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3話 腹黒いシンデレラ②

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「アビー義姉さん、マチルダ義姉さ──」

「「は、はい! お呼びですか、シンデレラ様!?」」

 呼び終わらないうちに、奥から二人の女性がすっ飛んで来た。
 あまりに慌てたのか、一人は足がつんのめって転びそうになる。

「い、今、シンデレラ様のお好きなアップルパイを焼いていたんです! お口に合うかわからないですが、召し上がりますか!?」

「もちろん市場で買った評判の良いシナモンもご用意していますわ!」

「なっ……!?」

 顔を真っ青にして必死に媚びを売るシンデレラの義姉二人の様子に、シゼルは目を疑う。
 シンデレラは小首を傾げながら優美な笑みを浮かべた。

「いいですね、アップルパイ頂きます。シナモンもお願いします」

「わかりました! たっぷりおかけします!」

 シンデレラの返事を聞くと、義姉二人は再び奥へ引っ込んで行った。それも凄まじい速さで。
 とても虐められているとは思えない様子に、シゼルは衝撃を隠せない。

「ふ、服従させてる……だと!?」

「お義母さんもお呼びしましょうか?」

 誰が虐められているんですっけ?
 そんなシンデレラの心の声が聞こえる気がする。

 今度は自分が呼ばれるのかと、壁の隙間から怯えてこちらを見る義母らしき人の姿がシゼルの視界に入った。
 ガタガタと身体を震わせているその人の姿があまりに不憫で、シゼルは静かに首を横に振った。

「いや……いいです……。なぜだ……なぜ虐められていないんだ……」

 神の話によると、シンデレラは義母と義姉から日々虐げられているはず。
 にも関わらず、彼の目の前にいるシンデレラは義母たちを従えてしまっている。

 神から聞いていた話と違う。
 シゼルが頭を抱えていると、シンデレラは優しさを伴わない瞳を細めた。

「確かにお義母さんやお義姉さんたちは最初は意地悪でしたよ。でも、きっと色々誤解があったんだと思うんです。誤解が解けたら、とっても仲良くなれたんですよ」

 仲良く、の意味をシンデレラは知っているのだろうか。いや、知っていてわざと使っているのだ。
 どう考えても嫌な意味にしか取れず、シゼルは大きくため息をついて額に手を当てた。

「……君は一体彼女らに何をしたんだ……」

「大したことは。料理を作れと言われたので、捕まえてきたカエルを大量に入れた栄養たっぷりのスープを作り」

「カ、カエル!?」

 突然出てきたカエルのワードにシゼルはぎょっとして立ちすくんだ。

 カエルは魔法薬の調合で使うことはあるものの、シゼルが食用で使うことはまずない。
 もちろんこの世界においても、カエルを食べるような文化はないのだ。

 そんな人たちにカエルが大量に入ったスープを提供などしたら……想像して、シゼルの顔が一瞬で青白くなる。
 シンデレラはシゼルが気分を悪くしていることに気付いているのかいないのか、僅かに声を弾ませる。

「次に洗濯をしろと言われたので、なら香り付けをしてあげようと、余ったカエルの煮汁で衣類を洗い」

「カエルの……煮汁ッ……!?」

「その後掃除をしろと言われたので、せっかくだから模様替えも兼ねて、スープを作る際に血抜きしたカエルの血で床を拭きました」

「君はカエルに何の恨みがあるんだ!?」

 余すとこなくカエルを使った嫌がらせのオンパレードだ。
 華奢な身体と無垢な美貌を兼ね備えた儚げな見た目からは、そんな残酷なことを簡単にやってのけてしまうとは到底思えない。
 しかも罪悪感など一欠片も抱いていない、そんな笑顔を添えている。

「お義母さんやお義姉さんは、カエルが大好きなんです。だから、とても喜んでくれると思って」

 意地悪をしてくる義母や義姉たちに喜んで欲しいなどと、微塵も思っていなかったことなど明白だ。


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