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40話 素直にはなれない③
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ライナスは兵士の様子を見に行ったので、私はレグランと一緒に馬車のそばでボーッと突っ立っていた。
すると、コニーが横から大きな棒や布を持って私の元へ駆け付けて来る。
「ア、アイヴィ様! 今から日焼け対策の休憩場所を設営致しますので、少々お待ち下さい!!」
「え? 何?」
「も、申し訳ないのですが、レグランさんもお手伝い願います!!」
「え? 私もですか?」
レグランをも巻き込んで休憩場所を作ろうとするコニーを止める。
「コニー、別にそこまでしなくてもいいわよ」
「いいえ! アイヴィ様が日焼けをなされたくないと仰られているのですから、私は全力でお応えするのです!」
コニーの厚意はとてもありがたいけれど、そんなに頑張ってくれなくてもいいのよ。
仕事熱心なのも含めて、あなたはいい子ね。ちょっと変わり者だけど。
コニーは絶対に引かないようだったので、休憩場所の設営を終えるまで私はその辺を適当にうろつくことにする。
草の上でごろんと転がる三人の兵士の横を通り過ぎようとした時、聞くつもりはなかったけれど会話が耳に勝手に入って来てしまった。
「あー……連戦しんどかったなあ。やっと抜けられて良かったよ」
「だな。……ん? 何かお前顔色悪くね?」
「いや……んなことねえよ」
「そいつ遠征行きたいってずっと言ってたからよ。念願叶って緊張してんじゃないの?」
「おいおい、こんなとこでへばってたら城に帰れって言われんぞ」
他二人にからかわれている灰色の髪の青年兵士は、明らかに様子がおかしい。
そこまで暑くはないのに汗が噴き出るように額を濡らしているし、呼吸も少し荒い。
……どう見ても、怪我か病気を患っているとしか思えず、私は声をかけた。
「ねえ」
「!! せ、聖女様!」
全く私に気付いていなかった兵士達は慌てて立ち上がり、私に頭を下げる。
灰髪の兵士も同じように立ち上がったけれど、やはり足取りがどこかおぼつかない。
「そこの灰色の髪のあなた、どこか怪我してるんじゃないの?」
「え!? と、とんでもない! 俺……私はこの通り元気ですよ!」
灰髪の兵士は両手を広げて元気だと主張するけれど、どうしても嘘だとしか思えなかった。
「そうなの。ならあなたに頼もうかしら。さっき森の中で美味しそうな果実を見つけたの。りんごに似た赤い果実。すぐに取ってきてくれる?」
「えっ……」
意地悪な言い方してごめんなさい。
でも、身体の不調を隠してもっと悪化したらあなたが大変なのよ。
私は片手を灰髪の兵士の前に掲げ、治癒の祈りを捧げる。
兵士の身体が青色にパアッと光り、キラキラと零れ落ちるように彼の全身を纏った。
光が消えると、灰髪の兵士は自分の身体を見回すように視線を動かし、驚いたような大きな瞳で私の顔を凝視する。
私は下ろした手を腰に宛てて小さく息を吐いた。
「無理して付いて来られても迷惑なのよ。城に帰されたくないのなら、きちんと申告なさい」
「はい……申し訳ありませんでした」
灰髪の兵士は私に怒られてしょんぼりと肩を落とす。
ああ、心が痛むわ。優しく伝えられなくてごめんね、兵士さん。
居た堪れず、踵を返してコニー達のところへ戻ろうと思ったら、視線の先にライナス、レグラン、コニーが三人横並びに立って私の方を見ていて、反射的に足を止めてしまう。
「……何よ。何揃って見てんのよ」
「いや、レグランから休憩場所を設置し終えたと聞いて、君を呼びに来たんだ」
「ああ、そう……今行くわ」
ライナスの話を聞いて納得したから向かおうとしたのに、ライナス達はそこから動こうとしない。
私は不審に思う目付きで、直線を描くように三人をじろりと睨み付ける。
「……何よ。何か言いたいことでもあるの?」
「いえ。アイヴィ様って、何だかんだ優しいですよね」
「ア、アイヴィ様はお優しい方ですよ!」
「素直じゃないのが玉に瑕だが」
からかっているのか、本気なのかわからないけれど、私が兵士に取った行動をガッツリ見ていて褒め立てるレグラン達に、恥ずかしくなって顔を赤くしてしまう。
「……何なのよ、揃いも揃って!」
そんな捨て台詞を吐いて再び踵を返し、ライナス達から離れる私を、コニーがとんでもなく慌てながら追い掛けて来て引き止めたのだった。
すると、コニーが横から大きな棒や布を持って私の元へ駆け付けて来る。
「ア、アイヴィ様! 今から日焼け対策の休憩場所を設営致しますので、少々お待ち下さい!!」
「え? 何?」
「も、申し訳ないのですが、レグランさんもお手伝い願います!!」
「え? 私もですか?」
レグランをも巻き込んで休憩場所を作ろうとするコニーを止める。
「コニー、別にそこまでしなくてもいいわよ」
「いいえ! アイヴィ様が日焼けをなされたくないと仰られているのですから、私は全力でお応えするのです!」
コニーの厚意はとてもありがたいけれど、そんなに頑張ってくれなくてもいいのよ。
仕事熱心なのも含めて、あなたはいい子ね。ちょっと変わり者だけど。
コニーは絶対に引かないようだったので、休憩場所の設営を終えるまで私はその辺を適当にうろつくことにする。
草の上でごろんと転がる三人の兵士の横を通り過ぎようとした時、聞くつもりはなかったけれど会話が耳に勝手に入って来てしまった。
「あー……連戦しんどかったなあ。やっと抜けられて良かったよ」
「だな。……ん? 何かお前顔色悪くね?」
「いや……んなことねえよ」
「そいつ遠征行きたいってずっと言ってたからよ。念願叶って緊張してんじゃないの?」
「おいおい、こんなとこでへばってたら城に帰れって言われんぞ」
他二人にからかわれている灰色の髪の青年兵士は、明らかに様子がおかしい。
そこまで暑くはないのに汗が噴き出るように額を濡らしているし、呼吸も少し荒い。
……どう見ても、怪我か病気を患っているとしか思えず、私は声をかけた。
「ねえ」
「!! せ、聖女様!」
全く私に気付いていなかった兵士達は慌てて立ち上がり、私に頭を下げる。
灰髪の兵士も同じように立ち上がったけれど、やはり足取りがどこかおぼつかない。
「そこの灰色の髪のあなた、どこか怪我してるんじゃないの?」
「え!? と、とんでもない! 俺……私はこの通り元気ですよ!」
灰髪の兵士は両手を広げて元気だと主張するけれど、どうしても嘘だとしか思えなかった。
「そうなの。ならあなたに頼もうかしら。さっき森の中で美味しそうな果実を見つけたの。りんごに似た赤い果実。すぐに取ってきてくれる?」
「えっ……」
意地悪な言い方してごめんなさい。
でも、身体の不調を隠してもっと悪化したらあなたが大変なのよ。
私は片手を灰髪の兵士の前に掲げ、治癒の祈りを捧げる。
兵士の身体が青色にパアッと光り、キラキラと零れ落ちるように彼の全身を纏った。
光が消えると、灰髪の兵士は自分の身体を見回すように視線を動かし、驚いたような大きな瞳で私の顔を凝視する。
私は下ろした手を腰に宛てて小さく息を吐いた。
「無理して付いて来られても迷惑なのよ。城に帰されたくないのなら、きちんと申告なさい」
「はい……申し訳ありませんでした」
灰髪の兵士は私に怒られてしょんぼりと肩を落とす。
ああ、心が痛むわ。優しく伝えられなくてごめんね、兵士さん。
居た堪れず、踵を返してコニー達のところへ戻ろうと思ったら、視線の先にライナス、レグラン、コニーが三人横並びに立って私の方を見ていて、反射的に足を止めてしまう。
「……何よ。何揃って見てんのよ」
「いや、レグランから休憩場所を設置し終えたと聞いて、君を呼びに来たんだ」
「ああ、そう……今行くわ」
ライナスの話を聞いて納得したから向かおうとしたのに、ライナス達はそこから動こうとしない。
私は不審に思う目付きで、直線を描くように三人をじろりと睨み付ける。
「……何よ。何か言いたいことでもあるの?」
「いえ。アイヴィ様って、何だかんだ優しいですよね」
「ア、アイヴィ様はお優しい方ですよ!」
「素直じゃないのが玉に瑕だが」
からかっているのか、本気なのかわからないけれど、私が兵士に取った行動をガッツリ見ていて褒め立てるレグラン達に、恥ずかしくなって顔を赤くしてしまう。
「……何なのよ、揃いも揃って!」
そんな捨て台詞を吐いて再び踵を返し、ライナス達から離れる私を、コニーがとんでもなく慌てながら追い掛けて来て引き止めたのだった。
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