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17話 古典的な
しおりを挟む朝、登校して靴箱の蓋を開ける。私はぎょっとした。
これが恋愛漫画とかの世界なら、甘酸っぱい手紙の一つでも入っていたことだろう。しかし、私の目の前にあったのは、大量の画鋲が入った自分の内履きだった。
「やば。今って令和だよね?」
思わず独り言で感想を述べる。
昔ママが読んでいた漫画で見たことはあったけど、まさかこの令和の時代に自分がされるとは思ってもみなかった。
その漫画だと、大体近くにこれを仕込んだ犯人がいて、仕込まれた子がショックを受ける姿を見てクスクスと笑っていた。
いやまさかそこまで一緒なわけ──あったわ。
靴箱の先にある小上がりの廊下から、女子が五、六人集まってこちらを見てニヤニヤとしていた。
ほとんどは知らない顔だけど、一人だけ見たことがある。この前防音室で綾瀬恭平と連弾している時に来た、綾瀬ファンだ。
大方、私と綾瀬恭平の仲を疑っての嫉妬だろう。くだらない。
さすがに私の履き物の中に入っていた画鋲は他の人も使いたくないだろうし、仕方なく近くのゴミ箱に捨てる。もったいない。
どいつもこいつも、文句があるならどうして直接言ってこないんだろう。四年前も今も変わらず、卑怯者ばかりだ。
抗議しようとこちらが動くと、綾瀬ファンは急いで逃げて行った。マジでなんなの。
苛立ちを募らせながら、その足で防音室へ向かう。
「おはよ」
中で待っていた綾瀬恭平に挨拶すれば、彼は軽く会釈する。本当に無口なヤツ。
「今日は何弾く?」
聞けば、返事の代わりに綾瀬恭平が軽く前奏を弾く。これでどう? と私に視線を投げてきた。
「ん、了解」
鞄を棚の上に置いて、綾瀬恭平の隣に座る。互いの目を見て、同時にピアノを弾き始めた。
*
「……今度、またあの広場で弾いてみる?」
連弾を終え、防音室から出る準備をしていた時に、突然綾瀬恭平から提案される。思わず鞄を落としそうになった。
「え? ……あー……いや、ちょっとまだ無理かも」
「……怖い?」
「……」
「……そっか」
答えられずに黙っていると、綾瀬恭平はすぐに引き下がって、防音室から出ようとした。
その背中を掴んで引き留める。
「……あのさ。四年前の話だけど……アンタあの場所にいた?」
「……」
「そう。いたんだ」
綾瀬恭平はこちらを振り向きもせず、立ち止まっている。私の質問が気まずかったのか、ハッキリと答えなかったけど、間違いなく肯定の沈黙だった。私は更に聞く。
「じゃあ、見てたんだ?」
「……うん。見てたよ」
「そっか」
だから綾瀬恭平は何も言わないし何も聞かないんだ。
私が人前で弾けなくなった原因を……その目でしっかりと見ていたのだから。
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