というか何というか」

 俺は去っていくゼットの背中を見ながらため息をついた。あんな奴に好かれて、マロンも大変だな。

「まあとにかく、一週間後に試験を受けることになったからそれまでの間は何か適当なクエストをこなして過ごすか」

「さんせーい!」

 俺たちはクエスト受注のブースに移動する。
 少なくともここに一週間はいなくちゃいけなくなったし、その間にも宿代も食料費もどんどんかさんでいく。宿代も払えなくなって野宿になったら困るからな!。

 こうして俺たちは、とあるクエストをこなすことにした。具体的には薬草取りである。

 二種免許でできるクエストというと基本的には薬草や食料、装飾品に使える素材のなどの、採取・伐採クエストがほとんどだ。

 その中でも薬草取りは最も難易度が低く、それなりの報酬も入るので人気クエストとなっている。

 早速クエスト受注の申し込みをすませた俺たちは、あくる日、意気揚々と薬草の群生地である迷いの森の入り口へとやってきた。

『この先  迷いの森  モンスター注意!』

 草に覆われた、ペンキの剥げかけたボロい看板が風にゆれている。
 うっそうと茂る木々の奥には、けもの道のような細い通路が続く。

――迷いの森。

 フェリルの南東に位置するそこは、生い茂る草木と花、ツル、ツタでできた迷路のような森である。森の奥には古代文明の物と思しき遺跡があり、出てくる敵は植物系や虫系が多い。

 人間をおびき寄せるように森や遺跡のあちこちに、宝箱が配置されており、冒険者たちはそれを目当てにこぞって森に繰り出すようになった。そのためこの森はいつしか別名「木のダンジョン」とも呼ばれるようになったという。

 森の手前は難易度が低く人気探索スポットであるが、奥に行くほど難易度が上がり、今まで最深部までたどり着いたのはオルドローザ以外はいないのだという。

「さ、行きましょお姉様!」

 モアが遠足にでも行くかのように元気よく声をかける。

「この森は、昔、草や木の生えていないただの土でできたダンジョンだったそうなんだけど月日が経つうちに、周りの森に浸食されて樹海のような感じになったらしいよ!」

 モアが、何かの紙を見ながらそう話す。

「それは何だ?」
「『迷いの森ガイド』だよ。看板の下にあったの」

 モアが見せてくれた三つ折りのその紙には、簡単な地図と、迷いの森の成り立ちや歴史が書かれていた。まるで観光地のパンフレットみたいだ。何だか思ってたダンジョンと違う。

 そんなことを思っていると目の前に、怪しげな影が立ちはだかった。

 モンスターだ!

 そこにいたのは、ぷるぷると揺れる、1体の青いスライムだった。

「でやっ!」

 俺はこぶしをふるう。だが、スライムはぴょんと跳ね、俺の攻撃をかわした。

「お、お姉さま、モアが魔法を――」

 言いながらもモアはポケットから何か紙を取り出した。

「なんだそれ」

「魔法の呪文《スペル》だよ。昨日本屋で立ち読みして書き写してきたんだー」

 立ち読みって……そんな事しなくても買えばいいのに。モアはモアなりに財政に気を使ってるのかな。

「ええと、偉大なる炎の神よ……ええと、なんちゃらかんちゃらファイアー!」

 紙を読みながら呪文を唱えるモア。
 すると、モアの指先から激しい炎が吹き出し……いきなり爆発した。
 
「ふぎゃっ!」

 モアの髪に火がつく。俺は慌ててモアの頭を叩き火を消そうとする。うぎゃー、なんてこった! 可愛いモアがパンチパーマになっちまう!

「火が消えない! そ、そうだモア、何か水魔法を!」

「わわわ分かった! 水魔法は得意だから大丈夫!」

 モアは懐からもう一枚メモ用紙を取り出すと、口の中で何か呪文を唱え始める。

「……うんたらかんたら、ウォーター!!」

 モアの小さな手から水があふれ出す。成功だ! ......かと思ったが、まるで大海原にでも来たかのような大きな波が森を襲う。

「水、強すぎ――!」

 モアは魔法なんか使えないと言っていたが、それは俺に気を使ったからじゃなかった。モアは本当に魔法を使えなかったのだ。
 いや正しくは、使えるけれども全く制御出来ない。


 そうして俺とモアは木をなぎ倒しながらあらぬ方向へ流された。
 しばらく流された後、木のない柔らかい草の生えた一帯に俺たちはたどり着いた。

「いてててて」

 立ち上がろうとした俺たちが見たのは、辺り一面に映えるヨモギのような薬草だった。

「おお! モア、これ全部薬草じゃねーか!」

 こうして俺たちは、幸運にも大量の薬草を手に入れたのだった。
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