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47話 中指に嵌めた指輪②
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「グラーレウスはこれから大変ね。復興にはしばらく時間が掛かるでしょ」
グラーレウスの今後を危惧すれば、ライナスは軽く頷く。
「君が祈りを捧げた時に結界も張られたし、魔物があの街を襲うことはない。城から復興要員の兵士も招集したから、少しずつ建て直してもらうことを願う」
私は自覚がないものの、グラーレウスの民を癒してと願った時、同時に結界も張られたらしい。
どちらにせよ結界は張らないといけなかったので手間は省けたけど、その分私へのダメージは大きく、五日間も眠る羽目になったようだった。
「ええ、そうね」
「グラーレウスが元に戻ったら、一緒に買い物へ来よう。君は何か欲しいものがあったんだろう?」
私がグラーレウスで買い物をしたいと言ったことを、ライナスが覚えていたことに少し驚く。
ただ上手く返すことは出来ずに、言葉を濁す。
「……ああ、まあ……そうね」
「その時には君の欲しいものを教えてくれるといいが」
「……その時には、きっと……」
私の欲しいものは、必要なくなっていると思うわ。
あれだけ被害を受けたグラーレウスが復興するまで、私が生きているとは思えないもの。
あなたと一緒にグラーレウスへ行くことはないのよ。
「ん?」
ライナスは言葉の続きを促すけれど、私は小さく首を横に振った。
「……何でもないわ。気が向いたら教えてあげる」
ライナスはそうかと相槌を打つと、それ以上は追求して来なかった。話題を転じる。
「そういえば君は、先程民から何か貰っていなかったか? 中身は確認したのか?」
「いえ、まだよ。今から見ようと思っていたのよ」
「待て。私が開けよう」
ライナスは私の手から小箱を取って代わりに中身を見てくれる。
危険なものでも入っていないか確かめようとしてくれたのだろう。
「…………」
「? 何、変なものでも入ってた?」
「……いや。そうではない」
箱を開けたライナスが一瞬固まったものだから、意外性のあるものでも入っていたのかと思う。
しかし、ライナスが人差し指と親指でつまむように取り出したそれは、普通のものだった。
「指輪だ。魔除けが込められている」
「へえ……見た目は普通のシルバーリングだけど」
「内側に魔除けの刻印がされている。手を貸してくれ。私が嵌めよう」
「えっ」
ライナスは有無を言わさず、片手で私の左手を取り、もう片方の手で指輪を嵌めようとしてくれる。
さながら結婚式の指輪交換のようで、何だか緊張してドキドキと胸打つ鼓動が早くなる。
ただ、結婚式と異なるのは、指輪の嵌める場所だった。
「中指、なのね」
「中指は魔除けに効果的だと言われているからな」
「嵌まるかしら」
痩せて指が細くなってしまっているから、ブカブカにならないかという私の心配は無駄に終わった。
「……ピッタリだわ。あのおじさん、私の指のサイズ知っていたのかしら」
「もし合わなければネックレスにすればいいと思ったんだろう。ネックレス用のヒモも箱に入っていた」
「ああ、なるほどね」
さすがにおじさんに私の指のサイズを読む超能力はないわよね。
窓から差す日光に指輪を当てて、よく観察する。
何の変哲もない指輪だけれど、私はとても気に入った。
……別に、ライナスが指輪を嵌めてくれたからとか、そんな邪な理由ではないわよ。
って、誰に言い訳してるのよと自分で自分に心の中で突っ込んでいると、不意にライナスが私へ質問を投げる。
「結婚指輪は、どんなデザインがいいんだ? 私はシンプルな方が好みだが、君は派手な方がいいだろうか」
「…………。結婚、指輪は……」
私は……嵌めることはないから、聞かれても意味が無いわ。
ライナスは私との結婚を思い浮かべてくれているのだろうけれど、その未来にきっと私はいない。
一瞬考えただけなのに、心が何かに蝕まれるように痛み、私は眉を顰める。
──どうして、傷付いているの。
近い将来、自分が死ぬのが怖いから?
いいえ、違う。死ぬことへの恐怖心なんかじゃない。
……ただ、ライナスの隣に立つ未来が私にはないのだと自覚して、少し寂しくなっただけだわ。
「……いらないわ。指輪はあまり好きではないの」
そう答えれば、ライナスは悩ましげに目を伏せる。
「そうか。好きではないのか。だが、結婚指輪を作らないわけにはいかないからな……」
「……また指輪を作る時にでも聞いて。その時はきっと、答えられると思うわ」
──答える人は、私ではないけれど。
ライナス、あなたが結婚指輪をその手で嵌める相手は第二の聖女。つまり、ホンモノの聖女よ。
私は……ニセモノだから、この指輪で充分なのよ。
グラーレウスの今後を危惧すれば、ライナスは軽く頷く。
「君が祈りを捧げた時に結界も張られたし、魔物があの街を襲うことはない。城から復興要員の兵士も招集したから、少しずつ建て直してもらうことを願う」
私は自覚がないものの、グラーレウスの民を癒してと願った時、同時に結界も張られたらしい。
どちらにせよ結界は張らないといけなかったので手間は省けたけど、その分私へのダメージは大きく、五日間も眠る羽目になったようだった。
「ええ、そうね」
「グラーレウスが元に戻ったら、一緒に買い物へ来よう。君は何か欲しいものがあったんだろう?」
私がグラーレウスで買い物をしたいと言ったことを、ライナスが覚えていたことに少し驚く。
ただ上手く返すことは出来ずに、言葉を濁す。
「……ああ、まあ……そうね」
「その時には君の欲しいものを教えてくれるといいが」
「……その時には、きっと……」
私の欲しいものは、必要なくなっていると思うわ。
あれだけ被害を受けたグラーレウスが復興するまで、私が生きているとは思えないもの。
あなたと一緒にグラーレウスへ行くことはないのよ。
「ん?」
ライナスは言葉の続きを促すけれど、私は小さく首を横に振った。
「……何でもないわ。気が向いたら教えてあげる」
ライナスはそうかと相槌を打つと、それ以上は追求して来なかった。話題を転じる。
「そういえば君は、先程民から何か貰っていなかったか? 中身は確認したのか?」
「いえ、まだよ。今から見ようと思っていたのよ」
「待て。私が開けよう」
ライナスは私の手から小箱を取って代わりに中身を見てくれる。
危険なものでも入っていないか確かめようとしてくれたのだろう。
「…………」
「? 何、変なものでも入ってた?」
「……いや。そうではない」
箱を開けたライナスが一瞬固まったものだから、意外性のあるものでも入っていたのかと思う。
しかし、ライナスが人差し指と親指でつまむように取り出したそれは、普通のものだった。
「指輪だ。魔除けが込められている」
「へえ……見た目は普通のシルバーリングだけど」
「内側に魔除けの刻印がされている。手を貸してくれ。私が嵌めよう」
「えっ」
ライナスは有無を言わさず、片手で私の左手を取り、もう片方の手で指輪を嵌めようとしてくれる。
さながら結婚式の指輪交換のようで、何だか緊張してドキドキと胸打つ鼓動が早くなる。
ただ、結婚式と異なるのは、指輪の嵌める場所だった。
「中指、なのね」
「中指は魔除けに効果的だと言われているからな」
「嵌まるかしら」
痩せて指が細くなってしまっているから、ブカブカにならないかという私の心配は無駄に終わった。
「……ピッタリだわ。あのおじさん、私の指のサイズ知っていたのかしら」
「もし合わなければネックレスにすればいいと思ったんだろう。ネックレス用のヒモも箱に入っていた」
「ああ、なるほどね」
さすがにおじさんに私の指のサイズを読む超能力はないわよね。
窓から差す日光に指輪を当てて、よく観察する。
何の変哲もない指輪だけれど、私はとても気に入った。
……別に、ライナスが指輪を嵌めてくれたからとか、そんな邪な理由ではないわよ。
って、誰に言い訳してるのよと自分で自分に心の中で突っ込んでいると、不意にライナスが私へ質問を投げる。
「結婚指輪は、どんなデザインがいいんだ? 私はシンプルな方が好みだが、君は派手な方がいいだろうか」
「…………。結婚、指輪は……」
私は……嵌めることはないから、聞かれても意味が無いわ。
ライナスは私との結婚を思い浮かべてくれているのだろうけれど、その未来にきっと私はいない。
一瞬考えただけなのに、心が何かに蝕まれるように痛み、私は眉を顰める。
──どうして、傷付いているの。
近い将来、自分が死ぬのが怖いから?
いいえ、違う。死ぬことへの恐怖心なんかじゃない。
……ただ、ライナスの隣に立つ未来が私にはないのだと自覚して、少し寂しくなっただけだわ。
「……いらないわ。指輪はあまり好きではないの」
そう答えれば、ライナスは悩ましげに目を伏せる。
「そうか。好きではないのか。だが、結婚指輪を作らないわけにはいかないからな……」
「……また指輪を作る時にでも聞いて。その時はきっと、答えられると思うわ」
──答える人は、私ではないけれど。
ライナス、あなたが結婚指輪をその手で嵌める相手は第二の聖女。つまり、ホンモノの聖女よ。
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