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三章 Renewal
六月 <課題> 10
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数日後、今度は俺が奥川に呼び出された。
放課後、俺達少年探偵団は
「Twilight Avenue 城之三崎」
に行くことになっていたので、
俺は三人に後から行くと伝えて、
一人校舎の屋上へ向かった。
屋上には奥川しかいなかった。
奥川はフェンスの前に立って
校庭を見下ろしていた。
髪が風になびいて、
そのたびに覗く白いうなじが官能的だった。
あの首を後ろから締め上げて、
スカートを捲り上げ、
下着を剥ぎ取って悲鳴を上げる奥川を
後ろから犯す。
その妄想が俺の下半身を熱くした。
俺は慌てて頭を振って唾棄すべきその妄想を
払い除けた。
「奥川っ!」
俺の声に奥川が振り向いた。
俺が左手を軽く上げると、
奥川が小走りにこちらへやってきた。
「誰もいないんだな」
「今、あそこのドアを閉められて
鍵を掛けられたらどうする?」
奥川はそんなことを口にした。
「明日までここで過ごすしかないな」
実際にそんなことがあるはずはないのだが、
それでも俺は奥川の話に付き合うことにした。
「鍵がなくなって、
誰も気が付かなくて、
永遠にここに閉じ込められたら?」
「明日になれば、
皆学校に来るだろ?
ここから叫べば誰か気付くさ」
「つまんない」
俺の答えに奥川は不満そうだった。
「一生ここにいるよりいいだろ?」
「もういいっ。この話は終わり」
そう言って奥川は腕を組んで頬を膨らませた。
何故だかわからないが、
俺は奥川を少しだけ怒らせたようだった。
「それより葉山のことが
何かわかったんじゃないのか?」
俺は奥川が本気で怒りだす前に本題に入った。
「前は色んな話をしたのに、
今はちょっとしたお喋りも嫌なのね」
「そ、そういうわけじゃないんだ。
こ、この後ちょっと用事があるから」
俺は慌てて弁解した。
奥川は「・・そう」と言って溜息を吐いた。
「実果に彼氏がいるのか知りたいんでしょ?」
「えっ」
「『えっ』じゃないわよ。
鈴木君が実果のことを好きなんでしょ?」
「あ、ああ」
そこで俺は洋をダシに使ったことを思い出した。
「多分、実果には彼氏がいるわね」
「えっ」
「何よ、
実果ほどの可愛い子なら
彼氏がいたって不思議じゃないでしょ」
葉山実果には彼氏がいる。
「そ、それって同じクラスの男なのか?」
「さあ?
実果ははっきりと彼氏がいるとは
言わなかったけど、
あの様子はきっといるわ。
でも安心して。
その相手とはうまくいってないみたいよ」
「・・そうなのか」
結局、
彼氏の存在は奥川の勘にすぎないことがわかって
俺は少々がっかりした。
「ねぇ、私の話を信じてないでしょ?」
「そ、そういうわけじゃないけどさ」
俺は首を振って否定したが、
奥川の勘をそのまま信じることもできなかった。
他人の心の中を覗くのは容易ではない。
心理学者の言葉など特に信用に足らない。
出鱈目。
こじつけ。
後付け。
そこに真実はない。
「わかるのよ、同じ女だから。
実果が最近暗いのはその相手のせいだと思う」
それでも不思議と奥川の言葉には説得力があった。
ということは、
葉山実果の自殺の原因は失恋なのか。
「だから。
今なら鈴木君にも
チャンスがあるかもしれないわよ。
失恋した女の子は寂しいから。
誰でもいいから優しくしてほしいの」
終わった恋を忘れるには新しい恋をするのがいい。
とはよく聞くが、
それが万人に当てはまるとは限らない。
昔の恋を忘れられずに、
新しい恋へ踏み出せない人間もいる。
奥川。
今の君はどうなんだ?
俺はその言葉をぐっと飲み込んだ。
「助かったよ、ありがとう。
洋に伝えておくよ」
代わりに俺は礼を言った。
「もう、鈍感なんだからっ」
奥川は俺の言葉が不満だったのか
頬を膨らませて駆けていった。
俺は閉まる屋上の扉を見ながら、
子供とはいえ
女心を理解するのは難しいなと思った。
放課後、俺達少年探偵団は
「Twilight Avenue 城之三崎」
に行くことになっていたので、
俺は三人に後から行くと伝えて、
一人校舎の屋上へ向かった。
屋上には奥川しかいなかった。
奥川はフェンスの前に立って
校庭を見下ろしていた。
髪が風になびいて、
そのたびに覗く白いうなじが官能的だった。
あの首を後ろから締め上げて、
スカートを捲り上げ、
下着を剥ぎ取って悲鳴を上げる奥川を
後ろから犯す。
その妄想が俺の下半身を熱くした。
俺は慌てて頭を振って唾棄すべきその妄想を
払い除けた。
「奥川っ!」
俺の声に奥川が振り向いた。
俺が左手を軽く上げると、
奥川が小走りにこちらへやってきた。
「誰もいないんだな」
「今、あそこのドアを閉められて
鍵を掛けられたらどうする?」
奥川はそんなことを口にした。
「明日までここで過ごすしかないな」
実際にそんなことがあるはずはないのだが、
それでも俺は奥川の話に付き合うことにした。
「鍵がなくなって、
誰も気が付かなくて、
永遠にここに閉じ込められたら?」
「明日になれば、
皆学校に来るだろ?
ここから叫べば誰か気付くさ」
「つまんない」
俺の答えに奥川は不満そうだった。
「一生ここにいるよりいいだろ?」
「もういいっ。この話は終わり」
そう言って奥川は腕を組んで頬を膨らませた。
何故だかわからないが、
俺は奥川を少しだけ怒らせたようだった。
「それより葉山のことが
何かわかったんじゃないのか?」
俺は奥川が本気で怒りだす前に本題に入った。
「前は色んな話をしたのに、
今はちょっとしたお喋りも嫌なのね」
「そ、そういうわけじゃないんだ。
こ、この後ちょっと用事があるから」
俺は慌てて弁解した。
奥川は「・・そう」と言って溜息を吐いた。
「実果に彼氏がいるのか知りたいんでしょ?」
「えっ」
「『えっ』じゃないわよ。
鈴木君が実果のことを好きなんでしょ?」
「あ、ああ」
そこで俺は洋をダシに使ったことを思い出した。
「多分、実果には彼氏がいるわね」
「えっ」
「何よ、
実果ほどの可愛い子なら
彼氏がいたって不思議じゃないでしょ」
葉山実果には彼氏がいる。
「そ、それって同じクラスの男なのか?」
「さあ?
実果ははっきりと彼氏がいるとは
言わなかったけど、
あの様子はきっといるわ。
でも安心して。
その相手とはうまくいってないみたいよ」
「・・そうなのか」
結局、
彼氏の存在は奥川の勘にすぎないことがわかって
俺は少々がっかりした。
「ねぇ、私の話を信じてないでしょ?」
「そ、そういうわけじゃないけどさ」
俺は首を振って否定したが、
奥川の勘をそのまま信じることもできなかった。
他人の心の中を覗くのは容易ではない。
心理学者の言葉など特に信用に足らない。
出鱈目。
こじつけ。
後付け。
そこに真実はない。
「わかるのよ、同じ女だから。
実果が最近暗いのはその相手のせいだと思う」
それでも不思議と奥川の言葉には説得力があった。
ということは、
葉山実果の自殺の原因は失恋なのか。
「だから。
今なら鈴木君にも
チャンスがあるかもしれないわよ。
失恋した女の子は寂しいから。
誰でもいいから優しくしてほしいの」
終わった恋を忘れるには新しい恋をするのがいい。
とはよく聞くが、
それが万人に当てはまるとは限らない。
昔の恋を忘れられずに、
新しい恋へ踏み出せない人間もいる。
奥川。
今の君はどうなんだ?
俺はその言葉をぐっと飲み込んだ。
「助かったよ、ありがとう。
洋に伝えておくよ」
代わりに俺は礼を言った。
「もう、鈍感なんだからっ」
奥川は俺の言葉が不満だったのか
頬を膨らませて駆けていった。
俺は閉まる屋上の扉を見ながら、
子供とはいえ
女心を理解するのは難しいなと思った。
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