悪役令嬢の性格を引き継いだまま、聖女へ転生! ~悪態つきまくりですけど、聖女やってやりますわ~

二階堂シア

文字の大きさ
上 下
61 / 76

61話 小さな罪を重ねる②

しおりを挟む
 夢も見ないほどの深い眠りから、徐々に意識を浮上させていく。
 誰かが優しく私の髪を撫で、その心地良さに頬が緩む。

「──嬢、アイヴィ嬢」

「ん……」

 私を呼ぶライナスの声で、瞼を開いた。

 何だかさっきも同じように、ライナスに起こされた気がするわ。もしかしてさっきのは夢だったのかしら。

「街に着いた。城まではまだ少し距離があるから、ここで休憩と食事にしよう」

「食事……わかったわ」

 まだ半分寝惚けながら、ライナスの手を借りて馬車から降りる。

「大丈夫か?」

「大丈夫よ、眠いだけだから」

「……本当に眠いだけか?」

 私が無理をすることを十分にわかっているから、ライナスは私の言葉を疑う。
 その疑いを払拭させるべく、根拠をつけて否定する。

「瘴気を消すのに力を使いすぎたのよ。しばらくの間休めば治るから心配しないで。今までだってそうだったでしょ?」

 ハワーベスタでもグラーレウスでも、時間は掛かっても治った……ように見えたはず。
 実際は身体へのダメージは消えるどころか増えていっているけれど。

 ライナスは私の言い分に完全に納得したようではなかったけれど、それ以上私に疑いを掛けたところで意味はないのだし、仕方なくと言った様子で口を噤んだ。
 そのまま私はライナスの腕を借りて、杖代わりにして歩いていた……はずだった。

「アイヴィ嬢?」

 ハッとして目を覚ますと、いつの間にかどこかのレストランのような場所で私は席に着いていて、向かい側に座るライナスにまた起こされていた。

 いくら寝不足とはいえ、あまりに襲い来る睡魔に、違和感を覚える。

 イソトマ族のところにいた時は身体を休めながら動いていたからこんなことはなかった。
 ライナスの元で普通に振舞って過ごそうと思うと、私の今の体力では厳しいのかもしれない。
 前日の疲労がここまで影響を与えるのなら、あまり無駄な体力を使わないようにしないと、一日寝てばかりになってしまうようだ。

「……また寝てた?」

「寝ていたと言うよりは、意識を失っているように見えた」

「強烈に眠いのよ。食事を済ませたらまた寝てもいいかしら」

「それは構わないが……」

 ライナスが心配そうに眉を寄せるので、どう言って安心させようかと考えている内に食事が運ばれて来る。

 コース料理の前菜が置かれて、美味しそうねと口に出すものの、食欲がまるでない。
 シェフが見た目も楽しんで貰おうと、料理を綺麗に盛り付けているのはわかる。
 ただ、食欲のない私にはただの葉っぱの寄せ集めにしか見えない。
 でも少しくらい食べないと、余計に体力が減るだけだ。

 フォークを手に取ると、側に控えていたレグランが待ったをかける。

「アイヴィ様。手袋は外されないのですか」

「え? ああ……」

 今の私の手は骸骨みたいになっているから、手袋で隠していたことを忘れていた。
 ライナスに嵌めてもらった指輪もブカブカで嵌まらなくなってしまったので、アクセサリーケースの中に眠っている。
 今この場でそんな手を晒すわけにはいかない。
 私は咄嗟に思い付いた適当な嘘を並べた。

「瘴気を消す時に少し怪我をしてしまったのよ。怪我は大したことないのだけど、見た目が最悪でね。あまり傷跡を見られたくないの」

「何? そんなに酷い怪我なのか?」

 ライナスが私の怪我の具合を確認しようと手を伸ばして来たので、慌てて手を引っ込める。

「大したことないってば。見られたくないって言ったでしょ。……ほら、早く食べましょ」

 フォークを握って前菜を口に運び、ライナスから私の手を見ようとする機会を奪えば、彼は眉を顰めたまま諦める。

「うん、美味しいわ」

 そう言いながら葉っぱを三口ほど時間をかけて食べて、フォークを置いた。
 レグランが反応する。

「アイヴィ様、もうお召し上がりになられないのですか?」

「ええ、どうしても眠たくて。先に馬車へ戻ってもいいかしら」

「馬車の中ではゆっくり休めないだろう。どこか手配して──」

 ライナスの提案を、私は遮った。

「いいの、少し休みたいだけだから。レグラン、手を貸してくれる?」

「はい。かしこまりました」

 レグランの手を借りて立ち上がり、席を外す。
 気を抜けばまた眠ってしまいそうなので、定期的に自分の頬を抓りながら馬車へと向かう。

 その道中、レグランが私の方をじろじろと見て来るので、眠気を抑えられないまま何よと睨む。

「アイヴィ様。失礼ながら一つ気になることがございまして」

 気になること、と言われて私はドキッとする。一瞬で眠気など飛んで行った。

 ……何に気付いたのかしら。
 重ね着も化粧もコニーにバッチリしてもらったはずなのに、どこか違和感があった?

 焦りをレグランに悟られないように平静を装いながら、恐る恐る続きを聞く。

「……何?」

「お食事をされている時に気付いたのですが、白髪がありますよ」

 私は慌てて自分の髪を掴んで見る。
 染めたばかりなのに、もう白髪が出て来ているの? 
 レダが染色剤を渡してくれて良かった。またすぐ染めないと……。

「嫌だ、本当? 気苦労が耐えないからかしら。聖女なんてやるもんじゃないわね」

「まだお若いのに……。それ以上増えないといいですね」

「なら私に苦労かけさせないで頂戴ね」

「私はアイヴィ様に苦労をかけさせたことなどないと思いますが。どちらかと言えばアイヴィ様が私に……」

「あら。今何故だか白髪が増えた気がするわ。ストレスかしらね」

 軽口を叩けば、レグランは私の髪のことをそこまで深く捉えなかったようだった。
 ひとまず安堵するけれど、色々と誤魔化すたびに嘘を重ねていくことに、人知れず小さくため息を零した。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【1話完結】元ヒロインと元悪役令嬢の今世で

ユウキ
恋愛
元ヒロインと元悪役令嬢が転生したのは現代日本。 そんな2人が高校で再会して暫く。 因縁のあった2人は自由に話せるようになった今、どんな話をするのか。 ※会話のみで展開します

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...