上 下
6 / 34
2.エルフの里

5.豆柴と豆エルフ

しおりを挟む
 誤解を解くと、ギルンは真っ赤な顔をして咳払いをする。

「ところでだ、こいつはまだ子ギツネだから人間に懐くのかも知れんが、大人になると凶暴化して人を襲うんだ。早く森に返したほうがいい」

「何言ってるんだ。サブローさんは成犬だぞ」

 俺がサブローさんを飼い始めてから2年以上は経っている。

 小型犬の場約10ヶ月で成犬、大型犬でも1歳半で成犬になるのでサブローさんは小さく見えても立派な大人なのである。

「セイケン?」

「大人ってことだよ。サブローさんは豆柴ではないけど、大人にしては少し小さい。だから、よく子犬と間違われるけど、ちゃんとした成犬なんだ」

「マメシバ?」

「小さい柴犬を交配させて作った柴のことだ」

 トゥリンとギルンは分かったような分からないような顔をする。

「フーン。でもどうしてわざわざ小さいイヌを交配させて作るんだ」

「そのほうが可愛いからじゃないか?」

「可愛い?」

「日本……うちの国で人気があるのはどれも小さい犬なんだ。チワワにトイプードルにミニチュアダックスに」

 ちなみにこれらの人気ベスト3の犬種はほぼ十年以上ほとんど変わっていない。まさに日本における定番犬種と言えよう。

「ふーん、小さい方が人気、か。なんだかエルフの村とは逆だな」

 ギルンがトゥリンの肩を叩く。

「逆?」

 トゥリンは下を向いて恥ずかしそうに話し始めた。

「エルフの間では、背が高くて足が長い方が美人だとされている。だから背が低くて子供っぽい私は誰にも相手をされないんだ」

「全く、せめてもうちょっと足が長かったらなあ。同い年のマリンはあんなに美脚なのに」

 馬鹿にしたように笑うギルン。

「うるさい。ただ背が低いだけだ!」

 そうなのか。

 トゥリンの顔を見る。艶やかな金髪に透けるような白い肌。美しいエメラルドグリーンの瞳。少なくとも俺が知ってるどのアイドルよりも整っているように見える。

 もし日本にいたら「1000年に一度の美少女」なんて呼ばれて人気になっていてもおかしくはないのに、エルフの村では人気が無いんだな。

 日本では小型犬が人気だけど、アメリカではラブやゴールデン、シェパードといった大型犬が人気ベスト3らしいから、それと似たようなものなのだろうか。

 しょぼくれるトゥリンの肩を、ギルンはバンバンと叩いた。

「これでも僕より年上だし、大人なんだけどな。可哀想に。成長が止まるのが早すぎたんだ」

 エルフは不老長寿の生き物で、二十歳前後で外見の成長が止まるのが普通なのだが、なぜかトゥリンは十代前半で成長が止まってしまったという。

 ということは、やはりトゥリンが姉でギルンが弟だったのか。翻訳のバグじゃなかったんだな。

「トゥリンは豆エルフだね!」

 ギルンが笑う。
 俺は小さく息を吐きながら呟いた。

「でも俺の国では背の小さい女の方がモテるぞ」

「そ、そうなのか」

「トゥリンもミニチュアダックスみたいで可愛いし、きっと俺の国ではモテるに違いない!」

 トゥリンの顔が真っ赤になる。

「み、みにちゅあ? よく分からないが、それは褒めているのか!?」

「ああ」

 トゥリンは背が低くて短足なのを気にしているみたいだから、ダックスフンドが胴長短足の犬種であることはとりあえず黙っておく。

「ほーらギルン、いつも言ってる通りだろ? 私は外国人受けするんだって!」

 薄い胸を張るトゥリン。

「異国の人の好みは変わってるなぁ。絶対小さいよりスラッと背が高くて美脚な方がいいのに」

 ブツブツ言うギルンを横目に、トゥリンはにやけ顔をする。

「そうかあ……そうなのかあ~!」

 にやけるトゥリン。

「じゃ、じゃあ、シバタも小さいほうが好みなのか!?」

 頭の中で小型犬である柴犬と大型犬である秋田犬を思い浮かべる。どちらも可愛いが、どちらかと言えば、俺は柴犬派だ。

「まあ……そうだな」

 ギルンとトゥリンが顔を見あわせる。

「そ、そうか!」
 
 顔を赤くして目を輝かせるトゥリン。

 ギルンはそんな俺とトゥリンを交互に見ると、ゴホンと咳払いをした。

「じゃあ俺はこれで。後は若いもん二人だけでごゆっくり! ハハハ」

 俺とサブローさんが首を傾げていると、トゥリンは顔を真っ赤にした。

「シッ……シバタは体が弱ってるから、薬を飲んだらすぐに寝た方がいい!」

「ああ」

 言われた通り布団に入る。

「じゃあ、おやすみ!」

 顔を真っ赤にして部屋を出て行くトゥリン。変なの。


◇◆◇


 布団を被ってしばらく寝ていると、低い音でお腹が鳴る。

「そういえば、昨日から何も食べてなかったな」

「きゅうん」

 するとタイミング良く、トゥリンが野菜の入った麦のお粥のようなものを持ってきてくれた。

「ほらシバタ、お腹空いただろう? 私が腕によりをかけて作ったご飯だぞ! あーん」

 甲斐甲斐しくスプーンを差し出してくるトゥリン。

「えっ?」

「あーん!」

 強い語気に押され、渋々口を開ける。病人だから仕方ないのかな。

「うん、美味しい」

 久しぶりのご飯だ。味は少し薄いが、出汁のよく効いた優しい味だ。暖かいものが食べられてありがたい。

「そ、そうか! 美味しいか! どれ、もう一口……」

 トゥリンが再度粥を掬うと、サブローさんがヌッとトゥリンの横に現れた。

「サブローさん、近い!」

 トゥリンがサブローさんの顔を押しやる。サブローさんは口からヨダレをボトボト落として俺の粥を見つめている。

「サブローさんもお腹が空いたんだ」

「そ、そうか。ちょっと待ってろ」

 しばらくして、トゥリンはサブローさんの前にも何やら桶のようなものを置いた。

「サブローさんのご飯はこんな感じでいいか?」

 見ると、桶の中には人参やキャベツなどの野菜の切れ端や麦、茹でた鶏肉の欠片が入っている。

「ああ。ありがとう」

 俺が合図すると、サブローさんはガツガツと肉やキャベツを食べ始めた。

「それとこれ」

 トゥリンは綱を俺に差し出した。

「綱?」

「ああ。可哀想だが、皆が怖がるのでサブローさんを外に出す時はこれで繋いでおいたほうがいい。そのほうが野生の獣と勘違いされなくて済むし」

「なるほど。ではこれを散歩綱《リード》にするか」

 俺は綱を受け取った。確かにその方がいいかもしれない。また弓で攻撃されたら大変だし。

「だが、繋いでおくための首輪がない」

 そう言えば、事故で死んだ時は赤い首輪を付けていたのに、サブローさんの首からはいつの間にか首輪が無くなっている。

 もしかするとミアキスが取ってしまったのかもしれない。クソッ、あの女神め。

「その布じゃダメか」

 トウリンはウサギを包んでいる青い風呂敷を指差した。

 俺は風呂敷をサブローさんの首に巻いてみた。うん、似合わない。

 サブローさんは青が致命的に似合わないのだ。

「それにちょっと布地が弱くてこれじゃ心もとないな」

 俺が風呂敷をサブローさんにつけていると、トゥリンがウサギを手に叫んだ。

「お前これ、カーバンクルじゃないか!」

「ん? その獣のことか。珍しいのか?」

 トゥリンは俺の肩を揺さぶる。

「ああ! こいつは超レアで珍しい上に、知能はA、素早さSランクで捕まえるのが難しいんだ。どうやってこれを!?」

「サブローさんが捕まえたんだ」

「サブローさんが!?」

 トゥリンがゴクリと息を飲みサブローさんを見やる。

「サブローさん、お前すごいなあ」

 偶然だと思うけど。

「カーバンクルは別名幸運の獣と言われていて、見た者に幸運をもたらすんだ。身は焼いて食えば柔らかくて美味いし、額にはまった宝石は重要な魔力アイテムになる。素晴らしい獣だぞ」

 恍惚の表情を浮かべるトゥリン。
 どうやら相当貴重な獣らしい。

-------------------------

◇柴田犬司《しばたけんじ》 18歳

職業:勇者
所持金:金貨3枚
通常スキル:言語適応、血統書開示《ステータス・オープン》
特殊スキル:なし
装備:柴犬
持ち物:カーバンクル、散歩綱  new

--------------------------


 チラリとカーバンクルを見る。
 ひょっとして、これを売れば首輪が手に入るだろうか。

 すっかりご飯を食べ終え丸くなっているサブローさんに目をやる。

 確かに首輪がないと「野の獣」にしか見えない。

 早く首輪を手に入れないと。



--------------------------

◇柴田のわんわんメモ🐾

◼豆柴

・豆柴は小さいサイズの柴犬を交配させて作った犬のこと。ただ小さいだけで柴犬から独立した犬種では無いので、日本の主要な登録機関で公認はされていない。


◼犬の寿命と年齢

・犬の寿命は大体10~15歳。小型犬の方が大型犬よりも長生きする傾向にある
・犬の1歳は人間でいう17歳~20歳程度に当たり、その後1年につき4歳ほど歳をとると言われている
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結🍺釣り無双】異世界最強の島を釣り上げると、もふもふ+虐げられた聖女×お侍=SSSランクまでHITした結果が激ヤバだった件

竹本蘭乃
ファンタジー
瀬戸内の海で怪魚を釣り上げた、釣りが命よりも上位なヘンタイ――「島野大和」は気がつけば異世界の無人島にいた。 日本に帰ろうと必死に島内を動き回り、やっと島の中心の社から帰れると気がつく。 帰ろうとしたやさき、社の奥に黄金に輝く神の遺物とされる釣り道具――【ゴッド・ルアー】を見つけてしまう。 ダメだ! やめろ! ふれるな! 帰るんだろう!? と心が叫ぶが、釣りに狂った魂はそれを許さない。 震える両手で握れるほどの、魚の形をしたゴッド・ルアーを握りしめた瞬間、大和を囲む四つの真紅のとりい。 そこから無機質な声が響くと同時に、この島独自の風土病が発症し、体が急速に崩壊しだす。 痛く、苦しく、熱くもだえる大和。 そんな彼に無機質な存在は非常識な提案をする。 そう――このまま死ぬか、【釣りをするか】を選べ、と。 その結果、何故か十二歳ほどの子供の体になってしまい、さらにゴッド・ルアーへ触れたことで禁忌の島と呼ばれる〝神釣島〟の封印を解いてしまっていた。 異世界で伝説とまで呼ばれ、莫大な富と幻の資源。さらには貴重な薬草までが雑草として生える。 そんな神釣島だからこそ、世界の権力者がノドから手が出るほどに欲っするチカラがある。 そのチカラは、過去の傲慢な世界を一ヶ月で崩壊させ、あまりの凶暴さから自らが再封印したとされる、強力無比な神の特級戦力――四聖獣。 それら四つが神釣島に封印されており、その一つがとある条件をクリアした事で今、解き放たれた――すげぇ~でっけぇ~ヒヨコになって!! 「ぽみょ?」 「うぉ!? なんだ、あのでかいヒヨコは?! よし、焼いて食おう」 「ぽみょっぉぉ!?」 「そんな顔するなよ……ちっ、仕方ない。非常食枠で飼ってやる」 「ぽぽぽみょ~ん♪」 そんな、ビッグなひよこや、小狐のもふもふ。聖女にお侍まできちゃって、異世界でスローライフをする予定だが、世界はそれを許さず……

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

猫アレルギーだったアラサーが異世界転生して猫カフェやったら大繁盛でもふもふスローライフ満喫中です

真霜ナオ
ファンタジー
主人公の市村 陽は、どこにでもいるごく普通のサラリーマンだ。 部屋中が猫グッズで溢れるほどの猫好きな陽だが、重度の猫アレルギーであるために、猫に近づくことすら叶わない。 そんな陽の数少ない楽しみのひとつは、仕事帰りに公園で会う、鍵尻尾の黒猫・ヨルとの他愛もない時間だった。 ある時、いつものように仕事帰りに公園へと立ち寄った陽は、不良グループに絡まれるヨルの姿を見つける。 咄嗟にヨルを庇った陽だったが、不良たちから暴行を受けた挙句、アレルギー症状により呼吸ができなくなり意識を失ってしまう。 気がつくと、陽は見知らぬ森の中にいた。そこにはヨルの姿もあった。 懐いてくるヨルに慌てる陽は、ヨルに触れても症状が出ないことに気がつく。 ヨルと共に見知らぬ町に辿り着いた陽だが、その姿を見た住人たちは怯えながら一斉に逃げ出していった。 そこは、猫が「魔獣」として恐れられている世界だったのだ。 この物語は、猫が恐れられる世界の中で猫カフェを開店した主人公が、時に猫のために奔走しながら、猫たちと、そして人々と交流を深めていくお話です。 他サイト様にも同作品を投稿しています。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...