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懺悔
しおりを挟む何かの間違いでもいいから、彼女が一位を取るなと願った。
もちろんそんな願いが叶うわけもなく、一位で彼女の名前が呼ばれてしまった。
表彰式のあと、ホールの外でスマホをいじる彼女を見かけた。
止めるなら今だ。このあとのセレモニーに彼女が参加しないように説得をするチャンスだ。彼女が出なければ、セレモニーは当然中止になるだろう。
そして今、偶然にも彼女は一人。止められる。今なら、まだ間に合う。
君が邪魔するつもりなら、君がこの動画を作った犯人に仕立てあげるから。
俺たち全員、君に指示されたと嘘をつく。ずっと一位だった君が、あの女を引きずり下ろそうと企てたことだ。
声をかけようとして、あの男の言葉が僕の脳裏によぎった。
もし僕が犯人にされたら、もう二度とピアノを弾けない。僕のピアノ人生はここで終わりだ。……それに、彼女に幻滅されるかもしれない。それだけは嫌だ。彼女に嫌われるのだけは……
今の沈黙が何より君の本音だ。ずっと天才ピアニストだと言われ続けていた君が、今のままでいいはずがない。君は本当は、もう一度返り咲きたいんだよ。
男の言葉が、僕の耳に纏わりつく。
僕は、彼女の演奏さえ聞けたらそれでいいと思っていた。……いや、そう思い込んで、現実から目を逸らしていたんだ。
絶対に勝てない相手に心酔して、自分の実力のなさに絶望した傷を、見ないふりしていたんだ。
あの男に引きずり出された、僕の本音。悪魔の囁き。
彼女がいなくなれば、僕はまた天才ピアニストとして名を馳せることができる。そんな醜い考えが、僕の心を蝕んでいく。
本当にいいのか? 見捨てるのか? 僕は、彼女を──
尋常ではない汗が出る。選択の時間が迫られる。
どうしたらいい、僕は……僕は……
地面に転がった蝉が、ジジジジ……と最後の鳴き声を上げ、そのまま息絶えた。
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