31 / 34
6.いざ、魔王城
30.魔王城へ忍びこめ!
しおりを挟む
オーガは俺たちを家に招くと、お茶を出しながら話し始めた。
「私の名はウィートン。君たちは私が魔王側なんじゃないかと疑っているのかもしれないが、安心してくれ。私は君たちの味方だ」
「魔王は人間を憎んでいてオーガやオークを優遇していたのでは……」
セーブルさんが不思議そうな顔をする。
「前の政権の時は、この島では人間やオーガ、オーク、コボルトやケットシーも仲良く暮らしていた」
ウィートンはため息をついて遠くを見つめた。
「だけど封印から復活したゾーラが軍事政権を率いてクーデターを起こしてから、人間たちは住処《すみか》を終われたんだ」
ウィートンが言うには、島を去った人間たちに雇われていた多くのオーガも職を失い、そしてまもなく魔王復活のために重税がかけられるようになったのだという。
「そして困窮した住人たちは海賊や山賊になるようになり、国は荒廃してしまったんだ」
「そうだったのか」
ウィートンはガバリと頭を下げる。
「お願いだ! ゾーラを……魔王を倒してこの島に平和を取り戻してくれ!」
「ああ。そのつもりだ」
「ありがとうございます!!」
俺の手をがっしりと握るウィートン。
「今のまま街に降りればかなり目立ってしまいます。行動を起こすのは夜からがいいと思いますが、いかがでしょう、ここで身を隠しては」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらおう」
「ではこちらも、その隙に反魔王の仲間に情報を伝えておきます」
そう言うとウィートンは何やら手紙を書き、伝書鳩にくくりつけて放した。
トゥリンがヒソヒソと耳打ちする。
「大丈夫か? 罠じゃないのか?」
「いや」
俺はウィートンをじっと見た。
「多分大丈夫だ。あの人は信頼出来る」
鳩を飛ばし終わったウィートンは、サブローさんの頭を嬉しそうに撫でている。
舌を出して尻尾を振るサブローさん。サブローさんはウィートンにすっかり懐いたようで、お腹まで出してゴロゴロしている。
「大丈夫、サブローさんの目に狂いは無いはずだ」
俺たちはウィートンの家に身を隠し、日が落ちるのを待つことにした。
◇◆◇
日が落ちるのを待って、俺たちは街に出た。
スカーフやフードで顔を覆い、目立たないようにして街を駆け抜ける。まるで忍者だ。
「オーガたち、案外夜は出歩かないんだな」
街には薄ぼんやりとした提灯の灯りはついているものの、道を歩いているオーガは少ない。
「当たり前だ。夜に遊び歩くなんて人間くらいだぞ。エルフもドワーフも、皆夜は家族と一緒に静かに過ごすのが当たり前だ」
「そうなのか」
残業も飲み会もないなんて、むしろ過ごしやすい社会なのかもしれない。
「城が見えてきたぞ」
目の前にある建物の影に潜み様子を窺う。
月が城の周りのお掘りと、大きな門の前にいる二体の大きなオーガを照らす。
「見張りがいるです」
確かに、門の前には二体のオーガが立っていて城を守っている。
その他にも、数人のオーラが代わる代わる城の前を巡回して歩いている。
「あの見張りをなんとかしないとな」
俺たちが物陰に身を隠しながら辺りを伺っていると、急にオーガたちがざわめき出した。
「火事だ!」
見ると、城の反対側の方から火の手が上がっている。
「敵襲か!?」
「反魔王派のやつらか!?」
恐らくウィートンとその仲間たちの仕業だろう。
バタバタとオーガたちが火の手の上がった方向へと駆けていき、城の見張りが門の前の二人だけになる。いけるか!?
「トゥリン、ここから門番を狙えるか?」
「ああ、やってみる」
トゥリンが見張りのオーガに向かって手をかざす。
「アイス!」
トゥリンの氷魔法によってピキピキと二体のオーガが凍っていく。
「よし」
オーガの服を漁り、門の鍵をゲットする。
門を静かに開け、俺たちは城に潜入した。
城は山の上に建っている。門は山の入口にあるため、門の先は長い石の階段が続いている。
ひょっとしたら門の先に大勢敵が待ち構えているんじゃないかとも思ったが、城へと続く石段はしんと静まり返っていた。
「えらく静かだな」
トゥリンも辺りを見回す。
「罠じゃないといいけど」
「気を抜かず進もう」
ソロリソロリとしばらく石段を進むと、魔王城が見えてきた。
「あと少しだ!」
が、俺たちが階段の頂上まであと少しと迫ったその時、黒い大きな物体がこちらに向かって飛んできた。
「うわっ!」
右腕に鋭い痛み。
見ると、右腕に黒い大きな柴犬がかぶりついている。
「――なっ」
柴犬!? この世界に、サブローさん以外の柴犬が存在したのか。
驚きと同時に感動が胸の奥にこみ上げてくる。この世界には、犬がいたんだ!
「シバタ!」
弓を引こうとするトゥリン。
サブローさんも牙をむいて黒柴に飛びかかろうとする。
「待て!!」
俺の声に、サブローさんたちは困惑した表情で動きを止めた。
「貴重な犬だ。傷つけないでくれ」
俺は極力腕を動かさないようにしながら叫んだ。犬に噛まれた場合、急に引き抜いたり動かすとかえって危険なのだ。
「でも……」
唸り声を上げるサブローさんの首輪を抑えながらも、不満げな顔をするトゥリン。
「大丈夫だ」
俺はポケットから青い風呂敷を取り出すと、黒柴の目を塞いだ。
急に視界を奪われた黒柴は一瞬怯む。その隙に、俺は柴犬の横腹を蹴ってやる。
「ハッハッハッハッ」
俺の思わぬ反撃に、黒柴はカパリと口を開ける。その隙に、俺は素早く後に飛び退いた。
「シバタ!」
「大丈夫だ」
「でも、血が出てるです!」
モモに言われて腕を見る。
興奮していて気づかなかったが、確かにかなりの血が出てる。
大型犬に噛まれたならともかく、柴犬に噛まれただけでこんなにも血が出るものなのだろうか。
セーブルさんが腕を引く。
「こちらへ」
傷口に手をかざすセーブルさん。
赤く染まった腕が、見る見るうちに治癒していく。
「良かった」
ほっと息を吐く。
「ふはははははははハ」
頭上から甲高い笑い声が響いた。
「誰だ!?」
「この声は……」
聞き覚えがある。
「四天王の一人、ゾーラか! まだ生きていたとは」
船の中で戦って倒したと思っていたが、しぶとい奴め。
「ふふふふふ、よもや夢の中でのあの一戦だけで私を倒したつもりだったのか?」
だが闇の中から現れたのは、紺色のセーラー服を着た、黒髪の女の子だった。
この子、どこかで見覚えが……って!
「ムギちゃんの飼い主!?」
自分が転生した時のことを思い出す。
確かあの時、俺はムギちゃんとその飼い主に会って、それで犬好きな友達を作ろうと決意して、その後暴走したトラックに跳ねられて……
「まさか、ムギちゃんたちまでこちらの世界に来ていたとは」
ゾーラは笑う。
「この体の持ち主は、お前らが来たのとほぼ同時にこの世界にやって来た。私はこいつらの召喚の波動を察知し、先回りして不意打ちをし、この体を乗っ取ったのだ」
「なんて卑怯な」
もしかしてら俺の召喚に巻き込まれて?
それとも、俺は六割の確率で勇者とかミアキスは言っていたが、残りの四割はこの子という事なのだろうか。
「無駄話はいい」
低い声が柴犬ムギちゃんの方から聞こえてきた。
ムギちゃんの口は動いていないので、恐らく魔法かテレパシーのような力で声を出しているのだろう。
「さっさとコイツらを始末して魔王様を復活させよう」
「ああ、そうだな」
ゾーラが頷く。
「フフフ、この柴犬には俺の弟で、魔王四天王ガノフの魂が入っている。今は本体が無く魂だけの存在ではあるが、それでも今までの敵とは格が違う相手よ」
不気味な笑い声が響く。
確かに、目の前のムギちゃんからは今までの敵とは違うとてつもないオーラを感じる。
「シバタ、私は貴様の弱点をもう見抜いている」
「何だと?」
「貴様の弱点は――柴犬だ。可愛いワンコを傷つけることなんてできないだろう?」
ドキリと心臓が鳴る。
な、なんて卑怯なやつだ!
「この卑怯者め!」
トゥリンがゾーラに矢を放つ。
「よせ!」
ゾーラは今、ムギちゃんの飼い主に乗り移ってる。操られてるだけだ。
だが幸か不幸かゾーラは、ヒラリとその矢を避けた。
「ふふ、あとは頼んだぞ、ガノフ」
「ああ」
ゾーラはガノフを後に残し城の中に消えた。
「さて……」
黒柴――いや、四天王ガノフは俺ににじり寄る。
目の前に立っているだけで物凄い圧を感じる。一目で実力差があることが分かった。しかも、可愛い黒柴ちゃんの体の中に入っている。
「貴様が勇者か。何とも弱そうな面構えだ」
ガノフはフン、と鼻を鳴らす。
弱そうというか、弱いんだけど。
「パワータイプの俺と違って、兄貴は智謀タイプだから、貴様の弱点を色々と研究していたようだが、そんなに警戒する必要もあったようには見えないな」
「余計なお世話だ」
俺は武器を構えた。
畜生。こんなのどうやって戦えばいいんだ? 可愛いムギちゃんを傷つけるわけにはいかないし。
「こんなちっぽけな獣の体に入れられてどうなるかと思ったが、これなら貴様も倒せそうだな」
ガノフが笑う――瞬間、その体が消えた。
「シバタ!!」
「え?」
俺が戸惑っていると、急に黒い影が目の前に飛び込んできた。
早っ――
飛び散る鮮血。
首筋に鋭い痛み。
「シバタァァァァァァァ!!」
「ご主人!!」
見ると、俺の首筋にガノフが噛み付いている。血が噴水みたいに噴き出す。
あ、やばい。
これ、死んだわ。
--------------------------
◇柴田のわんわんメモ🐾
◼犬に噛まれた時の対処法
・引っ張ったりするのは犬の牙の構造上かえって危険。犬の目に布をかけたり水をかけるなどし、視界を覆うのが有効。犬が怯み口元を緩めた隙に腕を引き離そう。
・犬に噛まれた傷はすぐに水で洗い流し、消毒をする。犬の口の中には雑菌が沢山居るので大した傷でなくても病院へ行くこと。飼い主がいたら、連絡先や予防接種の接種歴などを聞ければベスト。
「私の名はウィートン。君たちは私が魔王側なんじゃないかと疑っているのかもしれないが、安心してくれ。私は君たちの味方だ」
「魔王は人間を憎んでいてオーガやオークを優遇していたのでは……」
セーブルさんが不思議そうな顔をする。
「前の政権の時は、この島では人間やオーガ、オーク、コボルトやケットシーも仲良く暮らしていた」
ウィートンはため息をついて遠くを見つめた。
「だけど封印から復活したゾーラが軍事政権を率いてクーデターを起こしてから、人間たちは住処《すみか》を終われたんだ」
ウィートンが言うには、島を去った人間たちに雇われていた多くのオーガも職を失い、そしてまもなく魔王復活のために重税がかけられるようになったのだという。
「そして困窮した住人たちは海賊や山賊になるようになり、国は荒廃してしまったんだ」
「そうだったのか」
ウィートンはガバリと頭を下げる。
「お願いだ! ゾーラを……魔王を倒してこの島に平和を取り戻してくれ!」
「ああ。そのつもりだ」
「ありがとうございます!!」
俺の手をがっしりと握るウィートン。
「今のまま街に降りればかなり目立ってしまいます。行動を起こすのは夜からがいいと思いますが、いかがでしょう、ここで身を隠しては」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらおう」
「ではこちらも、その隙に反魔王の仲間に情報を伝えておきます」
そう言うとウィートンは何やら手紙を書き、伝書鳩にくくりつけて放した。
トゥリンがヒソヒソと耳打ちする。
「大丈夫か? 罠じゃないのか?」
「いや」
俺はウィートンをじっと見た。
「多分大丈夫だ。あの人は信頼出来る」
鳩を飛ばし終わったウィートンは、サブローさんの頭を嬉しそうに撫でている。
舌を出して尻尾を振るサブローさん。サブローさんはウィートンにすっかり懐いたようで、お腹まで出してゴロゴロしている。
「大丈夫、サブローさんの目に狂いは無いはずだ」
俺たちはウィートンの家に身を隠し、日が落ちるのを待つことにした。
◇◆◇
日が落ちるのを待って、俺たちは街に出た。
スカーフやフードで顔を覆い、目立たないようにして街を駆け抜ける。まるで忍者だ。
「オーガたち、案外夜は出歩かないんだな」
街には薄ぼんやりとした提灯の灯りはついているものの、道を歩いているオーガは少ない。
「当たり前だ。夜に遊び歩くなんて人間くらいだぞ。エルフもドワーフも、皆夜は家族と一緒に静かに過ごすのが当たり前だ」
「そうなのか」
残業も飲み会もないなんて、むしろ過ごしやすい社会なのかもしれない。
「城が見えてきたぞ」
目の前にある建物の影に潜み様子を窺う。
月が城の周りのお掘りと、大きな門の前にいる二体の大きなオーガを照らす。
「見張りがいるです」
確かに、門の前には二体のオーガが立っていて城を守っている。
その他にも、数人のオーラが代わる代わる城の前を巡回して歩いている。
「あの見張りをなんとかしないとな」
俺たちが物陰に身を隠しながら辺りを伺っていると、急にオーガたちがざわめき出した。
「火事だ!」
見ると、城の反対側の方から火の手が上がっている。
「敵襲か!?」
「反魔王派のやつらか!?」
恐らくウィートンとその仲間たちの仕業だろう。
バタバタとオーガたちが火の手の上がった方向へと駆けていき、城の見張りが門の前の二人だけになる。いけるか!?
「トゥリン、ここから門番を狙えるか?」
「ああ、やってみる」
トゥリンが見張りのオーガに向かって手をかざす。
「アイス!」
トゥリンの氷魔法によってピキピキと二体のオーガが凍っていく。
「よし」
オーガの服を漁り、門の鍵をゲットする。
門を静かに開け、俺たちは城に潜入した。
城は山の上に建っている。門は山の入口にあるため、門の先は長い石の階段が続いている。
ひょっとしたら門の先に大勢敵が待ち構えているんじゃないかとも思ったが、城へと続く石段はしんと静まり返っていた。
「えらく静かだな」
トゥリンも辺りを見回す。
「罠じゃないといいけど」
「気を抜かず進もう」
ソロリソロリとしばらく石段を進むと、魔王城が見えてきた。
「あと少しだ!」
が、俺たちが階段の頂上まであと少しと迫ったその時、黒い大きな物体がこちらに向かって飛んできた。
「うわっ!」
右腕に鋭い痛み。
見ると、右腕に黒い大きな柴犬がかぶりついている。
「――なっ」
柴犬!? この世界に、サブローさん以外の柴犬が存在したのか。
驚きと同時に感動が胸の奥にこみ上げてくる。この世界には、犬がいたんだ!
「シバタ!」
弓を引こうとするトゥリン。
サブローさんも牙をむいて黒柴に飛びかかろうとする。
「待て!!」
俺の声に、サブローさんたちは困惑した表情で動きを止めた。
「貴重な犬だ。傷つけないでくれ」
俺は極力腕を動かさないようにしながら叫んだ。犬に噛まれた場合、急に引き抜いたり動かすとかえって危険なのだ。
「でも……」
唸り声を上げるサブローさんの首輪を抑えながらも、不満げな顔をするトゥリン。
「大丈夫だ」
俺はポケットから青い風呂敷を取り出すと、黒柴の目を塞いだ。
急に視界を奪われた黒柴は一瞬怯む。その隙に、俺は柴犬の横腹を蹴ってやる。
「ハッハッハッハッ」
俺の思わぬ反撃に、黒柴はカパリと口を開ける。その隙に、俺は素早く後に飛び退いた。
「シバタ!」
「大丈夫だ」
「でも、血が出てるです!」
モモに言われて腕を見る。
興奮していて気づかなかったが、確かにかなりの血が出てる。
大型犬に噛まれたならともかく、柴犬に噛まれただけでこんなにも血が出るものなのだろうか。
セーブルさんが腕を引く。
「こちらへ」
傷口に手をかざすセーブルさん。
赤く染まった腕が、見る見るうちに治癒していく。
「良かった」
ほっと息を吐く。
「ふはははははははハ」
頭上から甲高い笑い声が響いた。
「誰だ!?」
「この声は……」
聞き覚えがある。
「四天王の一人、ゾーラか! まだ生きていたとは」
船の中で戦って倒したと思っていたが、しぶとい奴め。
「ふふふふふ、よもや夢の中でのあの一戦だけで私を倒したつもりだったのか?」
だが闇の中から現れたのは、紺色のセーラー服を着た、黒髪の女の子だった。
この子、どこかで見覚えが……って!
「ムギちゃんの飼い主!?」
自分が転生した時のことを思い出す。
確かあの時、俺はムギちゃんとその飼い主に会って、それで犬好きな友達を作ろうと決意して、その後暴走したトラックに跳ねられて……
「まさか、ムギちゃんたちまでこちらの世界に来ていたとは」
ゾーラは笑う。
「この体の持ち主は、お前らが来たのとほぼ同時にこの世界にやって来た。私はこいつらの召喚の波動を察知し、先回りして不意打ちをし、この体を乗っ取ったのだ」
「なんて卑怯な」
もしかしてら俺の召喚に巻き込まれて?
それとも、俺は六割の確率で勇者とかミアキスは言っていたが、残りの四割はこの子という事なのだろうか。
「無駄話はいい」
低い声が柴犬ムギちゃんの方から聞こえてきた。
ムギちゃんの口は動いていないので、恐らく魔法かテレパシーのような力で声を出しているのだろう。
「さっさとコイツらを始末して魔王様を復活させよう」
「ああ、そうだな」
ゾーラが頷く。
「フフフ、この柴犬には俺の弟で、魔王四天王ガノフの魂が入っている。今は本体が無く魂だけの存在ではあるが、それでも今までの敵とは格が違う相手よ」
不気味な笑い声が響く。
確かに、目の前のムギちゃんからは今までの敵とは違うとてつもないオーラを感じる。
「シバタ、私は貴様の弱点をもう見抜いている」
「何だと?」
「貴様の弱点は――柴犬だ。可愛いワンコを傷つけることなんてできないだろう?」
ドキリと心臓が鳴る。
な、なんて卑怯なやつだ!
「この卑怯者め!」
トゥリンがゾーラに矢を放つ。
「よせ!」
ゾーラは今、ムギちゃんの飼い主に乗り移ってる。操られてるだけだ。
だが幸か不幸かゾーラは、ヒラリとその矢を避けた。
「ふふ、あとは頼んだぞ、ガノフ」
「ああ」
ゾーラはガノフを後に残し城の中に消えた。
「さて……」
黒柴――いや、四天王ガノフは俺ににじり寄る。
目の前に立っているだけで物凄い圧を感じる。一目で実力差があることが分かった。しかも、可愛い黒柴ちゃんの体の中に入っている。
「貴様が勇者か。何とも弱そうな面構えだ」
ガノフはフン、と鼻を鳴らす。
弱そうというか、弱いんだけど。
「パワータイプの俺と違って、兄貴は智謀タイプだから、貴様の弱点を色々と研究していたようだが、そんなに警戒する必要もあったようには見えないな」
「余計なお世話だ」
俺は武器を構えた。
畜生。こんなのどうやって戦えばいいんだ? 可愛いムギちゃんを傷つけるわけにはいかないし。
「こんなちっぽけな獣の体に入れられてどうなるかと思ったが、これなら貴様も倒せそうだな」
ガノフが笑う――瞬間、その体が消えた。
「シバタ!!」
「え?」
俺が戸惑っていると、急に黒い影が目の前に飛び込んできた。
早っ――
飛び散る鮮血。
首筋に鋭い痛み。
「シバタァァァァァァァ!!」
「ご主人!!」
見ると、俺の首筋にガノフが噛み付いている。血が噴水みたいに噴き出す。
あ、やばい。
これ、死んだわ。
--------------------------
◇柴田のわんわんメモ🐾
◼犬に噛まれた時の対処法
・引っ張ったりするのは犬の牙の構造上かえって危険。犬の目に布をかけたり水をかけるなどし、視界を覆うのが有効。犬が怯み口元を緩めた隙に腕を引き離そう。
・犬に噛まれた傷はすぐに水で洗い流し、消毒をする。犬の口の中には雑菌が沢山居るので大した傷でなくても病院へ行くこと。飼い主がいたら、連絡先や予防接種の接種歴などを聞ければベスト。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
【完結🍺釣り無双】異世界最強の島を釣り上げると、もふもふ+虐げられた聖女×お侍=SSSランクまでHITした結果が激ヤバだった件
竹本蘭乃
ファンタジー
瀬戸内の海で怪魚を釣り上げた、釣りが命よりも上位なヘンタイ――「島野大和」は気がつけば異世界の無人島にいた。
日本に帰ろうと必死に島内を動き回り、やっと島の中心の社から帰れると気がつく。
帰ろうとしたやさき、社の奥に黄金に輝く神の遺物とされる釣り道具――【ゴッド・ルアー】を見つけてしまう。
ダメだ! やめろ! ふれるな! 帰るんだろう!? と心が叫ぶが、釣りに狂った魂はそれを許さない。
震える両手で握れるほどの、魚の形をしたゴッド・ルアーを握りしめた瞬間、大和を囲む四つの真紅のとりい。
そこから無機質な声が響くと同時に、この島独自の風土病が発症し、体が急速に崩壊しだす。
痛く、苦しく、熱くもだえる大和。
そんな彼に無機質な存在は非常識な提案をする。
そう――このまま死ぬか、【釣りをするか】を選べ、と。
その結果、何故か十二歳ほどの子供の体になってしまい、さらにゴッド・ルアーへ触れたことで禁忌の島と呼ばれる〝神釣島〟の封印を解いてしまっていた。
異世界で伝説とまで呼ばれ、莫大な富と幻の資源。さらには貴重な薬草までが雑草として生える。
そんな神釣島だからこそ、世界の権力者がノドから手が出るほどに欲っするチカラがある。
そのチカラは、過去の傲慢な世界を一ヶ月で崩壊させ、あまりの凶暴さから自らが再封印したとされる、強力無比な神の特級戦力――四聖獣。
それら四つが神釣島に封印されており、その一つがとある条件をクリアした事で今、解き放たれた――すげぇ~でっけぇ~ヒヨコになって!!
「ぽみょ?」
「うぉ!? なんだ、あのでかいヒヨコは?! よし、焼いて食おう」
「ぽみょっぉぉ!?」
「そんな顔するなよ……ちっ、仕方ない。非常食枠で飼ってやる」
「ぽぽぽみょ~ん♪」
そんな、ビッグなひよこや、小狐のもふもふ。聖女にお侍まできちゃって、異世界でスローライフをする予定だが、世界はそれを許さず……
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
猫アレルギーだったアラサーが異世界転生して猫カフェやったら大繁盛でもふもふスローライフ満喫中です
真霜ナオ
ファンタジー
主人公の市村 陽は、どこにでもいるごく普通のサラリーマンだ。
部屋中が猫グッズで溢れるほどの猫好きな陽だが、重度の猫アレルギーであるために、猫に近づくことすら叶わない。
そんな陽の数少ない楽しみのひとつは、仕事帰りに公園で会う、鍵尻尾の黒猫・ヨルとの他愛もない時間だった。
ある時、いつものように仕事帰りに公園へと立ち寄った陽は、不良グループに絡まれるヨルの姿を見つける。
咄嗟にヨルを庇った陽だったが、不良たちから暴行を受けた挙句、アレルギー症状により呼吸ができなくなり意識を失ってしまう。
気がつくと、陽は見知らぬ森の中にいた。そこにはヨルの姿もあった。
懐いてくるヨルに慌てる陽は、ヨルに触れても症状が出ないことに気がつく。
ヨルと共に見知らぬ町に辿り着いた陽だが、その姿を見た住人たちは怯えながら一斉に逃げ出していった。
そこは、猫が「魔獣」として恐れられている世界だったのだ。
この物語は、猫が恐れられる世界の中で猫カフェを開店した主人公が、時に猫のために奔走しながら、猫たちと、そして人々と交流を深めていくお話です。
他サイト様にも同作品を投稿しています。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる