88 / 148
五章 Reality
十月 <火種> 3
しおりを挟む
秋の一大イベントである運動会が終わり、
学校にはふたたび平穏という名の日常が
戻ってきた。
時間は確実に流れていた。
ある日、
俺は塾をサボって一人
「Riverside Doom 春日」に来ていた。
貯水タンクの上に寝ころんで
俺は黄昏に紅く染まる空を
することもなくただ眺めていた。
その時、下で物音がした。
俺は音を立てずに静かに体を起こした。
闖入者が腰を下ろすのが気配でわかった。
俺は不意の闖入者の出現に驚きつつも、
決して見つかってはならない
という警戒心の方が勝っていた。
俺は闖入者とは反対側へそっと降りた。
しかし闖入者がいる限り、
俺はここから身動きが取れなかった。
何せ下へ降りる階段はあちら側にあるのだ。
それにしても一体どのような人間が
こんな時間にこんな場所に来るというのか。
とにかく。
俺達少年探偵団以外に
ここを利用している人間がいるのであれば、
今後、ここの利用は避けた方がいいかもしれない。
すると「シュボッ」という音に続いて、
ジリジリと紙が焼けるような音が聞こえた。
しばらくすると風に乗って
煙草の香りが漂ってきた。
俺は細心の注意を払いながらそっと覗き込んだ。
見覚えのある後姿が見えた。
「茜」
俺が呼びかけると
「キャッ!」と小さな悲鳴があがり、
少女の手から煙草が落ちた。
そして少女はゆっくりとこちらを振り向いた。
「もう、驚かさないで!
あっくん、今日は塾じゃないの?」
そして声の主が俺だとわかると
少女は安堵の表情を浮かべた。
俺達は貯水タンクの上に並んで座った。
俺は茜から煙草をもらって火を点けた。
茜とこうして二人きりで話すのは
告白されたあの日以来のことだった。
告白。
はたしてあれは本当に告白だったのだろうか。
もしかして茜にとっては
それほど深い意味はなかったのかもしれない。
奥川や相馬と比べると幼い茜にとって
「好き」という言葉の意味は、
LOVEではなくてLIKE
という意味だったのかもしれない。
いや。
そう考えたところで俺は翔太の話を思い出した。
翔太の話が本当であれば、
茜が幼いということはない。
少なくとも奥川や相馬よりも
女の武器を十分理解している。
そしてその武器を使って大吾を・・。
そこで俺は頭を振った。
「どうしたの?あっくん」
「えっ?い、いや何でもない」
茜の目が俺の心の内を
見透かしているような気がして俺は少し動揺した。
「でもこうしてあっくんと会えるなんて、
ここへ来てよかったわ」
茜はゆっくりと煙草を吸った。
その仕草はクラスの誰よりも大人ぽく見えた。
今聞かないのならあの話題は今後一生、
口にすることはないだろう。
それに。
もし仮に茜に殺意があったとして、
はたして茜一人に大吾の死の責任を
押し付けていいのか。
元をただせば
俺が屋上への入り口を開いたことが原因である。
そして洋は状況を把握したうえで何もしなかった。
俺と洋に茜を責める資格はない。
茜を責める資格があるとすれば
それは翔太だけなのだ。
だが翔太は責めなかった。
それでいいじゃないか。
「茜。
こうして二人きりっていうのも偶には良いな」
「うん」
茜は笑顔で頷いた。
学校にはふたたび平穏という名の日常が
戻ってきた。
時間は確実に流れていた。
ある日、
俺は塾をサボって一人
「Riverside Doom 春日」に来ていた。
貯水タンクの上に寝ころんで
俺は黄昏に紅く染まる空を
することもなくただ眺めていた。
その時、下で物音がした。
俺は音を立てずに静かに体を起こした。
闖入者が腰を下ろすのが気配でわかった。
俺は不意の闖入者の出現に驚きつつも、
決して見つかってはならない
という警戒心の方が勝っていた。
俺は闖入者とは反対側へそっと降りた。
しかし闖入者がいる限り、
俺はここから身動きが取れなかった。
何せ下へ降りる階段はあちら側にあるのだ。
それにしても一体どのような人間が
こんな時間にこんな場所に来るというのか。
とにかく。
俺達少年探偵団以外に
ここを利用している人間がいるのであれば、
今後、ここの利用は避けた方がいいかもしれない。
すると「シュボッ」という音に続いて、
ジリジリと紙が焼けるような音が聞こえた。
しばらくすると風に乗って
煙草の香りが漂ってきた。
俺は細心の注意を払いながらそっと覗き込んだ。
見覚えのある後姿が見えた。
「茜」
俺が呼びかけると
「キャッ!」と小さな悲鳴があがり、
少女の手から煙草が落ちた。
そして少女はゆっくりとこちらを振り向いた。
「もう、驚かさないで!
あっくん、今日は塾じゃないの?」
そして声の主が俺だとわかると
少女は安堵の表情を浮かべた。
俺達は貯水タンクの上に並んで座った。
俺は茜から煙草をもらって火を点けた。
茜とこうして二人きりで話すのは
告白されたあの日以来のことだった。
告白。
はたしてあれは本当に告白だったのだろうか。
もしかして茜にとっては
それほど深い意味はなかったのかもしれない。
奥川や相馬と比べると幼い茜にとって
「好き」という言葉の意味は、
LOVEではなくてLIKE
という意味だったのかもしれない。
いや。
そう考えたところで俺は翔太の話を思い出した。
翔太の話が本当であれば、
茜が幼いということはない。
少なくとも奥川や相馬よりも
女の武器を十分理解している。
そしてその武器を使って大吾を・・。
そこで俺は頭を振った。
「どうしたの?あっくん」
「えっ?い、いや何でもない」
茜の目が俺の心の内を
見透かしているような気がして俺は少し動揺した。
「でもこうしてあっくんと会えるなんて、
ここへ来てよかったわ」
茜はゆっくりと煙草を吸った。
その仕草はクラスの誰よりも大人ぽく見えた。
今聞かないのならあの話題は今後一生、
口にすることはないだろう。
それに。
もし仮に茜に殺意があったとして、
はたして茜一人に大吾の死の責任を
押し付けていいのか。
元をただせば
俺が屋上への入り口を開いたことが原因である。
そして洋は状況を把握したうえで何もしなかった。
俺と洋に茜を責める資格はない。
茜を責める資格があるとすれば
それは翔太だけなのだ。
だが翔太は責めなかった。
それでいいじゃないか。
「茜。
こうして二人きりっていうのも偶には良いな」
「うん」
茜は笑顔で頷いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
金曜の夜、駅前に座る少年は彼女たちを癒しているのかもしれない
coche
青春
初めての彼氏に振られた湊は、あてもなく駅前を歩いていた。
するとどこからともなくピアノの音が。
すっかり落ち込んでいた湊を、その音が優しく包んで行く。
とうとう堪え切れなくなった湊は、泣き崩れてしまった・・・
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
【完結】愛してないなら触れないで
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「嫌よ、触れないで!!」
大金で買われた花嫁ローザリンデは、初夜の花婿レオナルドを拒んだ。
彼女には前世の記憶があり、その人生で夫レオナルドにより殺されている。生まれた我が子を抱くことも許されず、離れで一人寂しく死んだ。その過去を覚えたまま、私は結婚式の最中に戻っていた。
愛していないなら、私に触れないで。あなたは私を殺したのよ。この世に神様なんていなかったのだわ。こんな過酷な過去に私を戻したんだもの。嘆く私は知らなかった。記憶を持って戻ったのは、私だけではなかったのだと――。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2022/01/20 小説家になろう、恋愛日間22位
※2022/01/21 カクヨム、恋愛週間18位
※2022/01/20 アルファポリス、HOT10位
※2022/01/16 エブリスタ、恋愛トレンド43位
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
小さな別れは、淡く儚い恋を呼ぶ
桐生桜月姫
青春
久遠心菜は惰性的に学校生活を送っていた。
けれど、中学3年生の秋、初恋を自覚して学校生活に晴天が訪れる。
初恋の男の子は不器用だけれど優しい子で、面倒くさがりでコミュニケーションが苦手な心菜には憧れの存在だった。3年生の終わりが近づき、好きな男の子と高校が絶対に分かれてしまう心菜は、初恋の男の子、立花颯に卒業式で告白することを決意する。
けれど、颯は卒業式を目前に唐突に引っ越してしまうことに。
迷いに迷いながらも、幼馴染の高梨優奈に背中を押された心菜の告白は颯に届くのか………!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる