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6.魔王様と襲撃事件
35.魔王様とお見舞い
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「……先生」
口に出すと、クザサ先生の目がゆっくりと開いた。良かった。意識はあるのか。
「二人とも。見舞いに来てくれたのか」
俺たちの姿を見て慌てて起き上がろうとするクザサ先生。
「ああ、あまり無理はなさらず」
レノルはそんなクザサ先生を抱きとめ、無理矢理寝かしつけた。
「久しぶりに会ったのに、こんな姿ですまない」
クザサ先生はレノルに弱々しい視線を投げた。レノルは善人ぶった笑顔を返す。
「大丈夫ですよ。お気づかいなく」
「聞いたよ、君が助けてくれたんだってね。ありがとう」
「いえ、ご無事で何よりです。それより、傷を見ても?」
「……ああ」
レノルは先生の寝間着を捲って腹の傷を見た。
伸び上がって一緒に傷の様子を見る。
脇腹の傷口が毒々しい紫色に光っている。毒魔法には詳しくないが、一目見てそれが禍々しい物だと分かった。
「ほうほう、これはこれは」
レノルは傷口に手を押し当てた。
「ぐっ!」
クザサ先生が苦しげに呻く。
「ああ、ごめんなさい、痛かったですね?」
「い、いや、大したことは無い」
脂汗をかきながら答えるクザサ先生。
「ふむ。見たところこれは呪術と毒魔法の複合魔法ですね。複雑な魔法式をしてますので、解呪には時間がかかるかもしれません」
自分でかけた魔法の癖に、白々しく解説するレノル。
「全く、脇腹の傷にこんな毒魔法まで残すなんて、犯人は相当悪どいやつですね」
レノルがヤレヤレと首を振る。
「確かに。犯人はさぞかし性格の悪いやつなんだろうなぁ」
じっとレノルを見つめながら言うも、レノルは俺の冷たい視線を完全に無視した。
「しかし、久しぶりに君から連絡が来たときはびっくりしたよ。てっきり君は二十年前に死んだと思っていたから」
クザサ先生は寝間着を元に戻しながら呟く。レノルはにこやかに返答した。
「ええ。しかしあの戦いで大怪我を負ってしまいましたので戦闘に出るのはやめて、田舎の神殿を転々として研究に専念しておりました」
クザサ先生はレノルの顔をしげしげと見つめた。
「そうだったのだな。しかし、君はちっとも変わっていないな。とても私と同じ歳とは信じられん」
ヤバい。レノルが人間では無いことがバレてしまうのでは。俺はハラハラしながら二人の顔を交互に見上げた。レノルは穏やかな笑みを浮べた。
「はは、私も昔は老けて見られていたんですが、歳をとってからは逆に若く見られますね。健康的な生活を心がけているからでしょうか」
よく分からない理論で煙に巻くレノル。本当は魔物になったから年齢が止まっているのだが、クザサ先生は納得したように頷いた。
「君のように顔立ちの整った人はあまり歳をとらないのかもしれないね、羨ましい」
「ははは、バランスの良い食事と運動、睡眠をしっかり取ることが重要ですよ」
クザサ先生はレノルの適当なアドバイスに神妙な顔で頷いた。
「その通りだ。暇さえあれば研究に没頭してしまうから」
「いけませんよ、ちゃんと食べなくては」
なごやかに会話が進む。良かった。特にレノルが疑われている様子はなさそうだ。
「ところで――」
レノルの瞳が探るようにクザサ先生を見つめる。
「犯人に心当たりはないのですか?」
「それは……」
クザサ先生は黙って下を向いた。
クザサ先生はじっと俺を見つめた。ひょっとしたら、俺がいると話しずらいのかも知れない。
レノルは懐から財布を取り出すと、小銭を俺に握らせた。
「そう言えばマオくん、喉乾いたでしょう。これで飲み物でも買ってきて下さい。神殿の横にジュースの屋台があったはずです」
「うん。じゃあ僕、行ってきます」
俺はジュースを買いに行くフリをして、部屋の外でそっと聞き耳を立てた。
「それで、犯人に心当たりはあるのですか」
レノルは改めて尋ねる。
「犯人は分からない。暗くて姿も見えなかったし、後ろからいきなり襲われたから。だが、恐らく私の研究に関係があると思う」
「貴方の研究とは、ひょっとして魔王の体の研究ですか?」
レノルが口にすると、クザサ先生の顔色が変わった。
「――なぜそれを。一体どこから聞きつけたのだ」
探るような低い声。レノルを厳しい目で見つめるクザサ先生。
おいおい、レノルのやつ、大丈夫か?
ドアの隙間から固唾を飲んで見守っていると、レノルはすました顔で何か紙のようなもの取り出した。
「これに書いてありました。あなたの机の上に置いてあったのを回収して、まだ誰にも見せていないのですが」
クザサ先生の顔色が変わる。
「遺書だと。そんな馬鹿な。私が書いたものでは無い」
遺書?
俺も思わず身を乗り出した。
「ええ。誰かが貴方を自殺に見せかけて殺そうとしたんでしょうね。『私は魔王信者で魔王の体を復活させようと研究していたが、騒ぎが大きくなったので責任を取ろうと思う』だそうです」
「馬鹿な」
クザサ先生は唇を噛み締め拳をにぎりしめる。
「……私は確かに魔王の体の研究をしていた。だがそれは、魔王信者だからではない。魔王の再生能力を研究し、医療の進歩に役立てたかったからだ」
そこまで聞いた所で、コツコツと足音が聞こえてきた。看護婦が見回りに来たのだ。
不審に思われるといけないので、仕方なく俺は盗み聞きをやめ、飲み物を買いに行くことにした。
◇
「おかえりなさい」
ジュースを持って病室に戻ると、レノルがリンゴを切っていた。
「リンゴを切りましたよ。食べますか?」
レノルが貼り付けたような善人面で俺にリンゴを寄越す。
俺は昼飯を食べ損ねて腹が減っていたので、黙ってウサギの形に切られたリンゴを受け取った。
「クザサ先生は食べないんですか?」
「私は腹の具合が悪くて食べ物は一切受け付けないのだ。今のところ栄養は点滴で取るしかない」
なるほど。では元気そうには見えるが当分学校には戻ってこれないのかも知れない。
あらかたリンゴを食べた所でレノルが立ち上がる。
「さてと、じゃあせ私たちはこれで。あまり長居をしても邪魔でしょうし」
「そうですね、じゃあ先生、お大事に」
慌てて俺も立ち上がる。
「……マオ」
帰ろうとした俺を先生が引き止める。
「なんですか?」
「いや。今日はわざわざありがとう。最近は仲間もできてレベル上げも順調なようだな。その調子で頑張るのだぞ」
「……はい」
ニコリともせずに言うクザサ先生を見て、レノルは微笑む。
「では、私たちはこれで。また何かあったら言ってくださいね。洗濯物とかあったら持っていきますよ」
クザサ先生は慌てて首を振った。
「いや、そこまでさせる訳には。そういうのは、神殿のシスターさんに頼むので大丈夫だ」
「そうですか。では、失礼しますよ」
クザサ先生は深々と頭を下げた。
「本当に、何から何まですまない。君には感謝している」
レノルは少しキョトンとした後、人の良い笑みを浮かべ手を振った。
「いえ、同級生ですので、当然ですよ。それではお大事に」
元々知り合いだったとはいえ、クザサ先生はレノルのことを命の恩人として随分信用してしまっているようだな。
クザサ先生に毒魔法をかけたのはレノルなのに。
自分で魔法をかけておいて看病をし信用させるなんて、なんたるマッチポンプ!
二人で病院を出る。
レノルはやけに上機嫌で、指の先に何かを引っ掛けクルクルと回している。
「ところでお前、それは何だ?」
「鍵ですよ」
レノルが黒い鍵を見せてくる。
「鍵?」
「クザサ先生の家の鍵です。中を確かめて欲しいと頼まれました」
「えっ……」
クザサ先生、大丈夫かよ。レノルなんかに鍵を預けてしまって!
「恐らくもう犯人に盗まれているかとは思いますが……ひょっとしたら魔王様の失われた体の手がかりが掴めるかもしれません」
レノルはニヤリと笑った。
「家探し、しますよ」
口に出すと、クザサ先生の目がゆっくりと開いた。良かった。意識はあるのか。
「二人とも。見舞いに来てくれたのか」
俺たちの姿を見て慌てて起き上がろうとするクザサ先生。
「ああ、あまり無理はなさらず」
レノルはそんなクザサ先生を抱きとめ、無理矢理寝かしつけた。
「久しぶりに会ったのに、こんな姿ですまない」
クザサ先生はレノルに弱々しい視線を投げた。レノルは善人ぶった笑顔を返す。
「大丈夫ですよ。お気づかいなく」
「聞いたよ、君が助けてくれたんだってね。ありがとう」
「いえ、ご無事で何よりです。それより、傷を見ても?」
「……ああ」
レノルは先生の寝間着を捲って腹の傷を見た。
伸び上がって一緒に傷の様子を見る。
脇腹の傷口が毒々しい紫色に光っている。毒魔法には詳しくないが、一目見てそれが禍々しい物だと分かった。
「ほうほう、これはこれは」
レノルは傷口に手を押し当てた。
「ぐっ!」
クザサ先生が苦しげに呻く。
「ああ、ごめんなさい、痛かったですね?」
「い、いや、大したことは無い」
脂汗をかきながら答えるクザサ先生。
「ふむ。見たところこれは呪術と毒魔法の複合魔法ですね。複雑な魔法式をしてますので、解呪には時間がかかるかもしれません」
自分でかけた魔法の癖に、白々しく解説するレノル。
「全く、脇腹の傷にこんな毒魔法まで残すなんて、犯人は相当悪どいやつですね」
レノルがヤレヤレと首を振る。
「確かに。犯人はさぞかし性格の悪いやつなんだろうなぁ」
じっとレノルを見つめながら言うも、レノルは俺の冷たい視線を完全に無視した。
「しかし、久しぶりに君から連絡が来たときはびっくりしたよ。てっきり君は二十年前に死んだと思っていたから」
クザサ先生は寝間着を元に戻しながら呟く。レノルはにこやかに返答した。
「ええ。しかしあの戦いで大怪我を負ってしまいましたので戦闘に出るのはやめて、田舎の神殿を転々として研究に専念しておりました」
クザサ先生はレノルの顔をしげしげと見つめた。
「そうだったのだな。しかし、君はちっとも変わっていないな。とても私と同じ歳とは信じられん」
ヤバい。レノルが人間では無いことがバレてしまうのでは。俺はハラハラしながら二人の顔を交互に見上げた。レノルは穏やかな笑みを浮べた。
「はは、私も昔は老けて見られていたんですが、歳をとってからは逆に若く見られますね。健康的な生活を心がけているからでしょうか」
よく分からない理論で煙に巻くレノル。本当は魔物になったから年齢が止まっているのだが、クザサ先生は納得したように頷いた。
「君のように顔立ちの整った人はあまり歳をとらないのかもしれないね、羨ましい」
「ははは、バランスの良い食事と運動、睡眠をしっかり取ることが重要ですよ」
クザサ先生はレノルの適当なアドバイスに神妙な顔で頷いた。
「その通りだ。暇さえあれば研究に没頭してしまうから」
「いけませんよ、ちゃんと食べなくては」
なごやかに会話が進む。良かった。特にレノルが疑われている様子はなさそうだ。
「ところで――」
レノルの瞳が探るようにクザサ先生を見つめる。
「犯人に心当たりはないのですか?」
「それは……」
クザサ先生は黙って下を向いた。
クザサ先生はじっと俺を見つめた。ひょっとしたら、俺がいると話しずらいのかも知れない。
レノルは懐から財布を取り出すと、小銭を俺に握らせた。
「そう言えばマオくん、喉乾いたでしょう。これで飲み物でも買ってきて下さい。神殿の横にジュースの屋台があったはずです」
「うん。じゃあ僕、行ってきます」
俺はジュースを買いに行くフリをして、部屋の外でそっと聞き耳を立てた。
「それで、犯人に心当たりはあるのですか」
レノルは改めて尋ねる。
「犯人は分からない。暗くて姿も見えなかったし、後ろからいきなり襲われたから。だが、恐らく私の研究に関係があると思う」
「貴方の研究とは、ひょっとして魔王の体の研究ですか?」
レノルが口にすると、クザサ先生の顔色が変わった。
「――なぜそれを。一体どこから聞きつけたのだ」
探るような低い声。レノルを厳しい目で見つめるクザサ先生。
おいおい、レノルのやつ、大丈夫か?
ドアの隙間から固唾を飲んで見守っていると、レノルはすました顔で何か紙のようなもの取り出した。
「これに書いてありました。あなたの机の上に置いてあったのを回収して、まだ誰にも見せていないのですが」
クザサ先生の顔色が変わる。
「遺書だと。そんな馬鹿な。私が書いたものでは無い」
遺書?
俺も思わず身を乗り出した。
「ええ。誰かが貴方を自殺に見せかけて殺そうとしたんでしょうね。『私は魔王信者で魔王の体を復活させようと研究していたが、騒ぎが大きくなったので責任を取ろうと思う』だそうです」
「馬鹿な」
クザサ先生は唇を噛み締め拳をにぎりしめる。
「……私は確かに魔王の体の研究をしていた。だがそれは、魔王信者だからではない。魔王の再生能力を研究し、医療の進歩に役立てたかったからだ」
そこまで聞いた所で、コツコツと足音が聞こえてきた。看護婦が見回りに来たのだ。
不審に思われるといけないので、仕方なく俺は盗み聞きをやめ、飲み物を買いに行くことにした。
◇
「おかえりなさい」
ジュースを持って病室に戻ると、レノルがリンゴを切っていた。
「リンゴを切りましたよ。食べますか?」
レノルが貼り付けたような善人面で俺にリンゴを寄越す。
俺は昼飯を食べ損ねて腹が減っていたので、黙ってウサギの形に切られたリンゴを受け取った。
「クザサ先生は食べないんですか?」
「私は腹の具合が悪くて食べ物は一切受け付けないのだ。今のところ栄養は点滴で取るしかない」
なるほど。では元気そうには見えるが当分学校には戻ってこれないのかも知れない。
あらかたリンゴを食べた所でレノルが立ち上がる。
「さてと、じゃあせ私たちはこれで。あまり長居をしても邪魔でしょうし」
「そうですね、じゃあ先生、お大事に」
慌てて俺も立ち上がる。
「……マオ」
帰ろうとした俺を先生が引き止める。
「なんですか?」
「いや。今日はわざわざありがとう。最近は仲間もできてレベル上げも順調なようだな。その調子で頑張るのだぞ」
「……はい」
ニコリともせずに言うクザサ先生を見て、レノルは微笑む。
「では、私たちはこれで。また何かあったら言ってくださいね。洗濯物とかあったら持っていきますよ」
クザサ先生は慌てて首を振った。
「いや、そこまでさせる訳には。そういうのは、神殿のシスターさんに頼むので大丈夫だ」
「そうですか。では、失礼しますよ」
クザサ先生は深々と頭を下げた。
「本当に、何から何まですまない。君には感謝している」
レノルは少しキョトンとした後、人の良い笑みを浮かべ手を振った。
「いえ、同級生ですので、当然ですよ。それではお大事に」
元々知り合いだったとはいえ、クザサ先生はレノルのことを命の恩人として随分信用してしまっているようだな。
クザサ先生に毒魔法をかけたのはレノルなのに。
自分で魔法をかけておいて看病をし信用させるなんて、なんたるマッチポンプ!
二人で病院を出る。
レノルはやけに上機嫌で、指の先に何かを引っ掛けクルクルと回している。
「ところでお前、それは何だ?」
「鍵ですよ」
レノルが黒い鍵を見せてくる。
「鍵?」
「クザサ先生の家の鍵です。中を確かめて欲しいと頼まれました」
「えっ……」
クザサ先生、大丈夫かよ。レノルなんかに鍵を預けてしまって!
「恐らくもう犯人に盗まれているかとは思いますが……ひょっとしたら魔王様の失われた体の手がかりが掴めるかもしれません」
レノルはニヤリと笑った。
「家探し、しますよ」
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