29 / 34
6.いざ、魔王城
28.サブローさんを探せ
しおりを挟む「さて、残り十匹か」
俺は十匹の柴犬をじっと見つめた。どの犬も人懐こそうに尻尾を振っている。可愛い。
「うーん、全部飼いたいな」
でもとにかくサブローさんを当てないことにはサブローさんは返ってこないので、真剣に十匹の犬を見比べる。
「この子はちょっと口吻《マズル》が長くてキツネ顔だな。うちのサブローさんはたぬき顔だし。この子はちょっと足が長くてスリムな気がする。この子は毛の色が若干濃いかな」
十匹から五匹に絞り込む。
ここまで来たらもうそろそろサブローさんを見つけたい所だが、残る五匹はほとんど見分けがつかないほど同じ顔だ。
飼い犬を見分けるなんて簡単だと思ったけど、まさかここまでそっくりな犬がいるとは。
「もしかしてサブローさんの兄弟なのかな。犬は一回の出産で五、六匹産むって言うし」
五匹の犬を代わる代わる見つめる。
「あれ、この子は最初に選んだ子だな。足に白い靴下がない」
足先の茶色い柴を一階に連れていく。残り四匹。
「この子は尻尾の巻きが足りない気がするな。この子は頭の毛の色が若干黒っぽい気がする」
残り二匹!
「うーん」
俺は二匹を何度も見比べた。
可愛い三角のお耳、少し黒の入った白地のお鼻と口元。まつ毛の生えたクリクリよく動くお目目。目の上の白く眉毛のようになった毛。少し細身の体を包むモフモフのの毛。可愛いクルリン尻尾。超プリティーなおしり……んきゃわわわっ!!
「二匹とも連れて帰りたいっ!」
だが、それはできないことは分かってる。サブローさんは一匹だけ。
「サブローさん」
呼ぶと二匹ともやってくる。二匹とも尻尾を振り、二匹とも顔を舐め、お腹を出してゴロゴロする。お腹の毛の模様も全く同じ。ちんたまの形も同じである。
「……もしかしてお前ら、クローン?」
それぐらい、そっくりなのである。
でも俺は飼い主だ。飼い犬たるもの、飼い犬くらい見分けなくては!
その時、船がグラリと揺れた。
「うわっ」
荒波に揉まれる船。俺はヘリに必死でしがみついた。二匹の柴も俺の足元に転がるようにやってくる。ザーザーと強くなる雨。
ゴロゴロゴロ……
雷光とともに、船はいっそう大きく揺れる。
「……わっ!?」
そして気がつくと、俺の体は海の中に投げ出されていた。
「冷たい!!」
黒い荒波に飲まれる体。必死で顔を出し息を吸う。
小さい頃、水泳教室に通ってはいたものの、もうだいぶ前の話だし、服が水を吸って重くて泳ぎにくい。
「船に戻れるだろうか……」
先程まで乗っていた船を見上げる。二階建てだし、誰かがロープでも垂らしてくれないことには登れそうもないほど高さがある。
いざとなったら鬼ヶ島まで泳いでいくしかない。
すると鳴り響く雷鳴と雨音の中、一匹の柴犬がこちらに向かって泳いでくる。
「サブローさん!?」
先程の二匹のうちの一匹だ。もう一匹は甲板からこちらを心配そうに見つめている。
バチャバチャと犬かきで俺の元に泳いできた茶色い柴犬。その濡れて黒くなった頭を思い切り撫でてやる。
「お前……サブローさんなのか!?」
「ハッハッハッハッ」
つぶらな黒い瞳。
――待てよ。サブローさんは水が怖くて泳げなかったし、雷も苦手なはず。
俺は二匹を再び見比べた。
船の上の柴犬と、目の前の柴犬。
いや、何を迷うことがある。
飼い犬というのは、飼い主に尽くすものだ。
俺は目の前のびしょびしょに濡れた犬を抱きしめる。
「――お前がサブローさんだ」
その瞬間、眩しい光が辺りを包む。
「うわっ!」
吹き荒れる風。俺はもう二度とサブローさんを離さないようギュッと抱きしめた。
やかて風と光が収まると、俺はいつの間にか船の上にいた。目の前には黒い影。
「フフフ……ハハハハ」
影はやがて怪しげな黒いマントを身にまとった男へと姿を変えた。
「お前……まさか、お前がゾーラか?」
「フフフ、その通り。まさかその獣を当てるとは」
やはりこの犬はサブローさんだったのか。
俺はほっと胸を撫で下ろす。
海の中に居たはずなのにいつの間にか船の上にいる、ということは先程までの出来事は幻覚だったのだろうか。
「ということは、もしかしてあの沢山いた犬たちも幻覚だったのか?」
「ああ、そうだ。どうだったかね? 私の幻覚魔法は」
「素晴らしい。毎日でもかけて欲しいくらいだ」
毎日犬に囲まれるなんて最高じゃないか!
俺が興奮していると、ゾーラが俺を奇妙な生物にでも遭遇したかのような目で見る。
「……お前、変わったやつだな」
「そうか?」
「まぁいい。あの幻覚を打ち破られるとは思ってもいなかったが、この至近距離から私の魔法攻撃は破れまい」
ゾーラは胸の前で手を組む。
「メガフレイム!!」
叫ぶと同時に、ゾーラの手からは巨大な火の玉が放たれる。
「うわっ!!」
俺は思わず目をつぶる。
と――
ブルルルルルルルルル!!
体にかかった水滴を跳ね除けようと、サブローさんが身を震わせる。
飛び散る水滴。サブローさんがブルブルとドリルのように体を震わせた瞬間、大きな風が巻き起こる。
「そ……そんな馬鹿な!」
サブローさんがブルブルした風圧に押され、火の玉がゾーラの元へと跳ね返っていく。
「くっ……」
ゾーラが腕を伸ばすと、ゾーラの目の前で火の玉が破裂した。
黒い煙が当たりに広がる。
「ま、まさか! 私のメガフレイムが……」
青い顔をするゾーラ。俺は叫んだ。
「サブローさん、火《ファイア》!!」
「ワン!!!!」
サブローさんの口から凄まじい勢いの炎が発せられる。
「フンっ、これしきの炎、私の反射魔法で……」
余裕の表情で腕を伸ばすゾーラ。
だがその腕に、炎をかき分け猛スピードで詰め寄ったサブローさんが噛み付く。
「ぐわっ!!」
反射魔法を封じられたゾーラに、サブローさんの吐いた炎が襲いかかる。
その赤黒い炎はゾーラを焼き尽くす。
「グオオオオオオ」
黒い灰が天に登っていく。
サブローさんは?
「サブローさん!!!!」
まずい。このままだとサブローさんも燃えてしまう!!
だが、炎が強すぎて近寄ることも出来ない。俺はじっと炎が収まるのを待った。
「……サブローさん」
炎が収まる。
辺りを焦げ臭い匂いだけが包む。
トコ、トコ、トコ。
煙が去り、ヨロヨロと真っ黒に煤けたサブローさんが歩いてくる。
「サブローさん!!」
サブローさんは尻尾を振ってこちらに歩いてくる。良かった。怪我は無さそうだ。
「くーん」
俺はギュッとサブローさんを抱きしめた。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる