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1.お姉様と国王暗殺未遂事件

5.モアの成長

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 俺は兄さんをじろりと睨んだ。

「それより兄さ……陛下、アビゲイル姉さんは?」

 わざと去年結婚したばかりの奥さんの名前を出す。

 だがこの攻撃にもめげず、兄さんはへらへら笑う。

「え~? なんだよ~こういう時ぐらい好きにさせてくれよ~」

 クズだ。こいつは人間のクズだ。思わず眉間にしわを寄せてしかめっ面をする。

 妻帯者の身でありながらあっちに美女がいると聞けば口説きに行き、こちらに美少女がいると聞けば浮気をしに行くその根性、何とかならないものかね。

 不倫なんてもってのほかだと俺は思う。たとえ愛情の伴わない政略結婚だったとしても、一度生涯を共にすると誓った夫婦なのだから。それを破るなんて男らしくなーーーい!!!!


 もし俺が男に生まれてたら、俺はレオ兄さんと違って硬派だから、あんなのよりずっといい男になってたのに。

 実際女の姿の今の時点ですら、兄さんより俺ははるかにモテモテだ。

 女の子からもらったファンレターの数でもプレゼントの数でも、俺の人気は兄さんを上回っている。

 ただ、女の体なのでいくらモテても女の子とは付き合えないのが残念だけど。

「二人とも可愛くて目立つから、へんな男につかまるんじゃないぞっ」

 レオ兄さんがウインクしながら言う。

 変な男なら目の前にいるんですが、と言いたいところをぐっと堪える。

「大丈夫よ。会場中を見回しても、お兄様みたいな素敵な人はいないし」

 モアがにっこり笑う。うーん、お世辞がうまい!

「そりゃあ、身近にいる男の人が陛下じゃあ、好みの男性のハードルも上がりますわよねぇ」
「本当に! 羨ましいわぁ。オホホホホ」

 とりまきの貴婦人たちが笑う。

「そ、そうですね……オホホ」

 俺も棒読みで笑った。
 いやいや、こんな男のどこが良いんだ? やっぱり顔? 世の中顔か?

「やっぱり、モアの好みのタイプは兄さまみたいなすらっとした男前なのかい?」

 レオ兄さまがモアに尋ねる。おいおい、自分でそれを言うか。

 でも俺もモアの好みのタイプは気になる。

 どんなのがいいんだ? 優しい王子様タイプか? それとも、クールでちょっとドSな感じとかか?
 知ってるぞ、最近婦人たちの間でそういう小説が人気なのは。

 じっとモアの顔を見つめていると、モアは少し赤くなりながら、恥ずかしそうに答えた。

「モアはお姉さまみたいな勇敢な方がいい」

 頭の中で、鐘が鳴り響く。
 パイプオルガンが鳴り響き、白い教会の上をハトが飛んでいく。

 モ……モアアアアアアアア!!

 その一言で、俺は天にも昇る気持ちになった。

 ううっ! やっぱりモアはいい子だ!!

 俺は涙を拭う。

「大丈夫? お姉様」

 モアが心配げに俺の顔を覗き込む。

「い、いや、大丈夫だ。ちょっと天に召されそうになっただけだ」

「それ、結構大ごとじゃないか」

 兄さんのツッコミを無視し、感動に浸る。
 そっかあ。モアは俺のような人が良いんだな。

 でも……

 嬉しくなりつつも、少し寂しさにも襲われる。

 あれはモアが5歳か6歳ぐらいの時だっただろうか。

「モアは将来どんな人と結婚したいんだ?」

 そう俺が尋ねると、モアは満開の笑顔でこう答えたんだ。

「モアはねー、お姉さまと結婚するの♡」

 まあさすがにあの時とは違うよな。モアが結婚したいのは俺みたいに勇敢で、でも俺とは違う男の人なんだ。

 さすがに、姉と妹で結婚出来ない事ぐらい分かる年齢だ。

 俺はモアの成長を喜ぶと同時に、少し寂しくもなった。

 
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