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11話 敵対する二人②
しおりを挟む「ところで何の用? わざわざ嫌味を言いに来たわけじゃないでしょ」
「ああ。君の不可解とも言えるその貴族らしさに疑問を抱いて直接尋ねに来た」
やっぱり追求しに来たのね。
国王夫妻への謁見の際に挨拶の教育を受けたなんて真っ赤な嘘をついたから、遅かれ早かれ聞かれるとは思っていたけれど。
ライナスはその青い瞳に私の姿をじっと映す。
本当のことを吐くまで逃すつもりはないとでも告げるように。
目を逸らしたかったけれど、ジェナの負けん気の強さが私にそれを許さない。
「君は記憶がない割には貴族らしい振る舞いを熟知しているようだな。私はレグランへ君にそんな教育をしろと言った覚えはない。……そうだろう? レグラン」
部屋の隅で大人しく控えていたレグランは、ライナスに対して深く頷き、肯定する。
「はい。アイヴィ様へは特に何も教えておりません」
「……だそうだ。何か弁明はあるか?」
「はー、嫌ね。まるで尋問みたい。普通に聞けばいいじゃない。記憶を失くしたフリをしているんだろ、どうして貴族の振る舞いが出来るのかって」
「聞いたら素直に答えてくれるのか? 君が?」
「あら、答えるわよ。尋問みたいに聞いて来るような失礼な真似しなければね」
皮肉を言えば、ライナスがまた苛立ったのがわかる。
ああ、もう嫌。
いっそのこと、この口を縫ってしまいたい。
どうしてこんなに次から次へと人の感情を逆撫でる言葉が簡単に出て来るのかしら。もはや一種の才能だわ。
「やだ、そんなに怖い顔しないでよ。冗談じゃない。単純な話よ。私は貴族だった前世の記憶を持って、この世界へ生まれ変わったのよ。……どう? 信じる?」
「茶化すな。真面目に答えろ」
「……はっ、大真面目ですけど。どうせ何を言ったってあなたは私を信じる気もないくせに。だったら最初から聞かないでくれる? 時間の無駄だわ」
何てひどい態度。これは間違いなく首が飛ぶわ。終わったわ。
……いえ、もう終わらせてくれた方が逆にいいかもしれない。
今の私は身体と心が分離しているみたいなんだもの。
もう転生とかじゃなくて、普通に生まれ変わらせて欲しいわ。こんなに心臓に悪い思いばかりするのは、耐えられそうにないの。
一触即発の険悪な空気に、レグランが焦りを感じているのか、ちらちらと私達の様子を窺うような視線を送って来る。
そのレグランの視線を受けて、ライナスは大きくため息をついた。
「……もういい。君の言う通り時間の無駄だ。聖女の仕事さえしてくれたら君の素性は問わないことにする」
仕方なく折れてくれたライナスはそれだけ言い残すと、踵を返してさっさと部屋から出て行ってしまった。
……首の皮、一枚繋がったわ。
喜んでいいのかは微妙だけれど。
死にたいと一瞬思ったものの、やっぱり本当に死ぬとなったら少し怖かった。
表面には出さずに、心の中で思い切り安堵の息を吐いた。
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