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10話 どことなく憂鬱で
しおりを挟む推薦枠を私がもらってからというもの、更にクラスの空気は悪くなった。
私が登校すれば、あからさまに何か悪口言ってる感じでヒソヒソされる。ウザいったらありゃしない。こんな雰囲気が既に何日も続いている。
今までは存在を無視されてたようなものだったしまだ楽だったけど、こうも陰湿感を出されるのは普通に気分が悪い。
私に直接何か言うと言い返されるのがわかっているから、こんなしょうもないことしてくるんだろうけど。こいつらの精神年齢どうなってんだよ。この先伸びしろなさすぎて絶望的じゃん。
イヤホンしてるから悪口が私の耳に入ることはない。でも視線だけはどうにもならない。私は目を瞑って寝たフリをする。
こういう奴らの目は苦手だ。向けられた毒が、私を蝕んでいくような気がするから。
*****
「元気ないね、杏梨ちゃん」
告解室でいつものように彼となんてことない会話をしていたが、気のない返事ばかり返していたら、彼から言われてしまった。
放課後、ここ最近ヒステリック教師は私を連行しに来ない。
監視の目が外れて普通に帰れるのに、校門へ向かわず、結局私は毎日礼拝堂に来てしまうのだ。
何だかんだ、こうして告解室で彼と話す時間を気に入ってるのかもしれない。……認めたくはないけど。
「元気ないのはいつも通りだけど」
「あれ、杏梨ちゃん呼び怒らないの?」
「怒ってもアンタに通用しないし」
「あはは、僕のことちょっとわかってくれたのかな? 嬉しいなあ」
「調子乗らないで」
この妙な馴れ馴れしさにも慣れてきてしまっている。もはや腹も立たない。けど、勝手にため息は出る。
壁の向こうから軽くコツンとノックされた。
「……ねえ、杏梨ちゃん。僕とデートしようよ」
「はあ?」
「今度の日曜空いてる?」
「空いてるけど……何? 正体明かす気になったの?」
カチャンと、向こうの扉が開く音がする。ドキッと心臓が跳ねた。
誰か知りたいとは思ってたけど、心の準備ができてない。
え? 本当に対面するの? てか今、髪ボサボサなんだけど!
慌てて手ぐしで髪を整える。しまった、メイク直しておけば良かった。
「杏梨ちゃん、出て来て」
「……う、うん」
いや、この変わり者に会うのに何でこんなに緊張してんだ、私。
今まで顔も知らなかったから色々話せてたけど、顔見たらこれから話せなくなるかもしれない。もしかしたらそれが怖いのかも。
好奇心と恐怖心を抱えながら恐る恐る扉を開ける。
しかしそこには誰もいなかった。
「そこのベンチにスマホ置いてあるでしょ?」
告解室の中から彼が言う。気付かない内に彼は戻っていたらしい。
がっかりしたような、でもほっとしたような。微妙な気持ちでベンチに置いてあったスマホを手に取った。
ピアノ柄のスマホケースに収まったそれを持って首を捻る。
「なに、これ? アンタの?」
「うん、僕のサブ機」
二台持ちかよ。いらないだろそんなに。
そう思いつつ、私は立ち尽くす。
「で……これをどうしろと?」
「君に貸すよ。ライン僕に教えたくないんでしょ? だからそれ、日曜日に持って来て」
「まさか電話しながら出かけようって言ってる……?」
「あ、察しいいね。正解!」
ずっと通話しながらどこかに出かける、一人で。
ずっとブツブツ喋りながら、一人で。
想像して身震いする。それ傍から見たらめっちゃ怪しい奴じゃん、私。
「いやいやいや、普通に嫌なんだけど。変じゃん! 何でそこまで頑なに顔見せないの?」
「だから、前にも言ったじゃん」
「私に合わせる顔がないって? でもそれはぐらかしてるだけでしょ? 本当の理由は何?」
「……でもさ、君も僕の顔見たいって思う? 今、僕がこの部屋を一瞬出た時、君戸惑ってたよね?」
う、鋭い。顔見てないくせに何でわかるんだよ。
「いや、それは……ずっと姿隠してた奴が急に出て来たらなんか気まずいじゃん」
「ね? まだ僕に会う覚悟が君も出来てないんだって。だから今回は通話デートってことで!」
「いや……ちょっと待っ──」
「春若さん、一時間経ちましたよ。きちんと祈りを捧げましたか?」
「え、あ……」
なぜかヒステリック教師が礼拝堂の中まで迎えに来た。いつもは来ないくせに……?
最近ここへ連行されなかったのは、連れて行かなくても私がちゃんと礼拝堂に来るのか、こうして確認するためだったのかもしれない。
もし試されたのだとしたら腹立つ。
いや、それにしてもタイミングが悪い。教師が来たら彼は黙り込んでしまったし、教師は私を外へ連れて行こうとする。
結局私は彼のスマホを持ったまま礼拝堂を後にしたのだった。
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