上 下
11 / 18

11話 妨害③

しおりを挟む

 シンデレラの手に乗っていたカエルがぴょんと飛んで行った。
 シゼルは腹の底から「はあああ……」とため息をついてしゃがみ込む。

「どうすんのこれ……舞踏会どころじゃないよ」

「私の周りから人が消えましたし、王子様からは見つけやすくなったのでは?」

「君ねえ……」

「でもその前に着替えないといけませんね。ごめんなさい、大事なローブを……」

 シンデレラがワインで湿ったシゼルのローブに手を伸ばす。
 フードが捲られ、シゼルの顔がまともに光に当たる。

 まるで夜の闇を纏ったような黒色の髪。
 光を吸収しているかのように深い色合いだ。

 触れずとも滑らかであることがわかる色白の肌は、ガーネット色の瞳がよく映える。
 長いまつげが彼の視線を一層魅力的に見せていた。

 シンデレラが屈んで物珍しそうにシゼルの顔を覗き込む。
 至近距離でじっと見てくるので、シゼルは動揺してパッと顔を背けた。

「! だっ……大丈夫だ。魔法で綺麗にするから」

 シゼルは立ち上がって壁際に移動すると、こっそり魔法をかけてローブの染みを取る。

 彼の後ろではカエル騒動が続いていて、悲鳴の数が増していっている。
 会場内をカエルが飛び回っていて、被害は拡大しているようだ。

「──大丈夫かい? この辺りでカエルが出たようだけど……」

 騒ぎの中で堂々と立つシンデレラに興味を奪われたようだ。ついに王子が彼女に声をかけた。
 この騒ぎの主犯がシンデレラであることを、遠くにいた彼は知らない。

「き、来た!! 王子だ!」

 シゼルは慌てて姿を消し、シンデレラと王子の様子を陰から見守る。
 シンデレラは王子から差し出されたワインを受け取った。

「ええ、私はカエルが好きですので。平気です」

「珍しいね。苦手な女性は多いのに」

「あんなに可愛いのに。理解できません」

「か、可愛い……? そうかな……?」

 シンデレラの感性は王子にも理解できなかったらしい。
 王子が困惑していると、突然シンデレラが持っていたワイングラスがパァン! と破裂した。

「!」

 破裂音は喧騒の中に紛れ、割れたことに気付いたのはシンデレラと王子、シゼルだけだった。

 グラスは粉々に砕け散り、破片がシンデレラのドレスと床に散らばる。
 美しいシアンカラーのドレスに、そぐわない赤が染みていく。

 王子はグラスを持っていたシンデレラの手を取り、僅かに乗っていた破片を取り払った。

「大丈夫か? 怪我はないか?」

「ええ、大丈夫です」

「なぜ急に破裂など……それより君のドレスが大変だ。すぐに替えを用意させよう」

 王子がホールの片隅に向かって軽く首を振ると、遠くに控えていた従者の男が飛んでくる。
 彼に耳打ちをしてから、王子はシンデレラに向かってエスコートするように手を差し出した。

「着替えたら、私と一曲踊ってくれないだろうか」

「……はい、喜んで」

 その手を取って、シンデレラは事務的に微笑む。
 美男美女、文句なしに絵になる二人を、何となく面白くない気持ちでシゼルは眺めていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

月影の盗賊と陽光の商人

みすたぁ・ゆー
ファンタジー
 とある地方都市の盗賊ギルドに所属する少年と商人ギルドに所属する少年。  ふたりの出会いは偶然か必然か――  境遇も立場も対照的だが、誰かを想う心はどちらも強い。だからこそ、彼らは惹かれ合っていくのかもしれない。  そしてひょんなことから命を狙われる事件に巻き込まれ、彼らの運命が大きく動き出す! ◆  幼いころに盗賊ギルドに拾われたバラッタは十七歳となり、ギルド内では若手の有望株として期待されるようになっていた。  そんなある日、彼は幼馴染みのルナと共に食事へ出かけた際、暗殺者に命を狙われている商人・ビッテルを成り行きで助けることとなる。  ビッテルも年齢は十七歳。そしてこの出来事をきっかけに、彼はバラッタに好意的に接するようになる。  だが、バラッタはかつて奴隷として自分が商人に売られた経験から、商人という職業の人間を一律に毛嫌いしている。  そのため、バラッタはビッテルに対しても良い感情を持たず、しかも汚い商売に手を染めているはずだと確信し、その証拠を掴もうと画策する……。  

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...