悪役令嬢の性格を引き継いだまま、聖女へ転生! ~悪態つきまくりですけど、聖女やってやりますわ~

二階堂シア

文字の大きさ
上 下
20 / 76

20話 別に優しさじゃない④

しおりを挟む
 それからしばらくの間休憩して体調を取り戻すと、レグランの反対を押し切って治療ケアの手伝いを再開したのだった。

 義務は果たしたのだからこれ以上治療したくないというジェナの反抗はすべて物理で抑える。
 そして最後の一人を治療し終えた頃には、私は案の定ふらふらになってしまった。
 真っ直ぐに歩くことも出来ず、レグランの肩を借りて一歩一歩のろのろと歩く姿は、まるで病人だ。
 まさか治療をしに行った聖女だとは誰も思うはずもない。

 ライナスにこんなところ見つかりたくないと思いながら馬車へ向かう。
 けれど、そういう時に限ってバッタリと鉢会わせてしまうもので。

 私の情けない姿を見たライナスの眉が一瞬で吊り上がった。
 そんな彼が開口一番に発した言葉は。

「──君はバカなのか?」

 バカと言われたのは、これで二度目ね。
 レグランの制止を振り切って体調崩したバカですわ、どうも。

 口では厳しいことを言いながらも、ライナスはレグランと代わって私を支えてくれる。

「無理をするなと言ったはずだが、聞いていなかったのか?」

「し、……仕方ない、でしょ……死に損ないだとしても、見捨てるのは、こ、こっちの気分が悪いじゃない……」

 はあ……何てひどい言い方。
 元気があれば自分の頬を往復ビンタしてやりたいわ。

 一生懸命生きたいと願う患者達に対して死に損ないだなんて、冗談でも言っていいわけがない。
 またライナスに嫌われたと悲観していると、ライナスは横目で私を見ながら今の発言に対する意外な感想を口にする。

「……君は口と態度は悪いが、中身は一応聖女なんだな。そこまで人を救う意思が強いとは思わなかった」

「う、うるさい、わね……。ちょっと黙っててくれる……」

 ライナスから私を嫌悪する言葉は出てこなかった。
 単にこれ以上私の印象が下がることがないだけかもしれない。
 それでも良かったと撫で下ろす。

 そのままひょこひょこと歩いていると、ライナスはついに見兼ねたようだった。

「無理に歩かなくてもいいだろう。馬車まで君を抱えて行ってもいいが」

「結構よ……。力を使ったら歩けなくなるほど体力のない聖女なんて噂を立てられでもしたら……とても腹が立つもの」

 大人しくライナスに甘えればいいのに、ジェナのプライドが邪魔して助けを断ってしまう。

 正直しんどすぎて辛いので、そこは素直に甘えたかった。
 噂なんて好きに言わせておけばいいのに……。

 気力で何とか馬車まで辿り着き、窓側に吸い付くように寄りかかって身体を休める。
 しばらくそうしている内に眠気に襲われ、泥に沈むように深い眠りへと落ちていった。


「ん……」

 目を瞑りながら意識だけが浮上して、少し身じろぎする。

 とても良い眠りだった。倦怠感もほとんど消えている。
 馬車にしては割と寝心地良かったわと半分寝惚けながら目を開けてぼんやりとする。

 ガタンガタンと馬車の揺れる振動と音を聞きながら、徐々に思考がはっきりして来た私は違和感を覚える。

 ……変だわ。
 ライナスも一緒にこの馬車へ乗り込んだはずなのに、目の前に姿がない。

 気付かない内に降りた? いやいやそんなまさか。
 まだ城に着いていないのに降りてどうするのよ。

「……殿下?」

「何だ」

 独り言のように呼んでみたのに、返事が自分の真上から聞こえて来る。
 私は身体が浮くほど驚いてライナスから離れる。勢いよくガンッと窓に頭を打ちつけた。

「痛ったあ!」

「何をしているんだ?」

 寝起きの一発には強烈すぎる痛みに悶絶しながら後頭部を摩る。

「あなた、向かい側にいたはずじゃなかった!? 何で隣にいるのよ!」

「君が馬車の揺れで何度も頭を窓に打っていたのに全く起きず、窓の方が壊れそうだったから仕方なく私の肩を貸したんだ」

 そういえば確かに、今打った部分とは別に側頭部がズキズキと痛い気がする。

 多分、私はよっぽど眠りの船を漕いで頭をゴツゴツ打っていて、ライナスが見るに見兼ねたのだろう。
 私の頭より窓の方を心配して助けてくれた口振りだけど。

「それは……失礼したわね」

「ああ。大変失礼だった」

「…………」

 微妙に刺のあるライナスの態度に、言い返す言葉が出て来ない。

 迷惑をかけたから、少し怒っているのかしら。
 私のことだから全力でライナスに寄りかかって爆睡していたと思うし、重くて不快だったのかもしれない。

 私が黙っていると、ライナスは話を続けた。

「だから次からは絶対に無理をするな。君に体調を崩すほどの努力は求めていない。聖女が大事な存在なのだともう少し自覚を持って欲しい。あまり倒れられると、こちらとしても困る」

 ──ああ、何だ。
 昨日も今日も、私の身を案じてくれたんじゃなくて、聖女として使い物にならなくなったら困るから心配していただけなのね。

 ……そうよね。
 どうして私、勘違いしていたのかしら。恥ずかしい。

 私自身のことを心配してくれているなんて思い上がりも甚だしいわ。
 ライナスに対して今まであれだけ悪態ついておいて、私のことなんか心配してくれるわけないじゃない。

「……覚えておくわ」

 ライナスは──いえ、は。
 聖女だから私を気遣ってくれるだけ。
 私に対する優しさなんかじゃない。

 そんな当たり前のことを忘れないように、深く心に刻み込んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?

miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」 2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。 そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね? 最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが 彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に 投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。 お読みいただければ幸いです。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...