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63話 見抜く人②
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「あら、アイヴィさ──」
セリーナ様は紅茶を蒸らす手を止めて顔を上げる。
私の姿を見て僅かに目を開くと、すぐに真剣な表情に変わり、口元を引き締めた。
「その身体……どうしたの? ただ疲れて痩せただけじゃないわよね」
「はい。きちんとご説明致します。ですがその前に……。セリー……王妃殿下。どうかこのことは秘密にして頂けませんか。特に……王太子殿下には」
「どうして? あの子はその身体を見てあなたを傷付けるようなこと言わないと思うわよ。心配はするでしょうけど」
「殿下にだけはこの身体を見られたくありません。……重荷になりたくないんです」
グラーレウスで私の身体と大勢の民の命、どちらを選択するか迷いを見せた優しいライナスが私の境遇を知れば、きっと彼は自分を責めてしまいそうだから。
セリーナ様は悲しげに瞳を揺らし、私の想いを感じ取って瞼を閉じる。
「……そう。ライナスのことが好きなのね」
「…………」
言葉にするのは勇気が足りず、私は沈黙で肯定した。
「治らないの? 病気……ならあなたが自分で治してるわね」
「私は……不完全な聖女なんです。本物の聖女とは違って、聖女の力を使えば使うほど私の身体は弱っていくんです」
私はセリーナ様へ歴代聖女の記録に隠されていたメッセージのことを話し、もうすぐ自分は死を迎え、間もなく第二の聖女が現れるはずだと説明した。
私の隣にいるコニーも初めて聞く話に口元を両手で抑え、やり場の無い気持ちをどうしたらいいのかと、顔を青白く染めていく。
セリーナ様はさすが王妃らしく凛としているものの、その表情はやはり硬かった。
「ここへは……殿下と最後の別れをする為に来ました。殿下には私の存在を忘れて幸せになって欲しいんです。ですから、ちゃんと区切りをつけようと──」
「ライナスに別れを告げて、離れるつもりなの? ライナスは簡単にあなたを忘れるほど非情な子じゃないわよ。アイヴィさんが行方不明になってから、あの子ほとんど休まずにずっと探していたんだから」
セリーナ様は私がライナスの側から離れることに反対のようだった。
それに、本当は最後のその時までライナスの側にいたいという私の本心も見抜かれている気がした。
……ライナスにひと目会って、消えるつもりだった。
それが最善だと思っていた。でも──。
「アイヴィさんがどんな選択をしても、あの子の心には爪痕が残るわ。それでも、重荷に捉えることはしないと思うの。……だから、私はアイヴィさんが望むようにして欲しいのよ」
「……セリーナ、様……」
セリーナ様は眉を下げて淡く微笑んだ。
目頭が熱くなって、唇を震わす。
セリーナ様の笑顔がじわりと滲んで、私は頭を下げた。
セリーナ様は紅茶を蒸らす手を止めて顔を上げる。
私の姿を見て僅かに目を開くと、すぐに真剣な表情に変わり、口元を引き締めた。
「その身体……どうしたの? ただ疲れて痩せただけじゃないわよね」
「はい。きちんとご説明致します。ですがその前に……。セリー……王妃殿下。どうかこのことは秘密にして頂けませんか。特に……王太子殿下には」
「どうして? あの子はその身体を見てあなたを傷付けるようなこと言わないと思うわよ。心配はするでしょうけど」
「殿下にだけはこの身体を見られたくありません。……重荷になりたくないんです」
グラーレウスで私の身体と大勢の民の命、どちらを選択するか迷いを見せた優しいライナスが私の境遇を知れば、きっと彼は自分を責めてしまいそうだから。
セリーナ様は悲しげに瞳を揺らし、私の想いを感じ取って瞼を閉じる。
「……そう。ライナスのことが好きなのね」
「…………」
言葉にするのは勇気が足りず、私は沈黙で肯定した。
「治らないの? 病気……ならあなたが自分で治してるわね」
「私は……不完全な聖女なんです。本物の聖女とは違って、聖女の力を使えば使うほど私の身体は弱っていくんです」
私はセリーナ様へ歴代聖女の記録に隠されていたメッセージのことを話し、もうすぐ自分は死を迎え、間もなく第二の聖女が現れるはずだと説明した。
私の隣にいるコニーも初めて聞く話に口元を両手で抑え、やり場の無い気持ちをどうしたらいいのかと、顔を青白く染めていく。
セリーナ様はさすが王妃らしく凛としているものの、その表情はやはり硬かった。
「ここへは……殿下と最後の別れをする為に来ました。殿下には私の存在を忘れて幸せになって欲しいんです。ですから、ちゃんと区切りをつけようと──」
「ライナスに別れを告げて、離れるつもりなの? ライナスは簡単にあなたを忘れるほど非情な子じゃないわよ。アイヴィさんが行方不明になってから、あの子ほとんど休まずにずっと探していたんだから」
セリーナ様は私がライナスの側から離れることに反対のようだった。
それに、本当は最後のその時までライナスの側にいたいという私の本心も見抜かれている気がした。
……ライナスにひと目会って、消えるつもりだった。
それが最善だと思っていた。でも──。
「アイヴィさんがどんな選択をしても、あの子の心には爪痕が残るわ。それでも、重荷に捉えることはしないと思うの。……だから、私はアイヴィさんが望むようにして欲しいのよ」
「……セリーナ、様……」
セリーナ様は眉を下げて淡く微笑んだ。
目頭が熱くなって、唇を震わす。
セリーナ様の笑顔がじわりと滲んで、私は頭を下げた。
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