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44話 約束①
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──早く起きてと、誰かに言われた気がする。
ずっと、終わりのない深い眠りに就いていたような、随分長い暗闇だった。
その暗闇は段々と薄くなり、白に近くなっていく。
自分の身体の感覚を徐々に取り戻して、私は指先を少しだけ動かす。
眠りから覚める時だと自覚して、ゆっくりと目を開けた。
「──アイヴィ嬢?」
ガタンと何かがぶつかった音がしたと思ったら、ライナスとレグラン、コニーがそれぞれ驚いた顔をしながら私の顔を覗き込んだ。
私の手が誰かの手に握られる感覚もある。
どうやら自分は死ななかったようだと、彼らの顔を見て安心した。
──何よ、見世物じゃないのよ。何なのよ皆して変な顔をして。
そうセリフが頭に浮かぶのに、唇がパクパク動かせるだけで声が出ない。
……喉が、乾いたわ。
砂漠のように乾燥していて、声が出せない。
困っていたらライナスが察してくれたらしい。
私の身体を抱き起こし、水の入ったカップを私の口にゆっくりと流し込む。
注がれる水を少しずつ飲み、潤いを取り戻したところで唇を閉じた。
ライナスはカップを置くと、私をもう一度寝かせてくれる。
何だか、ライナスと初めて出会った時のことを思い出すわ。
あの時もこうやって、あなたは私に水を飲ませてくれたわね。
思い返しながらライナスをじっと見ていると、心配そうな眼差しを返される。
「大丈夫か、アイヴィ嬢」
「……あ、……た……」
当たり前じゃない。何を心配してるのよ。
そのセリフはライナス達に伝わることはなかった。
どうやら喋る力もないみたい。
随分身体が弱っているわ。
……当然ね。
聖女の力を……私の生命力を一気に使ったのだから。
生きているのが幸運なくらいだわ。
私が上手く喋れないでいると、ライナスは首を横に振る。
「無理に話さなくていい。まだ辛いだろう。休んでくれ」
……また、私の手が誰かに握られる。
この手は誰なのかしら。
もしかして、ライナスだったりする? ……まさかね。
そう思いながらも、手の主にありがとうと伝える代わりに少しだけ握ったら、その手は強く握り返してくれた。
それからもう少しだけ眠らせてもらった。
次に起きた時に、コニーから私が五日間眠っていたこと、グラーレウスの民が毎日私の目覚めを祈りに来てくれていたこと、そしてライナスがほとんど眠らずにずっと側に付いていてくれたことを聞いた。
「殿下が? ……確かに聖女の私に死なれたら困るものね。でもそこまでとは思わなかったわ」
「あ、あの、ち……違うと、思います。王太子殿下は……アイヴィ様のことを、心から心配されている、ご様子でした。ず、ずっとアイヴィ様のお手を、に……握っていらして」
私はベッドの上でコニーに重湯のような流動食を食べさせてもらっていた途中で、思わずごふっと咳き込んでしまう。
想像したらカッと顔に熱が一気に集まり、コニーから顔を見られないように、咳がひどいふりをして俯く。
そんなに心配してくれていたの?
ずっと私の側に付いていてくれただけでも驚きなのに、更に……て、手をにぎ……握って……!?
ならさっきの手も……ライナス!?
恥ずかしさのあまりしばらく顔を上げないでいたら、余程変なところに食べ物が入ったのかと勘違いしたコニーが私の背中を慌てて擦った。
「だだ、大丈夫ですか!? アイヴィ様!」
「だ、大丈夫よ。もう大丈夫だから」
俯いたままコニーから渡されたナフキンで口を拭いて、浅く息を吐く。
「今、殿下は休まれているのよね?」
「は、はい! アイヴィ様がお目覚めになってご安心されたのか、ようやく眠りに就かれたそうです!」
「そ、そう……」
多分ライナスのことだから、あの時私の身体よりも民を救うことを優先したことに対して、自責の念に駆られているんじゃないかしら。
そうよ、絶対そうだわ。
私の手をに……握っていたのも、きっと申し訳ないって思う気持ちからだわ。
そうよそうよ、深い意味はないわ。
そこまで心配をかけたなら、あとでライナスを安心させなきゃ。私はもう元気だと。
それから、ライナスは正しい選択をしたと肯定しようかしら。
要らぬ罪悪感を私に持って欲しくないものね。
ずっと、終わりのない深い眠りに就いていたような、随分長い暗闇だった。
その暗闇は段々と薄くなり、白に近くなっていく。
自分の身体の感覚を徐々に取り戻して、私は指先を少しだけ動かす。
眠りから覚める時だと自覚して、ゆっくりと目を開けた。
「──アイヴィ嬢?」
ガタンと何かがぶつかった音がしたと思ったら、ライナスとレグラン、コニーがそれぞれ驚いた顔をしながら私の顔を覗き込んだ。
私の手が誰かの手に握られる感覚もある。
どうやら自分は死ななかったようだと、彼らの顔を見て安心した。
──何よ、見世物じゃないのよ。何なのよ皆して変な顔をして。
そうセリフが頭に浮かぶのに、唇がパクパク動かせるだけで声が出ない。
……喉が、乾いたわ。
砂漠のように乾燥していて、声が出せない。
困っていたらライナスが察してくれたらしい。
私の身体を抱き起こし、水の入ったカップを私の口にゆっくりと流し込む。
注がれる水を少しずつ飲み、潤いを取り戻したところで唇を閉じた。
ライナスはカップを置くと、私をもう一度寝かせてくれる。
何だか、ライナスと初めて出会った時のことを思い出すわ。
あの時もこうやって、あなたは私に水を飲ませてくれたわね。
思い返しながらライナスをじっと見ていると、心配そうな眼差しを返される。
「大丈夫か、アイヴィ嬢」
「……あ、……た……」
当たり前じゃない。何を心配してるのよ。
そのセリフはライナス達に伝わることはなかった。
どうやら喋る力もないみたい。
随分身体が弱っているわ。
……当然ね。
聖女の力を……私の生命力を一気に使ったのだから。
生きているのが幸運なくらいだわ。
私が上手く喋れないでいると、ライナスは首を横に振る。
「無理に話さなくていい。まだ辛いだろう。休んでくれ」
……また、私の手が誰かに握られる。
この手は誰なのかしら。
もしかして、ライナスだったりする? ……まさかね。
そう思いながらも、手の主にありがとうと伝える代わりに少しだけ握ったら、その手は強く握り返してくれた。
それからもう少しだけ眠らせてもらった。
次に起きた時に、コニーから私が五日間眠っていたこと、グラーレウスの民が毎日私の目覚めを祈りに来てくれていたこと、そしてライナスがほとんど眠らずにずっと側に付いていてくれたことを聞いた。
「殿下が? ……確かに聖女の私に死なれたら困るものね。でもそこまでとは思わなかったわ」
「あ、あの、ち……違うと、思います。王太子殿下は……アイヴィ様のことを、心から心配されている、ご様子でした。ず、ずっとアイヴィ様のお手を、に……握っていらして」
私はベッドの上でコニーに重湯のような流動食を食べさせてもらっていた途中で、思わずごふっと咳き込んでしまう。
想像したらカッと顔に熱が一気に集まり、コニーから顔を見られないように、咳がひどいふりをして俯く。
そんなに心配してくれていたの?
ずっと私の側に付いていてくれただけでも驚きなのに、更に……て、手をにぎ……握って……!?
ならさっきの手も……ライナス!?
恥ずかしさのあまりしばらく顔を上げないでいたら、余程変なところに食べ物が入ったのかと勘違いしたコニーが私の背中を慌てて擦った。
「だだ、大丈夫ですか!? アイヴィ様!」
「だ、大丈夫よ。もう大丈夫だから」
俯いたままコニーから渡されたナフキンで口を拭いて、浅く息を吐く。
「今、殿下は休まれているのよね?」
「は、はい! アイヴィ様がお目覚めになってご安心されたのか、ようやく眠りに就かれたそうです!」
「そ、そう……」
多分ライナスのことだから、あの時私の身体よりも民を救うことを優先したことに対して、自責の念に駆られているんじゃないかしら。
そうよ、絶対そうだわ。
私の手をに……握っていたのも、きっと申し訳ないって思う気持ちからだわ。
そうよそうよ、深い意味はないわ。
そこまで心配をかけたなら、あとでライナスを安心させなきゃ。私はもう元気だと。
それから、ライナスは正しい選択をしたと肯定しようかしら。
要らぬ罪悪感を私に持って欲しくないものね。
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