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8.魔王様vs魔王様

47.魔王様と激闘

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 完全に油断してた。避けきれるか!?
 
 だが向こうのスピードが僅かに俺を上回っている。職種は俺の腕を貫き、腕が地面に落ちた――かと思われた。

「えっ?」

 が、俺の腕は一瞬の内に再び元通りにくっついた。全身が暖かい光に包まれている。俺だけじゃない。ルリハとカナリスも。

 これは、回復魔法《ヒール》?

「大丈夫ですか、魔王様」

 現れたのは、レノル――と、黒い首輪をつけた女子、セリである。セリはまるで母猫に運ばれた子猫のようにレノルに首根っこを掴まれている。

「てめぇっ、離せ! 私はマオの使い魔にはなったけど、てめぇの部下になったつもりは無いっ!」

「何言ってるんですか、私は彼の右腕ですよ。つまり部下の中で一番偉いんです。だからあなたも私の言うことを聞きなさい」

「絶対嫌だ!! つーが離せよ!!」

「やれやれ、煩い犬だ」

 レノルが手を離すと、セリはズデッ、と地面に勢いよく転がった。

「痛ってえ! てめぇこのクソ神官……」

「揉めてる場合か!!」

 俺が一括すると、レノルとセリはようやく口喧嘩をやめた。やれやれ。

「二人とも……?」

 カナリスが不思議そうな顔をする。

「うん、色々あってさ、とりあえず二人は味方だから大丈夫」

 こと回復にかけてはレノルほど広範囲で多くの体力を回復してくれる者はいない。セリも攻撃面で役にたつ。これで何とか凌げるだろうか。

「あら、裏切り者がどの面下げてここに来たのかしら?」

 マリナはセリを見ると渋い顔して腕を振り上げる。

「やっておしまい!」

 触手セリの方へまっすぐに向かっていく!

「ガウッ!」

 セリはそれを、爪の一振りで木っ端微塵にした。

「ごめんねぇ? 私のご主人様は今はマオだから」

 ペロリと唇を舐めるセリ。マリナが眉間に皺を寄せる。

「いいわ。みんなまとめて吹き飛ばすから」

 邪王暗黒剣が暗黒のオーラを纏い始める。

「ヤバい。皆、俺の後ろに固まれ」

 モモちゃんを盾の形に展開すると、モモちゃんの体に魔力を通す。赤い魔法式が、紋章のように光って消えた。

 モモちゃんの体には、あらかじめ回復と防御力アップの魔法式を何重にも書き込んである。これである程度の攻撃は防げるはずだ。

「なるほど。私も助太刀しますね」

 その上から、レノルもシールドを張って二弾重ねの盾とする。これで凌げるだろうか。

「行けっ」

 マリナが力を貯める。黒い霧が天翔る龍の如く渦を巻く。

「邪王暗黒魔弾!」

 黒い霧は螺旋を描き、砲弾となってな発射される。

「きゃあっ」

 凄まじい衝撃に地面が揺れる。砂埃で辺りが見えない。

「みんな、無事か!?」

「ええ、何とか」

 ほっと息をつく。どうやら本来の持ち主でない者が技を放ったせいか、思ったより威力は高く無かったようだ。

「キュイ……」

 だがモモちゃんはもう限界のようで、力なく地面に崩れ落ちた。

「モモちゃん!?」

「大丈夫だ。しばらく休めば元に戻るはず」

 これで盾はレノルのシールド一枚となった。次の攻撃を防げる保証はない。あの攻撃を連続して打てるとは思えないから、その隙に何としてでもこちらが先に攻撃しなくては。

「カナリス、そろそろいけるか!?」

 カナリスは首を横に振った。

「それが……」

「魔力切れですか。何せここには、魔力を奪う者が三人も居ますからね。立ってるだけで魔力を消費しますよ」

 レノルがため息をつく。俺には全く自覚は無いが、レノルの言い方からして、あの肉塊だけでなく、俺やモモちゃんも魔力を吸収しているのだろう。つまり俺が側にいるだけでカナリスが消耗するというわけだ」

 カナリスの手がワナワナと震える。

「……なんで僕は肝心な所で役に立たないんだ。シラユキさんやマオくん……大事な人たちを守りたいのに」

「カナリス……」

「大丈夫よ、もう少し休めば……!」

 俺やルリハが慰めるも、カナリスは完全に自信を失った顔をしている。

 クソッ、どうすれば……!

「ふふふ、一撃は防げたようだけど、次の攻撃はどうかしら」

 マリナは余裕の表情を浮かべ、肉塊に触れる。肉塊はマリナが触れると、金色に輝いた。

 ん?

 その様子を見て、俺はふと疑問に思う。

 俺の肉塊《からだ》に触れているはずなのに、マリナの魔力が枯渇する気配は無い。それどころかさっき大規模攻撃を使ったのにまた何かしようとしている。一体なぜだ?

 ――もしかして、あの肉塊がマリナに魔力や体力を分け与えているのか?

 俺はレノルに尋ねた。

「なあ、俺の魔力をカナリスに分けることってできるか?」

「はい、出来ますが……まさか」

 レノルは少しびっくりしたように答える。

「そうか」

 俺はニィと笑うと、カナリスの手をとった。

「確かに今のカナリスは父親には及ばないかもしれない。だけどカナリスは間違いなく勇者だ。聖王神光剣の選んだ――魔王を殺しうるただ一人の人間なんだ。自分を信じて」

 カナリスが俺の言葉に顔を上げる。

 ギュッと掌を握り、包み込む。目をつぶり、魔力の流れを意識する。

 今は俺がカナリスの魔力を奪っている。それを逆流させるイメージで。

 俺はいつも周りに助けられてきた。カナリスの優しさに支えられてきた。今度は俺がそれを返す番だ。

「大丈夫、カナリスは負けないよ」

 俺はカナリスの手を握り、真っ直ぐに青く輝く瞳を見つめた。ゆっくりと、だがはっきりとした声で俺は言った。

「だってカナリスは、勇者なんだから」

 そうだ。お前はこの俺と対になる者。俺が心待ちにしていた強者。

 俺をを殺すことのできるただ一人の人間だ。こんな所で負けるはずはない。

 ――負けられては困るのだ。

「……うん」

 カナリスは力強くうなずいた。
 その目にはもう、迷いは無かった。
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