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39話 素直にはなれない②

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 これから約二ヶ月の旅が始まる。

 何事も問題が起きないといいのだけど、と願うのは何かが起きるフラグになってしまうかしら。
 例えば、私達が到着する前に王女様がお亡くなりになってしまったり……とか。
 ああ、こういう考えは良くないわ。
 そう思うのに、つい口をついて出てしまう。

「素朴な疑問なんだけど……ノノメリアまで一ヶ月ほど掛かるのよね。王女様、それまで持つの?」

 あまりに不躾な質問に、ライナスは呆れの混ざったため息を吐く。

 ……ごめんなさい。
 最悪の展開をちょっと頭に浮かべたら、口が滑ってしまったの。

「いくら今ここに君と私しかいないとしても、その発言は目に余るぞ」

「あなたと私しかいないから言ってるのよ。それに皆口に出さないだけで思ってるでしょ? 重篤な状態ってはっきり言って死にかけているってことじゃない。王女様がどんな症状なのかは知らないけれど、私達が急いで向かったところで間に合いませんでした、ってことになったらどうするの。ノノメリア側は仕方ないねで済ませてくれるわけ?」

「だから要請を受けてすぐに出発しただろう。我々ハイルドレッドがモタモタしていたせいだと難癖をつけられんためにな」

「出発を急いだのは、ハイルドレッドは最善を尽くしたっていうポーズを取るためってことね。うんざりするわね、そういうの」

 王女のために急いで向かうという偽善的な態度を取り繕ってアピールする。実際には、助けたいという気持ちは置き去りにして。

 外交なんてそんなものと言われてしまえばそれまでだけど、何とも言えない気持ちになる。

 そこで会話は途切れてしまったので、私とライナスはしばらく黙ったまま窓の外を見つめていた。

 整地された街道を馬車は走っていたのに、いつしか道の悪い森の中へと入って、ガタンガタンと馬車が大きく揺れ出す。
 そして時折止まったかと思えば、少し先の方から魔物の金切り声のようなものが聞こえて、再び馬車が動き出すということを何度か繰り返した。

「ねえ、何だかさっきから様子がおかしくないかしら?」

「ここは魔物が多く生息する危険な森なんだ。あまり人が使う道ではないが、この森を抜けるのがノノメリアへの最短ルートでな」

「そういうこと。じゃあさっきから変な鳴き声が聞こえるのは──」

 丁度タイミングを見計らったように、兵士が狼のような魔物を退治している姿が少し遠くに見えた。
 兵士の剣によって身体を裂かれた魔物は、ギャン! と断末魔を上げてその場に倒れ込む。

「今、君の目で見た通りだ」

「……よくわかったわ」

 聖女の私がいるからか、私達の乗る馬車の近くには魔物は一切寄って来なかった。

 危険な森だとライナスが言っていた通り、やはり魔物がうじゃうじゃ出て来るようで、何度も馬車は止まり、退治に時間を使う。

「……これ、遠回りだとしても普通に街道から行った方が早いんじゃないの」

「いや。魔物討伐の時間を加味してもこちらの方が早い。出来るだけ安全な街道を使いたいが、あちらはかなり迂回させられるんだ」

「ふーん、兵士が可哀想ね」

 その後も地道に進み続け、ようやく森を抜けた私達は、連戦続きで疲弊する兵士を休ませる為に休憩時間を設けることにした。

 山や海といった自然の類はなく、ただ目の前に広がる景色は雑草だけ。
 良い言い方をすれば草原だけど、風情も何もない場所で時間を潰すのは少々退屈だった。

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