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1.お姉様と国王暗殺未遂事件
8.一件落着?
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なんで俺のほうにナイフが飛んでくるんだよ!
思わず身を屈める。
が、ナイフは俺の横を風をきって通り過ぎていった。
一瞬ホッとしかけた俺だったが、ナイフの飛んでいく先を目で追い、心臓が飛び上がる。
ナイフの飛んで行った先にはレオ兄さんが居たのである。
ま、まさか狙いは俺じゃなくてレオ兄さん? そうだよな。狙うなら妹の俺じゃなくて王様である兄さんを狙うのは当然だ。
「ぎゃあっ!」
男の叫び声が背後から聞こえた。
飛び散る鮮血。
だが見ると血を流しているのはレオ兄さんじゃない。
レオ兄さんの背後に、ナイフを構えた使用人風の男がいて、その男の手にナイフが命中したのだ。
男の手から血が流れ、握っていたナイフが音を立てて床に落ちる。
俺はようやく事態を理解した。
あの男は使用人に化けて会場に侵入し、暗がりに乗じてレオ兄さんを暗殺しようとしていたのだ。それをヒイロが助けたってことか。
頭の中で状況を整理している隙に、レオ兄さんを暗殺しようとしていた男は猛ダッシュでその場を走り去る。
「ま――待てっ!」
俺は急いで後を追う。逃がすかよっ。
会場を出て、長い廊下を駆ける。クソッ、走りづらい。俺はドレスの裾を破り、ハイヒールを脱ぎ捨て、全力で後を追う。
「待てこの暗殺犯めーー!!」
使用人に化けた暗殺犯は大声を上げた俺にびっくりしたように振り向くと、ふところから何か突起上の小さなものを取り出し、道に撒きはじめた。
「あたた、あたたたた!」
くそっ、あいつ、まきびし撒きやがった。こちとら裸足だってのによ。
「なんて奴だ」
俺が足の裏をさすっていると、背後から紫のドレスの美少女が長い黒髪をたなびかせて走ってきた。
「逃がしませんよ」
鋭い目つきに俺は少しびくり、としてしまう。
「お前はアオイ? 壁に縛り付けられてたはずじゃ」
「話は後です。まずは」
アオイは走りながらも腕から手品のように紫に光る組み紐を取り出す。
「――はッ!」
滑らかな動きで投げられた組み紐は男の両手と両足首に巻き付く。
「ぐっ!」
あやつり人形のように紐に体を絡め取られる男。
「動きが止まった!」
俺が叫ぶと、いつの間に追いついたのか、刀を手にしたヒイロが駆けてくる。
「さ、ミア姫、あとは私に任せて。私の秘技・紅蓮暗黒剣をお見せする……って、あれ?」
だが俺はそれを無視して暗殺犯の方へと走った。
――あいつは、俺が仕留める!
「えっ? ちょ、ミア姫様!?」
アオイが叫ぶ。
悪いなアオイ。
「おのれ、暗殺犯め! 俺とモアの楽しい舞踏会を踏みにじった罰、受けてもらうぜっ!」
足を思い切り踏み込み、大きく飛ぶ。
「ミア姫ーっ!?」
俺は勢いをつけて飛んだ。目指すは族の背中。そこへ鞭のようにしならせた足を叩きつける。俺の得意技、飛び回し蹴りだ。
「でやあああああああ!!!!」
回転の反動をそのままに放たれた飛び蹴りは、鮮やかに男の背中にヒット。ドスリと鈍い音が広いホール内にこだまする。男は「ぐえっ」とカエルの潰れたような悲鳴を上げて床に倒れた。
「ふー」
スタリ、と大理石の床に着地すると、ふわりと長い金髪と緑のドレスが揺れた。
汗をぬぐうと、パチパチと響く拍手の音。
辺りにはこの大事件の顛末を見ようと、いつの間にか野次馬たちが集まってきていていた。
「お姉さま、カッコイイ!」
モアが鈴の音のような可愛い声で声援を送ってくれる。
振り返ると背後では俺のファンの貴婦人たちが「勇ましい」「ワイルドだわ」と俺の鮮やかな蹴りにウットリしている。
男どもはというと半分くらいは俺のかっこよさに魅せられているようだが、半分くらいは「あれは俺には手に負えない」って顔をしてる。そして――
「お姉さま……」
ん?
振り返ると、そこにいたのはアオイだった。アオイはこちらへつかつかと歩み寄ると、俺の手を取った。
「お姉さま! 私も、ミア姫様のことをお姉さまとお呼びしてもよろしいでしょうか!?」
白い肌。長い黒髪。長いまつげに縁どられた神秘的な瞳が、うっとりと俺を見つめてくる。なんて美人で色気のある子なんだろう。なんかイイ香りまでするし……じゃなくて!
ええええええええ!?
「あ、いや、別にいいんだけど」
「本当ですか!? ではお姉さまとお呼びしますね。お姉さまー♡」
嬉しそうににっこりと笑うと握ったままの俺の手をブンブン振るアオイ。まあ、いいか。可愛いし。
「お姉さまったら」
反対にモアは頬を膨らませてむくれている。
「お姉さまはモアのお姉さまなのに」
どうしたんだモア。今まで他の女の子にキャーキャー言われたりプレゼントを貰っても、そんな風に拗ねたことなんて無かったじゃないか?
「フン」
アオイの姉、ヒイロも、刀を鞘に納めながらそっぽを向く。うーん、こちらはこちらで何故か機嫌が悪いみたいだ。
そして火山のようにカンカンに怒っている者がもう一人……
「ひ~め~さ~ま~!」
「げっ、爺や」
そこには怒りで顔を真っ赤にした爺やが居た。
「あれほど無茶をなさらぬようにと何度も何度も」
「わ、悪かったよー!!」
俺は爺やのお小言を食らう前にダッシュで逃げ出した。
「あっお待ちくだされ、姫様、姫様ーー!!」
こうして、暗殺未遂事件は一応の決着をしたのだが……この時俺は知らなかった。この事件が全ての始まりだったのだってことに。
思わず身を屈める。
が、ナイフは俺の横を風をきって通り過ぎていった。
一瞬ホッとしかけた俺だったが、ナイフの飛んでいく先を目で追い、心臓が飛び上がる。
ナイフの飛んで行った先にはレオ兄さんが居たのである。
ま、まさか狙いは俺じゃなくてレオ兄さん? そうだよな。狙うなら妹の俺じゃなくて王様である兄さんを狙うのは当然だ。
「ぎゃあっ!」
男の叫び声が背後から聞こえた。
飛び散る鮮血。
だが見ると血を流しているのはレオ兄さんじゃない。
レオ兄さんの背後に、ナイフを構えた使用人風の男がいて、その男の手にナイフが命中したのだ。
男の手から血が流れ、握っていたナイフが音を立てて床に落ちる。
俺はようやく事態を理解した。
あの男は使用人に化けて会場に侵入し、暗がりに乗じてレオ兄さんを暗殺しようとしていたのだ。それをヒイロが助けたってことか。
頭の中で状況を整理している隙に、レオ兄さんを暗殺しようとしていた男は猛ダッシュでその場を走り去る。
「ま――待てっ!」
俺は急いで後を追う。逃がすかよっ。
会場を出て、長い廊下を駆ける。クソッ、走りづらい。俺はドレスの裾を破り、ハイヒールを脱ぎ捨て、全力で後を追う。
「待てこの暗殺犯めーー!!」
使用人に化けた暗殺犯は大声を上げた俺にびっくりしたように振り向くと、ふところから何か突起上の小さなものを取り出し、道に撒きはじめた。
「あたた、あたたたた!」
くそっ、あいつ、まきびし撒きやがった。こちとら裸足だってのによ。
「なんて奴だ」
俺が足の裏をさすっていると、背後から紫のドレスの美少女が長い黒髪をたなびかせて走ってきた。
「逃がしませんよ」
鋭い目つきに俺は少しびくり、としてしまう。
「お前はアオイ? 壁に縛り付けられてたはずじゃ」
「話は後です。まずは」
アオイは走りながらも腕から手品のように紫に光る組み紐を取り出す。
「――はッ!」
滑らかな動きで投げられた組み紐は男の両手と両足首に巻き付く。
「ぐっ!」
あやつり人形のように紐に体を絡め取られる男。
「動きが止まった!」
俺が叫ぶと、いつの間に追いついたのか、刀を手にしたヒイロが駆けてくる。
「さ、ミア姫、あとは私に任せて。私の秘技・紅蓮暗黒剣をお見せする……って、あれ?」
だが俺はそれを無視して暗殺犯の方へと走った。
――あいつは、俺が仕留める!
「えっ? ちょ、ミア姫様!?」
アオイが叫ぶ。
悪いなアオイ。
「おのれ、暗殺犯め! 俺とモアの楽しい舞踏会を踏みにじった罰、受けてもらうぜっ!」
足を思い切り踏み込み、大きく飛ぶ。
「ミア姫ーっ!?」
俺は勢いをつけて飛んだ。目指すは族の背中。そこへ鞭のようにしならせた足を叩きつける。俺の得意技、飛び回し蹴りだ。
「でやあああああああ!!!!」
回転の反動をそのままに放たれた飛び蹴りは、鮮やかに男の背中にヒット。ドスリと鈍い音が広いホール内にこだまする。男は「ぐえっ」とカエルの潰れたような悲鳴を上げて床に倒れた。
「ふー」
スタリ、と大理石の床に着地すると、ふわりと長い金髪と緑のドレスが揺れた。
汗をぬぐうと、パチパチと響く拍手の音。
辺りにはこの大事件の顛末を見ようと、いつの間にか野次馬たちが集まってきていていた。
「お姉さま、カッコイイ!」
モアが鈴の音のような可愛い声で声援を送ってくれる。
振り返ると背後では俺のファンの貴婦人たちが「勇ましい」「ワイルドだわ」と俺の鮮やかな蹴りにウットリしている。
男どもはというと半分くらいは俺のかっこよさに魅せられているようだが、半分くらいは「あれは俺には手に負えない」って顔をしてる。そして――
「お姉さま……」
ん?
振り返ると、そこにいたのはアオイだった。アオイはこちらへつかつかと歩み寄ると、俺の手を取った。
「お姉さま! 私も、ミア姫様のことをお姉さまとお呼びしてもよろしいでしょうか!?」
白い肌。長い黒髪。長いまつげに縁どられた神秘的な瞳が、うっとりと俺を見つめてくる。なんて美人で色気のある子なんだろう。なんかイイ香りまでするし……じゃなくて!
ええええええええ!?
「あ、いや、別にいいんだけど」
「本当ですか!? ではお姉さまとお呼びしますね。お姉さまー♡」
嬉しそうににっこりと笑うと握ったままの俺の手をブンブン振るアオイ。まあ、いいか。可愛いし。
「お姉さまったら」
反対にモアは頬を膨らませてむくれている。
「お姉さまはモアのお姉さまなのに」
どうしたんだモア。今まで他の女の子にキャーキャー言われたりプレゼントを貰っても、そんな風に拗ねたことなんて無かったじゃないか?
「フン」
アオイの姉、ヒイロも、刀を鞘に納めながらそっぽを向く。うーん、こちらはこちらで何故か機嫌が悪いみたいだ。
そして火山のようにカンカンに怒っている者がもう一人……
「ひ~め~さ~ま~!」
「げっ、爺や」
そこには怒りで顔を真っ赤にした爺やが居た。
「あれほど無茶をなさらぬようにと何度も何度も」
「わ、悪かったよー!!」
俺は爺やのお小言を食らう前にダッシュで逃げ出した。
「あっお待ちくだされ、姫様、姫様ーー!!」
こうして、暗殺未遂事件は一応の決着をしたのだが……この時俺は知らなかった。この事件が全ての始まりだったのだってことに。
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