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11話 妨害③
しおりを挟むシンデレラの手に乗っていたカエルがぴょんと飛んで行った。
シゼルは腹の底から「はあああ……」とため息をついてしゃがみ込む。
「どうすんのこれ……舞踏会どころじゃないよ」
「私の周りから人が消えましたし、王子様からは見つけやすくなったのでは?」
「君ねえ……」
「でもその前に着替えないといけませんね。ごめんなさい、大事なローブを……」
シンデレラがワインで湿ったシゼルのローブに手を伸ばす。
フードが捲られ、シゼルの顔がまともに光に当たる。
まるで夜の闇を纏ったような黒色の髪。
光を吸収しているかのように深い色合いだ。
触れずとも滑らかであることがわかる色白の肌は、ガーネット色の瞳がよく映える。
長いまつげが彼の視線を一層魅力的に見せていた。
シンデレラが屈んで物珍しそうにシゼルの顔を覗き込む。
至近距離でじっと見てくるので、シゼルは動揺してパッと顔を背けた。
「! だっ……大丈夫だ。魔法で綺麗にするから」
シゼルは立ち上がって壁際に移動すると、こっそり魔法をかけてローブの染みを取る。
彼の後ろではカエル騒動が続いていて、悲鳴の数が増していっている。
会場内をカエルが飛び回っていて、被害は拡大しているようだ。
「──大丈夫かい? この辺りでカエルが出たようだけど……」
騒ぎの中で堂々と立つシンデレラに興味を奪われたようだ。ついに王子が彼女に声をかけた。
この騒ぎの主犯がシンデレラであることを、遠くにいた彼は知らない。
「き、来た!! 王子だ!」
シゼルは慌てて姿を消し、シンデレラと王子の様子を陰から見守る。
シンデレラは王子から差し出されたワインを受け取った。
「ええ、私はカエルが好きですので。平気です」
「珍しいね。苦手な女性は多いのに」
「あんなに可愛いのに。理解できません」
「か、可愛い……? そうかな……?」
シンデレラの感性は王子にも理解できなかったらしい。
王子が困惑していると、突然シンデレラが持っていたワイングラスがパァン! と破裂した。
「!」
破裂音は喧騒の中に紛れ、割れたことに気付いたのはシンデレラと王子、シゼルだけだった。
グラスは粉々に砕け散り、破片がシンデレラのドレスと床に散らばる。
美しいシアンカラーのドレスに、そぐわない赤が染みていく。
王子はグラスを持っていたシンデレラの手を取り、僅かに乗っていた破片を取り払った。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「ええ、大丈夫です」
「なぜ急に破裂など……それより君のドレスが大変だ。すぐに替えを用意させよう」
王子がホールの片隅に向かって軽く首を振ると、遠くに控えていた従者の男が飛んでくる。
彼に耳打ちをしてから、王子はシンデレラに向かってエスコートするように手を差し出した。
「着替えたら、私と一曲踊ってくれないだろうか」
「……はい、喜んで」
その手を取って、シンデレラは事務的に微笑む。
美男美女、文句なしに絵になる二人を、何となく面白くない気持ちでシゼルは眺めていた。
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