悪役令嬢の性格を引き継いだまま、聖女へ転生! ~悪態つきまくりですけど、聖女やってやりますわ~

二階堂シア

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52話 役目は終わり①

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 真夜中、気持ちの悪いくらい形の整った満月が浮かぶ夜空の中を、私はレダと共にワイバーンに乗って飛んでいた。

 私を拉致した時とは違う、二人乗りが丁度いいと感じる小型のワイバーンは、あの大きすぎるワイバーンと比べて目立たなくていい。
 あの時もこのワイバーンで十分だったじゃない、何でわざわざあんな大きいのにしたのとレダに聞いたら、威嚇には持って来いだろとの回答が返ってきた。

 ノノメリア王城の真上まで辿り着いて、城を見下ろすようにその場で浮遊する。
 城の敷地内を警備兵が何人か巡回しているのが見えるけれど、私達の姿に気付く気配もない。

「まさか上空から侵入者がやって来るなんて誰も思わないわね」

「なあ。明るい内に普通に来て、アンタが聖女って名乗ればわざわざこんな忍び込むような真似しなくて済むんじゃねえのか?」

 予定通りライナスと行けばあっさり通してくれるだろうけど、いくら聖女のペンダントがあるとは言え、単身堂々と城の門を叩いて快く受け入れてくれるかしら。
 ノノメリアが簡単に信用してくれたらいいけれど、そうじゃなかった時が面倒すぎる。だからリスクはあれど侵入を選択したのよ。

「もし私が偽物だと疑われて投獄でもされたら、あなた助けに来てくれるわけ?」

「んー、やっぱ侵入する方がいいな」

 レダも少し考えて面倒くさいと思ったのか、すぐに手のひらを返した。

「ところで、王女殿下の部屋がどこにあるか調べてくれた?」

「ああ、バッチリ。魔物から情報掴んだぜ」

「……本当、あなた達を迫害してる人達はバカね。イソトマ族が本気出したら皆ひとたまりもないわ。ハイルドレッド王家もどうしてこんな危険因子を放置しているのかしら」

 大きな魔物を使って馬車よりも速く移動出来るし、小さな魔物を使えば簡単に偵察も出来ちゃうし、一番敵に回してはいけない相手なのに。
 イソトマ族が温厚な民族だったから良かったものの、万が一悪に染まれば簡単に戦争になりかねない。

 んー、とレダはあまり深刻に考えていない相槌を打つ。

「ま、俺達は王家も他の奴らも別に恨んじゃいねえし、放置してくれた方がありがたいぜ。魔物のおかげで結構便利な生活させてもらってるし。不自由しねえし気楽でいいんだ」

「もし代替わりしてもその考えは継承していって欲しいわね」

 割と本気で言えば、レダはカラカラと笑い飛ばした。

 いや、冗談じゃなくてもう少し真剣に取り合って欲しいのだけど。

 レダは城の上部、バルコニーの付いた一部屋を指差す。

「王女の部屋はあそこだ。バルコニーにアンタを降ろすぜ」

「ええ、わかったわ」

「終わったらこの笛吹いてくれ。魔物しか聞こえない特殊なやつだから、思い切り吹いて大丈夫だ」

 レダの首に付いている笛とは別のものを渡され、受け取る。

「じゃ、また後でな」

 私がワイバーンからバルコニーへ飛び降りると、レダはすぐにワイバーンと共に上空へ消えて行った。

 部屋の中から楽しめるよう配慮されているのか、バルコニーには色とりどりの花が飾られている。
 プランターに似た容器も置いてあったので、最悪これで窓を割ろうかしらと泥棒思考でいたら、そもそも窓には鍵が掛かっていなかった。
 何の苦労もせず、あっさりと部屋に入れてしまう。

「ねえ。誰かいる?」

 使用人がいるかと思い声をかけるも、返事はない。
 どうやら誰もいないみたいだ。

 明かりがほとんどないから、部屋の様子はあまり見えない。
 ベッドサイドに置いてあるロウソクの小さな火を頼りに、王女の元へ近付いて行く。

 クイーンサイズの大きなベッドに、菫色の長い髪を美しい模様のように広げ、苦しそうに呻きながら眠る女性がいた。

 女性の顔を覗けば、息がひどく荒く、頬どころか額まで真っ赤になっているのが一目でわかる。
 私は女性の額に手を伸ばすと、あまりの熱さに驚いた。

「ひどい熱……可哀想に」

「……だ、だれ……?」

 私が思わず声を出すと、王女は目を覚まして恐怖に顔を歪ませた。

 こんな暗い中、目を覚ましたら知らない女が自分の額に手を置いて顔を覗き込んでいたら絶叫ものだ。
 王女が叫ぶ元気がないのが幸いだった。

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