上 下
62 / 148
三章 Renewal

六月 <課題> 10

しおりを挟む
数日後、今度は俺が奥川に呼び出された。
放課後、俺達少年探偵団は
「Twilight Avenue 城之三崎」
に行くことになっていたので、
俺は三人に後から行くと伝えて、
一人校舎の屋上へ向かった。

屋上には奥川しかいなかった。
奥川はフェンスの前に立って
校庭を見下ろしていた。
髪が風になびいて、
そのたびに覗く白いうなじが官能的だった。

あの首を後ろから締め上げて、
スカートを捲り上げ、
下着を剥ぎ取って悲鳴を上げる奥川を
後ろから犯す。
その妄想が俺の下半身を熱くした。
俺は慌てて頭を振って唾棄すべきその妄想を
払い除けた。

「奥川っ!」
俺の声に奥川が振り向いた。
俺が左手を軽く上げると、
奥川が小走りにこちらへやってきた。

「誰もいないんだな」
「今、あそこのドアを閉められて
 鍵を掛けられたらどうする?」
奥川はそんなことを口にした。
「明日までここで過ごすしかないな」
実際にそんなことがあるはずはないのだが、
それでも俺は奥川の話に付き合うことにした。

「鍵がなくなって、
 誰も気が付かなくて、
 永遠にここに閉じ込められたら?」
「明日になれば、
 皆学校に来るだろ?
 ここから叫べば誰か気付くさ」
「つまんない」
俺の答えに奥川は不満そうだった。

「一生ここにいるよりいいだろ?」
「もういいっ。この話は終わり」
そう言って奥川は腕を組んで頬を膨らませた。
何故だかわからないが、
俺は奥川を少しだけ怒らせたようだった。

「それより葉山のことが
 何かわかったんじゃないのか?」
俺は奥川が本気で怒りだす前に本題に入った。
「前は色んな話をしたのに、
 今はちょっとしたお喋りも嫌なのね」
「そ、そういうわけじゃないんだ。
 こ、この後ちょっと用事があるから」
俺は慌てて弁解した。
奥川は「・・そう」と言って溜息を吐いた。

「実果に彼氏がいるのか知りたいんでしょ?」
「えっ」
「『えっ』じゃないわよ。
 鈴木君が実果のことを好きなんでしょ?」
「あ、ああ」
そこで俺は洋をダシに使ったことを思い出した。

「多分、実果には彼氏がいるわね」
「えっ」
「何よ、
 実果ほどの可愛い子なら
 彼氏がいたって不思議じゃないでしょ」
葉山実果には彼氏がいる。
「そ、それって同じクラスの男なのか?」
「さあ?
 実果ははっきりと彼氏がいるとは
 言わなかったけど、
 あの様子はきっといるわ。
 でも安心して。
 その相手とはうまくいってないみたいよ」
「・・そうなのか」
結局、
彼氏の存在は奥川の勘にすぎないことがわかって
俺は少々がっかりした。

「ねぇ、私の話を信じてないでしょ?」
「そ、そういうわけじゃないけどさ」
俺は首を振って否定したが、
奥川の勘をそのまま信じることもできなかった。
他人の心の中を覗くのは容易ではない。
心理学者の言葉など特に信用に足らない。
出鱈目。
こじつけ。
後付け。
そこに真実はない。

「わかるのよ、同じ女だから。
 実果が最近暗いのはその相手のせいだと思う」
それでも不思議と奥川の言葉には説得力があった。
ということは、
葉山実果の自殺の原因は失恋なのか。
「だから。
 今なら鈴木君にも
 チャンスがあるかもしれないわよ。
 失恋した女の子は寂しいから。
 誰でもいいから優しくしてほしいの」
終わった恋を忘れるには新しい恋をするのがいい。
とはよく聞くが、
それが万人に当てはまるとは限らない。
昔の恋を忘れられずに、
新しい恋へ踏み出せない人間もいる。
奥川。
今の君はどうなんだ?
俺はその言葉をぐっと飲み込んだ。
「助かったよ、ありがとう。
 洋に伝えておくよ」
代わりに俺は礼を言った。

「もう、鈍感なんだからっ」
奥川は俺の言葉が不満だったのか
頬を膨らませて駆けていった。
俺は閉まる屋上の扉を見ながら、
子供とはいえ
女心を理解するのは難しいなと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の席の関さんが許嫁だった件

桜井正宗
青春
 有馬 純(ありま じゅん)は退屈な毎日を送っていた。変わらない日々、彼女も出来なければ友達もいなかった。  高校二年に上がると隣の席が関 咲良(せき さくら)という女子になった。噂の美少女で有名だった。アイドルのような存在であり、男子の憧れ。  そんな女子と純は、許嫁だった……!?

金曜の夜、駅前に座る少年は彼女たちを癒しているのかもしれない

coche
青春
初めての彼氏に振られた湊は、あてもなく駅前を歩いていた。 するとどこからともなくピアノの音が。 すっかり落ち込んでいた湊を、その音が優しく包んで行く。 とうとう堪え切れなくなった湊は、泣き崩れてしまった・・・

【完結】煙にまかれた記憶

すみ 小桜(sumitan)
青春
憲一は、火事の重要参考人だった!だが彼には、その日の記憶がない! 果たして彼の記憶は、パンドラの箱なのか――!?

俺の高校生活に平和な日常を

慶名 安
青春
 主人公・佐藤和彦はただのアニメオタクの普通の高校生。普通の高校生活をおくるところがある1人の少女と出会うことで和彦の平和な日常が壊されていく。暗殺者に超能力者に魔法少女に吸血鬼。 果たして和彦に平和な日常が取り戻せるのか?

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

幼馴染という存在

みおん
青春
高校二年生の夏から始まる、主人公の怒涛の日々 いつの間にか転校生が来ていて… 主人公の秘密が明かされる

【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「嫌よ、触れないで!!」  大金で買われた花嫁ローザリンデは、初夜の花婿レオナルドを拒んだ。  彼女には前世の記憶があり、その人生で夫レオナルドにより殺されている。生まれた我が子を抱くことも許されず、離れで一人寂しく死んだ。その過去を覚えたまま、私は結婚式の最中に戻っていた。  愛していないなら、私に触れないで。あなたは私を殺したのよ。この世に神様なんていなかったのだわ。こんな過酷な過去に私を戻したんだもの。嘆く私は知らなかった。記憶を持って戻ったのは、私だけではなかったのだと――。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2022/01/20  小説家になろう、恋愛日間22位 ※2022/01/21  カクヨム、恋愛週間18位 ※2022/01/20  アルファポリス、HOT10位 ※2022/01/16  エブリスタ、恋愛トレンド43位

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

処理中です...