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35話 口喧嘩とじゃれ合いは紙一重③
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中は暗く、冷たい空気が流れていた。
今は観客もなく、熱気がないから余計に冷たく感じるのかもしれない。
道中に松明が等間隔に置いてあり、少し先に進むと、黒いスーツを纏った男が私達を待ち構えていたように恭しく頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。王太子殿下、聖女様。お会い出来て光栄でございます」
その男性は闘技場の支配人と名乗り、胡散臭い狐目をしていた。
その見た目通り胡散臭い口調でペラペラと私やライナスを過剰に褒めそやし、ちょっとうんざりしながら魔物がいる檻まで案内してもらう。
「こちらでございます」
支配人が手を伸ばして指し示した檻の奥から、真っ黒な翼を広げた何かが、キシャアアと何かが擦り切れるような鳴き声を上げる。
私は身体を震わせた。
その魔物はたまに稲妻のようにパチパチと光を放ち、触っただけで感電してしまいそうだ。
ライナスは慣れているのか全く動じることも無く、涼しい顔で私に説明してくれる。
「これはトネールワイバーンだ。特に爪が鋭利で、まともに攻撃を受けたら皮膚は裂かれる。そして見た通りこいつは帯電しているから、触れば身体中に電気が走る」
「待って。これ、人間が勝てる相手?」
「闘技場に出るような猛者達ならば問題ない相手だ」
「本気で言ってる? どう考えても無理でしょ。触ったら死ぬ、爪で裂かれても死ぬ。どう足掻いても死ぬ運命しか見えないのだけど」
「疑うなら一度闘っているところを見に来たらいい」
「遠慮するわ。あんまり傷付け合いみたいなのは見たくな──」
「ギシャアアアアア!!!」
「ひあああっ!?」
突然ワイバーンが嘶くように天を見上げて鳴き喚く。
咄嗟にライナスの背中にしがみつきながら後ろに隠れた。
ライナスはゆっくりと後ろを振り向き、背後にいる私を見下ろす。
「…………。私を盾にするとはいい度胸だな。ワイバーンがこの檻から出ることはないのが幸いだった」
「し、仕方ないでしょ。私戦えないんだもの」
「聖女の力という最強の武器を持っている君が? なかなか面白いことを言うんだな」
「急に襲われたら力だって使う暇ないわ。グチグチうるさい男ね。王太子ならか弱い女性を黙って守ればいいのよ」
あっ、良くない良くない。
明らかに言い過ぎよ。いくらライナスが私の悪態を許してくれたからって、調子に乗るのは良くないわ。
ライナスは周りを見回し、何かを探す素振りをする。
「一体どこにか弱い女性などいる? 私の周りにはいないようだが」
「あら大変。あなた城に戻ったら治療師に診てもらう必要がありそうね。目がよく見えていないようだわ」
「残念だが視界はすこぶる良好だ。……ところでいつまで私にくっ付いているつもりだ?」
ライナスに指摘されて私はハッとする。
ライナスの軍服を握り締めて密着していたことを今更自覚し、跳ぶような勢いで慌てて離れた。
恥ずかしくて耳まで熱くなってしまい、そんな顔をライナスに見られたくなくて顔を思い切り背ける。
ライナスはわざわざ身体ごと私に振り向き、私の顔をじっと見ているのか、視線を感じる。
更に私の顔に熱が集まった。
「す、少し驚いただけよ。別に怖かったわけじゃないわ……」
「その割には随分としがみつく力が強かったようだが」
「気のせいよ。あなたの気のせい!」
「……ふ。そうか。私の気のせいだな」
明らかに私が怖がっていたことをわかっていて、ライナスは私の反応を面白がる。
ふっと息を零して笑ってみせた。
少し意地の悪いその笑顔も私の羞恥心を煽るには充分で、顔だけに留まらず首元まで真っ赤になってしまい、もう隠しようがなかった。
今は観客もなく、熱気がないから余計に冷たく感じるのかもしれない。
道中に松明が等間隔に置いてあり、少し先に進むと、黒いスーツを纏った男が私達を待ち構えていたように恭しく頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。王太子殿下、聖女様。お会い出来て光栄でございます」
その男性は闘技場の支配人と名乗り、胡散臭い狐目をしていた。
その見た目通り胡散臭い口調でペラペラと私やライナスを過剰に褒めそやし、ちょっとうんざりしながら魔物がいる檻まで案内してもらう。
「こちらでございます」
支配人が手を伸ばして指し示した檻の奥から、真っ黒な翼を広げた何かが、キシャアアと何かが擦り切れるような鳴き声を上げる。
私は身体を震わせた。
その魔物はたまに稲妻のようにパチパチと光を放ち、触っただけで感電してしまいそうだ。
ライナスは慣れているのか全く動じることも無く、涼しい顔で私に説明してくれる。
「これはトネールワイバーンだ。特に爪が鋭利で、まともに攻撃を受けたら皮膚は裂かれる。そして見た通りこいつは帯電しているから、触れば身体中に電気が走る」
「待って。これ、人間が勝てる相手?」
「闘技場に出るような猛者達ならば問題ない相手だ」
「本気で言ってる? どう考えても無理でしょ。触ったら死ぬ、爪で裂かれても死ぬ。どう足掻いても死ぬ運命しか見えないのだけど」
「疑うなら一度闘っているところを見に来たらいい」
「遠慮するわ。あんまり傷付け合いみたいなのは見たくな──」
「ギシャアアアアア!!!」
「ひあああっ!?」
突然ワイバーンが嘶くように天を見上げて鳴き喚く。
咄嗟にライナスの背中にしがみつきながら後ろに隠れた。
ライナスはゆっくりと後ろを振り向き、背後にいる私を見下ろす。
「…………。私を盾にするとはいい度胸だな。ワイバーンがこの檻から出ることはないのが幸いだった」
「し、仕方ないでしょ。私戦えないんだもの」
「聖女の力という最強の武器を持っている君が? なかなか面白いことを言うんだな」
「急に襲われたら力だって使う暇ないわ。グチグチうるさい男ね。王太子ならか弱い女性を黙って守ればいいのよ」
あっ、良くない良くない。
明らかに言い過ぎよ。いくらライナスが私の悪態を許してくれたからって、調子に乗るのは良くないわ。
ライナスは周りを見回し、何かを探す素振りをする。
「一体どこにか弱い女性などいる? 私の周りにはいないようだが」
「あら大変。あなた城に戻ったら治療師に診てもらう必要がありそうね。目がよく見えていないようだわ」
「残念だが視界はすこぶる良好だ。……ところでいつまで私にくっ付いているつもりだ?」
ライナスに指摘されて私はハッとする。
ライナスの軍服を握り締めて密着していたことを今更自覚し、跳ぶような勢いで慌てて離れた。
恥ずかしくて耳まで熱くなってしまい、そんな顔をライナスに見られたくなくて顔を思い切り背ける。
ライナスはわざわざ身体ごと私に振り向き、私の顔をじっと見ているのか、視線を感じる。
更に私の顔に熱が集まった。
「す、少し驚いただけよ。別に怖かったわけじゃないわ……」
「その割には随分としがみつく力が強かったようだが」
「気のせいよ。あなたの気のせい!」
「……ふ。そうか。私の気のせいだな」
明らかに私が怖がっていたことをわかっていて、ライナスは私の反応を面白がる。
ふっと息を零して笑ってみせた。
少し意地の悪いその笑顔も私の羞恥心を煽るには充分で、顔だけに留まらず首元まで真っ赤になってしまい、もう隠しようがなかった。
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