13月13日13時13分13秒

ドードー鳥

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プロローグ

二年参り

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 「さあ、次は今年大ヒットしたあの曲を!KOUNO鳥居のお二人に披露してもらいます~よろしくお願いします~」
「よろしくお願いしゃ~す」
 テレビから陽気な司会者の声が聞こえる。ちらっと見てみるとふざけた格好のバンドが登場していた。態度も喋り方も舐めている。
 こんな奴らを見ても何も面白くない、と思い、俺はスマホいじりに戻った。ゲームもいいが、俺は動画投稿アプリを開いた。1分程度の短い動画を何個か流し見する。今どきは年越しもテレビよりもスマホを見ている人が多いだろう。
 「睦(むつき)、そろそろ行くわよー準備しなさい」
「はーい」
 洗面室から母が顔を出して言う。スマホで時間を見ると23:25。もうこんな時間か。
 うちは毎年地域の神社で二年参りをしている。二年参りって言うのは大晦日と元旦をまたぐとき、つまり12月31日の23:59から1月1日0:00分くらいに神社にお参りすることだ。大晦日と元旦に2回お参りする形式もあるみたいだが、うちの家族は全員めんどくさがりなので1回で済む形式を採用したそうだ。神様へのお参りくらいめんどくさがらなくていいんじゃないかとは思うが。
 俺は立ち上がってスマホをポケットにしまった。
 鏡は…さっき母が洗面室に戻ったからまだ使えないか。俺は手で申し訳程度に髪をほぐし、2階の自分の部行く。
 えーっとコートは…クローゼットか。クローゼットを開け、グレーのコートをとる。このコート結構気に入っている。
 コートを羽織りつつ階段を降りると、母がリビングにいた。
 「ああ睦、鈴ちゃんの家行ってきて。一緒に行きましょうって。」
「うん、ちょっとまってね…」
 俺は洗面室に向かい、鏡を見た。…うん、髪型は問題ないな。
 確認を終えると今度は玄関に向かった。そういえば、雪は降ってるのだろうか。俺は一旦普通の靴を履くと扉を開けて外を見た。うん、降ってないな。そのまま外に出て隣の家まで歩く。雪は降っていないとはいえ息が白くなるほどは寒い。
 すぐに隣の家につく。表札には「三島」の文字。ここは俺の幼馴染、三島 鈴の家だ。
 鈴とは家が隣同士という関係上、家族ぐるみで仲が良く、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。しかも小中とクラスはずっといっしょだった。二年参りそして高校受験のとき、俺は鈴といっしょの霧山高校を受け、ふたりとも見事合格、進学した。
 俺は鈴のことが好きだった。いつからかはわからない。でも小6のときには間違いなく意識していたと思う。
 鈴は気弱で自分の意見を主張しないが、その分優しかった。自分も大変なのに、他人の心配ができる。そんなところに惚れた。
 俺がインターホンを鳴らすと、鈴が出てきた。スラッとしたロングヘアが揺れる。
 「あ、むつくん。二年参りだよね?」
「うん。」
「今準備してるから、ちょっとまってて。」
 鈴が奥に引っ込んだ。と、ちょうどそのとき両親が歩いてきた。
 「どう?」
「まだ準備中だって。」
「そう。じゃあ待とっか。」
 少しすると鈴とその両親が出てきた。
 「それじゃあ、行きましょう。」
 俺達は全員で歩きだす。親は親同士で話しだした。
 「ねね、さっきのKOUNO鳥居みた?」
 鈴が話しかけてきた。KOUNO鳥居…あっ、さっきのバンドか。しまった、しっかり見ときゃよかった!
 俺は後悔でいっぱいになりながら答えた。
 「ごめん、見てない…どんな感じだったの?」
「ちょーかっこよかったよ!『イロ鳥々ヨリ鳥ミ鳥』のサビとか鳥肌ものだったよ!」
「鳥だけに?」
「あはは、たしかに!」
 そんな他愛もない会話をしているうちに神社についた。「霧山稲荷神社」。豊作を願って建てられたらしい。俺は鳥居をくぐると、俺はスマホで時間を確認する。23:53。あとちょっとだ。
 「なにお願いする?」
「うーん、KOUNO鳥居に会えますように、かなあ。」
「鈴らしいな。」
「へへ…むつくんは?」
「俺は…彼女ができますように、にしよう。」
 嘘をついた。本当は鈴と付き合えますように、と頼む。ぜひ頼む。
「…むつくんならできるよ。」
「そうかなあ…」
 俺はスマホを見た。23:58。
 「おっ、もうじゃない?」
「ほんとだ。」
 俺達は賽銭箱の前まで歩く。母から5円玉をもらった。鈴ももらっている。
 「そんじゃ、投げるよ?せーの!」
 カランカランカラン…
 5円玉が入ったのを見届けると、俺は目をつぶり手のひらを重ねた。

 鈴と付き合えますように!
 
 ふう。願い終わって目を開ける。と、そのとき。
 「あれぇっ?」
 父が素っ頓狂な声をあげた。まだ願っている母の体を揺すっている。
 「ちょ、ちょっと母さん…」
「なにあなた?まだ願ってるでしょう…」
 母が目を開ける。父はすぐにスマホを見せた。
 「ほら、まだ13月だよ!」
 ん?なにか聞き慣れない単語だ。
 「あら、まだ13月だった?」
 母がいうと二人は目を見合わせて、笑った。
 「何を勘違いしてたのかしら、ほら、朱里さん…まだ13月でしたよ。」
 母は鈴の母に話しかけた。13月?13月ってなんだ?俺は鈴を見る。鈴はキョトンとした顔で俺の母を見ていた。
 「あら、ほんと!なんで二年参りに来たのかしら、まだ年明けは1ヶ月先なのに!」
 鈴の母が言う。どういうことだ?なんの会話だ?
 「お、お母さん、13月って…なに?」
 鈴が聞いた。鈴の母は一瞬黙ったあと、鈴に向かってこういった。
 「何言ってるの?1年は13月まであるじゃない。」
 …は?1年が、13月まである?俺は混乱した。何が起こってるんだ?
 そうだ!スマホだ!スマホの日付を見ればわかる。俺はスマホを開く。そこには…

 13/1 0:02

 …13月の表記があった。本当に13月なのか?もしかして今年から13月が作られたとか?いやでもそんな話、ニュースでもネットでもなかった。
 俺がスマホを見たまま固まっていると、スマホに通知があった。メールだ。なんだろう。今どきメールで連絡してくる人は俺の周りにはいない。
 とりあえず開こうとして…件名を見てまた固まった。

件名:13月について
送り主:清水

 こいつがなにか知っている。息を呑み、メールを開く。

本文:こんにちは、十月 睦くん。君には今から1月ではなく13月で過ごしてもらいます。それは私のある願いを叶えてほしいからなんだけど…まあ、それはこれを読んで貰えばわかるでしょう。

13月内のルール
・君は今13月内にいる。
・13月はわたくし「清水」が創り出した時間。
・13月13日の13時13分13秒にこの13月は消滅する。その場合、13月内にいる君、そしてその他の人間も消滅する。
・13月から抜け出す方法は、13月内で「木下絢香」が死亡した理由を突き止めなければいけない。
・「木下絢香」が死亡した理由がわかった者は、それをこのメールに返信すること。あっていた場合は即座に13月を抜け出すことができる。間違っていた場合には「罰」が与えられる。
・13月から抜け出せた人間は、1月1日0時13分に戻ることができる。 
・13月内で、「今自分が13月にいることが異常だと思える人間」は13人しかいない。それ以外の人間は精巧なクローンである。
・「今自分が13月にいることが異常だと思える人間」は必ず「霜山高校」の生徒である。
・このメールは君と「今自分が13月にいることが異常だと思える人間」以外には見えない。
・13人の中にはわたくし「清水」が紛れている。人狼ゲームでいう狂人の役割で、君が13月から抜け出すことを邪魔する。
・現実世界と13月内では少しだけ違うことが13個ある。それは各自の生活に深い関わりを持つ(もしくは持つはずだった)ものである。それを見つけた者には「木下絢香」が死亡した理由についてのヒントを与える。

・13月内であっても、日本又は各国の法律は現実世界と同じ働きをもつ。そのため、13月内で犯罪を犯したらしっかりと捕まる。
・13月内でのルールは以上である。また、13月内であっても、死亡した人間を生き返らせたり、死亡しないことはない。13月内で死亡した人間は現実世界で忘れ去られる。

では頑張って13月内から抜け出しましょう!またどこかで?


 俺はここから、長い戦いに巻き込まれることになる。


続く
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