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16話 聖女の加護④
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「……へい、き……」
口では強がるものの、身体は言うことを聞かない。
指先ひとつ、私の意思で動かせやしない。
目を開けているのすら辛く、自然に瞼を落としてしまう。
「マークレー子爵。どこか休ませられる場所はないか」
「あ、はい……! それならこちらへ!」
ライナスは私を横抱きにすると、子爵の案内に着いて行く。
私は意識を朦朧とさせながら、「聖女様! ありがとうございます!」という民達の感謝の言葉を、耳に受け止めていた。
子爵邸のベッドでしばらく眠らせてもらい、ようやく身体が言うことを聞くようになったのは、日もすっかり暮れて夜になった頃だった。
ずっと側に付いていてくれたのか、目を覚ますとライナスがベッド横の椅子に座っていた。
私が意識を取り戻したことにライナスが気付くと、身体を起こすのを手伝ってくれる。
そしてすぐに温かい飲み物を持って来て、私に渡した。
「アイヴィ嬢、君は身体が弱いのか? それとも、聖女の力を使った影響なのか?」
「さあ……。私にもわからないわ」
ライナスから飲み物を受け取り、カップに口をつける。
力を使うと疲労感は確かにあったものの、まさか倒れるほどまでとは思わなかった。
使う力の大きさと身体の負担の大きさは比例しているのかもしれない。まだ確信はないけれど。
「…………」
私がふざけてわざと答えないでいるのでは、とライナスから疑いの目を向けられた気がする。私は否定した。
「疑ってるのね。期待に応えられなくて残念だけど、本当にわからないのよ。むしろ私が知りたいくらいだわ」
「……。どちらにしても君はあまり無理をしない方がいい。聖女の業務もなるべく減らそう」
「そんなことしなくていいわよ別に。ロラン・ノームみたいに私の力を求めている人はたくさんいるんでしょ」
「それはそうだが……。君に負担をかけてまで救うのは違うだろう」
思いがけずライナスが見せた優しさに、目を丸くする。
私が倒れたから、同情心でも芽生えたのかしら。
「……あなた、冷たそうに見えるだけで結構優しいのね。普通憎い奴が苦しもうがどうだっていい、むしろ喜ばしいことでしょ。逆の立場ならベッドの横でダンスしてるわよ」
優しいと褒めただけに留めておけばいいものを、余計な一言が印象を悪化させる。
絶対またライナスを不快にさせたと心の中で震えていたら、意外にもあまり気にした様子ではなかった。
無表情なのはいつものことだけど、彼が怒りを持った時の、空気が引き締まるあの感覚は訪れない。
ライナスが口を開く。
「私は君のように性格が悪くない。例え私に対して不遜な態度を取る人間だとしても、苦しむ姿を見ることは本意ではない」
「そう。性格がよろしいこと」
「君が悪すぎるんだ。私が寝込むと横で君がダンスするのがわかったから、間違っても体調を崩すわけにはいかなくなった」
ライナスが大真面目な顔をしてそう言うものだから、面食らって思わず吹き出してしまう。
「…………ふっ」
「何がおかしい?」
「……あははっ、ごめんなさい。もしあなたが寝込んだらとびきりのダンスをお見舞いしてあげるわ」
「とんだ婚約者だな、君は」
ライナスは眉間に皺を寄せるけれど、どことなくその表情はいつもより柔らかい気がする。
それが私の勘違いじゃなかったらいいなと願いながら、笑みを隠すように手で口元を軽く覆った。
口では強がるものの、身体は言うことを聞かない。
指先ひとつ、私の意思で動かせやしない。
目を開けているのすら辛く、自然に瞼を落としてしまう。
「マークレー子爵。どこか休ませられる場所はないか」
「あ、はい……! それならこちらへ!」
ライナスは私を横抱きにすると、子爵の案内に着いて行く。
私は意識を朦朧とさせながら、「聖女様! ありがとうございます!」という民達の感謝の言葉を、耳に受け止めていた。
子爵邸のベッドでしばらく眠らせてもらい、ようやく身体が言うことを聞くようになったのは、日もすっかり暮れて夜になった頃だった。
ずっと側に付いていてくれたのか、目を覚ますとライナスがベッド横の椅子に座っていた。
私が意識を取り戻したことにライナスが気付くと、身体を起こすのを手伝ってくれる。
そしてすぐに温かい飲み物を持って来て、私に渡した。
「アイヴィ嬢、君は身体が弱いのか? それとも、聖女の力を使った影響なのか?」
「さあ……。私にもわからないわ」
ライナスから飲み物を受け取り、カップに口をつける。
力を使うと疲労感は確かにあったものの、まさか倒れるほどまでとは思わなかった。
使う力の大きさと身体の負担の大きさは比例しているのかもしれない。まだ確信はないけれど。
「…………」
私がふざけてわざと答えないでいるのでは、とライナスから疑いの目を向けられた気がする。私は否定した。
「疑ってるのね。期待に応えられなくて残念だけど、本当にわからないのよ。むしろ私が知りたいくらいだわ」
「……。どちらにしても君はあまり無理をしない方がいい。聖女の業務もなるべく減らそう」
「そんなことしなくていいわよ別に。ロラン・ノームみたいに私の力を求めている人はたくさんいるんでしょ」
「それはそうだが……。君に負担をかけてまで救うのは違うだろう」
思いがけずライナスが見せた優しさに、目を丸くする。
私が倒れたから、同情心でも芽生えたのかしら。
「……あなた、冷たそうに見えるだけで結構優しいのね。普通憎い奴が苦しもうがどうだっていい、むしろ喜ばしいことでしょ。逆の立場ならベッドの横でダンスしてるわよ」
優しいと褒めただけに留めておけばいいものを、余計な一言が印象を悪化させる。
絶対またライナスを不快にさせたと心の中で震えていたら、意外にもあまり気にした様子ではなかった。
無表情なのはいつものことだけど、彼が怒りを持った時の、空気が引き締まるあの感覚は訪れない。
ライナスが口を開く。
「私は君のように性格が悪くない。例え私に対して不遜な態度を取る人間だとしても、苦しむ姿を見ることは本意ではない」
「そう。性格がよろしいこと」
「君が悪すぎるんだ。私が寝込むと横で君がダンスするのがわかったから、間違っても体調を崩すわけにはいかなくなった」
ライナスが大真面目な顔をしてそう言うものだから、面食らって思わず吹き出してしまう。
「…………ふっ」
「何がおかしい?」
「……あははっ、ごめんなさい。もしあなたが寝込んだらとびきりのダンスをお見舞いしてあげるわ」
「とんだ婚約者だな、君は」
ライナスは眉間に皺を寄せるけれど、どことなくその表情はいつもより柔らかい気がする。
それが私の勘違いじゃなかったらいいなと願いながら、笑みを隠すように手で口元を軽く覆った。
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