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41話 捨て身の救い①
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街から街へと移動を続け、夜になればその地の領主の屋敷で休ませてもらう。
そんな生活を、何日繰り返したかしら。
基本は移動ばかりだから疲れるけれど、毎日見たことのない景色が窓の外を流れていくので、私を飽きさせることはなかった。
今日もまた、馬車でゴトゴトと運ばれながらライナスと会話する。
「今日の目的地はグラーレウスだったわね。交易が盛んな街だとレグランから聞いたわ。お買い物する時間はあるかしら?」
「……多少はあると思うが……何か欲しいものでもあるのか? 今まで君は何も求めて来たことはなかったが」
「別に……。ただ珍しいものが置いていないか見たいだけよ」
「……本当か?」
ライナスの蒼い瞳が疑いを含み、ギクリとする。
ただ買い物したいって言っただけなのに、ライナスが妙に私を疑うのは、私への信頼がよっぽどないからなのかしら。
勝手に宝石とか高価なものをたんまり買い込むとでも思われてない?
下から見上げるような強気な眼差しをライナスに向ける。
「本当だってば。何でもかんでも疑わないでくれる?」
「なら私も同行しよう。欲しいものが見つかれば買おう」
ライナスからの余計な提案に、私は焦りを覚える。
「い、いいわよ別に付いて来なくて……! あなたが一緒だとゆっくり出来ないのよ」
「……やはり何か隠しているな?」
「隠してないってば! しつこい男は嫌われるわよ」
本当は髪を染められるような特殊な染料がないか探したいだけ。
でもそんなものを欲しがるのは変に思われるから、誤魔化しが通じそうなコニーあたりと一緒に買い物へ行きたい。
不完全な聖女は髪の毛が老婆のように白くなったと言っていたし、なるべく今のミルキーブロンドを保ちたい。
少しでも見た目が良いまま終わりを迎えたいという、ちょっとした抵抗だったりする。
私が強めに断ってもライナスはまだ引き下がる気配がない。
どうしようかと困っていると、突然馬車が止まって、一旦私とライナスの応酬は止まった。
「た、大変です! 殿下!」
兵士の一人が飛んで来て、窓の外から緊急事態を知らせる。
「何があった?」
「グラーレウスに下見へ向かった先遣隊からたった今連絡が入りました! グラーレウスが魔物の集団に襲われ、街が壊滅状態にあるようです!」
兵士の報告は、ライナスの顔色を変えさせる。
緊迫感が辺りを漂った。
「何!? グラーレウスの砦は最近強固にしたばかりだ。それでも壊滅状態だと?」
「は、はい! どうやらドレイクの仕業だそうで……!」
兵士の口ぶりからして、多分魔物の中でもかなり強い部類のものなんだろうと思う。
ただ念の為ライナスに尋ねてみる。
「殿下。ドレイクって……?」
「小型のドラゴンだ。しかし小型と言ってもその凶暴性はなかなかのもの。普段人前には滅多に姿を見せないはずなのだが……」
「なら早く向かった方がいいんじゃないの? まだ生き残ってる人がいるかもしれないわ」
「そうだな。急ごう」
兵士達を筆頭に、グラーレウスへと急ぐ。
ガラガラと馬車の車輪が騒がしく立てる音が、焦る気持ちを煽っていく。
やがて、遠目からでもわかるぐらいに、赤い帯のようなものがくっきりと私の瞳に映った。
「殿下……」
その帯は近付くにつれ太くなり、それが何なのか嫌でもわかってしまう。
馬車から降りて、現実を目に焼き付けた。
そんな生活を、何日繰り返したかしら。
基本は移動ばかりだから疲れるけれど、毎日見たことのない景色が窓の外を流れていくので、私を飽きさせることはなかった。
今日もまた、馬車でゴトゴトと運ばれながらライナスと会話する。
「今日の目的地はグラーレウスだったわね。交易が盛んな街だとレグランから聞いたわ。お買い物する時間はあるかしら?」
「……多少はあると思うが……何か欲しいものでもあるのか? 今まで君は何も求めて来たことはなかったが」
「別に……。ただ珍しいものが置いていないか見たいだけよ」
「……本当か?」
ライナスの蒼い瞳が疑いを含み、ギクリとする。
ただ買い物したいって言っただけなのに、ライナスが妙に私を疑うのは、私への信頼がよっぽどないからなのかしら。
勝手に宝石とか高価なものをたんまり買い込むとでも思われてない?
下から見上げるような強気な眼差しをライナスに向ける。
「本当だってば。何でもかんでも疑わないでくれる?」
「なら私も同行しよう。欲しいものが見つかれば買おう」
ライナスからの余計な提案に、私は焦りを覚える。
「い、いいわよ別に付いて来なくて……! あなたが一緒だとゆっくり出来ないのよ」
「……やはり何か隠しているな?」
「隠してないってば! しつこい男は嫌われるわよ」
本当は髪を染められるような特殊な染料がないか探したいだけ。
でもそんなものを欲しがるのは変に思われるから、誤魔化しが通じそうなコニーあたりと一緒に買い物へ行きたい。
不完全な聖女は髪の毛が老婆のように白くなったと言っていたし、なるべく今のミルキーブロンドを保ちたい。
少しでも見た目が良いまま終わりを迎えたいという、ちょっとした抵抗だったりする。
私が強めに断ってもライナスはまだ引き下がる気配がない。
どうしようかと困っていると、突然馬車が止まって、一旦私とライナスの応酬は止まった。
「た、大変です! 殿下!」
兵士の一人が飛んで来て、窓の外から緊急事態を知らせる。
「何があった?」
「グラーレウスに下見へ向かった先遣隊からたった今連絡が入りました! グラーレウスが魔物の集団に襲われ、街が壊滅状態にあるようです!」
兵士の報告は、ライナスの顔色を変えさせる。
緊迫感が辺りを漂った。
「何!? グラーレウスの砦は最近強固にしたばかりだ。それでも壊滅状態だと?」
「は、はい! どうやらドレイクの仕業だそうで……!」
兵士の口ぶりからして、多分魔物の中でもかなり強い部類のものなんだろうと思う。
ただ念の為ライナスに尋ねてみる。
「殿下。ドレイクって……?」
「小型のドラゴンだ。しかし小型と言ってもその凶暴性はなかなかのもの。普段人前には滅多に姿を見せないはずなのだが……」
「なら早く向かった方がいいんじゃないの? まだ生き残ってる人がいるかもしれないわ」
「そうだな。急ごう」
兵士達を筆頭に、グラーレウスへと急ぐ。
ガラガラと馬車の車輪が騒がしく立てる音が、焦る気持ちを煽っていく。
やがて、遠目からでもわかるぐらいに、赤い帯のようなものがくっきりと私の瞳に映った。
「殿下……」
その帯は近付くにつれ太くなり、それが何なのか嫌でもわかってしまう。
馬車から降りて、現実を目に焼き付けた。
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