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5話 悪役令嬢の性格を持った聖女②
しおりを挟む処刑される時、次は平凡で穏やかな人生を送りたいと確かに願ったはずなのに、神様は全く聞き入れてくれなかったらしい。
姿も見たことのない神様に対して、私は恨みを募らせる。
拳をわなわなと震わせていると、ライナスは更に追い打ちをかけてくる。
「聖女が現れたという噂は、君が眠っている間に国内外へ広く知れ渡ってしまった。当然ハイルドレッド国王の耳にも入り、他国に君を奪われる前にと手を打たれた」
「て、手を打たれたって……?」
「君は私の正式な婚約者となったよ。アイヴィ嬢」
「…………。…………へえ、婚約者に……。……へえ……」
前世ジェナの時は王子に愛されず、ヒロインに取られたのだけど。
もしかして今世はそのヒロイン枠になったとでも言うわけ?
ジェナがなれなかったから可哀想にと神様は同情でもしてくれたってこと?
──もしそうなら、本当にいらないことをしてくれたわ、神様。
私はヒロインになんてなりたくない。
この世界が何かの物語の世界なら、名前すら出て来ない脇役……いえ、その辺を歩いている平民にでもなりたかったのよ。
それが聖女だの王太子の婚約者だの、冗談じゃない!
「──断固! 拒否するわ!」
溜まりに溜まった不満が爆発して心の声がついに漏れる。ハッと我に返るも遅かった。
ライナスの青い瞳が驚きに染まる。それでも、私の文句は抑えられなかった。
「いきなり聖女だとか言われても訳わかんないのよ! 王太子と婚約ですって? 冗談じゃないわ! そんな面倒に巻き込まれるくらいなら、聖女なんて辞めてやるわ!」
ああああ、待って待って!
さすがに王太子相手にこの口の利き方はまずいわ!
これじゃ悪女ジェナの振る舞いよ!
違うのよ、もっと柔らかめに伝えたいの、本当は!
冷や汗が大量に出る。
幸いにもライナスは怒りよりも驚きの方が勝ったようで、私の態度を嗜めたりはしなかった。
「……残念だが、聖女は君の独断で簡単に辞めたり出来るようなものではない」
「そんなことはわかっているわ。なら強硬手段に出るだけよ」
何、強硬手段って何?
自分で言ってるけど私は理解してないわよ?!
私に染み付いたジェナの性格が、私の意思を押し退けて勝手に口走ってしまう。
さすがにライナスも私の言動を見過ごせなかったのか、片眉を吊り上げて不快感を露わにする。
「強硬手段……だと?」
「ええ。聖女が何をするのか知らないけれど、私は一切聖女としての役目は果たさないわ。あなた達が私のことを尊重出来ないのならね」
お、脅しているわ!
今王太子相手に脅しをかけているわね、私!?
終わったわ。このままじゃまた首から上がなくなる。おさらばよ。
さようなら、私の首。短い付き合いだったけど、あなたなかなかいい首だったわ。
ああ、処刑への扉が確実に開いた音がしたわ。アーメン。
心の中で十字を切る。
ただ、すぐに首は取られなかった。ライナスは思考しながら太腿を指で不規則に叩く。
「……。尊重か……。君の望みは何だ?」
「私は平穏に暮らしたいの。聖女とか王太子妃とかそんな面倒事に関わりたくないのよ。誰かの都合で振り回される人生を歩むくらいなら、死んだ方がマシよ」
うそうそ、死にたくはないわ!
面倒事に巻き込まれたくないのは本当だけど、死にたくはないのよ。
単なる誇張表現だから無視して頂戴、王太子。ならばお望み通り死ねとか言わないで、お願い。
「しかし、君が聖女の立場を捨てて平穏に暮らすというのは現実的ではない。王家の保護下から外れれば、君の力を狙う輩から日々逃げ惑う生活になると思うが」
「……そんなに聖女という存在は大きいものなの?」
「ああ。聖女がいるその間は、あらゆる憂い事から解放され、国の繁栄を必ず約束されると言われている。今も諸外国が君の存在を喉から手が出るほど欲しがっているはずだ」
「…………」
すごくざっくり言ってしまえば、聖女は最強の後ろ盾みたいなもの?
国が抱える悩みを解決してくれる上に繁栄まで導いてくれるなんて、そんな上手い話はないわ。
何て便利な存在なのかしら、聖女。国家に一台欲しいわね。
この認識で合っているなら、それは当然皆聖女を欲しがるでしょうね。
ってことは、やっぱりすごく面倒くさい立場だわ、聖女。降りられるなら今すぐにでも降りたいわ、全力で。
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