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21話 不完全な聖女①
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ハワーベスタ治療院での活動を終えた翌日、体調のことを考慮してか、聖女としての業務はお休みを貰えた。
城からの外出は許可されていないし、やることも特にない。
レグランの薦めで、歴代聖女の記録が保管されているという、城の離れにある立派な書庫へ来た。
見渡す限りに本棚が並ぶ。国中の本をここへかき集めたのではないかと思うほど膨大な数だ。
それなのに今ここには私とレグランしかおらず、もったいなさすぎると思いながら、近くの椅子に腰掛ける。
「こちらです」
しばらく待っていると、レグランがものすごい束の書類を持って来てくれた。
その厚みは私の顔を隠せてしまうほど。
目の前に机があるのに、レグランは書類を置こうとしない。
何かと思えば忠告をされる。
「破ったり汚したりしないでくださいね。大変貴重なものですので」
「破りたくなるような内容が書いていなければね」
そう答えれば、レグランは私に書類を渡すのが恐ろしくなったらしい。
厳しい視線でじろりと見下ろして来たので、私は肩を竦めてふんと鼻を鳴らす。
「冗談の一つも通じないなんて、つまらない男ね」
「アイヴィ様が仰ると冗談に聞こえません」
ごもっともだわ。
書類の内容が気に入らなければ本気で破ってしまいそうだもの。ジェナならやりかねない。
怖いからレグランが音読してくれないかしら。
してくれるわけないわね。こんな分厚い書類を音読させるなんて嫌がらせ以外の何物でもないわ。
「ほら、早く貸しなさい」
手を出して催促すると、レグランは渋々机に置いてくれた。
書類はきちんと綴られていくつかに分けられていたので、一部の塊を取って本のようにパラパラと軽く流し読みする。
歴代聖女達の名前や活動記録みたいなものがズラリと細かく、手書きで記載されていた。
聖女自体は五百年に一度現れる存在だとライナスが言っていたので多くはないものの、活動記録のあまりの細かさに思わず目が滑ってしまう。
「ねえ、レグラン。歴代の聖女って私みたいに突然現れるものなの? それとも生まれた時から聖女だったの?」
「……その書類にも書いてあるのですが。生まれた時は普通で、アイヴィ様ぐらいの年齢になると神のお告げを経て聖女としての力が目覚めるそうです。その際にハルモクリスタルも現れるそうで」
「ふーん? じゃあ普通の人間が急に聖女になるってこと。それなら私の素性もわかりそうなものだけどね」
「アイヴィ様はどれだけ調べても全くと言っていいほど情報がないんです。どこかの山奥か人気の無い森などで勝手に育ったとしか思えません」
この世界へ転生し、何もない道端で倒れていた不審な私をライナスは丁寧に調べ上げた。でも、不可解なほど何も出て来なかったらしい。
私もアイヴィの過去のことは全く知らないしでお手上げ状態。
生まれも育ちも謎。
アイヴィは突然この世界に現れたとしか思えない不思議な存在だった。
そもそも私が転生して来ていること自体がイレギュラーなのだから、アイヴィがどれだけ異質でもそこまで疑問を持たない。
むしろジェナの時みたいに誰かの人生を乗っ取るよりは、過去も何もない人物が転生先だったのは少し気楽だったりする。
「ふーん。ま、私の過去のことはいいわ」
「いいんですか。ご自身のことなのに」
「別にいいわ。興味ないもの」
自分の過去に興味がない? と首を傾げるレグランを尻目に、書類を掻い摘んで目を通していく。
今の私と同じように、歴代聖女も結界や治療行為をメインに人々を救っていたのだとわかった。
……ただ気になったのは、歴代聖女が力を使って体調を崩したという記述が全くと言っていいほどないこと。
むしろほとんど休みなく聖女の業務を行っている記録ばかりで、今の私には到底無理な業務量だ。
じゃあ、私が力を使うと体調を崩すのは、アイヴィの身体が弱いからってことなのかしら。虚弱体質的な。
普段生活している分にはそこまで身体の弱さを感じることはないのだけど……。
城からの外出は許可されていないし、やることも特にない。
レグランの薦めで、歴代聖女の記録が保管されているという、城の離れにある立派な書庫へ来た。
見渡す限りに本棚が並ぶ。国中の本をここへかき集めたのではないかと思うほど膨大な数だ。
それなのに今ここには私とレグランしかおらず、もったいなさすぎると思いながら、近くの椅子に腰掛ける。
「こちらです」
しばらく待っていると、レグランがものすごい束の書類を持って来てくれた。
その厚みは私の顔を隠せてしまうほど。
目の前に机があるのに、レグランは書類を置こうとしない。
何かと思えば忠告をされる。
「破ったり汚したりしないでくださいね。大変貴重なものですので」
「破りたくなるような内容が書いていなければね」
そう答えれば、レグランは私に書類を渡すのが恐ろしくなったらしい。
厳しい視線でじろりと見下ろして来たので、私は肩を竦めてふんと鼻を鳴らす。
「冗談の一つも通じないなんて、つまらない男ね」
「アイヴィ様が仰ると冗談に聞こえません」
ごもっともだわ。
書類の内容が気に入らなければ本気で破ってしまいそうだもの。ジェナならやりかねない。
怖いからレグランが音読してくれないかしら。
してくれるわけないわね。こんな分厚い書類を音読させるなんて嫌がらせ以外の何物でもないわ。
「ほら、早く貸しなさい」
手を出して催促すると、レグランは渋々机に置いてくれた。
書類はきちんと綴られていくつかに分けられていたので、一部の塊を取って本のようにパラパラと軽く流し読みする。
歴代聖女達の名前や活動記録みたいなものがズラリと細かく、手書きで記載されていた。
聖女自体は五百年に一度現れる存在だとライナスが言っていたので多くはないものの、活動記録のあまりの細かさに思わず目が滑ってしまう。
「ねえ、レグラン。歴代の聖女って私みたいに突然現れるものなの? それとも生まれた時から聖女だったの?」
「……その書類にも書いてあるのですが。生まれた時は普通で、アイヴィ様ぐらいの年齢になると神のお告げを経て聖女としての力が目覚めるそうです。その際にハルモクリスタルも現れるそうで」
「ふーん? じゃあ普通の人間が急に聖女になるってこと。それなら私の素性もわかりそうなものだけどね」
「アイヴィ様はどれだけ調べても全くと言っていいほど情報がないんです。どこかの山奥か人気の無い森などで勝手に育ったとしか思えません」
この世界へ転生し、何もない道端で倒れていた不審な私をライナスは丁寧に調べ上げた。でも、不可解なほど何も出て来なかったらしい。
私もアイヴィの過去のことは全く知らないしでお手上げ状態。
生まれも育ちも謎。
アイヴィは突然この世界に現れたとしか思えない不思議な存在だった。
そもそも私が転生して来ていること自体がイレギュラーなのだから、アイヴィがどれだけ異質でもそこまで疑問を持たない。
むしろジェナの時みたいに誰かの人生を乗っ取るよりは、過去も何もない人物が転生先だったのは少し気楽だったりする。
「ふーん。ま、私の過去のことはいいわ」
「いいんですか。ご自身のことなのに」
「別にいいわ。興味ないもの」
自分の過去に興味がない? と首を傾げるレグランを尻目に、書類を掻い摘んで目を通していく。
今の私と同じように、歴代聖女も結界や治療行為をメインに人々を救っていたのだとわかった。
……ただ気になったのは、歴代聖女が力を使って体調を崩したという記述が全くと言っていいほどないこと。
むしろほとんど休みなく聖女の業務を行っている記録ばかりで、今の私には到底無理な業務量だ。
じゃあ、私が力を使うと体調を崩すのは、アイヴィの身体が弱いからってことなのかしら。虚弱体質的な。
普段生活している分にはそこまで身体の弱さを感じることはないのだけど……。
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