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14話 聖女の加護②

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「これ、どこへ持って行くのよ」

 私が女の子を見下ろせば、女の子は私の圧に慄いたのか、目を大きく開いて石像のように固まっている。

 ああ、驚かせてごめんね。こんな言い方しなくてもいいのにね。
 せめて子供にくらいは優しい口調で話しかけたいのだけど、無理に優しく話そうとすると口から血を出す羽目になるの。
 そんな女に話しかけられたらきっとトラウマになるでしょうから、キツい言い方になるけどごめんね。

「ちょっと、何ボーッとしてるの? どこへ持って行けばいいのか聞いてるんだけど?」

「あ、あの……あっちに……」

 女の子は怯えて、ほとんど泣きそうになりながら瓦礫が集められている場所を指差す。
 弱い者虐めをしているようでものすごく心が痛む。

「わかったわ。あなたは少し休んでなさい」

「え、で……でも……」

「聞こえなかったの? 同じことを二度も言わせないで頂戴」

 女の子は顔を真っ青にして首を縦に何度も振ると、逃げるように走り去って行った。
 心の中で女の子に死ぬほど謝罪しながら、私は瓦礫を持って行こうとする。

「……もう少し言い方というものがあるだろう」

「!」

 ライナスが苦言を呈しながらも、私の手から瓦礫を取り上げた。
 そしてそのまま代わりに持って行こうとするものだから、レグランや周りの兵士達が慌ててそれを止めようとした。

「ライナス様! 私が……」

「いい、レグラン。お前はアイヴィ嬢を見ていろ。何をするかわからんからな」

 ライナスは瓦礫を持とうとする他の兵士を手で制しながら、瓦礫の集まる広場まで歩いて行った。
 ライナスの真意がわからず、レグランに尋ねる。

「今のは、余計なことをするなと私に釘を刺したのかしら」

「いえ、そうではなく……。アイヴィ様が突拍子もない行動を取るかもしれないから気にかけろと私に言われたのだと思います。……現に、アイヴィ様の今の行動は非常に驚かされました」

「私が人の手伝いをするのがそんなに意外だったと言いたいの?」

「はい。正直に申し上げれば。アイヴィ様が衣服を汚してまで自ら助けに行くとは思いもしておりませんでした。認識を改めます」

 いいえレグラン。あなたのその認識はとても正確だわ。
 私が無理矢理自分を動かそうとしなければ、女の子を助けることはしなかったわ。

「あなたね……。正直なのはいいけれど、あまりに口が過ぎると私も黙っちゃいないわよ」

 軽く脅しを入れつつ、レグランから差し出されたハンカチを受け取り、衣服に着いた砂を払う。
 けれど、今日の服は聖女らしく、首元と袖口に上品なフリルのあしらわれた清楚なイメージの白いワンピースドレスだったので、汚れはほとんど取れなかった。

 そのうちにライナスが戻って来たので彼の服も大丈夫か見てみる。
 黒い軍服のジャケットが砂で白く汚れてしまっていた。
 私はレグランから貰ったハンカチではなく、自分が持っていたレースのハンカチをライナスへ差し出す。

「……あなたの服も汚れてしまったわ」

「構わない。そのハンカチは自分に使えばいい」

 ライナスはハンカチを受け取らず、私の前をスっと横切る。

「…………」

 用のなくなったハンカチをしまって、ライナスの後を付いて行った。
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