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20話 激怒
しおりを挟む「人を害虫だの何だのって、だったらアンタらは一体何なの? 害虫より人に害与えてるけど」
「はあ?」
「寄ってたかって人を攻撃してさあ、マジでダサいよ。今自分たちがしてること、本当に何とも思わないの? この恥知らずが」
軽蔑する価値もない。事実を突きつけたら、綾瀬ファンの女が勢いよく手を上げる。
「ふ、ふざけんな!」
殴られそうになり、前腕でその手を止めた。
「ピアニストが命より大事な手を攻撃に使ってんじゃないよ。二度とピアノ触んな!」
「くっ──!」
「何してんの?」
突然割って入った男性の声。それは渦中の人、綾瀬恭平本人だった。
何でここがわかったんだろう。いや、割とギャラリーいるし、普通にわかるか。
ハイエナ女子含め、上階の校舎の窓からこちらを見ている観客は多い。綾瀬恭平もどこかで騒ぎを耳にしたのかもしれない。
「あ、綾瀬様……」
綾瀬ファンたちは顔面蒼白になって私から離れる。
綾瀬恭平は相当怒っているらしい。眼差しに底知れぬ殺気がこもっている。
「何してんの、って聞いてるんだけど」
「いや、これは……綾瀬様のためで」
「頼んでない。やめてくれる? 勝手なことするの」
淡々と話してるけど、端々に怒りが滲み出てる。私ですらちょっと怖いと思うほどに。無口なタイプほど怒ると怖いってよく聞くけど、本当だと思う。
「彼女、僕の大事な連弾相手だから余計なことしないで。本当に迷惑」
「で、でも──」
「でもじゃなくて。やめてって言ってんの。まだわかんない?」
綾瀬恭平の顔は冷ややかに引き締まり、声が一層低くなった。更に怒りが高まったのは誰が見ても明らかで、緊迫感が漂う。
気圧されながら、勇気ある綾瀬ファンの一人が声を絞り出す。
「ほ、本当にただの連弾相手なんですか?」
「いや、違う。ただの、じゃない。大事な連弾相手だ」
「それって、どういう意味で……」
「僕の大切な人。だから彼女を傷付ける人は例え親であっても許さない。他人である君たちなんて、もっと許さない」
彼が言い切れば、綾瀬ファンたちはショックで地面に崩れ落ちた。
「うそ……そんな……」
「次、彼女を傷付けるようなことがあれば容赦しないから。わかったら消えて、今すぐ」
茫然自失とするファンたちに、綾瀬は「早く」と冷たく浴びせる。
綾瀬ファンはふらふらと立ち上がると、遠くへ消えて行った。
……完全に助けられてしまった。綾瀬恭平と目が合い、ハッとしてお礼を言う。
「あ、ありがとう……」
「いや……ごめん、僕のせいで。水までかけるなんてとんでもない人たちだな。すぐに着替えよう。風邪を引いたら大変だ」
いや、水をかけたのは別の人……と言う暇もなく、綾瀬恭平は私の背中に手を回して「行こう」と促した。
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