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1.お姉様と国王暗殺未遂事件
4.舞踏会へ
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翌日。舞踏会の朝。
「わあ、お姉さま可愛い!」
モアが天使の笑顔で俺を誉めそやす。俺は頭をかいた。
「そうかな。こんなフリフリ、なんつーか、あんまり落ち着かねーんだが」
「そんな事ないよ。可愛いよ! いつもよりずーっと女の子らしい!」
モアが力説する。可愛いのはモアのほうだ。
「モアこそ。いつもに増して可愛いぞ」
「もうー、お姉さまったら!」
モアがピンク地に水色と白のリボン、フリルのたっぷりついたドレスを着てくるくると回る。まるで雪の妖精みたいだ。
俺はというと、白地に黄緑のリボンのついたドレス。もちろん頭にはお揃いの髪飾り。
このドレスはモアが選んでくれたものだ。
初めは俺もピンクのフリフリだったんだけど、そんなフリフリ着れるかとゴネて、リボンやフリルの控えめな、色もデザインも落ち付いたものになったのだ。
どうせ女に生まれたんならダサいゴリラみたいな女よりは可愛い美少女になりたい――そういう気持ちもない訳では無いが、どうもこの世界の服装のセンスは俺には合わない。
やたらにフリルやリボンをつけたり。俺はもっと動きやすいほうがいいのに。
柱時計が舞踏会の始まりを告げる。
「いけない、舞踏会が始まっちゃった! 早く行かなきゃ」
モアが時計を見て飛び上がる。
舞踏会の場所は王宮の母屋一階にある大広間。俺たち王家の住む部屋は離れの三階にあるから少し離れてる。
二人で大広間へ向けて走る。
「あークソだりぃ」
「しっかりして、お姉さま」
だってよー、やっぱり舞踏会なんて面倒臭いんだもん。
「姫様っ!」
鋭い声に振り返ると、爺やが自慢の禿頭を光らせて走ってくる。
「げっ」
「『げっ』ではありません! くれぐれもはしたない真似はしないように」
「分かってるよ」
「言葉遣いは丁寧に、お客様に粗相のないようにするのですぞ」
「はいはい」
「女性らしく、恥じらいを持って!」
「分かったってば」
全く、しつこいなぁ。
「く・れ・ぐ・れ・も! 暴力など振るわぬよーーに!」
「分かってるってば!」
全く、心配しなくても大丈夫だっての!
しつこい爺やを軽くあしらい会場に着くと、豪華な装飾に彩られた扉を開ける。
「わあ、人がいっぱい」
中の光景を見るや否や、モアが目を輝かせた。
大広間にはきらびやかなドレスを着た身なりの良い男女が大勢いて、ピアノの音色に合わせて踊ったり、酒を手に談笑したりしている。
目が眩むようなきらびやかな光景に息を飲む。
ここエリス王国は、大陸の西南に位置するこれといった資源も特産物もない小国ではある。
だが周囲を囲むフェリル、イルク、ゲルーク、デナンという大国との貿易の中継地点としてそれなりに栄えている。
見ると、それらの大国の王族や貴族たち、さらには少し離れた北方の大国アレスシアや南方ブレナレットの王族まで数多く来ているようだ。
「なんだか人ごみに酔いそうだぜ」
ため息をつく俺を見て、モアはくすりと笑う。そしてきょろきょろと辺りを見回し不思議そうな顔をした。
「そういえば、レオ兄様は来てないのかな?」
「来ているに決まってるだろ! ほらあそこ!」
俺は、壁際で貴婦人たちを侍らせている金髪の男を指さした。
レオ兄さんは俺より五歳年上の兄貴で、一応この国の王様なのだが、俺はこの人が少し苦手だ。
俺が冒険者になりたいってのをよく思ってないってのもあるけど、それだけじゃない。
「本当だ! お兄様ー!」
「あ、おい!」
モアが駆けていくので、仕方なく俺もその後を追い、レオ兄さんのもとへと走る。
レオ兄さんが俺たちに気づいて振り向いた。程よく筋肉のついた細身の長身。さらさらと流れるような金髪。鮮やかなグリーンの瞳。腹が立つぐらい整ったその顔。
「やあ、僕の子猫ちゃんたち!」
兄さんが少し微笑んだその瞬間、白い歯がきらりと光り、背中にキラキラと星や薔薇のエフェクトが舞った……ように見えた。
「キャーッ!」
取り巻きの貴婦人の内の一人が失神する。
「しっかり、カトリーヌ!」
「わたくしももうダメですわ。あの瞳に見つめられただけで蕩けてしまいます」
「ああ、あの美しい緑の瞳、流れるような金の髪」
何の冗談だ?
そりゃあ、兄さんはその辺の男よりは見た目は良いのかも知れないけど、そんなに騒ぐ程だろうか。
モアの可愛さの方がもっとずっと、一大事なんだけどなあ。
「あらっ、そちらもしや陛下の妹君ですの? 二人とも可愛いのね。特にミア姫様は陛下そっくり! まるで双子のよう」
貴婦人のうちの一人がそう言ってにっこり笑う。
うっ!
確かにはたから見ると俺とレオ兄さんは似ているのかもしれない。
金髪のサラサラストレート。少し釣り目気味の鮮やかなグリーンの瞳。
今日の服装を見ても、事前に打ち合わせもしていないというのに、レオ兄さんは白い燕尾服に黄緑色の蝶ネクタイといういで立ち、俺はと言うと緑リボンのついた白いドレスを着ている。はたから見たらペアルックに見えなくもない。
「でも俺はレオ兄さんみたいにキザでナルシストなチャラ男じゃないから」
ふん、と横を向く。
「まぁ」
目を丸くする貴婦人たち。
「ははは。これは参った」
レオ兄さんが笑う。笑い事か?
「でも、君もモアに関しては中々にキザじゃないか?」
「良いんだよ! モアが妖精で天使で女神なのは事実なんだから!」
「お、お姉様」
顔を真っ赤にするモア。
何か、間違ったこと言ったか?
「わあ、お姉さま可愛い!」
モアが天使の笑顔で俺を誉めそやす。俺は頭をかいた。
「そうかな。こんなフリフリ、なんつーか、あんまり落ち着かねーんだが」
「そんな事ないよ。可愛いよ! いつもよりずーっと女の子らしい!」
モアが力説する。可愛いのはモアのほうだ。
「モアこそ。いつもに増して可愛いぞ」
「もうー、お姉さまったら!」
モアがピンク地に水色と白のリボン、フリルのたっぷりついたドレスを着てくるくると回る。まるで雪の妖精みたいだ。
俺はというと、白地に黄緑のリボンのついたドレス。もちろん頭にはお揃いの髪飾り。
このドレスはモアが選んでくれたものだ。
初めは俺もピンクのフリフリだったんだけど、そんなフリフリ着れるかとゴネて、リボンやフリルの控えめな、色もデザインも落ち付いたものになったのだ。
どうせ女に生まれたんならダサいゴリラみたいな女よりは可愛い美少女になりたい――そういう気持ちもない訳では無いが、どうもこの世界の服装のセンスは俺には合わない。
やたらにフリルやリボンをつけたり。俺はもっと動きやすいほうがいいのに。
柱時計が舞踏会の始まりを告げる。
「いけない、舞踏会が始まっちゃった! 早く行かなきゃ」
モアが時計を見て飛び上がる。
舞踏会の場所は王宮の母屋一階にある大広間。俺たち王家の住む部屋は離れの三階にあるから少し離れてる。
二人で大広間へ向けて走る。
「あークソだりぃ」
「しっかりして、お姉さま」
だってよー、やっぱり舞踏会なんて面倒臭いんだもん。
「姫様っ!」
鋭い声に振り返ると、爺やが自慢の禿頭を光らせて走ってくる。
「げっ」
「『げっ』ではありません! くれぐれもはしたない真似はしないように」
「分かってるよ」
「言葉遣いは丁寧に、お客様に粗相のないようにするのですぞ」
「はいはい」
「女性らしく、恥じらいを持って!」
「分かったってば」
全く、しつこいなぁ。
「く・れ・ぐ・れ・も! 暴力など振るわぬよーーに!」
「分かってるってば!」
全く、心配しなくても大丈夫だっての!
しつこい爺やを軽くあしらい会場に着くと、豪華な装飾に彩られた扉を開ける。
「わあ、人がいっぱい」
中の光景を見るや否や、モアが目を輝かせた。
大広間にはきらびやかなドレスを着た身なりの良い男女が大勢いて、ピアノの音色に合わせて踊ったり、酒を手に談笑したりしている。
目が眩むようなきらびやかな光景に息を飲む。
ここエリス王国は、大陸の西南に位置するこれといった資源も特産物もない小国ではある。
だが周囲を囲むフェリル、イルク、ゲルーク、デナンという大国との貿易の中継地点としてそれなりに栄えている。
見ると、それらの大国の王族や貴族たち、さらには少し離れた北方の大国アレスシアや南方ブレナレットの王族まで数多く来ているようだ。
「なんだか人ごみに酔いそうだぜ」
ため息をつく俺を見て、モアはくすりと笑う。そしてきょろきょろと辺りを見回し不思議そうな顔をした。
「そういえば、レオ兄様は来てないのかな?」
「来ているに決まってるだろ! ほらあそこ!」
俺は、壁際で貴婦人たちを侍らせている金髪の男を指さした。
レオ兄さんは俺より五歳年上の兄貴で、一応この国の王様なのだが、俺はこの人が少し苦手だ。
俺が冒険者になりたいってのをよく思ってないってのもあるけど、それだけじゃない。
「本当だ! お兄様ー!」
「あ、おい!」
モアが駆けていくので、仕方なく俺もその後を追い、レオ兄さんのもとへと走る。
レオ兄さんが俺たちに気づいて振り向いた。程よく筋肉のついた細身の長身。さらさらと流れるような金髪。鮮やかなグリーンの瞳。腹が立つぐらい整ったその顔。
「やあ、僕の子猫ちゃんたち!」
兄さんが少し微笑んだその瞬間、白い歯がきらりと光り、背中にキラキラと星や薔薇のエフェクトが舞った……ように見えた。
「キャーッ!」
取り巻きの貴婦人の内の一人が失神する。
「しっかり、カトリーヌ!」
「わたくしももうダメですわ。あの瞳に見つめられただけで蕩けてしまいます」
「ああ、あの美しい緑の瞳、流れるような金の髪」
何の冗談だ?
そりゃあ、兄さんはその辺の男よりは見た目は良いのかも知れないけど、そんなに騒ぐ程だろうか。
モアの可愛さの方がもっとずっと、一大事なんだけどなあ。
「あらっ、そちらもしや陛下の妹君ですの? 二人とも可愛いのね。特にミア姫様は陛下そっくり! まるで双子のよう」
貴婦人のうちの一人がそう言ってにっこり笑う。
うっ!
確かにはたから見ると俺とレオ兄さんは似ているのかもしれない。
金髪のサラサラストレート。少し釣り目気味の鮮やかなグリーンの瞳。
今日の服装を見ても、事前に打ち合わせもしていないというのに、レオ兄さんは白い燕尾服に黄緑色の蝶ネクタイといういで立ち、俺はと言うと緑リボンのついた白いドレスを着ている。はたから見たらペアルックに見えなくもない。
「でも俺はレオ兄さんみたいにキザでナルシストなチャラ男じゃないから」
ふん、と横を向く。
「まぁ」
目を丸くする貴婦人たち。
「ははは。これは参った」
レオ兄さんが笑う。笑い事か?
「でも、君もモアに関しては中々にキザじゃないか?」
「良いんだよ! モアが妖精で天使で女神なのは事実なんだから!」
「お、お姉様」
顔を真っ赤にするモア。
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