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五章 Reality

十月 <火種> 3

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秋の一大イベントである運動会が終わり、
学校にはふたたび平穏という名の日常が
戻ってきた。
時間は確実に流れていた。


ある日、
俺は塾をサボって一人
「Riverside Doom 春日」に来ていた。
貯水タンクの上に寝ころんで
俺は黄昏に紅く染まる空を
することもなくただ眺めていた。

その時、下で物音がした。
俺は音を立てずに静かに体を起こした。
闖入者が腰を下ろすのが気配でわかった。
俺は不意の闖入者の出現に驚きつつも、
決して見つかってはならない
という警戒心の方が勝っていた。
俺は闖入者とは反対側へそっと降りた。
しかし闖入者がいる限り、
俺はここから身動きが取れなかった。
何せ下へ降りる階段はあちら側にあるのだ。
それにしても一体どのような人間が
こんな時間にこんな場所に来るというのか。
とにかく。
俺達少年探偵団以外に
ここを利用している人間がいるのであれば、
今後、ここの利用は避けた方がいいかもしれない。

すると「シュボッ」という音に続いて、
ジリジリと紙が焼けるような音が聞こえた。
しばらくすると風に乗って
煙草の香りが漂ってきた。
俺は細心の注意を払いながらそっと覗き込んだ。
見覚えのある後姿が見えた。

「茜」
俺が呼びかけると
「キャッ!」と小さな悲鳴があがり、
少女の手から煙草が落ちた。
そして少女はゆっくりとこちらを振り向いた。
「もう、驚かさないで!
 あっくん、今日は塾じゃないの?」
そして声の主が俺だとわかると
少女は安堵の表情を浮かべた。

俺達は貯水タンクの上に並んで座った。
俺は茜から煙草をもらって火を点けた。
茜とこうして二人きりで話すのは
告白されたあの日以来のことだった。

告白。
はたしてあれは本当に告白だったのだろうか。
もしかして茜にとっては
それほど深い意味はなかったのかもしれない。
奥川や相馬と比べると幼い茜にとって
「好き」という言葉の意味は、
LOVEではなくてLIKE
という意味だったのかもしれない。
いや。
そう考えたところで俺は翔太の話を思い出した。
翔太の話が本当であれば、
茜が幼いということはない。
少なくとも奥川や相馬よりも
女の武器を十分理解している。
そしてその武器を使って大吾を・・。
そこで俺は頭を振った。

「どうしたの?あっくん」
「えっ?い、いや何でもない」
茜の目が俺の心の内を
見透かしているような気がして俺は少し動揺した。
「でもこうしてあっくんと会えるなんて、
 ここへ来てよかったわ」
茜はゆっくりと煙草を吸った。
その仕草はクラスの誰よりも大人ぽく見えた。

今聞かないのならあの話題は今後一生、
口にすることはないだろう。
それに。
もし仮に茜に殺意があったとして、
はたして茜一人に大吾の死の責任を
押し付けていいのか。
元をただせば
俺が屋上への入り口を開いたことが原因である。
そして洋は状況を把握したうえで何もしなかった。
俺と洋に茜を責める資格はない。
茜を責める資格があるとすれば
それは翔太だけなのだ。
だが翔太は責めなかった。
それでいいじゃないか。

「茜。
 こうして二人きりっていうのも偶には良いな」
「うん」
茜は笑顔で頷いた。
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