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60話 小さな罪を重ねる①

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 コニーが完全に落ち着くまで宥めていたらすっかり夜になってしまって、急遽伯爵領の屋敷に泊めさせてもらうことになった。

 まだコニーは罪の意識を引きずっていて、ぐずぐず鼻を鳴らしながら湯あみの支度をしてくれている。
 コニーはメンタルが強いと言えど、今回の場合は自責の念が強すぎて立ち直るのに時間が掛かりそうな様子だった。

「……コニー、本当にもう気にしなくていいから。あなたは別に悪くないんだから」

「い、いえ……ダメですよアイヴィ様。もっと私を叱って下さらないと──」

 私の服を脱がす手伝いをする段階で、コニーは何かに気付いたようにピタッと手を止める。

「……あ、あの、アイヴィ様。ど、どうしてこんなに服を着られているのですか? さ、寒いですか?」

「…………」

 私の身の回りの世話をするコニーにはどう頑張っても隠しようがない。
 それはライナスの元へ戻って来た時からわかっていたこと。

 私が黙って服を脱いでいくと、コニーも慌てて手伝いを再開する。

 何枚か脱いで、肌が露わになって来たところで、コニーの手が完全に止まった。
 信じられないものを見たように、コニーは不安で声を震わす。

「ア、アイ……アイヴィ様……!?」

「……痩せたでしょ」

「や、や、痩せたとかの話ではありません! こ、これは……」

 明らかに異常な細さである私の体型に、コニーは激しく動揺する。
 手袋を取り、コニーの手を取ると、そっと握り締める。

「コニー、お願い。ライナスやレグランにはこのこと絶対に言わないで」

「で、ですが……! アイヴィ様、すぐにでも治療師様に診て頂いた方が……!」

「治らないのよ。誰にも治せないの。聖女である私にさえ無理なの」

「そんな、そんな……どうして!?」

 コニーは取り乱して頭を何度も横に振り、私の話を現実ではないと否定しようとする。
 そんな姿に心が痛んで、ここへ戻って来たことに罪悪感を抱く。

 それでも……自分勝手だとわかっていても、私はコニーに願うことをやめられない。

「コニー、ライナスに言わないと約束して。……好きな人に、最後まで醜い姿を見せたくないの」

「最後って、そんな、アイヴィ様。そんなのって……!」

「……こんなこと頼んで、悪いと思っているわ。でも、少しでも私に同情する気持ちがあるなら、言わないで欲しいの」

 ずるい言い方だと、思う。
 相手の優しさに付け込んで口封じさせるなんて、本当に酷いと思う。

 コニーは泣き崩れてしまい、両手で顔を覆う隙間から彼女の悲痛の雫が流れていく。
 これまでもコニーは随分泣いていたのに、更に私が追い討ちを掛けてしまい、コニーの体内から水分が枯れ果ててしまうのではないかと心配になる。

 私は床に膝を付いて、身体を震わせて泣くコニーの頭を撫でた。

 私の為にこんなにも綺麗な涙を流してくれるあなたは、本当に優しい子ね。
 そんなあなたに、嘘の片棒を担がせるようなこと頼んでごめんなさい。

 コニーに対しての心苦しさが私の胸に巣食って、針を刺されたように痛む。

「……わ、わか、りました。アイヴィ様が、そうお望みなら、わ、私は……」

 何度もしゃくり上げながら私の勝手すぎる願いを聞いてくれたコニーを、やり切れない思いで抱き締めた。



 翌日、ライナスと城へ戻る馬車の中で、私は睡魔と戦っていた。

 昨日あまり休める時間がなく、夜もコニーへの申し訳なさで寝付けずでほとんど眠れなかった為か、疲れが蓄積して身体が限界だと悲鳴を上げている。
 その疲労を補う為に身体が無理矢理休ませようとしているようだった。

「──嬢、アイヴィ嬢」

 うつらうつらしていたと思っていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようで、ライナスからの呼び掛けで私は目を覚ます。

「ん……」

「……起こしてすまない。その、君が話している途中に急に眠るものだから、気を失ったのかと思ってな」

 あれ? ライナスと話をしていたかしら?

 その記憶がないほど私は現実と夢の境を行き来していたようで、恐らくライナスとの会話も生返事で答えていたに違いない。

「あら……、いつの間に眠っていたのかしら。ええと……何の話をしてたっけ?」

「君がイソトマ族に攫われた後の話だ」

 そんな話をしていた記憶はないけれど、話を合わせる。

「ああ……そうね。そうだったわ。私は洞窟に連れて行かれて、その先にあった紫色の……、瘴気が……」

 話している途中で猛烈な睡魔に襲われ、言葉がおぼつかなくなる。
 頭も回らず、何を言うのか続きを忘れてしまって、半分目を閉じながら鈍い思考を巡らす。

「アイヴィ嬢、無理に話さなくていい。疲れているんだろう、しばらく眠るといい」

「…………」

 肩を抱かれ、何かにもたれかかった私はとろんと瞼を落とす。
 返事をする気力もなく、ほとんど意識が飛ぶ勢いで私は眠りに就いた。

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